ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい!   作:SUAPF

6 / 11
ピトー! よくやりま……あああああああ王ォォォォ!!

 

ユピーに合流してからというもの、驚くほど順調に事が進んだ。

何せ、あれだけ鬱陶しく感じた魔獣らが一切姿をみせなくなったのだ。

 

まるで何かを恐れて近寄らない様にしているみたいだった。

ピトーもまた、何かを感じてはいたが、具体的には分からなかった。

 

「ネフェルピトー様、こちらが王の…我ら獣人の棲家となります。天井が低いのでお気を付けて下さいませ」

 

ユピーに連れられてやって来たのは、洞穴…巣穴、と表現した方がいいか、岩壁に掘られた穴だった。

 

ボクはフツーに通れるけれど、元のプフとかユピーなら身を屈めるくらいの高さだ。

勿論、このチビユピーだったら問題無いけれど。

 

「ねえユピー、君はやっぱり王の護衛軍をやってたりするの?」

 

「とんでもございません! 私の様な弱っちい存在など、王に守って頂くばかりでした。王は…戦う術のない、餌食になるのを待つばかりの私や、獣人を助けて下さったのです」

 

だというのに、と彼は付け加え

 

「貴方のおっしゃったユピーさんは、さぞお強いのでしょうね。羨ましい限りだ。私に、私にも戦う力があれば良かったのですが…」

 

(やっぱり…名前や見た目は一緒だけど、別個体と考えた方が良さそうだ)

 

しかし、それでも。

見知った顔、見知った名を持つ相手がそこに居るのは安心する。

 

更に、間もなく王にお会いする事が出来る事実の安心感といったら、欠けたピースがカチリとはまり込んだかの様なものだ。

 

ボクの使命は王の護衛。

自分の生きる意味を、再び得ようかというのだ。

今すぐにでも駆け出しそうな脚を抑え、奥に進んでゆくと…天井のより高い、広いスペースに出た。

 

王の間であろう、とピトーは本能的に察した。

その奥に何かが、横たわっていた。

 

「王、お連れ致しました。ネフェルピトー様といいます」

 

「おお…大義であった、ユピー…」

 

「王ッ!!」

 

抑えに抑えていた感情に、何重にも堰を落としてなお、小さな川は決壊した。

 

叫んでいた。

歓喜に打ち震えていた。

 

ああ、王、王!

あの時の様にまた、ボクを……!

 

だがその無垢な思いは、直ぐ様に打ち砕かれた。

 

「お、王……!?」

 

そこに横たわっていたのは、王であり王ではなかった。

 

魂は、身体の奥底は、アレを王だと言っている。

例え姿形が違おうとも、紛れもない王なのだ。

 

だが……

 

「すまぬな客人…寝たままの非礼、許してくれ」

 

王は、首から上しか、無かった。

 

……違う。

 

首から下は…闇に溶け込む程に、漆黒に染まり、見え辛くなっていただけだった。

 

脚は4本…いや、不釣り合いな前脚も含めるとまだ多いか?

腕もいくつかあり、胴には何枚もの羽根もあろうか。

尾はまるで裂けた様に枝分かれし、ヒレや水かきの様なパーツもあった。

 

正しい意味で、キメラ…あらゆる生物の特徴がこれでもかと詰め込まれた形をしていた。

 

言葉を失うピトーに、王は微笑み、語り掛けた。

 

「余は名をメルエムと言う…ネフェルピトー殿、会えて嬉しい」

 

ぐちゃぐちゃになった。

 

酷く取り乱してしまいそうで…悲哀、歓喜、憤怒、絶望…あらゆる感情がミックスされ…

 

ボクの心臓は潰れてしまいそうだった。

 

バクンバクンと、ただ、それだけが響いた空間で。

ボクは一体どれだけ、呆けていたのか。

 

「め、メル…エム…さま……」

 

「余の姿は恐ろしいであろう? 無理もあるまい」

 

違います。

そうではないのです、王。

 

「ふふ…これが、かつて魔王とも呼ばれた者の末路だ」

 

「あ、あの、お、お身体は…」

 

「もう、治らん…今は首しか動かせぬでな」

 

メルエムの言葉は正しかった。

 

後になって知る事ではあるが、彼の病気は真菌性壊筋症…この世界に於いては、壊蟻病というものだ。

 

名の通り、蟻魔獣に多く見られるもので、真菌(カビ)が末端の傷口等から侵入、増殖して筋肉を侵し、次第に上へ上へと登ってゆく。

 

感染蟻は段々と動きが鈍ってゆき、最後には手足銅が動かせず、ひっくり返ったまま起き上がれずに餓死する。

 

もしそうならなくとも…呼吸困難か、或いは心停止により確実に死亡してしまう、自然のシステムだった。

 

(玩具修理者(ドクタープライス)を持ってしても…それは…)

 

改めて無力感がピトーを苛む。

 

彼女の念能力に、玩具修理者、と言う能力があった。

その名の通り、肉体に負った傷を修復する。

 

千切れた手足であろうが、掛けた臓腑であろうが、確実に修復してしまう、恐るべき力だった。

 

だが死者と、病人を除く、という条件がつく。

つまりこの状況に於いて…黒化し砕けるのを待つばかりの肉体を一時的に補修出来たとて、根源を断つことは出来ない。

 

むしろ、苦しみを長引かせるばかりだ。

 

「解っていた…そなたが現れたこと、ただの獣人では無いこと…」

 

「…………」

 

「聞いてくれるか、ネフェルピトー殿。余の、最期の願いを」

 

馬鹿な…

最期の願いだと。

 

しかしどう見ても弱り切った王は、辛うじて口を開いている。

本当に最期なのだろう、というのは嫌でも分かった。

 

「あ、あの、で、したら……」

 

そう、絞り出すのが、精一杯だった。

 

「王、私を、私をお食べ下さい…どうか、そうしてーー」

 

「ネフェルピトー殿」

 

「私は!! 王の護衛軍ネフェルピトーです! 王の盾となるべく産まれた者にございます!! 少しでも、貴方様の足しになるのでしたら、この命など、惜しくはありません!!」

 

「止めて欲しい…もう、良いのだ。自分の身は自分が一番分かるものよ…余は、無駄に長く生きてしまったのだ」

 

諦観の言葉に、深淵の底へと叩き落とされた気分だった。

自分の役割を全て否定された今、ボクはどうすればいい?

 

ボクは、王を、救うことは、できない

 

「それよりもだ…手前勝手な願いを、貴殿にしなければ、ならぬ。どうか、余が繋いでしまった命達を、少しでも長く、健やかに過ごさせて欲しい」

 

メルエムは、幼子をあやす様に、言った。

 

 

 

 

【キメラ魔王メルエム役・・・メルエム】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

机上に滑らせる羽根ペンをへし折りたかった。

インクを羊皮紙にぶちまけたくなった。

喉をいっそ潰してしまえば楽になるかと思った。

だが止まらぬ。その手も、その口も。

わたしは何故悲劇を紡いでいる?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。