修学旅行2日目の朝である。だがしかし眠い。昨日の夜にあんな騒ぎがあったので
寝不足なのだ。
「ムギくん ちょっと眠そうやなーー♡」
「あ 近衛さん。おはようございます」
「夕べはありがとな♡ 何やよーわからんけど、せっちゃんとネギくんと一緒にウチを
助けてくれて」
「いえ、俺はほとんど桜咲さんについて行っただけですので……」
実際昨日は三人の内誰か一人でも居なければこのか奪還は不可能だったろうな。
「……あ♡ せっちゃん」
このかは刹那を追いかけて一緒に朝食を食べようとしたが、刹那が逃げた為上手く
いかなかった。
「ネギ、今日は一日奈良で班別行動だ。俺達は当然3-A、近衛さんの班と行動を共に
するぞ」
「う、うん。分かったよ。ムギ」
そう言った直後、3-Aの佐々木まき絵などが一緒に見学しようと誘ってきたが当然
断った。近衛このかのガードが優先されるからだ。……まあ俺の知識が正しければ、この2日目は敵が襲ってくることはないんだけどな。でも油断は禁物だ。気を抜かずに警戒し続けよう。
あ、それと……。
「マクダウェルさんマクダウェルさん」
「ん? 何だ?」
「当然気づいていると思いますが、昨日関西呪術協会の襲撃がありました。どうやら敵の狙いは
近衛このかさんのようです。それで……いよいよとなったらマクダウェルさんの力を頼っても良いですか?」
「近衛このか、か……フン。まあ、もしその時私が暇だったら力を貸してやらんことも
ないぞ」
凄まじく上から目線だが、協力してくれるらしい。これはありがたい。俺の想定では
明日の3日目が山場だが、その時に活躍してくれるだろう。
「ありがとうございます」
エヴァの協力を取り付けた俺は意気揚々と移動するのだった。
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「桜咲さん……一つ聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「近衛さんが狙われているのは火を見るより明らかだというのに、どーして近衛さんを
さけるのでしょうか?」
「そ、それは……その……私が親しくして魔法のことをバラしてしまう訳にはいかないし……
やはり身分が……」
はぁ。そーですか。何かもうしょうもないことを言ってやがるな。
「桜咲さん。年下の、まだ見習いの魔法使いですが言わせて頂きます。――甘えないで
下さい」
「え?」
「近衛さんに甘えないで下さいと言ったんです! 今の貴方は近衛さんに甘えている。
貴方の側にどんな事情があろうと関係無いんですよ。彼女の護衛を気取るならちゃんと
一時も離れずに彼女を守り通して下さい。昨日部屋のトイレで攫われたのはしょうが
ありませんが、今後もそんな感じでいられると困ります。俺とネギでは女性特有の
スペースに入られるとどうしようもないのですから」
俺がきつめの言葉で刹那を責め立てると、彼女はうっとうめいて固まってしまった。
困っているな。だが困るのはこっちだ。本当の意味でこのかを守れるのは彼女だけなの
だから、自覚を持ってもらわないと。
その後、俺達はつきっきりでこのかをガードした。
その日はこれといって特に語るべきことはなかった。襲撃は無かったし、本屋こと宮崎のどかがネギに告白するなどというイベントも起きなかったしな。それと朝倉和美に魔法バレするということも無かった。具体的に言うと車に轢かれそうになった猫は俺が瞬動術で助けて、その後質問された時には格闘技にある一瞬で相手に近づく技を使っただけですけど? とすっとぼけておいた。3-Aには肉体的に強い人物もいるので何とか誤魔化せた。まあもし誤魔化せなかったら魔法で記憶を消す用意はしてあったんだけどね。ネギと明日菜じゃないんだからそうそう失敗なんてしないし。
その代わりといっては何だが、奈良公園で発奮するエヴァの姿があった。これは原作にはなかったことで、俺達が動いたから発生した出来事だよな。
朝倉に魔法バレしないことと、カモがいないことでラブラブキッス大作戦も無しだ。
それと身代わりの紙型を失敗して書くということも無かった。というか身代わりそのものを使わなかった。ああいうことで魔法を使うのはどうもね。死にそうになった猫のように、命に関わるような大事でなければ基本魔法は使わない。
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日にちをまたいで3日目になった。この日が勝負だな。俺は昨日襲撃が無かった事で気を緩めているネギと刹那に発破をかけてやった。まだまだ油断は出来ないぞ、と。
俺の原作知識が確かなら、親書を持って関西呪術協会の総本山に行くと犬上小太郎に
襲われるのだ。だがこの世界では親書を持っていないからその襲撃は起こらない。その
代わりこのかを襲う千草と月詠と一緒に来るんだろうなぁ……。手が絶望的に足りない。月詠を刹那が抑えたとして、千草をネギが、小太郎を俺が抑えたとして、フェイトが完全に自由になってしまう。このかが攫われてしまうのだろうか? いや、そうなったら呪術協会の長を含めて本山にいる術者が奪還に使える。絶望するのはまだ早い。
今日も俺達はこのかの班と行動を共にする。だが生徒達に不審に思われてしまった。
「ねー。なんでネギ君たちはウチの班と一緒にきてくれるのー?」
早乙女ハルナがそう聞いてくる。俺はちょっと苦しくなりつつも、それに答える。
「学園長先生からね、出来れば近衛さんのエスコートをして欲しいと言われてるんだ。だからまぁ、その、なんだ。出来る限り近衛さんと一緒に行動しようと思ってね。他に行動の指針もないことだし」
俺はそんな、適当な言い訳を口にする。
「えーそうなんかー。おじいちゃんがなぁ」
ちなみに刹那も自分の班を抜けて影からこのかの護衛をしてくれている。
「ネギ君 ムギ君、アスナ。こっちこっちー。みんないるえ」
「もー 何で京都に来てまでゲーセンで遊ぶのよーー」
俺達は今ゲームセンターに来ていた。確かここでは小太郎が接触してくるはずだ。
「何のゲームをやってるですか?」
「あー ゴメンねネギ先生。上手くいくと関西限定のレアカード GET出来るかも
知れないんだよー」
「魔法使いのゲームですよ」
「へーー」
「ネギ、お前やってみろよ」
俺はネギにゲームを勧める。ネギはすぐにゲームにのめり込んだ。
「おおっうまい!! 先生ホントに初めて!? さっすが天才少年だね~~~っ♡」
「――となり入ってええか?」
お!? 来たか。犬上小太郎だ。
「あ うん。いーよ」
そしてしばしネギと小太郎はゲームで対戦した。
「あーーー負けたーー」
「いやー初めてにしては良くやったよネギ先生ーー」
「―そやなぁ。なかなかやるなぁ あんた。でも……魔法使いとしてはまだまだやけどな。
ほなな、ネギ・スプリングフィールド君」
「えっ! ど どうして僕の名前を!?」
「だってゲーム始める時自分で入れたやろ?」
「あ そか」
「ほな!」
小太郎はそう言うと素早く引き上げて行った。今回の接触はこんなところか。さすがにこんな
人前で仕掛けるわけにはいかないしな。
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「せ せっちゃんどこ行くん? 足速いよぉーー」
「ああっす すいません このかお嬢様」
「な 何故……いきなり……マラソン大会に……? ひいっひいっ」
「ちょ ちょっと桜咲さん……。何かあったのー!? 借金取り? 昔の男に負われてるとかーー!? しし 死ぬー」
俺達は急に襲ってきた敵の攻撃を避ける為に走っていた。刹那はこのかの手を引いて
走ってくれている。俺達は後方で敵の攻撃を跳ね返す役割だ。っとと。
パシ ピッ ピシッ パシィ
敵から放たれた棒手裏剣を、魔力を込めた手で弾く。白昼堂々街中で……。
「あれ!? ここってシネマ村じゃん。何よ桜咲さん……シネマ村に来たかったんだ~!?
それならそうと言ってくれれば」
シネマ村、ここなら人も多くてそう簡単に襲撃できないはず。刹那もそう考えたらしい。
「すいません! 綾瀬さん 早乙女さん。わ 私 このか……さんとふ 二人きりに
なりたいんです!! ここで別れましょう!! お嬢様失礼!」
そう言うと刹那はこのかの体をお姫様抱っこし、一気に跳躍してシネマ村の中に
入って行った。
俺達もそれを追いかけて魔力を足に溜め、跳躍した。俺もそうだがネギにも一応の接近系の術は教えてある。瞬動術とかも便利なのでしっかり教えてあるのだ。
シネマ村に入った。これだけ人がいれば襲ってはこれまい。ここで時間を稼ぐ。俺は
刹那に近づくと話しかけた。
「桜咲さん。関西呪術協会の本山に連絡することは出来ますか?」
「え!? ほ、本山にですか?」
「ええ。今俺達は間違い無く関西呪術協会の手のものに襲われています。本山の善良な
術者に救援を頼めませんか?」
本山と連絡が取れるならそれが一番だ。
「近衛さんを守る為です。お願いできませんか?」
「お嬢様を……そう、ですね」
刹那は何とか承諾してくれた。携帯電話で本山と連絡を取り、迎えの人員を寄こして
もらう。
「せっちゃんせっちゃん~~♡」
「はい?」
「じゃーん♡」
「わあっ!?」
このかが着物姿になっている。貸衣装屋で貸して貰ったらしい。
「お お嬢様。その格好は!?」
「知らんの? そこの更衣所で着物 貸してくれるんえ」
「えへへ。どうどう? せっちゃん」
「ハッ……いや そのっ。もう お……おキレイです……」
「キャーーー。やったーー」
あんたらなぁ……俺は周囲を警戒している自分がばかばかしくなりつつも、2人に
ツッコめないでいた。
「ホレホレせっちゃんも着替えよ♡ ウチが選らんだげるーー」
「えっ いえ。お嬢様っ。私こーゆーのはあまり……ああっ」
……もう好きにして下さい。呆れ果てた俺の横で、刹那が半ば無理矢理着替えさせられた。……ちなみに俺達には勧めないのね。
「なぜ私は男物の扮装なのですか? 夕凪が死ぬほどそぐわない……」
刹那は新選組の扮装をさせられている。その後も2人して写真を撮ったりしている。
もうなんか俺は疲れたよ。見るとネギもぐったりしている。女性の買い物に付き合うのは疲れるってやつなんだろうな。
そこに物騒な気配が近づいて来た。人力車だ。
「お……お前は!?」
「どうもーー神鳴流です~~。じゃなかったです。……そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人に
ございます~~。そこな剣士はん。今日こそ借金のカタにお姫様をもらい受けに来ましたえ~~」
劇、芝居に見せかけて衆人環視の中堂々とこのかを連れ去ろうというわけだな。
「そうはさせんぞ。このかお嬢様は私が守る!」
刹那は強く気を吐いている。
「そーおすかー。ほな仕方ありまへんなー。えーーい」
敵の女性――月詠はそう言うと自分の左手の手袋を刹那に投げつけた。
「このか様をかけて決闘を申し込ませて頂きますーー……30分後。場所はシネマ村正門横「日本橋」にて――。御迷惑と思いますけどウチ……手合わせさせて頂きたいんですー逃げたらあきまへんえー。刹那センパイ♡」
仕方ないな。これは受けて立つしかない。できるだけ時間を稼ぎつつ、本山からの使者が来るのを待つのがベターか。
そして、日本橋の上で刹那と月詠の決闘が始まった。だが想像していたより大きな
見世物になってしまい、見物人が押しかけてしまっていた。
「桜咲さん!! 近衛さんとおふたりの愛!!! 感動いたしましたわ。お力をお貸し
します!!」
「だから違うんですってばいいんちょー」
委員長自重してくれ。あと他の生徒達も。
「ホホホホ。そちらの加勢はないのかしら。私達 桜咲さんのクラスメートがお相手
いたしますわ」
「いいんちょさんダメですよー」
ネギも必死に止めようとしてるが……ありゃ周りが見えてないな。
「月詠……と言ったか? この人達は……」
「ハイ センパイ♡ 心得てます~~。この方達には私の可愛いペットがお相手します
ーーー。ひゃっきやこぉー」
月詠が呪符をばらまいてそこから様々な妖怪が飛び出してきた。先頭にいる奴が
百鬼夜行つくよみ組と書かれた旗を持っている。
「ネギ先生方! このかお嬢様を連れて安全な場所へ逃げて下さい!!」
「分かった。そっちは頼むぞ!」
「は、はい。僕も頑張ります!」
百鬼夜行の相手は生徒達に任せよう。相も変わらず服を脱がせるとかのスケベ行動しかして
こないようだからな。俺達はこのかを連れて退避した。
「ふふ……ようこそこのかお嬢様。月詠はん上手く追い込んでくれはったみたいやな。おや?」
くそっ。予想通り小太郎とフェイトがいやがる。こっちにはネギと俺の二人だけ。
手が足りない。せめてエヴァがいてくれれば……。
「ほな
「お前の相手はこの俺だ!」
俺は瞬動術を使って一気に敵の懐に入ると、小太郎に向けて拳を振るった。
「はっ!」
残念ながら俺の攻撃は小太郎に受け止められた。そのまま言葉を放つ。
「ネギは後衛型、双子の俺は前衛型だ! お前は俺が倒す!」
なるべく小太郎好みな台詞を吐いてやる。それで小太郎を俺に釘付けに出来ればいい。
「はっ上等ぉ!」
小太郎はこちらに向けて拳を振るってきた。俺はそれを必死で躱す。俺の専門は移動
とか防御とか回復で、前衛型といってもそれはネギと比べたという話でしかない。極力
近接戦闘は避けたい。
「このっチョコマカ逃げんな! 戦え!」
「やなこった! 戦いたかったら俺を捕まえて見ろよ」
小太郎を挑発する言葉を更に放つ。こいつはこれで俺に引きつけておく。ネギは……! 見るとネギは千草と魔法を撃ち合っていた。このかを守りながらなので少し動きが鈍い。フェイトは動いていない。参戦しないつもりか? 敵の中でまだ信用されていないのかも知れない。
そんなことを思った時だ。動きの鈍いネギを相手にしていた千草が呪符を放ちつつも
式神を呼び出した。マズイ! 式神は東洋魔術師の前衛、今ネギの前衛役である俺は
小太郎に足止めを食らってる。このまま攻撃されたらネギが――。
「あーーーっ!? 何で射つんやーーーッ。お嬢様に死なれたら困るやろーっ」
敵の式神が矢を射ってきた。マズイッ! 俺は小太郎に攻撃される危険性を度外視し、急いで
このかの元へ瞬動術を使って移動した。そのまま矢を打ち落とそうとして……
ダンッ! っと人の体を矢が貫く音が響いた。
「刹那さ……」
「センパイ!?」
なんと刹那が体を張って敵の矢を防いだのだ。俺がはたき落とそうと思ったのに……!
「せ……せっちゃーん!」
矢に射られてバランスを崩し、城の屋根から落ちそうになった刹那を追いかけてこのかも屋根から身を投げ出した。俺は急いで浮遊術を使うと二人を抱えるようにして飛んだ。
「せっちゃん……良かった」
「お……お嬢様……」
俺は浮遊術を上手く操作して地面に着地した。そして矢を受けて傷を負った刹那を治癒してやる。
その時、落っこちたのが目印になったのだろう。関西呪術協会からの迎えが合流した。
「このかお嬢様! 大丈夫ですか!」
「お嬢様。今からお嬢様の御実家へ参りましょう」
どうやら落っこちる際に大勢の一般人に見られたことで、敵も引いてくれたらしい。
そうして俺達は、関西呪術協会へと赴くことになったのである。
魔法バレ起きず。何とか水際で防ぎました。それ以外はほぼ原作通り……かな。いや原作と
違うことあった。このかの力が発現していません。原作でネギとの