ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
「こっちは片付いたぞ」
カイトが声を上げると、ウボォーギンも拳の血を拭いながら応じた。
「おぅ。こっちもだ。もう地上のコピーどもは一匹も残っちゃいねえぜ」
死屍累々となった雪原のなか、ボクは上空からひらりと舞い降り、気絶しているコーノトリたちをまず治療し、身体に封魔鎖を巻き付けていった。
さらに、目を覚ましても暴れられないよう、ロープで脚と羽根、そして嘴を縛り上げていく。
やがて拘束されたコーノトリたちが次々と意識を取り戻し、身悶えしながら激しい抵抗を示し始めた。
ボクはその中から、比較的大人しそうな個体の嘴の縛りだけを、爪でそっと切ってやった。
最初こそ、怪鳥は口汚い言葉で罵り、狂ったような煽りを繰り返していた。
けれど、自分たちの自慢のコピー能力が封じられている事実に気づいた瞬間、紅い瞳からスッと戦意が消えた。
代わりに溢れ出してきたのは、懇願だった。
「コロセェェ!! 焼いてクエェェ!! 連れてイカレルヨリ、肉の方ガマシィィッ!!」
「捕獲が目的なんだニャ。悪い様にはしないつもりだけど、そんなに嫌なの?」
ボクが問いかけると、コーノトリは喉を鳴らした。
彼の口から語られたのは、種族の真実だった。
まず、存在する50羽あまりの群れがこの世界における最後の生き残りであること。
彼らは、寿命を終えて死んだ仲間を、他の個体が文字通り喰らうことで初めて、その魂と肉体を寸分違わずコピーし、新しい命としてこの世に繋ぎ留めることができるのだという。
それは、コーノトリという生物独特の、輪廻転生システムだった。
「…人間ニツカマル、仲間クエナイ、死ヌ、本当ニ。滅ビ!! 人間、滅ビ、ソノモノ!!」
怪鳥の悲痛な叫びが、静寂の中に響き渡った。
交渉の余地すらない殺意の正体は、種族全体の絶滅を避ける為の防衛本能だった。
まるでボク達獣人が、コーノトリを求めた様に。
(そっか…じゃあ彼らも同じなんだニャ)
カイトやポックルも、その事実にただ沈黙するしかなかった。
「同情はするがなァ。俺達も仕事だ、着れて行かせて貰うぜ」
ハイヤが言う。そこへ、
「それで、その後コーノトリをどうするのかニャ?」
とボクが問い掛ける。彼は渋い顔をした。
「正直俺の関知するトコじゃねえが…まあ王国に引き渡すだけだ」
「うんうん、その後だよ。その鳥を、どうするのって話なんだけど?」
「おいおい…ちょいとその顔止めてくれお嬢ちゃん」
うん? ボク、そんなに変な顔をしてた?
「分かった、分かったよ…コイツらの処遇についちゃあ交渉するっきゃねえな」
ーー「ハァ…」
静まり返る雪山の道中、今日だけで何度目になるか分からない深い溜息をついたのはハイヤだ。
「なんだァハイヤ、シけたツラしやがって。舌先三寸で依頼主を丸め込むくれぇ得意分野だろうが」
「その舌先三寸じゃあ、どう言い訳してもダメだから悩んでんだろうが! あーあ、もうウボォーが依頼主をブチのめして、全部の責任を被ってくれねぇかね、マジで」
ボクらはその後、ダイタイの集落を後にして山を降りていた。
その手には、行きとほとんど変わらない必要最低限の持ち物しかない。
強いて変化を挙げるなら、一羽のコーノトリが、まるで狩りの獲物のように、ボクの肩に担がれていることくらいだ。
「実物はこうして一羽確保してるんだし、実際にコピーを作らせてみて「ご覧の通りコピーは思考が単純化し、想像よりもずっと用途が狭く、利用価値はありません」と説明するしかなくないか?」
ポックルが現実的な妥協案を出すが、ハイヤの表情は晴れない。
「それをした時の、王の考えが読めねえんだよ。あ〜あ、俺はとびきり人が良いからなぁ、コーノトリの野郎共も元に帰すってなると頭が痛ぇぜ」
「少なくとも、致命的な欠陥があるのを強調した方がいいだろうな。コーノトリにも一芝居打たせるか」
「そうだにゃあ…キミ、ボクのコピーが作れない事も言っておくといいと思うよ」
山を下りながら絶え間なく議論されてるのは、帰還した後の落としどころについてだ。
コーノトリたちの種族の立場は理解できたし、実際目の当たりにした彼らの能力は、人間が扱うにはあまりに過ぎた力であるというのも全員が理解していた。
だが、コーノトリが使い物にならなかったとして…
現実に暗殺依頼とコーノトリ捕獲の両方を失敗した事になる、ハイヤたちの立場からすれば、どうやってこの一件を終わらせるかが最大の難問なのだ。
(ま、人間たちの問題はどう転ぼうが、ボクにとってはどうでもいいにゃあ。結局、コーノトリはメルエム様やボクたち獣人の未来を開けるようなものじゃなかったわけだしね…)
人間の深刻な議論をすぐ隣で聞きながらも、ボクはあまりその行き先に興味は無かった。
それも仕方のないことだ。
ここから先はあくまで人間側の問題なのだから。
「おっと、そうだ! 忘れてねぇだろうなピトー! 山を降りたら、今度こそガチで勝負だ。約束だからなァ!」
拳を握るウボォーギンが、ボクに目を向けそう言った。
「いいけど大丈夫? ボク、今回は色々と不発で、かなり八つ当たりが入った戦いになっちゃうかもしれないよ?」
ボクがそう言うと、
「お前なぁ…勢い余って、本当の殺し合いにするんじゃないぞ」
ポックルが呆れたように釘を刺した。
多分、今のボクはニヤついているのだろう。
「勿論、死なない程度でちゃんと止めてあげるよ」
ボクは振り返ることもせず、尻尾を揺らしながら答えた。
――こうしてボクは山を降りた後、ウボォーギンと約束通りのガチなスパーリングをひとしきり楽しんでから、王国へと戻った。
国王への報告は、ハイヤたちの苦悩が拍子抜けに思えるほど、あっさりと終わった。
土産に持ち帰った、ダイタイ特有のなんとかって植物…これで手打ちとしたのかもしれない。
ボクはもう、パスパサ王の真意だとか裏の思惑だとかはどうでも良くなっていた。
だけど、謁見の最後に
「王様は、ボクのことをあんまり快く思っていないみたいだし、今後はもっと身の振り方に気を付けるニャ」
とだけ、あえて無邪気な笑みを浮かべて言っておいた。
それを向けられたパスパサ王は、作り物めいて笑っていた。
けれど、その瞳の奥に一瞬だけ宿った戦慄と殺意を、今のボクはもう絶対に見逃さない。
カイトやポックル、あるいはハイヤやウボォーギンが、ボクのいないところでどんな言い訳を並べて報告してくれたのかまでは知らない。
あまり興味もない。
けれど、少なくとも彼らのおかげで、訓練中の騎士達が、討伐軍になることは無かった。
ーー「コーノトリに関しては、ホントに残念だったよね…結局、彼らの問題もボクたちの問題も、何も解決せずじまいだニャ」
所変わって、獣人開拓地。
仲間たちの手によって完成間近となった、自分たちの集落。
その景色を丘の上から眺めながら、ボクはぽつりと呟いた。
「ピトー…殿、そう気を落とさないで下さい」
すると背後から、小さな声が聞こえてくる。
「ううん、違うよユピー。そうじゃないんだ」
ボクは振り返り、ブンブンと飛び回っているユピーを見て微笑んだ。
「世界には、奇跡みたいな能力を持った生物が本当に存在していたんだ。だったらきっと、ボクたちや獣人の問題を根本から解決する一手が、どこかに眠っている筈ニャ。今回の事で、逆にボクは希望が湧いてきたんだよ」
これからのこと。
きっと、これまで以上に過酷で、困難に満ちた道になる。
だけど、ボクはもう、一歩だって迷わない。
すべては、メルエム様の為に。
そしてここに生きる皆の為に。
ボクは爪を研ぎ澄まし、見据えた未来へ向かって、ずっと、どこまでも進み続けるのだ。
第二章 完
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