ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
(ふむ…ふむ、そういう事か)
あれから、いくつか分かった事がある。
この大陸では【念】に相当する力として【魔術】という概念が存在するという事。
魔術は、地、水、火、風に加え、光、闇の6属性に分類される。
(つまり、あの男が出した火の玉…アレは火系統の魔術、という事だにゃ)
一応、地には堅固、水には変幻自在、火には破壊、風には補助、といった極めて大まかな特徴はあるものの、応用幅が段違いに広くアテにはならない様だ。
(にゃるほど…破壊が主目的の火でも、日常使いには便利。方法次第では、敵の魔術を防ぐ防御壁にしたり…風だと、意図的に真空の刃を作り、攻撃に転用出来る、凄い力だにゃ〜)
「ご期待に添えた様で、幸いですな」
「うん、うん…あー、光と闇は記述がかなり少ないみたいだけど、どういう理由かにゃ?」
ピトーは傍らの、小太りの初老男…ペギーに訊いた。
彼女は今、街の書物庫にて様々な本を読み漁っている最中であった。
ペギーという人物は、書物庫の司書である。
「光と闇の魔術に関してはレアモノ、つまり非常に珍しい系統となる為、記録が少ないのです」
最初、関所を飛び越え街に侵入したピトーは、騒ぎになる前に身を隠し、やがてこの書物庫を発見した。
扉をこじ開けて押し入り、本を読み漁っている所にこの男が来た。
ペギーは初め、間近に見る獣人に腰を抜かしかけたが…大人しく本を読むピトーに、敵意は無いと見ていた。
勝手に入った事を咎めはしたが、その勉強熱心さについつい肩入れをしてしまったのである。
自ら学ぶ者に悪はない
学べば何が悪か理解する
無知こそ本物の悪である
これが、ペギー司書の信条でもあった。
「抽象的な書き方だし、額面通りに受け取れば何でも出来るし何でも破壊出来るみたいだにゃあ…そんなに凄いんだ、レアモノ」
「ええ。私が知る限りでは2人……いえ、今は1人か。大陸中央、パスパサ王国騎士団のグランドマスター、ネテロ様が光系統であると言われているくらいでしょうか」
「ふぅん。それって、獣人駆除をしている人達で一番偉い人?」
ピトーにすれば何気ない質問だったが、ペギーにとっては肝を冷やす様なものだった。
「…………その質問に答えるべきか私には分かりませんが、貴女はそれを知ってどうなさるので?」
「うーん? 面倒だし、関わらないようにするかにゃあ? そんな連中よりも探さなきゃならない方が居るし…そうだ、キミはキメラアント、もしくは蟻の王って聞いた事はない?」
「キメラアント、蟻の王…申し訳ありませんが、私には分かりませんな。ですが、アリ、と呼ばれる魔獣でしたらこちらの魔獣図鑑にありますよ」
その図鑑によれば、ここから更に南東の原始森。
そこが特に、蟻魔獣の活動が活発であるらしい。
(蟻魔獣が、ボク達キメラアントに似たものなら、可能性はあるか)
次の目的地は決まった。
ピトーはペギーに別れを告げるなり、颯爽と書物庫を飛び出して行った。
狐につままれた様な心地のペギーは、ボソリと
「迷い人よ、どうかお気を付けて」
と呟き見送った。
ーーパスパサ王国、王城、王の間
その報せが届いたのは、ピトーが街から飛び出した直後の事だった。
先日、生き延びた兵士からの風魔術…鳥型に形成された電文鳥を受け取った時点で、化け物の存在は把握していた。
続けざまの、関所突破の報で決定的となった。
「その兵らの練度は如何程のものだったのですか?」
王の側近の言葉に、グランドマスターネテロは
「兵らは常日頃より鍛錬は欠かしておりません。それに、騎士団員らは魔術の素養に関して、王国の定める採用基準を満たしている者の集まりです。ただの獣人相手であるならまず、遅れはとらんでしょう」
と、答えた。
彼は今、パスパサ国王とその側近に報告をしている最中である。
「ですが獣人による被害など毎年報告されている、ありふれたものではありませんか? 何故今回、これ程大事にする必要があるのです」
側近は未だ事の重大さを理解していない様だ。
ネテロは内心呆れながら続けた。
「被害が短期間、立て続けに起きております。内容は3名死亡、3名が無力化されていました。外観の特徴が一致している事から、同一獣人の仕業でありましょうが…場所から考え、ソイツは僅か1日の間に数百キロを移動した事になります」
側近は、ネテロの無力化、という言葉に引っ掛かりを覚えた。
通常、獣人との戦いにおいて、その様な表現は使用しないからだ。
「無力化? それはどういう…?」
「気絶させられていた様ですな。1人は腕の骨を折られていた。最初のパーティでも1人を逃がしている。獣人は流暢な公用語を話し、兵らに尋問紛いの事をしたらしいですぞ?」
「手加減をして、言葉を話した? しかも尋問か…高い知性が認められる個体ですね」
「左様です。耳慣れない単語を口にしていたともありますが…これらの事実から、私は【魔王の兆し】と思っております」
ネテロの発言に、側近が目を剥いたのも無理はない。
【魔王の兆し】
側近は少なくとも生まれてこの方、言葉では聞いた事がない。
書物に残る昔の伝説、おとぎ話…そんな風に思っていた。
当時の書物によれば【穢れた血より魔王が産まれる】というものある。
穢れた血とは獣人の事だと解釈されている。
魔王とは、魔術を使いこなす獣人であった。
通常、獣人には魔術の素養など無く、人間にしかない。
人間側のアドバンテージたる魔術を会得するだけならまだ良い。
魔王は、人間のそれより遥かに高次元のもの…闇の魔術を使用するという。
直近では…五十年程前に一度、村5つ、街1つの壊滅という犠牲の元に鎮圧された事例があった。
犠牲者は千近くにものぼった、とされている。
そこからまた、潮目が変わった。
元々穢れた存在とされていた獣人であったが、更なる厳格なルールを課せられたのだ。
大まかには、
獣人を産まれさせてはならぬ。
産まれたものは管理、或いは駆除せねばならぬ。
そういったルールが出来上がった。
「では直ちにその獣人を駆除すべきであろう」
パスパサ王が厳かに口を開く。
(違いないな…)
ネテロは頷いた。
だが、ネテロや王といった世代の者は、自身の目で見ている。
魔王化した獣人がどれほど恐ろしいモノかを。
理性は無く、破壊の限りを尽くす怪物だ。
魔獣とも決定的に違う。
魔術を行使出来る獣人が存在するだけでも恐ろしいのに、だ。
この件に関しては、記録を意図的に残していないとはいえ、世間はすでに無かったことのように思っている風だ。
「してネテロよ。お主自らが向かうのか?」
「ふん、そうしたいのは山々だが…お前の傍らを離れて良いのか、王よ?」
「まさか。お主にはここに居て貰わねばのぅ」
「じゃろうが。故に奴を向かわせる。我が団でも一番の腕利き…断罪騎士をのぅ」
ネテロの提案に王は深く頷いた。
【司書ペギー役・・・ペギー】
【グランドマスターネテロ役・・・アイザック=ネテロ】