ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
ユピーに合流してからというもの、驚くほど順調に事が進んだ。
何せ、あれだけ鬱陶しく感じた魔獣らが一切姿をみせなくなったのだ。
まるで何かを恐れて近寄らない様にしているみたいだった。
ピトーもまた、何かを感じてはいたが、具体的には分からなかった。
「ネフェルピトー様、こちらが王の…我ら獣人の棲家となります。天井が低いのでお気を付けて下さいませ」
ユピーに連れられてやって来たのは、洞穴…巣穴、と表現した方がいいか、岩壁に掘られた穴だった。
ボクはフツーに通れるけれど、元のプフとかユピーなら身を屈めるくらいの高さだ。
勿論、このチビユピーだったら問題無いけれど。
「ねえユピー、君はやっぱり王の護衛軍をやってたりするの?」
「とんでもございません! 私の様な弱っちい存在など、王に守って頂くばかりでした。王は…戦う術のない、餌食になるのを待つばかりの私や、獣人を助けて下さったのです」
だというのに、と彼は付け加え
「貴方のおっしゃったユピーさんは、さぞお強いのでしょうね。羨ましい限りだ。私に、私にも戦う力があれば良かったのですが…」
(やっぱり…名前や見た目は一緒だけど、別個体と考えた方が良さそうだ)
しかし、それでも。
見知った顔、見知った名を持つ相手がそこに居るのは安心する。
更に、間もなく王にお会いする事が出来る事実の安心感といったら、欠けたピースがカチリとはまり込んだかの様なものだ。
ボクの使命は王の護衛。
自分の生きる意味を、再び得ようかというのだ。
今すぐにでも駆け出しそうな脚を抑え、奥に進んでゆくと…天井のより高い、広いスペースに出た。
王の間であろう、とピトーは本能的に察した。
その奥に何かが、横たわっていた。
「王、お連れ致しました。ネフェルピトー様といいます」
「おお…大義であった、ユピー…」
「王ッ!!」
抑えに抑えていた感情に、何重にも堰を落としてなお、小さな川は決壊した。
叫んでいた。
歓喜に打ち震えていた。
ああ、王、王!
あの時の様にまた、ボクを……!
だがその無垢な思いは、直ぐ様に打ち砕かれた。
「お、王……!?」
そこに横たわっていたのは、王であり王ではなかった。
魂は、身体の奥底は、アレを王だと言っている。
例え姿形が違おうとも、紛れもない王なのだ。
だが……
「すまぬな客人…寝たままの非礼、許してくれ」
王は、首から上しか、無かった。
……違う。
首から下は…闇に溶け込む程に、漆黒に染まり、見え辛くなっていただけだった。
脚は4本…いや、不釣り合いな前脚も含めるとまだ多いか?
腕もいくつかあり、胴には何枚もの羽根もあろうか。
尾はまるで裂けた様に枝分かれし、ヒレや水かきの様なパーツもあった。
正しい意味で、キメラ…あらゆる生物の特徴がこれでもかと詰め込まれた形をしていた。
言葉を失うピトーに、王は微笑み、語り掛けた。
「余は名をメルエムと言う…ネフェルピトー殿、会えて嬉しい」
ぐちゃぐちゃになった。
酷く取り乱してしまいそうで…悲哀、歓喜、憤怒、絶望…あらゆる感情がミックスされ…
ボクの心臓は潰れてしまいそうだった。
バクンバクンと、ただ、それだけが響いた空間で。
ボクは一体どれだけ、呆けていたのか。
「め、メル…エム…さま……」
「余の姿は恐ろしいであろう? 無理もあるまい」
違います。
そうではないのです、王。
「ふふ…これが、かつて魔王とも呼ばれた者の末路だ」
「あ、あの、お、お身体は…」
「もう、治らん…今は首しか動かせぬでな」
メルエムの言葉は正しかった。
後になって知る事ではあるが、彼の病気は真菌性壊筋症…この世界に於いては、壊蟻病というものだ。
名の通り、蟻魔獣に多く見られるもので、真菌(カビ)が末端の傷口等から侵入、増殖して筋肉を侵し、次第に上へ上へと登ってゆく。
感染蟻は段々と動きが鈍ってゆき、最後には手足銅が動かせず、ひっくり返ったまま起き上がれずに餓死する。
もしそうならなくとも…呼吸困難か、或いは心停止により確実に死亡してしまう、自然のシステムだった。
(
改めて無力感がピトーを苛む。
彼女の念能力に、玩具修理者、と言う能力があった。
その名の通り、肉体に負った傷を修復する。
千切れた手足であろうが、掛けた臓腑であろうが、確実に修復してしまう、恐るべき力だった。
だが死者と、病人を除く、という条件がつく。
つまりこの状況に於いて…黒化し砕けるのを待つばかりの肉体を一時的に補修出来たとて、根源を断つことは出来ない。
むしろ、苦しみを長引かせるばかりだ。
「解っていた…そなたが現れたこと、ただの獣人では無いこと…」
「…………」
「聞いてくれるか、ネフェルピトー殿。余の、最期の願いを」
馬鹿な…
最期の願いだと。
しかしどう見ても弱り切った王は、辛うじて口を開いている。
本当に最期なのだろう、というのは嫌でも分かった。
「あ、あの、で、したら……」
そう、絞り出すのが、精一杯だった。
「王、私を、私をお食べ下さい…どうか、そうしてーー」
「ネフェルピトー殿」
「私は!! 王の護衛軍ネフェルピトーです! 王の盾となるべく産まれた者にございます!! 少しでも、貴方様の足しになるのでしたら、この命など、惜しくはありません!!」
「止めて欲しい…もう、良いのだ。自分の身は自分が一番分かるものよ…余は、無駄に長く生きてしまったのだ」
諦観の言葉に、深淵の底へと叩き落とされた気分だった。
自分の役割を全て否定された今、ボクはどうすればいい?
ボクは、王を、救うことは、できない
「それよりもだ…手前勝手な願いを、貴殿にしなければ、ならぬ。どうか、余が繋いでしまった命達を、少しでも長く、健やかに過ごさせて欲しい」
メルエムは、幼子をあやす様に、言った。
【キメラ魔王メルエム役・・・メルエム】
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机上に滑らせる羽根ペンをへし折りたかった。
インクを羊皮紙にぶちまけたくなった。
喉をいっそ潰してしまえば楽になるかと思った。
だが止まらぬ。その手も、その口も。
わたしは何故悲劇を紡いでいる?
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