ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい!   作:SUAPF

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ピトー! 何故こちらにもあの小娘がいるのですかそれはともかくよく言いましたピトー!

 

ーー五十年前

 

メルエムは蟻魔獣の獣人として、この世に生を受けた。

彼は力も無く、また学もない。

弱肉強食が掟の原始森にて、ただただ蹂躙されるだけの存在である筈だった。

 

闇の魔術の、素養が無ければ。

 

魔獣の迫る大口を前に、弱々しく拳を突きだした。

それだけで、魔獣は千々に爆ぜた。

 

彼は己の力を自覚し、歓喜した。

メルエムが一帯の王となるのはすぐであった。

 

闇の魔術とは、生き物の根源…肉体を構成する細胞さえも破壊し、終わらせる力。

人間は此れを破滅魔術とも呼んでいた。

 

だが、意外にもメルエムは、力を覚醒し、力に溺れ、即時に魔王となった訳ではない。

 

彼を留めたものがある。

 

それが原始森の傍らに存在した村、ジョコツ。

そこに住まう人間と獣人だった。

 

ジョコツは、今では考えられないことだが、人間と獣人が、身を寄せ合い過ごしていた村だった。

 

メルエムは驚愕した。

 

弱肉強食を礎とする彼にとって、異なる個が助け合いをする状況に驚愕したのだ。

そして自身も、その対象だった。

 

メルエムは「はじめまして」と、村人の…人間に挨拶をされた。

馴染みの無い行為に首を傾げていると、

 

「あなた、大変だった? 言葉は分かる? お腹、減ってない?」

 

と、作物であろう、紫色の木の実を差し出してきた。

「言葉も分からぬから、献上品かと思った」と後にメルエムは自嘲気味に笑い、当時の事を語っていた。

 

ここでメルエムが、無差別に力を振るわなかった事は奇跡だった。

 

人間と獣人。

何と無防備な弱者であろうか?

何故この生物は生きていられるのか?

 

どうにも弱肉強食とは違う生き方をしているらしい。

王は彼らに興味と好奇を向けていたのだ。

 

それは人間が、虫籠の昆虫を世話するのに似た感覚かも知れない。

 

それに、村は原始森の近くなのも幸いした。

村はよく、大量発生した魔獣に襲われていたのだ。

 

メルエムは狩りついでに村を守ったに過ぎない。

より具体的に言うなら、魔獣の群れを一蹴したのだ。

 

村人は途方もない力を畏れたが、それ以上に感謝した。

 

こうして、メルエムはジョコツの王となった。

村人らは何か望むものは無いかと、どうにかコミュニケーションを取り、訊いた。

 

王は、戯れに1人の人間を指差した。

それは彼が村に来た当初、木の実を差し出した少女だった。

 

少女の名は、コムギといった。

 

 

 

「運命とは、なんと脆いものであろうな。たった1つの過ちが、たった1度の掛け違いが、重ねたものを崩してゆく」

 

 

 

メルエムは、人間の言葉を覚えた。

その際にコムギはこう言った。 

「メルエム様は村の王様なんだから、格好の良い言葉で喋るべきっす」と。

だから時折、古い保管本をいくつも差し出した。

 

彼女は献身的に、よく働いた。

そして様々な事を教えてくれた。

 

魔術とは…火は焼き、煮る為、水は喉を潤す為、風は種を運ぶ為、地は実りをもたらす為に、との教えもこの時に学んだ。

 

やがて村人が魔術と呼ぶものを、彼は闇の魔術をこねくり回して擬似再現する様にまでなった。

だが、擬似再現された火は、炭さえ残さず焼き尽くし、風は猛毒ガスとなり、水は汚れ、土は死んだ。

 

彼は闇の魔術を、緊急時以外封印していた。

 

そんなメルエムが真っ当に立ち、着実に歩んでこれたのも、この環境のお陰であった。

 

「コムギ…お前はまた1人で出掛けていたのか」

 

「メルエム様はこの実がお好きでしょう? 珍しいモンだから取りに行ってた」

 

コムギはこと、初めて会った時の事を大切にしていた。

籠一杯に取ってきた実(グァバヌァの実というらしい)は、2人の象徴になった。

 

「余に場所を教えてくれれば良いではないか」

 

「メルエム様に教えちまったら、私の大事な仕事がなくなっちまうっす」

 

冗談めかしてそう言うコムギは、嫌いではなかった。

 

(本当は知っていたし、余も取ってこれた。より多く、より美味なものもあったろう。それでも不思議なもので、コムギが取ってきたものは抜群に余の口に合った)

 

「メルエム様、今日もありがとうございましたです。おやすみなさい」

 

彼女はメルエムを繋ぎ止めていた。

メルエムは村や少女に必要とされた。

 

同時に、メルエムもそれらを必要としていた。

 

こんな日々がずっと続いていたなら、魔王など生まれはしなかった。

平和な世界が崩れてゆくのはやはり、たった1つの過ちによって、である。

 

「お前が、魔術を持つという獣人かね?」

 

鎧を着込んだ人間の集団が、ジョコツにやって来たのだ。

 

メルエムは人間を知らなさすぎた。

人間を動かすのは恐怖だ。

 

怖くて怖くて堪らない時、人は敵を作りそれを攻撃する。

それが悪いと言っている訳ではない。

防衛本能というものはどんな生物にも備わっているのだから。

 

だが、何故あの時だったのかと、今でも思う。

 

翌日。

魔王が産声をあげた。

 

ジョコツが滅び、5つの村と1つの街が地図から消えたこの一件。

世間では、魔王は三日三晩暴れ、目に付いた生物は皆殺しにし、そして討伐された、とある。

 

グランドマスターネテロの活躍により、兵士120、民間人870(獣人含まず)の犠牲の後、魔王はこの世界から姿を消した。

それが歴史に記された全てである。

 

 

 

ーー「余は分からなくなった。何故、余だけは生きている? 何故、こんな、醜き肉体に成れ果ててまで、病から逃れ生きようとした? 血濡れた手の破壊しか知らぬ余が?」

 

ピトーには、答えが無かった。

 

「余が、守りたかったものは総て、手を溢れてゆく。望むものは総て、消えてゆく。だからせめて、今、生きておる此奴らを…」

 

うわ言の様に呟き始めたメルエムは、いよいよ限界近いのだろう。

 

「メルエム様!!」

「メルエム様!!!」

「メルエム様!!!!」

 

彼の、まだ手の内にある者が、次々に声をあげた。

 

「なぁ、ネフェルピトー殿。余は貴殿を、多分、ずっと前から知っている気がするのだ。貴方が、余をここまで気に掛けて、下さる訳も…察しがついている」

 

「メルエム……様…」

 

「勝手よな…すまぬ、こんな重責を押し付けてしまい。すまぬ。余を知る貴殿を置いていって。だが、これでようやくーー」

 

メルエムは瞳を静かに閉じた。

 

「ようやく、コムギの元へ…」

 

 

 

「ふざけるんじゃないにゃ!!!!!」

 

 

 

その時、大地を裂かんばかりの轟音が、王の狭き居城を揺らした。

 

「ね、ネフェル、ピトー殿?」

 

「王! 私が貴方様を治します! 私の能力ならば、或いは僅かに延命は出来るやもしれません!!」

 

先程までは、ピトーは板挟みにあっていた。

 

メルエム様をお助けしなければ、という護衛軍の顔と、

王が望んでおられる事だ、このまま…というネフェルピトーとしての顔。

 

だが、嫌なものは嫌だった。

当たり前だ。

 

ようやく見つけた王が、虫の息で!

もはや生きる希望もなく!

人間の少女、しかも自分も知る名前の、少女を呼び続け!

今勝手に滅びようとしている!

 

ボクにはボクの生きる意味がある!

それは貴方様の為に、これが全てなのだ!

 

だったら! 足掻かせて欲しい!

例え徒労に終わったとて!

最後の最期の、その瞬間まで!

 

ボクに手を煩わせて欲しいのだ!

 

「貴方は望まないでしょう! 苦しませるだけかも知れません。ですが、私にだって…私にだって望むものはあるのです!!」

 

 

だが……運命とは、なんと脆いものか。

たった1つの掛け違いが、またしても起こった。

 

ピトーの円に、感知されたものがあった。

もう目と鼻の先にまで、ソレは接近していた。

 

断罪騎士…彼が、洞穴の入り口近くにまで辿り着いていたのだ。

 

 

 

【村娘コムギ役・・・コムギ】

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