ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
スラクストン大陸南東部。アバラボネ原始森。
多湿高温の地で、人間による開拓もあまり進んではおらず、実に8割以上が未開の地である。
さしものピトーとて、踏み込むのを躊躇する程度には原始を色濃く残す大地であった。
事前に得た知識では数多の危険な魔獣が存在し、植物までもが攻撃を加えて来る可能性があるような場所。
(こんな所に王が居るのかにゃあ? 自信なくなってきた…)
文明の痕跡が消えて2時間…累々たる魔獣の死屍の先で、ピトーは途方に暮れていた。
始めは、王ほどの存在が世界に認識されていない訳がない、探索は容易と決めつけていた。
が、王はおろかキメラアントの情報すらも一切掴めていない。
蛇ァッ!! と飛び出した、マルノミ蛇魔獣の、丸太が如き胴を両断し、溜息を1つ。
(コイツらはどうだろ。美味いかにゃ…)
仕留めた魔獣は凄まじい数、種類に及ぶ。
いくつかを口にした感想は、体躯の大きな個体ほど薄味傾向である、ということ。
元々煮る、焼く、味付けをする等の文化のほぼ無いキメラアント、ひいてはピトーの舌を満足させるのはオーラの多い少ない、舌触り、喉越しといったところ。
しかし一方ではグルメアントとも称されるのだ。
好き嫌いのはっきりした自分の舌を、ピトーは呪った。
食べられたものじゃない! そう感じるものの方がずっと多かった。
(げぇぇ…やっぱ人間が一番美味いかにゃ……)
そういう意味では、猿型魔獣の脳は人間のそれと近しい味であったものの…遠く及んでいない。
だが背に腹は代えられないから、猿型魔獣を見掛けたら積極的に狩る。
幸いだったのは、昆虫魔獣の持つ…人間であれば即死しているであろう致死毒に耐性があった事か。
蚊、蛭、肉食百足などの針や牙などは、ピトーの表皮を喰い破ることは出来なかった。
川を渡る際に襲撃した肉食魚もまた、自慢の牙や棘をズタズタにされて逃げ帰った。
とはいえ顔の周りを常時ブンブンと飛び回る虫には、苛つかされてばかりだ。
念のオーラで叩き落としても、またすぐに寄ってくる。際限がない。
「モシモシ…モシモシ…」
「煩いにゃ!!」
奇妙な鳴き声をする羽虫を叩き落とすーーすんでのところで、ピトーは目を剥いた。
今しがた叩き落とそうとしたのは……
蜂程の大きさをした羽虫。
いや、蝶の様な羽根を持ち、タキシードの様な模様の体色をした、人間じみた顔。
あまりにも見知った何か。
「ぷ、プフ!?」
そうキメラアント、シャウアプフをデフォルメした様な存在。
それが自分の周りをブンブン飛び回っていたのだ。
「良かった…君が居るという事は、近くには王が居るってコトだよね?」
「モシモシ…モシモシ…」
「プフ…? あの、何を言ってーー」
直後、ネフェルピトーの視界は黒一色に染まった。
これを客観的に説明するなら、彼女は頭から、丸呑みにされたのだ。
ムグムグと彼女を一飲みにした何かは、次の瞬間に爆ぜて細切れとなった。
飛び散る破片の中より、粘液に塗れたピトーが飛び出した。
「けほっ、けほっ…一体何!?」
振り返り見たのは、無残に引き裂かれた……植物だろうか?
ウツボカズラにもよく似ていた。
そしてようやく、プフもどきが、この植物の擬似餌である事に気付いた。
どういった仕組みかは知らないが、こちらの記憶を読み取り作った可能性が高い。
そして擬似餌に油断した対象をパクリ。
円が途切れていたのが、良い証拠だ。
好奇心がほんの僅かに顔をだそうとしたが、怒りが勝る。
ブルブルと身体を振り、人間を即時骨へと変える溶解液を弾き飛ばすと、不機嫌そうに猛った。
その猛虎を思わせる咆哮には一定の効果があったらしく、魔獣が恐れをなして道を開けた。
「うぅ、ボクがどうしてこんな目に…王、早く会いたいにゃ……」
「あの、もし?」
プチン、と何かが切れた。
この声色は、またか!
またあの擬似餌か!
振り返りざまに裏拳を繰り出すピトーだったが…それは空を切った。
「にゃっ!?」
「お、お待ち下さい!! 貴方は、王が仰った強き方であるとお見受け致します」
声の主…今度は、ユピーの姿をしたものが飛んでいた。
モントゥトゥユピー。
かつての、キメラアント護衛軍の一匹。
だが、ピトーの知るユピーとはまるで違っていた。
彼はもっと体が大きく強面だし、筋肉質で凄まじいパワーを持つ、獣といったイメージである。
こんな、デフォルメされたチビキャラ羽虫の様な感じではなかった。
しかし、擬似餌と違って、今度はきちんと言葉を発している。
「……あの、もしかして、ユピー、かにゃ?」
円もしっかり張り、警戒しつつ話し掛ければ、
「やはり私の名をご存じでしたか。改めまして、モントゥトゥユピー、と申します」
と、丁寧な返事があった。
元のモントゥトゥユピーからは絶対に、絶っっっ対に聞けない言葉だった。
「あぁ? それ以外に何があるってんだピトー」みたいな返事であろうところに、これだ。
そのギャップ破壊力と来たら…
「………………ま、まあ、いいにゃ。ユピー、王って言ったけど、もしかして?」
「ええ。貴女にお願いを申し上げる為に来ました。どうか、我らが王にお会い下さいませ…王を、救って欲しいのです!」
「救う…救うって…王はどうなされているの!?」
「王はその身を、病に蝕まれております」
ーー断罪騎士は、王命である【獣人を始末せよ】を受けるや否や宿場を飛び出し、馬を駆った。
そうして、異常個体獣人の痕跡を辿った。
目撃情報。
各現地騎士団の証言も集めた。
結論から言うと、行先に関して明確な手掛かりは無かった。
最期に目撃された地点から、どうやら南東に向かったようであるが、あちらは未開の地が大半だ。
更に大小雑多な樹木も生い茂り、人はほとんど居住していない。
目撃情報なども極端に減ることだろう。
だが、断罪騎士は分かっていた。
確実に彼女…ネフェルピトーの行程を追っているのだ。
(見、エル)
アバラボネ原始森付近、最後の村にまで彼は辿り着いていた。
【羽虫獣人モントゥトゥユピー役・・・モントゥトゥユピー(チビ)】
【擬似餌役・・・蠅の王形態シャウアプフ(友情出演)】