ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
人間は通常、1人につき魔術の属性が1つである。
これは例外なくそうであるといえた。
だが、眼前のカイトだけは違っている。
彼は2属性を、風系統と地系統を持っていたのだ。
それは何故か?
答えは彼の特殊な状態にあった。
カイトは元々、風属性しか持たない。
では地属性どこから?
簡単な事で、ネフェルピトーの残滓とも言える、念人形である。
彼を操っていた念、ひいてはネフェルピトー、その中に残存するキメラアントの元となった人間の魂。
これが1人2属性の奇跡を可能としていた。
「しィ!!」
ピトーは木々を次々飛び移り、3次元的な軌道をもってカイトに対抗していた。
休む暇を与えずに攻め続ける。
奇しくも、王が得意とした戦法をやっている。
単純に、魔術相手では念の防御が意味を成さない為でもあり、守るより攻めろのスタイルだ。
背後から、或いは横から、木々の間から、木上から。
あらゆる方位からカイトを強襲し、徐々に洞穴から遠ざけてゆく。
無論、一撃一撃が、仕留める気で放たれたものだ。
しかしカイトも、人間の反射を遥かに超えた反応で、ピトーの攻撃を凌いでいた。
ピトーの念である筈の人形が、その驚異的な反射を可能にしていた。
跳躍から、着地。
直後足元が
「ッ!?」
地の魔術によるトラップであった。
体勢を崩したピトーに不可視の刃が襲い掛かる。
飛び退き、地面を転がりながらも回避。
その行き先に、唐突に落とし穴が発生した。
「魔術っていうのはッ!」
穴に落ちる直前、強引に身体を捻り、穴淵を蹴りつけ飛び上がる。
瞬間、穴は獲物を喰い殺すあぎとが如く閉じ込んだ。
「厄介だにゃあ!!」
無論彼女もやられっぱなしではない。
倒木を巨大な投槍の様にカイトへと投擲した。
木槍は、カイトの周りに現れた土魔術の防御土壁により押し留められる。
が、彼を囲う様に発生した壁は、彼の視界を封じていた。
直上。
ピトーは既に彼の直上へと舞い上がっていた。
「限界を超えて舞えーー」
土塀の中にあるカイトを俯瞰するピトーは、自身へと、念人形を纏わせてゆく。
「
黒子舞想…上位念人形により、自身をマリオネットの人形の様に操り、先述の通り限界を超えた動きを可能とする。
彼女の本気、必殺技といってよい。
弾丸の如く放たれたピトーは、彼の頭上目掛け急降下した。
「ヌァ!?」
土塀が一瞬にて、真上へと展開し直されたが、僅かに遅い。
それを察したカイトは更に、風魔術の超加速で回避を試みた。
それでも彼女の爪が、カイトの胸から腹を切り裂いていた。
(入った!! でも浅い!)
スピードを重視した為の、不格好な着地。
地面にクレーターが穿たれた。
カイトも制御を誤り倒木へと衝突、立て直すまで1秒もない。
「!!?」
彼は再度即時、速やかな回避を選択した。
ピトーが既に肉薄していたのだ。
超加速。
敵の背後に回り込む。
だがピトーは振り向きざまに拳を振るった。
念人形+カイトの反応を、黒子舞想ピトーの反応が上回っていた。
拳はカイトの下腹部辺りを穿ち、逃れる間もなく衝撃を伝播した。
骨を、臓腑を粉々に粉砕する感触があった。
彼は凄まじい勢いで、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいった。
「にゃ!?」
ピトーはその時、自身の両足の違和感に気付いた。
見下ろせば、足首程までが泥濘に囚われ、カチコチに固まっていたのだ。
当然、魔力でコーティングされている。
カイトは防御も回避も間に合わぬと見るや、この様な技で、こちらの動きを封じて来たのだ。
肉を切らせ骨を断つ…どころか、己の命さえ顧みない様な戦い方に、僅かな隙をつかれた。
魔術には魔術でしか干渉出来ない。
これを打ち砕くには時間を要するか…或いは脚を犠牲に脱出するより無い。
そんな折ボンッ、ボンッ、と断続的な破砕音を、耳が捉えた。
「ま、さか…!?」
ピトーが描いた最悪の想定が現実のものとなり眼前を通過してゆく。
カイトは吹き飛ばされながらも、風魔術の圧縮大気を背中側で断続的に開放し、次第に減速、そして遂に勢いを反転していた。
だが…ピトーの目にはカイトは既に事切れていた様に見えた。
両手両足はあらぬ方向に捻じ曲がり、背中には木々の枝が突き刺さって不格好な剣山の様になっている。
恐らくは彼の意識が消えた事で、念人形が完全に身体を掌握。
彼に…獣人を始末するという王命を、忠実に実行させているのだろう。
ネフェルピトーは獣人ではない。
ではこの場に於いて、獣人とは…
洞穴の中に居る者達に他ならない。
現に彼は洞穴へと突入していった。
「そんな…メルエム様!!」
最早、猶予はない。
ピトーは自身の脚を目掛け手刀を振り下ろした。
ーーカイトが、いや意思持たぬ人形が、王の前へと辿り着いたのはすぐだった。
「あ、め、メルエム様!!」
獣人らが、突如現れた侵入者に混乱する中、ユピーが王の前に飛び出そうとし…
「来るでない!」
王の命に、肉体が硬直するユピー。
「人間…何用でここに来た?」
メルエムの問いに、カイトは迷わず魔術を行使しようと、魔力を身体の隅々に生き渡らせていた。
肉体に残存する、全ての魔力を押し出す様な暴挙に、王は妙な親近感の様なものを覚えた。
メルエムは微かに微笑むと、こう言った。
「ふっ…丁度、良い。最期に…貴様を破壊しよう」
それは一瞬の出来事だった。
王は魔力を…生命を燃やせるだけ燃やした魔力を使い、念じただけだった。
彼の魔王としての力は、文字通り最後の闇の魔術は、カイトの魔力を、そして背後の念人形を…塵1つ残さず破壊した。
「メルエム様ッ!!」
そこに、膝下を失ったピトーが、這い進む様に現れた。
彼女の視界に写ったもの。
糸が切れて崩れ落ちるカイトと。
魔力を使い果たし、末端より肉体が崩壊を始めるメルエム。
「あ、あああ……」
絶望よりもまだ暗いものが、ピトーを塗り潰した。
この場で王が滅びゆくことはーー
総て、
あらゆる原因が、因果が、
廻り廻った結果、
全部、自分を突き刺していた。
「あああああああああ!!!」
彼女の絶叫が、王の間にこだました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
違う。違う違う違う違う違う。
目眩さえ感じる
穴という穴から煮え滾った体液が噴き出す程に
全くもって
ふざけている
こんな事なら……
いや、待て、待て。
まだだ
私の指は、私の喉は
望みをまだ捨てていないのか
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー