ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
「ーーい、何故獣人がこんな所に居る?」
「さ、さあ?」
その言葉で、意識を覚醒したボクを待っていたのは、人間の…中年程の個体だった。
全身をくまなく鎧で包んだ人間が、騒ぎ立てているらしい。
ま、そんな奴はどうでもいいとして。
ここはどこだろう?
先程とは打って変わった、どこかの森の中みたいな場所。
プフの居た空間に比べれば、まだ現実なんだと認識の出来る風景だった。
「ふん…もう一度聞くぞ? 何故ここに居る? 答えろ獣人風情が!」
(……誰にゃ?)
人間のクセに、随分と高圧的な態度だね。
しかしどうしてと言われても、こっちだってワケ分からないんだけど…
「ハッ、まあ野良獣人だし? 言葉は分かんねぇよな! 管理されてねえ奴はぶち殺しーー」
「キミ、うるさいよ」
あんまりにも煩かったから、中年男の顔面に一撃、軽めのヤツをくれてやったら…
首から上がくるりと回転して、動かなくなった。
(あれ? 念で防御してないのかにゃ?)
「なっ、こ、コイツ!」
それを見るなり、他の人間も騒ぎ出した。
ボクは即座に【円】を発動。
円とは、自身の身体を覆う念のオーラを周囲に拡散し、それに触れたものを感知するレーダーだ。
これにより、相対する連中の数と、位置が分かる。
(…目の前の1人とは別に、5メートル後ろに2人。他に反応は無しっ、と)
体躯を縮め、沈めながら、ピトーは後ろの2人に注目した。
念……いや、未知のオーラ紛いなものを、手元に集めている後衛の2人に。
何かをされる前に、ピトーは体躯のバネの如き筋肉を解き放った。
飛び出し、到達するまでは刹那だ。
「あっ? れ…」
すれ違いざま爪で攻撃。
間抜けな悲鳴を置き去りに飛び抜け、地を滑りターン。再度の跳躍。
後衛の杖を持った女は、鎧ごと紙屑の様に引き裂けた。
本人は絶命した事にすら気付けていないだろう。
隣の人間の末路を知覚する前に、2人目の後衛も首を刎ね、即死させた。
(で、あと1人)
残り1人…このメンバーでは比較的若い男は未だに、中年が死んだ所で処理が止まっている様だった。
「丁度いいや。ねえ、キミ」
なので、ボクはじっくり状況を理解させてから尋問を開始した。
尋問なんて面倒?
脳を弄くりでもして、嘘偽りなく話してもらえ?
いやいや、この人間は力の差を理解している様だし、必要ないでしょ。
目が完全に怯えているしさ。
「ここって何処なのかな? 出来るだけ詳しくお願い」
「こ、ここはスラクストン大陸の南部、ひ、ヒラパラの森だ……」
(知らない地名…ゴルドーやNGLじゃあないみたいだね)
この後、自分の分かる地名をいくつか質問したが、男はそのいずれも知らないと答えた。
「ふむ、ふむ、にゃるほど。じゃあボクを見た時に言った台詞、アレってどういう意味?」
「あ、アレ…?」
「言ってたよねぇ? ボクを見て“獣人”って。獣人ってどういう意味?」
「…お、お前の様に…魔獣と人がまぐわい、生まれた、汚れた生命の事だ」
「混ざりもの、みたいな意味かな」
「そうだ!」
汚れた生命…にゃるほど、キメラアントであるボクも様々な生き物の生態が混じっている訳で。
ならば獣人、という表現にも当てはまるだろうね。
「じゃあ、仮にボクがその獣人だとして。どうしていきなり殺すなんて話になるのかな?」
「す、すまなかった! それについては謝る! だから命だけはーー」
「ボクは、理由を聞いているんだけど?」
この若い男いわく。
この世界には人間、魔獣、獣人が存在している。
魔獣の中には愛玩動物となるのも居るそうだが、基本的には人間にとって脅威である。
それで獣人といえば、予想の通り人間と魔獣の間に誕生した、両方の特性を持つ存在である。
正しく、我々キメラアントの特性ではないか。
で、人間視点では魔獣の力を引き継ぐ獣人は、やはり脅威でしかないから、駆除対象なんだとか。
一部友好的な者たちは管理し、奴隷として使ってやっている、とのこと。
(うーん、どこも似た様なものだにゃあ)
彼の説明を受けるたび、とある可能性が、どんどんと真実味を帯びてゆく。
ここはそもそも、ボクの存在していた場所じゃない。
別の大陸か、或いは異世界、とでも言うべき所なのだろう。
「あ、あの…」
思案し始めたボクを、伺う様に男は言った。
おっと、重大な事を聞きそびれていた。
プフの残滓の言っていた事が本当なら…
「それと、も一つ。蟻の王って聞いた事がないかにゃ? キメラアントでもいいよ」
「な、ない! 初めて聞いた」
「そう。うーん」
この先を考えるのと同時に、彼…矮小な人間を、どうしてやろうかと思っていた。
力の差は歴然としている。
それは彼もよく理解しているだろう。
(だけど、度胸はあるみたいだねぇ)
彼はボクと話す内に、硬直していた身体に、あの輝き…念オーラ擬きをみなぎらせている。
よく見ていれば分かる。
今は、左手の側に集中させていた。
抵抗しなければ始末するまでもないと思っていたけれど、どうしてどうして。
隙あらばボクに一撃加える腹積もりのようだった。
(やっぱり殺しておこうかにゃ…)
と、思った時だった。
【貴様を殺す!! ピトー!!】
(ああ……)
脳裏を過ったのは、あのハンターの少年。
ゴン=フリークスの悲鳴にも似た叫びだった。
まだボクが生まれて間も無い頃。
戯れに殺した人間が、ゴンにとって大切な人だったみたいで。
だから彼は、ボクを倒す為に爪を研ぎ澄まし、牙を磨いた。
そして宣言の通り、自分は殺されてしまう。
人間の執念。
人間の底力。
自分の迂闊な行動の結果、アレを目覚めさせてしまった。
この前例から、無闇矢鱈に因縁を持たれるべきじゃないとの結論に至るピトー。
(だったらアイツらも殺さずに、戦闘不能くらいにしておくべきだったにゃあ……)
だから、ピトーはこう言った。
「うん、質問終わり。いいよ君、どこへでも行っちゃって」
と。
男は呆気に取られていたが、すぐに走り去っていった。
(これからどうするかにゃあ……)
プフの念は言った。
貴女が王を見付け、救いなさい、と。
これを信じるならどこかに王は居るのだ。
まあ、あれほどの力を持つ方が、話題にならないことなどまず有り得ない。
だったら探すのは、さほど苦にもならないんじゃないの。
「さて、決まりだね」
ボクの目標はハッキリしている。
王を探す。
まずは人間でも獣人でも捕まえて情報を得るか。
なら適度に距離が離れたら、逃げ去る男を追跡…その先に街なんかがあると完璧だ。
(……その前に、腹ごしらえかにゃあ)
引き裂かれた人間が、視界に入ればそう考えもする。
キメラアントは基本的に雑食であるが、ピトーらの様な進化した種は、人間を特に好んで食した。
(人間は、感謝をして命を頂くって習慣があるらしいし、ボクも感謝してから…いただきます)
【逃げ切った若い兵士役・・・ポックル】