ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
突如として住居の外から響き渡った異様な声に、全員が即座に臨戦態勢を取った。
だが、敵の手の内が分からない以上、慌てて屋外に飛び出す無謀な者は誰一人としていない。
『人類!! 目的、私!! コーノトリの、身体ッ!!!!』
「…ハイヤ、コーノトリは言葉を喋れる魔獣なのか?」
カイトが低く問いかけるが、ハイヤは首を振る。
「んなこたぁ、オレだって知らねーよ…」
『楽園、踏み荒らすッ!!! 殺す!!! ドタマにクチバシ刺して、脳味噌
引き裂くような絶叫が、雪山一帯に幾重にも不気味に反響する。
それは単なる威嚇だろうか。
それとも何かを探っているものなのか?
「ピトー、コーノトリは近くにいるのか?」
カイトの言葉に、ボクは頷いた。だけど…
「コーノトリってさぁ、元々は群れで行動したりする魔獣なのかな? ボクの【円】に、それっぽい気配がどんどん集まってきてるけど…もう、五十は超えてるよ」
「なんだと?」
『殺ス!! 殺ス!! 帰れ、帰れ!!! 鉤爪で腹を割クゥゥ!! 内臓喰ゥ!!! クウ! クウ!!!』
「もしかしたら、自分自身をコピーしたりもできるのかも。だって集まってきた気配の大きさやサイズ感、どれもまるで一緒だもの」
「でもよォ、言葉が通じるってんなら好都合じゃね? 交渉すんならスムーズに行くだろ」
ウボォーギンの言葉に、ポックルが信じられないといった風に目を見開く。
「アンタ、今まで何を聞いてたんだよ!? 人類に対する純度100%の殺意しか感じないぞ!」
「いや、人間に対する恐怖を紛らわすために、あえて強い言葉を使っているだけかもしれねぇ。試しにこちらからコンタクトを取ってみりゃあいい」
ハイヤはそう言うと、いつもの慎重さを崩さないまま、ゆっくりと建物の外へ身体を出した。
「おーい! あんたらの住処に勝手に入っちまったのは悪かった! だが、ちょいと話を――」
『人間! ニンゲン!!』
『殺す!!』
『コロス!!!』
『ススルゥゥ!!!』
『眼球
『耳、私の!!』
『鼻、私、クウ!!』
『心臓は美味ィィ!!!』
ハイヤの声を掻き消すように、無数の罵詈雑言と狂気の合唱が吹き荒れる。
「――ありゃ無理だわ」
ハイヤが苦笑いしながら一歩退がろうとした、まさにその時だった。
ボクの【円】の端に、落雷の如く接近する質量が引っかかる。
「ッ!? ハイヤ、下がって!!」
ボクの鋭い警告に、ハイヤが「え?」とこちらを振り返った直後。
『ケェェェェェ!!!』
ドン、という衝撃音と共に、彼の身体が視界から完全に掻き消えた。
正確には…超高速で上空から飛来した何かに、横合いから凄まじい速度でぶつかられ、そのまま連れ去られてしまったのだ。
「ハイヤァッ!!」
ポックルの悲鳴のような叫びが響く。
「ボクに任せて!!」
そう言って建物を飛び出した。
背中の翼で瞬間的に宙へ躍り出たボクの視界に、再びそれが飛来した。
『クェェェェ!!!』
紅い眼を持った、不気味な純白の怪鳥。
ダートンの話に出てきたコーノトリの姿と完全に一致する。
ボクは、迫り来る鉤爪を上空での超高速機動によってすんでの所で回避し、ハイヤが連れ去られた方向へと視線を走らせた。
彼は少し離れた、雪掻きされた広場へと無残に投げ出されていた。
衣服は破れ、腕からは絶え間なく鮮血が流れている。
上空には、グルグルと彼に狙いを定めつつ旋回する無数のコーノトリ。
その内の一羽が、トドメを刺さんとばかりにハイヤへ向けて急降下を開始した。
マズい!
ボクは音を完全に置き去りにして急降下し、すんでの所でハイヤの身体をかっさらった。
そのまま鋭く
直後、コーノトリの鋭い
『逃がしたァァァ!!』
『猫獣人ガ!? 空飛んだァァ!?』
『ツツクゥゥ!!』
背後からの追撃。
跳躍と飛行を織り交ぜた鋭い乱高下で回避しつつ、ボクはハイヤを抱えたまま、住居へと滑り込んだ。
ひとまず安全な屋内に逃げ込めたものの、ハイヤの意識は朦朧としている。
咄嗟に右腕でガードしたらしく、致命傷となる胴体への直撃は免れていたものの…彼の右腕は引き千切れる寸前の無惨な状態だった。
「カイト、今は緊急時だよね? これ、使うよ」
ボクは自身の光魔術を行使し、その再生の力をボクの念能力、
ボクの背後に、巨大な禍々しい医療人形が浮かび上がる。
もちろん、皆の目には見えていないだろう。
本来、この世界の光魔術は純然たる再生の力だ。
ボクはそのまばゆい光の糸をドクターブライスの手術針へと絡め、ハイヤの千切れかけた腕を猛烈な速度で縫合していった。
筋肉を繋ぎ、神経系もしっかりと超精密に接続して元通りにする。
見る見るうちに傷口は塞がり、ハイヤの青ざめていた顔にも健康的な血色が戻ってきた。
「オイオイ、ピトーさんよ何だそりゃあ! 千切れかかってた腕が一瞬で元通りだぜ!」
ウボォーギンが目を丸くして叫ぶ。
「あれ、言ってなかったっけ? ボクは魔術も使えるんだよ」
ボクがすました顔で答えると、彼は呆気にとられたように声を漏らした。
「成程なァ…獣人のくせにそんなデタラメな魔術まで使いこなすとなりゃあ、王国からも狙われるわけだぜ」
ポックルは、その神業のような治療光景を間近でただ呆然と見つめていた。
(オレも初めて間近で見たけど…とんでもない能力だ。魔術だけなら、これほど精密に治せやしない)
「あり、がとなァ、お嬢ちゃん。おかげで、すぐにでも動けそうだぜ」
ハイヤは再生した右腕を何度か握り締め、驚きを通り越したような苦笑いを浮かべながら、ボクに感謝の言葉を述べる。
そしてハイヤが完全に身体を起こした、まさにその時だった。
バン、バン、と扉が、外から無遠慮にノックされた。
『オ、ーイ…あんたら、の…住処、にィ…ちょいと、話、ヲ…』
「な、なんでオレの声が外からしやがる…!?」
ハイヤが自分の喉を抑えながら、驚愕に目を見開く。
彼が言う通り、扉の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなくハイヤ自身の声だった。
『オ、ーイ…あ、ケテ…』
音声のデータを無理やり切り貼りして繋ぎ合わせたかのような、機械的でぎこちない喋り方。
背筋が凍るような不気味さが、その声には満ちている。
「うるせぇ! テメェは誰だよ!」
『ハ、イや=オソ、ろシック…』
「嘘こけ! 皆、ぜってぇ開けんなよ。外に居るのは、多分――」
『――コロスゥゥッ!!!』
ハイヤの言葉を遮り、轟音と共に扉が凄まじい力で蹴破られた。
雪煙を押しのけて突入してきた人物の姿に、全員の息が止まる。
「……オレの、コピーだ……」
呆然とハイヤが呟く。
そこに立っていたのは、ハイヤと瓜二つの、ベレー帽を被った軍人然とした男だった。
恐ろしいことに、喋りさえしなければ、外見での見分けは一切つかない。
「ハッハァ!!」
だが、ウボォーギンは既に動いていた。
電光石火の拳が偽ハイヤの顔面を捉え――られない!
卓越した目の良さ。
ウボォーギンの恐ろしく速い先制の対処を、その偽物はあっさりと見逃さず見切ってのけたのだ。
驚異的な反射神経で後ろへ飛び退きながら、即座に複数のナイフを投擲してくる偽ハイヤ。
(さしずめ、動きが『ハヤイ』ってトコだね)
とボクが内心で偽物に名付けたその瞬間、
「本物はよォ」
突風のようなハヤイの背後を、すでに本物のハイヤが完全に取っていた。
ピトーに一瞬で治療してもらったばかりの右腕が、妖しく閃く。
「もっとイケてるのさ」
完全に死角から放たれた一閃。
鋭い刃がハヤイの首の急所を深く切り裂き、一撃でその息の根を止めた。
偽物は受け流す暇すらなく、その場に崩れ落ちて即座に絶命した。
「はぁ…まさか、自分の死体をまじまじと眺める羽目になるとはな」
ハイヤは新しく再生した右腕のナイフを軽く回し、床に転がったハヤイを見下ろしながら、複雑そうにため息をついた。