ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
(こちらには3体…やけに統率の取れた動きだ)
カイトは険しい雪面を疾走しながら、襲い来る魔獣たちの動きに疑問を抱いていた。
敵の群れは、まるで最初から計算されていたかのように綺麗に分散している。
自分の受け持つ左翼に3、中央に3、そしてピトーが向かった右翼に4。
「カイトさん、牽制弾行きます!」
背後からポックルの声が響く。
その宣言と同時に、カイトはベアたちの直線上から退避した。
彼のすぐ真横を風切り音と共に通過したのは、拳大の純白の球体だった。
ポックルが周囲の雪を操り、限界まで高密度に圧縮して放った雪の砲弾。
猛進する巨体のベアには効果が薄いと思うかもしれないが、岩石並みの硬度にまで引き締められ魔力を纏ったそれは、弓矢どころか銃弾並の威力を有する。
しかも、ポックルが狙い澄ましたのはベアたちの筋肉や脂肪のガードが薄い、関節や眉間といった急所だ。
精密に前脚や頭蓋を撃ち抜かれたベアたちは、断末魔を上げ、バランスを崩して激しく転倒。
あるいは突進の勢いを削がれていく。
「よくやった」
カイトは短く賛辞を送ると同時に、自身の背後で風魔術を発動。
圧縮した大気を炸裂させ、その威力で爆発的な加速を生み出した。
ドンッ、という衝撃音と共にカイトの姿が一瞬で掻き消える。
次の瞬間にはベアたちの死角である背後へと回り込んでおり、流れるような動作で攻撃に移る。
空気を切り裂く不可視の刃は、転倒したベアたちの足先を容赦なく切り落とす。
足を奪われた魔獣たちは、もはや雪面から立ち上がることすらできなくなった。
だが、生き残った最後の一体が猛然と咆哮を上げ、カイトへと肉薄してくる。
しかし、その魔獣の突進線上に向けて、カイトはさらに圧縮大気の壁を設置し、解放した。
目に見えない大気の爆発によって突進の軌道を直角に捻じ曲げられる魔獣。
制御を失った巨躯はそのまま斜面を飛び越え、虚空へと勢いよく放り出されながら、遥か崖下へと真っ逆さまに落ちていった。
一方、中央のウボォーギンの前では、ポックルの精密射撃によって2体が激しく転倒。
それをすり抜けた最後の一体が、怒り狂って真正面から突っ込んできていた。
ウボォーギンは避ける素振りすら見せず、不敵な笑みを浮かべてその巨躯を真っ直ぐに突き出す。
次の瞬間、周囲の雪原を丸ごと吹き飛ばすような凄まじい衝撃波が走った。
ウボォーとベア魔獣が正面衝突。
だが、無様に吹き飛ばされたのは、ウボォーギンの倍以上の質量があろうかという魔獣の方だった。
「うらぁぁぁ!!」
吹き飛んだ魔獣の懐へ踏み込み、ウボォーギンはその顔面に向けて容赦のない追撃の拳を叩き込む。
パリィンッ! と大気が割れるような音が響き、ベアの顔面は骨ごと圧壊。
白銀の雪原に、青い血飛沫が盛大にぶちまけられた。
魔術の熟練者が見れば、その凄まじい威力の正体に驚愕しただろう。
ウボォーギンの体表は、いまや視認できるほど分厚く濃厚な魔力の層で覆われていた。
攻防一体となったその絶対的な防壁は、触れた魔獣の鋭い爪を逆に粉々に砕き、彼が拳を振るえば、敵のいかなる物理防御も魔力が強制的に貫通して破壊する。
彼が脚で地面を踏み締めると、その魔力の層が岩盤深くまで突き刺さって強固なアンカーとなり、巨獣の突撃すら微動だにせず受け止めてみせたのだ。
残る転倒していた魔獣たちが起き上がろうとするが、すでに勝負は決していた。
「ぬぅあああああ!!」
ウボォーギンは魔獣の首を背後から締め上げ、圧倒的な怪力で頸椎をまとめて叩き折った。
すべてが片付いた直後、辺りに立ち込めていた雪煙を、カイトが風魔術の旋風で吹き飛ばす。
視界をクリアに保ったまま、一行はなおも周囲への警戒の手を緩めていない。
「ピトー、どうだ? まだ何か居るか?」
カイトが息一つ乱さず、上空を浮遊するピトーを見上げた。
「いいや。取り敢えず、近くにはもう誰も居ないよ」
ピトーが頭上からひらりと舞い降りる。
彼女の広大な【円】の領域には、取り立てて大きな反応は残っていなかった。
その言葉を聞き、メンバーは一様にはぁ、と冷たい息を吐き出して緊張状態を解除、一息ついたのだった。
「お疲れ様。こっから先はしょっちゅう襲撃があると思うが、まァ、このメンツなら少々は大丈夫だろうぜ」
ハイヤが言う通り、ヘビー級のベア型魔獣の群れをこうもあっさりと片付けられるのだから、戦力としては十分すぎるほどだ。
しかし、だからこそ、戦いの中で生じた奇妙な疑問点は今のうちにぶつけ合っておくべきだった。
「魔獣にしては、やけに几帳面で統率の取れた動きに感じられた」
カイトが口を開くと、ウボォーギンは仕留めた魔獣の巨躯を足蹴にしながら、豪快に鼻で笑った。
「たまたまじゃねーの? 魔獣の畜生だって全く思考能力が無い訳じゃねェしよ。なぁ?」
「オレも、カイトさんの考え過ぎかなって思うけど…」
ポックルがウボォーの言葉に渋々ながら同意しかけたその時、ハイヤが真剣な声音でそれを遮った。
「いや、オレもあいつらには違和感を覚えた。そもそもだが、ベア型のオス同士が、あんな風に仲良く並んで突撃してくること自体が気に食わねェ。本来、奴らにとっちゃあ自分以外のオスなんて敵でしかないはずだ。ありゃあ、もしかしたら――」
「コーノトリのコピー生物、ってことかニャ?」
ピトーが小首を傾げて言葉を補うと、カイトは静かに頷いた。
「コーノトリとそのコピーの正確な性質が分からない以上、断言はできないがな」
ポックルがハッとした様に、
「もし本当にそうだとしたら、コーノトリはコピー生物を使って、こちらに無限に戦力を送り込み続けることができる。オレたちは無尽蔵の軍勢を相手にすることになるのか?」
と言うや、
「ハッ、そんな万能な力なら、世界は今頃コピー生物だらけだろ。そうならねぇってことは、それ相応の制約や限界がある筈さ」
ハイヤはそう言って、火系統の魔術を指先に灯した。
「まぁ、まだどれも想像の域を出ねえ話だ、鵜呑みには出来んよ…よし、今日のところは休むとしようぜ」
ハイヤは火系統の魔術で手際よく湯を沸かすと、香ばしいスープを作って全員に振る舞い始めた。
温かい器をピトーに手渡す彼の口元には、昼間の気さくなガイドとしての笑みが浮かんでいた。