「て、思うわけよ、アタシはね」
付喪神対策局相談窓口B。
本日の来館者、いや、来館付喪神は平成のシュシュ。
「うめち、聞いてる?」
「聞いてます。うめちってなんですか?」
なんでもかつての持ち主のギャルが願掛けのように念を込めて作ったシュシュだそうで。
「うめちゃん略してうめちー!」
「略した意味……」
付喪神って、数百年とか経たないとなれないのでは? と聞いたところ、アタシもわかんないけど念強かったんじゃね? とのこと。
「ところで、結局のところ今日はなんのご相談で来られたんですか?」
「だからー、最後のお別れ的な?」
こうやってたまに近年の付喪神もやって来るから、神になる基準がわからない。
「引っ越しのお話でしたっけ?」
「ちーがーう! うめち、やっぱ聞いてないのウケる!」
かつての持ち主がギャルだったからか、このシュシュもギャルギャルしい。しかも黒い。さすが平成初期。
「アタシもそろそろ、召される的な」
「召さ……? 成仏される的な?」
「それ! うめち、理解早ーい!」
果たして付喪神に対して成仏という表現が正しいのか甚だ疑問だけど。黒ギャルは、近々召されるらしく、律儀に最後の別れにやってきてくれた。
「その兆候があったんですか?」
「兆候っていうかー……、しばらく放置プレイだったけど、最近ぎゅうぎゅうに詰められて、どゆこと? って周り見たらゴミ袋に入れられたっぽい。ウケるくね?」
私の個人的な偏見だけど、ギャルは常に底なしに明るい。目の間の黒ギャルも例に漏れずに明るかった。
「ウケません」
「まぢ? なんで?」
まじではなく、まぢと発音されてるように感じるギャルマジックを放ちながら、黒ギャルは身を乗り出してきた。
「付喪神になるほど念が込められた物を、他のゴミと同様に扱うなんてさすがにどうかと思います」
私の言葉に黒ギャルは一種驚いた顔をした。
「んー……、でも、アタシといた時間は黒歴史的な奴で、忘れた方が良さげかな、って。だからこうなるのも、しゃーなしだよね」
過去が黒歴史になるかどうかは、個々の判断に委ねるとして。それでもこうも悲しそうな顔をしている黒ギャルをみると、どうか安らかに、とは言えない。
「それにさ。久しぶりに、あの子が手に取ってくれたんだよね。昔思い出したのか、ちょっと笑ってたの。それ見たら、もーいっかなーって」
「もういいかな、ですか?」
「そそ。もう、アタシいなくてもこの子は大丈夫かなー、って」
黒ギャルは鮮やかに笑う。その顔を見たら本当に、もういいんだろうと思った。
「でも召される時、役所的にはどーなるんだろうなーって気になったんよ。で、ついでにうめちに挨拶しよーって思ってきたわけ!」
「ご丁寧にありがとうございます。手続き的には、後日査察官が登録住所に赴き、確認出来次第、登録抹消になります」
「なーる! アタシがどうこうしなくてもいいわけね、把握ー!」
片手で丸っと輪を作り黒ギャルは頷いた。
「寂しくなりますね」
一応、社交辞令としてそう言ったわけだけど。
「大丈夫っしょ! 人間の人生なんてあっという間だから、秒でうめちこっち来るって!」
「そんな早死したくありません」
「超真顔じゃん、ウケる」
付喪神の手にかかれば、私の一生は秒で終わるようだ。
「んじゃあ、うめち、またねー!」
平成黒ギャルのシュシュは爽やかな笑顔でまた、と言い消えていったけれど。その「また」というのは、「またあの世で」ということなんだろう。
そんな早く、またがあってたまるか。
「31番の方、お待たせ致しましたー」
ここはまるで、あの世とこの世の境のような場所。人の念によって生まれた神様が、また今日もやってくる。