よろしければ見てやって下さい。
感想なども頂けるとなお喜びます。
今俺は一軒のログハウスの前に来ていた。今日は胃が痛くなりそうだな。そんな予感と共に、
その家のドアをくぐるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「マクダウェルさん。絡繰さん。ちょっとよろしいですか?」
「ん?」
俺は2日目の2-Aへの授業が無事に終わった後、エヴァンジェリン・A・K・
マクダウェルと絡繰茶々丸に声をかけた。出来れば昨日にも話をしておきたかったが、
昨日の歓迎会に二人は来ていなかったからな。
「内密のお話があるんです。出来れば廊下ででも……」
俺は二人を廊下に誘った。教室ではさすがに騒がしいのと話を聞かれるからな。
「……ふん。まあいいだろう」
エヴァはなんとか承知してくれた。良かった。
「それで? 話というのは何だ?」
俺達は廊下の窓際に体を寄せて話を始めた。
「今日の夜にでも、私とネギの二人で貴方の家に伺ってもよろしいですか? ナギ・
スプリングフィールドの事について話があります」
「……ナギの、だと?」
「はい。彼に関する事で伝える事があるのです」
エヴァは長く沈黙していたが、ややあって口を開いた。
「まあ……いいだろう。分かった。“もてなす”準備をしておいてやるよ」
う、もてなすのところを強調して言いやがった。これは戦闘が起きることも想定して
おくぞってことだろうな。だが、これで第一段階クリアだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして、俺とネギはエヴァの家を訪れていたのだった。ネギには事情を話していないので
ハテナマークを頭の上にのっけている。
「ムギ、どういうことなの?」
「まあまあ、家の中に入ってマクダウェルさんと一緒に説明するからさ」
俺はそう言って押し切ると、ノックをしてドアをくぐるのだった。
「良く来たな。ムギ先生。それとネギ先生」
「こんばんは。ムギ先生。ネギ先生」
ちらっと周辺を見回すと、いるいる。人形が沢山いやがる。これ全て操れるんだもんな。
俺は部屋の中に溢れた人形を戦々恐々と眺めた。
「それで? 話とは……なんだ?」
威圧してきやがる。物理的な圧力を感じる程の威圧ですっかり心はすくみ上がって
しまった。だが俺は気を取り直すと、姿勢を正して言葉を放った。
「まず最初に伝えることがあります。貴方をここに封じたナギ・スプリングフィールドは、公式的には10年前に死んだことになっていますが、生きています。私とここにいるネギは6年前に彼に会ったのです」
「……何だと?」
エヴァは完全に虚を突かれた顔をした。完全に彼は死んだと思っていたのだろうな。
「何を言っている奴は確かに10年前に死んだ!!」
エヴァはまるで認められないという風に反論してきた。するとネギが、
「ち、違います! 大人は皆僕が生まれる前に父さんは死んだって言うんですけど……
6年前のあの雪の夜……ボクは確かにあの人に会ったんです。その時にこの杖をもらって……」
そう、ナギのくれた杖は今はネギが持っている。今回は戦闘になるかも知れないので
持ってこさせた。普段は持ち歩かないように言いつけてある。
え? 俺の魔法発動体? 魔法学校履修時に指輪を選択したら支給されたよ。それ
使ってます。長い杖とか魔法使いって多いに喧伝してるようなもんだしな。それに俺は
基本逃げタイプ、それでもダメなら近接タイプって感じなので指輪の方が都合が良いのだ。
「……だからきっと彼は生きています」
俺はネギの言葉を引き取って結論を告げた。
「そんな……奴が……。サウザンドマスターが生きているだと? フ……フフ。ハハハハ。
そーか! 奴が生きているか。そいつはユカイだ。ハ……殺しても死なんよーな奴だとは思って居たが。ハハハそーかあのバカ。フフハハ。まあまだ生きてると決まった訳じゃないがな」
嬉しそうだな、おい。
そうして落ち着いたエヴァを前に、俺はエヴァの事情をネギに話し始めた。15年前に
ナギ・スプリングフィールドがエヴァを麻帆良に封じたこと。約束は3年だったが、3年
経ってもナギは封印を解きに来なかったこと。そうして10年前に彼が死んだという話が広まり、
彼女が絶望したこと。こういったエヴァ側の事情をネギに話した。
何故俺がそれを知っているかと聞かれたら、学園長と赴任する前に事前に電話で話した時に聞いたということにしておいた。これならネギはわざわざ学園長に確認しないだろうし、エヴァも……エヴァはどうだろうな? もしかしたら確認するかも知れない。その時はその時だ。俺はその時の為に言い訳を作っておこうと固く心に決めた。
そうしてネギがエヴァの事情を知ったところで、改めて俺の話に移った。
「マクダウェルさん。俺はナギのクソ野郎のことを父親とは言いたくないし思いたくないですが、それでもあいつが遺伝子学上で俺の父親に当たるのは事実です。なので俺にナギの負債を消す手伝いをさせて下さい。具体的に言えば彼の血縁である俺の血を吸って下さい。その程度であのクソ父親の罪が消えるとは思いませんが、俺には他に提供出来るものがありません。だから、俺から血を吸って下さい。それとネギはここに来るまで事情を知らなかったんです。ネギの血を吸うのは勘弁してくれませんか?」
「お前……」
俺が土下座をしながらそう言ったのを聞いて、エヴァは驚いたような声を出した。……残念ながらどんな顔をしてるかは土下座してるので見られない。
「ム、ムギ。ダメだよそんなの!」
「そうは言うがな、ネギ。実際15年も一つの街に閉じ込められたマクダウェルさんの苦痛は
相当だぞ? 俺の血を吸うことでそれが解消される望みがあるのなら、それを行うのはあのクソ野郎の息子である俺の責務だと思うんだ」
「フン……吸血鬼に向かって血を吸っていいという言葉がどういう意味を持つのか、本当に
分かっているのか?」
エヴァがこちらの覚悟を試すように聞いてくる。だがもう俺の心は決まっている。俺の血で彼女がこの牢獄から救われるなら……。
「構い、ません。ひと思いにやって下さい」
「ダ、ダメだよムギ! ムギがそうするなら僕も……」
そうだよな。ネギならそう言ってくると思ったよ。その後、しばらく俺とネギの間で
僕も! ダメだ! と言い合うことになった。
「ええいうるさい! そんなに血を吸われたいなら兄弟揃って吸ってやるわ!」
最終的にキレたエヴァによって、俺達は揃って血を吸われることになった。
「おお……これは!」
俺達から二人からかなりの量の血を吸ったエヴァは、どうやら呪いが解けたらしい。闇の福音の復活だ。なんだかとんでもないことをしてしまった気がするが、そもそも3年の約束だったのを
あのクソ野郎が「あぁーーっ呪いな!」とかいうノリで忘れていたせいで解放されるのが伸び伸びになってしまっていたのだ。俺達の裁量で解放してしまったとしても構わないだろう。
「どうやら……解呪できたらしいですね。おめでとうございます」
「フフフ。ハハハハ! やった、やったぞ!」
聞いてないってね。まあいいや。俺の当面の目標であったエヴァの解放が為されたのだ。
とりあえずは喜んでおこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エヴァの封印を解呪して数日が経った。ちなみに学園長にだけはエヴァの件は報告しておいた。俺達二人がかなりの血を吸われたと説明したら心配されたが、それ以上何かを追求されることはなかった。
それはさておき仕事の話だ。教師としての仕事を行う俺達二人に、「2-A居残りさん
リスト」なるものが渡された。
「居残りさんリスト?」
ネギは不思議そうな顔をして呟いた。
「ええ高畑先生はたまに小テストを行われてて、あまりにも得点の低い生徒は放課後に
居残り授業をしていたんですよ。そのメンバーが書いてある表ですわ」
「へーー誰だろ そんな低い点の人は」
俺も仕事なのでもらったリストをのぞき込む。リストに書かれている生徒は、
綾瀬夕映、神楽坂明日菜、
源先生は「赤点を取るような生徒が出ると実習生としても問題アリですよ」などと
脅かしてくる。
「なら、俺達でその居残り授業を引き継ぐしかないな」
俺はそう提案する。ネギも賛成してくれたので、俺達は二人で居残り授業を行うこととなったのだ。
「いーのよ別に勉強なんかできなくても。この学校エスカレーター式だから高校までは行けるのよ」
そう言うのはバカレッドこと神楽坂明日菜だ。
「でも神楽坂さんの英語の成績が悪いとタカミチも悲しむだろうなー」
「うっ」
ネギが、明日菜がタカミチ・T・高畑を好きなことを利用して奮起させようとする。
それからしばらくの間居残り授業が行われた。10点満点のテストで6点以上取れるまで帰っちゃダメというものだ。他の生徒が皆テストをパスして帰る中、明日菜だけはいつまでも良い点数が取れずに帰れずに居た。そんな補習授業はタカミチが来たことで頓挫した。タカミチに居残りしている恥ずかしい姿を見られた明日菜は「うわああーーん」と叫んでその場から逃げ出してしまったのだ。ネギは空を飛んで追いかけようとしたが、俺が止めたのと杖を携帯していないことで飛べなかった。
結局、明日菜はそのまま戻ってこなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
またそれから数日経った、今度は昼休みに事件が起きた。息をつく暇もないな。
「高畑先生~~っ」
「こ……校内で暴行が……」
「みてくださいこのキズッ!! 助けて高畑先生っ」
おっと、これは原作で起きたあの事件だな。でも担任がタカミチのままなので、生徒が頼るのもタカミチというわけだ。
その後、無事事件はタカミチが収めてくれたらしい。良かった良かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
教師の仕事や二人暮らしにも慣れた頃、勤務を始めて一ヶ月が経ち、三月になっていた。10歳の自分達だが、一部を除いて先生として受け入れてくれているようだ。
エヴァもあまり授業をサボらずにいてくれる。解呪した自分達に恩義を感じているのか、それとも最後の学生生活だからなるだけサボらずに過ごそうとしているのかも知れない。そのエヴァだが、封印が解けたからと言ってすぐに麻帆良を出て行ったりはしなかった。一応今の2-A、もうすぐ3-Aに進級するが、その生徒としてちゃんと卒業するらしい。エヴァなりに学校生活に思うことがあるのか、ナギの手がかりである自分達が麻帆良にいるからかは分からないが。
さて、3月になり俺達の前には一つの課題が立ちはだかる。期末テストだ。だが慌てることはない。二人で一人分の仕事をこなしている俺達にはそれなりの余裕がある。その余裕でもってかなり早い段階からテスト対策の授業をしてあるのだ。ネギが期末テストを忘れる、知らないなどということもなく、俺達は万全の状態で期末テストを迎えることになった。
「――ネギ先生、ムギ先生。あの……学園長先生がこれをあなたにって……」
「え……何ですか深刻な顔して。えっ!? 僕らへの最終課題」
「ついに来たか」
様々な可能性を考えて慌てているネギと違い、始めから想定していた俺は落ち着いた
ものだ。ネギが渡された手紙を広げようとするのを俺が止めた。
「ネギ、生徒さんのいる前で開くもんじゃないぞ。後で職員室ででも確認しよう」
「そ、そっか。そうだねムギ」
生徒達のいる廊下で広げたら、誰にのぞき込まれるか分かったもんじゃない。課題の
性質上、生徒達に内容が知られるのは好ましくないしな。
俺達は職員室に戻り、課題の書かれた紙を確認した。
ねぎ君、むぎ君へ
担当する英語で、次の期末試験で二-Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげる。
……ほぼ予想通りだな。英語教科だけ最下位脱出とは原作に比べて簡単になっている
ように感じるが、まあいいだろう。ちらりとネギの様子を確認すると、戦々恐々として
いた。2-Aがどれだけ成績が悪いか知っているからな。楽観視は出来ないというわけだ。
俺達は担任ではないのでHRを使って勉強会をすることもないし、英単語野球拳なんてものが提案されることもない。ネギに魔法バレは厳禁だと厳命してあるので、3日間だけ頭が良くなる禁断の魔法を使おうともしない。
そう言えば、この最終課題に合わせて図書館島に潜入するイベントがあったな。あの噂が2-Aのメンツに伝わっていれば危ないかも知れないな。後で授業がある時にでも警告しておくか。図書館島に魔法の本なんて無いって。あったとしても出来の良い参考書程度だろうから、それなら最初から真面目に勉強した方が良いよってな。それで図書館島に行くことはなくなるだろう。明日菜に魔法バレしていなくて魔法への信用がない状態でもあるしな。
無事、期末テストが終了した。俺達は早い段階から期末テストの準備をしていたのと、1週間前から授業を全てテストの為の勉強会に当てたので大丈夫だろう。予想通り図書館島への侵入はなかったようだ。なので図書館島の地下に閉じ込められた生徒達を救うなどというイベントもなかった。特にこれと言ったこともなく期末テストは終了したのである。
あ、一つだけ変わったこと、というか怒ったことがあった。テストの時に遅刻してきた生徒がいて、別室でテストを受けたのだが、ネギが彼女らに向かった覚醒の魔法を使おうとしたのだ。勿論杖をもっていないので出来ないんだが、それでも魔法に頼ろうとしやがったので一発ぶん殴っておいた。いい加減にしろっつーの。
テストの結果、無事2-Aは最下位を脱出して俺達は正式な英語教師となったのであった。
あ、成績は下から4番目だったよ。そう簡単にトップになんてなれないよね。
エヴァへの土下座外交。そして二人分の血液を使っての呪いの完全解呪です。双子ものとはいえ完全に呪いが解ける、しかもそれが魔法教師達の間で問題にならないのは珍しいんじゃないだろうか。
二人からかなりの血を吸ったことで完全に解呪しました。それと良くある正義に凄く
こだわる魔法使いも私の作品世界にはいない設定なので、「闇の福音の封印が解けた
なんて!?」というようなイベントもなしです。普通に3年の約束が15年も伸び伸びになってたんだから仕方ないよねって感じです。一応学園長は二人の健康を心配しましたがその程度です。
バレー部事件も期末テストも特段のイベントが起こらず終了です。二人が担任になっていないことと、明日菜への魔法バレがないのでこうなりました。
基本、省エネ執筆を目指しています。