ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
ボクは選択を迫られていた。
王の治療しようとした直後に、円に人間の反応。
円で感知する限り、人間は一直線にこちらを目指している。
あと数分もすれば、洞穴へと辿り着くだろう。
(くそっ、どうして今なんだ!)
治療を行う念能力、
まず、ボクのほぼ全ての念を修復念人形に注ぐ為、念による攻撃、防御の術を失う。
更に治療中は、ボク自身が念人形から遠く離れることは出来ない。
つまりほぼ移動ができなくなる。
そして治療は、魔術の治癒術の様な瞬間的に治す類いのものではない。
手術の様な繊細な治療だ。
早くても数時間。
王のキメラ化した複雑な肉体は何時間掛かるかも予想さえできないのだ。
すなわち…治療に入るという事は、向かって来る相手に無防備を晒し、されるがままとなるのを意味する。
それに円で見た敵の
自分でさえ苦戦した原始森の中を単独で向かって来ている事実。
間違い無く強者だろう。
(タイミングが悪過ぎる!!)
しかしそもそも、自分が人間に追われているのだって、人間相手に暴れてしまったからだ。
もしかしたら、獣人の棲家に丁寧に招いてしまったのかも…
「ネフェルピトー殿…人間が迫っているのでしょう? 相当の使い手だ、余の事はいいから…………戦って欲しい」
メルエム様は戦え、と言った。
逃げろ、ではなく。
戦え、と。
当然だ。
もしボクが逃げれば、ここの獣人らに対抗する術はない。
元より獣人は駆除対象だ、見逃されなどしないだろう。
それが解っているから、メルエム様は戦えと言った。
ボクなら、アレを倒せるであろうことも解っている風だった。
言われずとも王命は絶対だった。
「分かりました。暫しお待ち下さいメルエム様」
だったら速攻あるのみ。
手早く敵を処理し、メルエムの治療!
その命が尽きる前に。
祈る様な気持ちでボクは洞穴を駆け抜け、表に出た。
そこで丁度、敵と相対したのだが…
「き、キミは……」
悪逆の過去はいずれ自分を追い詰め、身を滅ぼす。
いつか本で読んだフレーズ。
追い詰めに来た過去が、そこに立っていた。
その男は、他の王国騎士らと違って身軽な装備だった。
鎧も無ければ、武器さえ持っていない。
一見、鋭い目付きの素朴な青年…といった印象を受ける人物。
でも、ボクには見えていた。
ボクにだけは見えていた。
顔中、いや、身体中にある、パッチワークの様な縫い跡。
何よりも彼の背後に浮かんでいる物体は、ボクの念人形。
取り付いた対象を自在に操作する、念能力だ。
この世界で、ボクにしか見えない罪の証。
ボクはハッキリと覚えている。
この青年の、あちらでの名はカイト。
生を受けてすぐ、戯れに殺した人間。
もう一度戦いたくて蘇らせようとし、玩具修理者を使ったが失敗、生ける屍と化した人間だった。
「貴様、ダ、ナ?」
酷く、ぎこちない発声をする。
試しに念人形のコントロールを試みたが、駄目だ。
彼の人形は既に、ボクのコントロールを離れている。
消せもしなかった。
これでは
彼が正確にここに来たのも、感知されたからだ。
「獣人、始末シロ…王命。イヤ、奴、タオス」
(ッ!? 何を呆けている、速攻だ!)
感傷に浸る暇など、資格など、今のボクには無い。
時間にして1秒足らずの逡巡の後、地を蹴って敵目掛け跳ぶ。
爪が、カイトを引き裂く…事はなかった。
カイトの姿が、何の前触れもなく。
ボンッ、という破裂音を置き去りに消失した。
着地前、嫌な予感がした。
地に脚が着いた瞬間、ボクは左方へと身をかわした。
直感任せの回避。
それでもボクの左腕を、何かが切り裂いた。
カイトはあの刹那で、ボクの背後を取り、攻撃をしていたのだ。
(消えた? いやーー)
身を翻し、再び視界に彼を捉える。
カイトは、空中で静止していた。
まるで見えない足場でもあるかの様だ。
「カワ、シタ? ヤル、ナ」
「くっ…」
魔術なのは間違いない。
考えろ。考えろ。さっきしたあの破裂音。
奴が何かをしているのは明白だ。
考えつつ体躯を沈める。
カイトもまた、姿勢を落とした。
地を再び蹴り、今度は右に跳んだ。
カイトを横目に、更なる追撃を加えるべく肉迫する。
しかし、爪が触れる直前、またしても彼は消えた。
(…違う、これは)
ボンッ、と破裂音が耳元で轟く。
瞬時に音の真逆にジャンプ。
先程までボクが存在していた所を、不可視の刃がえぐった。
振り向いた先には、再び背後に回り込んでいたカイト。
(…風系統魔術かニャ?)
破裂音。
あれは圧縮された空気が一気に開放されたものだとしたら?
圧縮大気を、自分の周囲で爆発開放。
そのエネルギーを身体に受けて、超加速している?
基本的に人間は、1つの系統の魔術を持つ筈。
この推測が正しければ、恐らくカイトは風系統だ。
真空の刃を作る方法は、書物にもあった。
空中静止も、大気を操れば可能なのではないか?
(だったら!)
ボクは即座に行動した。
近辺の木々を殴りつけ破壊し、カイト目掛けて薙ぎ倒す。
当たるとは思っていない。でも、倒木や土埃。
障害物をひたすらに増やした。
あれが超加速移動なら、周りがごちゃごちゃしているだけ、相当制御に気を遣わなければならないのでは?
案の定、彼は留まって不可視の刃を放ち、自身を目掛ける倒木らを切り裂いた。
それをしながら、ついでをボクに攻撃を加えるのも大したものだ。
だが不可視の刃は木々や枝葉、土埃に触れて、その軌跡が捉え易くなっている。
(見えてるんだよねッ!!)
「ヌッ!?」
刃を躱し、最短で間合いを詰めにゆく。
そして遂にボクの爪が、カイトの肩を叩いた。
だが、舞い上がった土埃が、寄り集まり硬化。
防壁と化し、追撃を防ぐ。
更に、砕けた土の防壁は
ガードに移行。
ご丁寧に礫の1つ1つに魔力コーティングがされていたのだろう。
念のガードを無視し、結構な痛みがあった。
でも、そんな事より…
「今のは…地系統の魔術!?」
「……」
(馬鹿な、人間は魔術は1人につき1つの属性しか…)
カイトは恐らく右肩が外れたか、腕がダランと力なく垂れていた。
しかし人形がそれを操り、ぐるぐるとぎこちなく回す。
「本気、デ、イク…」
断罪騎士カイトは、表情1つ変えずに宣言した。
【断罪騎士カイト役・・・カイト(生前)+念人形】