第3話 麻帆良学園への赴任
「わーすごいや」
「おいネギ、よそ見してると道を見失うぞ。観光は後でたっぷりできるんだから、まずは目的地に真っ直ぐ辿り着くこと、だぞ」
「あ、そうだね。ムギ」
麻帆良への赴任が決まってから、ネギに教え諭す機会が増えた気がする。でも俺達は
一卵性の双子だからあまり優劣や上下関係といったものとは無縁なのだ。ちなみに俺達の外見は
一卵性なので全くの一緒。なので前髪の分け目を微妙に変えるのと、俺が襟足の、うなじの部分の後ろ毛を少し長く伸ばす事で差異をつけている。
それはそれとして、やっぱ日本の電車の乗り継ぎは面倒だな。今までイギリスの
田舎暮らしだったからなぁ。
そんなことを思って居ると電車に乗っている女子校生(多分)に声をかけられた。
「僕達どこ行くの?」
「ここから先は中学高校だよ」
「いえ、その……」
話しかけられたネギが言葉に詰まる。ここは俺が助け船を出してやるべきか。と思ったところ、ネギがクシャミをした。
「ハ……ハハ……ハックション!」
すると電車の中に居た女子達のスカートをめくり上げる風が吹いた。……俺は無言で
ネギに近づくと頭をぶん殴った。
「ネ~~ギ~~」
「あ、あはは。ごめんムギ」
謝る相手が違うが、女子達に謝って回るわけにもいかないので仕方ないことと割り切る。……
このネギのクセだが、魔法学校に通う間必死になって直させようとしたが直らなかった。
原作でも最後まで直らなかったしなぁ。これはしょうがないと割り切るしかない。
しかしそれはそれとして、魔力を暴発させる時には人がいない方向に向かって行うように言って
おいたのだ。今回はそれを怠ったのでぶん殴った。
「ったく。ホントお前はしょーがねえな。ほら行くぞ。もう麻帆良学園中央駅だ」
「あ、待ってよムギー」
時間は朝、登校ラッシュに巻き込まれる時間帯だ。しかし俺達は焦っていない。到着は今日の
午前中と伝えてある。ゆっくり行けばいい。急ぐために魔法で自分の体を強化するなんて真似も
しない。その必要がないからな。
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無事学園長室に着いた。明日菜に遭遇するとか失恋の相が出てるとか、担任になるとかで騒ぎになるとか、明日菜を下着姿にしてしまうとかいったハプニングは全く起こることなく到着した。
「なるほど修行のために日本で学校の先生を……。そりゃまた大変な課題をもろうたのー」
「は はい。よろしくお願いします」
「お願いします」
ネギはちょっと自信なさげに答えた。しかし原作ではここで明日菜とこのかが居る状態で修行とか言っちゃうんだっけ? それはダメだろ常識的に考えて。
「しかし まずは教育実習とゆーことになるかのう。2月中旬から3月までじゃ。まずは赴任
期間とゆーことで前任の先生から引き継ぎを受け手もらうぞい」
言い忘れたが、俺達は2-Aの担任に収まってなどいない。事前の連絡で担任を任せるとか言う妄言をぬかしやがったので多少きつい言葉で断っておいた。10歳の子供が教師をやるだけでも
非常識だというのに、担任なんて冗談じゃ無い。そんな責任は背負えないし、教導を受ける生徒達にも申し訳ないからな。(後で知ったことだが、結局2-Aの担任はタカミチ・T・高畑から交代したらしい)
俺達は2-Aの英語教師という形で赴任することになった。ちなみに子供なので二人で一人分の仕事を行うことになる。……この調子なら、最終課題は英語の成績で最下位脱出とか学年○位に
なる、とかになるだろうな。
「ネギ君。ムギ君。この修行はおそらく大変じゃぞ。ダメだったら故郷に帰らねばならん。二度とチャンスはないがその覚悟はあるのじゃな?」
「は はいっやります。やらせて下さい」
「…………」
ネギは元気いっぱいに返事をする。俺は沈黙したままだ。
「ムギ君も……それで良いかね?」
「はい。大丈夫ですよ。頑張って勤めさせて頂きます。黙っていたのはですね、ただ単に俺達の
故郷と呼べる場所は滅んでしまっているので、失敗しても帰る場所がないなぁと思っただけですから」
「…………」
「…………」
場に沈黙が降りる。学園長は「やっちまった」という顔をしている。いや別に嫌味を言う
つもりは全く無いんだけどさ、ホントに疑問だったんだよね。俺達故郷滅んじゃってるから帰る
こともできないんだなぁ、とね。ウェールズの魔法学校では家が無くなったから住まわせてもらっていただけだし。
「こ、こほん。ま、まあよいか。うむ、二人の意思は受け取ったぞい。では明後日から
やってもらうことになるの。指導教員のしずな先生を紹介しよう――しずな君」
「はい」
ドアを開けて部屋に入ってきたその女性教師は、ネギの頭を胸の谷間に挟んで「あら、ごめんなさい」などと言っている。さすが原作主人公。さすがのスケベ力である。
「分からないことがあったら彼女に聞くといい。源しずな君じゃ」
「よろしくね」
「あ ハイ」
「……よろしくお願いします」
今思ったけど綺麗で胸の大きい女性教師とか、男の欲望みえみえって感じだよな。
なんかあんまり好きじゃないかも。いや、この人のことじゃなくてそういう男の欲望が。
そうして俺達は学園長室を退室すると、源先生の案内に従って住居に移動した。
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俺達は住居に着くと、早速引っ越し作業を始めた。荷物は余裕をもって早めに到着するように送ってあるのでもう届いている。後は細々とした生活用品だな。俺は源先生に買い物が
出来る場所を聞いてはメモを取った。部屋の片付けが終わったら二人で買い物に行こう。
次に、電気・ガス・水道などのライフラインを確認する。これも今日の日に会わせて
開通の手続きをしてもらっていたので即時使える。非常に助かるな。
「ネギー。俺の方は荷ほどき終わったぞ。お前も終わったなら買い物に行こうぜ」
「あ、ム、ムギ。僕はまだ……」
見るとまだネギの方は終わっていなかった。まあ9歳の子供と考えればしゃーない。
引っ越しなんて初めての経験だしな。そういうところは俺が助けてやれば良いのだ。
「俺の方は終わったから手伝うよ。一緒にやっちまおう」
「ありがとう。助かるよ」
俺達は二人でネギの荷ほどきを行うと、その後、買い物に出かけた。その買い物先で
2-Aの生徒に出会う等ということもなく(学生はまだ午後の授業中だ)、無事昼食と
買い物を終えると、家に戻って来た。
今回は店で食べたが、生活費のことを考えれば自炊した方が安上がりだ。それは俺が
担当することになる。事前の取り決めの時に家事などの細々としたことは俺の担当と
決めておいたのだ。その代わりネギは仕事面で俺より仕事をしてもらう。それでバランスを取ろうというわけだ。
買ってきた生活用品を家の中に片付けると、俺達は一息ついた。ネギには温かいミルクティーを入れてやった。俺はスッキリしたいのでレモンティーにした。昔からネギにチクチク言われることだ。レモンは紅茶の風味を壊すと言って聞かないのだ。俺はレモンもミルクもストレートもその日の気分に合わせて好きなものを飲むタイプ。ネギはずっと同じものを飲み続けるタイプだ。気が
合わないことこの上ない。
仕事の引き継ぎが始まるのは明後日からだ。今日はゆっくり休んで。明日は日中街を
見て周り地理を把握しておこう。
仕事が始まった。といっても本格的な仕事ではなく、前任の先生から引き継ぎを受けるという
ものだ。その先生にも仕事があるので、仕事の合間に少しずつ教えてもらうことになる。
そして、先生として教壇に立つ日がやってきた。
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既に学生の名簿はもらってある。英語に関してだけだが、成績も既に把握している。
……本人達に会う前に成績だけを把握するというのもなんかアレだな。
さて、俺は原作知識に従い、ネギよりも先に教室に入らせてもらった。まずドアを開ける。
すると黒板消しが落ちてくるので、これを手を使って受け止める。う、手に白墨が盛大に付いた。次に、足下に張られたロープを根元からほどきトラップを解除する。そしてトラップであるバケツや矢なんかを回収する。相変わらずふざけたクラスだ。だが俺が来たからにはもうこんな真似は
させんぞ。
俺はトラップを手際良く解除したことに唖然としているネギや生徒達を尻目に、教壇へ上がった。
「こほん。既に担任の先生などから聞いていると思うが、今日からこのクラス限定で英語を教えることになりました。ムギ・スプリングフィールドと申します。3学期の間だけ、それに若輩者ですがよろしくお願いいたします」
そして俺は未だにドアの前で固まっているネギにお前も挨拶しろと身振りで伝える。
「今日からこのクラスで英語を教えることになりました。ネギ・スプリングフィールドです。
3学期の間だけですけどよろしくお願いします」
俺達が揃って挨拶すると、教室は興奮のるつぼと化した。教壇の周りによってきて、「何歳なの?」「どっから来たの?」「何人?」「双子なの?」「今どこに住んでるの?」などとやつぎはやに質問が飛んでくる。俺は生徒の相手は完全にネギ任せにした。ネギ任せというかこんな礼儀を知らない態度でされた質問など答えなくて良いと思ったのだ。
温和に質問に答えるネギに比べ、俺は睨むような目つきで周囲を威嚇してやった。まあ9歳児の威嚇なんて可愛いと思われてしまいかも知れないが、「俺は今不機嫌なんだよ」と対外的に示す為、ポーズを取る必要があったのだ。
だいぶ落ち着きを取り戻した教室で、俺は大きめに手を叩いて音を鳴らした。
「はいはいはいはい。静かに! 静かにしなさい! 私達はまだ年若いですが、一応は
あなた達の先生となったのです。私達の言うことは聞きなさい。……それと! ドアに
トラップを仕掛けた者! 名乗り出なさい!」
きつめの口調で詰問する。しかし教室は静まりかえり、名乗り出る者は居ない。そう
くると思ったよ。
「本人が名乗り出ないのであれば仕方ありません。他の方でも構いませんよ。トラップを仕掛けた者について申告して下さい。……もしこの時間以内に名乗り出るか申告がない場合、全員に
2週間分の宿題を出します」
俺がそういうと、教室の空気は目に見えて変化した。分かりやすく言うなら「お前ら
さっさと名乗り出ろよ」といったところか。その空気に耐えかねたのだろう、春日美空、鳴滝
姉妹、風香と史伽が名乗り出てきた。
「あの……私達、です」
「すいませんでしたー」
ちっとも反省してるようには見えないな。教室の雰囲気に耐えかねたから名乗り出たってだけだろ?
「貴方達三人には今日の授業が終わったら、特別課題を出します。期限付きの厳しいものにしますので覚悟しているように」
俺がそう言うと、春日達はうげっなどとうめいた。いい気味だ。十分に反省しなさい。それはそれとして、黒板消しを魔法障壁で受け止めていないので明日菜に不審に思われることもなかった。
授業は明日菜と雪広あやかの喧嘩が起こることもなく、粛々と進んだ。黒板への板書も、俺が
事前に用意した踏み台を使ったので事なきを得た。こういうのは転生者の利点だよな。
そうしてそのまま初授業は無事に終わったのだった。
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授業が終わった俺達は外に出て気分転換していた。確か初めての授業が行われた日だよな。
注意してなきゃ。そうして周囲に注意を配っていると、早速現れた。大量の本を抱えた2-Aの
生徒、宮崎のどかだ。俺は宮崎の元に急いで駆けつけると、声をかけた。
「はぁっ、ふぅっ。み、宮崎、一人でそんなに大量の本を運ぶと危ないぞ。先生が半分
持とう」
俺が声をかけると、宮崎はビクッとしつつも頷いてくれた。
「は、はい。ありがとうございますムギせんせい」
俺が宮崎を助ける姿を見て、ネギも来てくれた。俺達は元々の分量を三分割して運ぶと、お礼を言う宮崎と別れた。
よし、これで宮崎のどかの魔法バレは阻止できた。彼女は原作でネギに惚れた結果、
魔法を知ることとなってしまうのだ。これで彼女はネギに惚れないし、階段から墜落するのを
助けた原作と違って、本を運ぶのを手伝っただけの俺にも惚れないだろう。これで彼女は魔法という危険な力と裏の世界に関わらずに済む。
俺は麻帆良に来るに当たって、一つの目標を立てた。生徒、というか一般人全般への
魔法バレを防ぐというものだ。原作では魔法の秘匿? 何ソレ美味しいの? と言わん
ばかりのバレっぷりだったからな。それを防ぐのだ。ネギにも来る前に魔法バレだけは
してくれるなよ! と厳しく言ってある。
その後、2-Aで俺達を迎える歓迎会が催されたが、ネギがタカミチの頭を触って読心術を使うなどという展開も、俺が宮崎からお礼の図書券をもらうという展開もなく、無事歓迎会は終わったのだった。
これまでにもちょいちょい書いてきましたが主人公とネギは一卵性です。なんか私の
読むものだけがそうなのかも知れませんが、やたら二卵性で外見が母親のアリカに
似ているってのが多かったので、反発して一卵性にしてみました。制作者の都合と作品
世界の都合は別物だよね、という意味を込めて。
トラップ解除。他のSSでも書きましたが、大学出たての女性教師とかだったら
どうなってたんでしょうね。私はギャグ漫画だからといって人を不愉快にさせるような
真似は許したくありません。最初は授業中正座とかも考えましたが、体罰は色々と問題になるので課題を出す形にしました。
宮崎のどか、本屋ちゃんのフラグもべっきべきにへし折りました。これで彼女はネギに惚れませんし、ただ単に本を持つのを手伝っただけの主人公にも惚れません。魔法に関わりません。
それは今後の戦いとかマズイんじゃいないの? と思われるでしょうが、この主人公は基本的に戦闘を回避する方向で原作知識を活用しますので、まあ大丈夫でしょう。双子なので基本的に
ネギ×2人という状態でもありますしね。