コンビニエンスストアでのバイトを終え、ある程度のお金が貯まった私は早速休暇というものをしてみた。小さな肩掛けバッグを身につけ、電車の窓から流れ行く窓の景色をじっと見つめ続ける。
都会のビル群を抜け、街はやがて畑などがひしめくのどかな田舎風景へと変わっていく。行き先は決まっていない。とりあえずソレほど乗車賃のかからない距離にまで行ってみようかな、と早速行き当たりばったりの無計画旅行を立てたのだ。
前回の出来事を何も反省してないね、私。
電車というのは便利だ。瞬間移動では感じ取ることのできない生命体の営みと時の流動をひしひしとこの目で見れるのだから。周囲の人間はスマホや本などを見て時間を潰している。私も何かゲームアプリでも入れてみよう。
貴方たちのおすすめは何かあるかい?ソーシャルゲームでも音楽サイトでもなんでも構わないよ。
『まもなく〜、まもなく〜』
こうして電車がついた先は東京と埼玉の県境近くにある田舎町。都会からはそこそこ離れた場所にあるからか、ビルやタワーなどの高い建物はゼロ。しかし街の中はそれなりに人だかりができていた。
それなりに有名な観光地と観測結果では聞いているがどうやら本当だったらしい。私もネットのレビューサイトの意見を信じてみるべきだな。
ここの名産品はお肉とお米だそう。そういえばまだ一度も本格的な焼肉に行っていないことを思い出し、私はとりあえず近くにある出店に寄って肉串を2本買った。
口に入れ肉に歯を挟めば、肉汁が一気に吹き出し、口内を蝕むようにじんわりじんわりと広がっていく。塩の量がちょうどよくどんだけ噛んでも味に飽きるようなことは起きない。
「うみゃいうみゃい」
「兄ちゃん、いい食べっぷりだな!」
出店の近くで座りながら肉を頬張っていると店主が顔を出した。年齢は30から40ほどのまさにおじさんといえる造形をしている。
「美味いです、これ。牛肉とか?」
「あー……まあそんなところだ。ここには観光か?1人で来るなんて珍しいな」
「バイト休みにちょっとした遠出って感じです」
「ほほう、いいねぇ。……じゃあよ、この街が肉だけじゃなくて米も有名だって知ってるわけだよな?」
「はい。それも目当てできました」
「ならちょうどよかった!その肉は米によく合う。米食うか」
「なるほど、そういう食べ方もあるのか……じゃあお米も……」
「ああ、金はいらんいらん、初めて来たんならサービスしてやる」
そう言って店主は小さなお椀にお米をよそおって手渡してくれた。
なんという好待遇。
無償の善意ほどありがたいものはない。遠慮なくいただくことにしておこう。あとついでにこの店のレビューも星5つにするのもやっておくことにした。あと商売繁盛の運気もプラスで。
串焼きの1つを入れた口にお米も投入する。肉汁と塩の味と共に甘味が口の中に広がり、歯を落とす速度が早くなっていく。
これが絶品というやつだろう。味覚も味蕾も作りたてほやほやの私でさえわかる。地球来てよかったー。
「もぐもぐ」
「いい肉が付くぜぇ、兄ちゃん」
店主に見守られながら私は一生懸命、カップにのせられた米と丁寧に焼かれた
…………流れ変わったな。
何の肉かと聞いても店主ははぐらかすので観測してみたら何と結果は人間の肉だった。
私は人間ではないので人肉を食したところで精神的ショックも吐き気も催すことはないが、たしか人が人を食べるのはルール上禁止されているんじゃなかったっけ。
ちょっと図書館に接続して六法を見てみると食人は法律上禁止されてはいなかった。
「ほな……ええか」
あ、いや殺人罪はダメって書いてある。いまの人間に殺さずに人間を食べれるような技術はなかったはずだからやっぱりアウトだ。
どうしよう。一般人としては通報したほうがいいのだろうけど、ひと噛みで人の肉だとわかるような人間は間違いなく一般人ではないからなぁ。
それにさっきのお肉とお米はふつうに美味かったし……サービスもらっちゃったし……恩を仇で返すようでただ単に人肉を食べたことよりは嫌な気分だ。
さっきの店主の男は間違いなく人間。私が以前遭遇していた胴長短足でも黒花のような怪生物ではない。ぱっと見でなんとなくわかる。そしてあの言い淀んだ雰囲気から彼はあの肉が人のものであることを知っている可能性がかなり高い。
であればこの肉はどこから取ってきたのか。
「ま、下手に関わってポカった方がやばいから観測しないでおこう」
先に観測してあらかじめ人肉だとわかっていたのは良かった。もしこのお肉食べたい!とか強く願ってしまったら人間がみんなお肉に変わって絶滅してたかもしれない。ほんとうによかった。
出店を離れ、商店街らしき場所へと辿り着く。
お土産ショップや市場、レストランなどが散開し、人だかりでとても賑わっていた。特に精肉店は大変繁盛しており、できたてのコロッケやメンチカツを食べるために行列ができていた。
「あの精肉店の肉は……おっと、全部人間だ」
目を凝らしてみれば、ヒレもロースもタンも全部人間のものだった。法律上バレたら間違いなく捕まるだろうに凄まじい胆力だ。売るならせめてこんな公共の場ではしない方がいいと人間初心者の私は愚考してみるんだがどうだろうか。
一応、別の場所では牛肉や豚肉も売られているが、ここに比べたら人気はまばらだ。やっぱり美味しいものは素材が何であれよく売れるのだろう。食文化は生命体の精神を向上させるものだと私はここ1週間でよく理解していた。
「ねぇねぇ、聞いた!?今度、あそこのレストランで先着10名様限定の特製ハンバーグ定食が12:30からやるらしいよ!」
「お、じゃ行ってみよう!」
カップルらしき2人組の会話を偶然耳にした私はすぐさま腹を空かし、なんとか先着10名の最後尾に着くことができた。今回はズルはしてない。ただめっちゃ頑張って走っただけ。
店の前からは濃厚な焼いた肉の香りが漂ってくる。もれなくすべて人の肉だ。
「腹が減ったなぁ」
ようやく私の番は来て、レストランの中に案内される。スタッフはどういうわけか1人で来た私の姿を見て顔を綻ばせた。
「1名様ですか?」
「はい」
「でしたら現在大変混み合っていますので別室でのご案内になりますがよろしいでしょうか?」
「全然構わないです」
「ありがとうございます!1名様ご案内です!」
フロアが沸き立った。キッチンの奥からも雄たけびのような声が聞こえ、なんだなんだと客は騒然としている。かくいう私も動揺しているみんなの内の1人。
スタッフは苦笑いをしながらも、少し離れた個室へと案内してくれた。黒と赤で染められたオシャレな部屋だ。鉄分の匂いが充満しているのはとりあえず気のせいということにしておこう。
「すぐに料理をお持ちいたしますのでどうかお待ちになってください!」
そういうのって店員はバタンと力んで扉を閉めて行った。そしてすぐさま扉が開き、私は消音器具をつけたピストルで脳天を撃ち抜かれる。
早い。扉閉める必要ないじゃん。
「店長!お肉ゲットです!」
「おお!よくやった!最近は店に来る1人客が少なくて困ってたんだよなぁ。今夜は大盤振る舞いだ!」
「やったーーー!」
店長らしき髭面の男がドアから姿を現し、万歳万歳と手をあげて喜んでいる。私のおかげで喜んでもらえたならとても嬉しい気分だ。バイトの時とは違う嬉しさを感じている。
1人客を狙っての犯行だったのか。家族客とかに比べて行方不明でも噂になりにくいんだろうな。観測した感じ、この街の市長もグルっぽいしある程度は揉み消せるのかも。
しかし、よく考えれば私のお肉は以前、胴長短足が食べた時に肉体情報のせいで自己崩壊していた。普通に考えれば人間が耐え切れる訳がない。割と中身まで精巧な人間の肉体には仕上げているけど、不安要素が消えたわけでもないのだ。
変にデコイを置いていくわけにもいかないので、バレるのを覚悟して私はそろそろ〜と音を立てずにその部屋から出て行った。脳天を撃ち抜かれてもギリギリ生きてた人間がいることを知っているので、私のこの行為もギリギリ人間の範疇を超えていない……はず。
「おいっ、死体がないぞ!?お前、本当は仕留め損なったんじゃないのか!?」
「あ、あれ!?い、いえ、絶対眉間を撃ち抜きましたって!この目で見たんですから!」
「そんなことはどうでもいい!さっさと見つけねぇとこの街が終わる!」
おっと、どうやら本格的に逃げなくてはいけないようだ。
とりあえず私は銃痕を布で隠し覆い、さっさとこの街から逃げて去った。
後から観測してわかったのだが、あの街は私が逃げたことによっていつ食人がバレてしまうかと住民たちが大騒ぎになり、内部分裂して自然消滅していくことになるそうだ。
最後にあの串焼きの店主に挨拶しに行きたかったのだけど……ま、いずれ会えることを願っておこう。
よく考えなくても18時に投稿していい内容ではない。