「ではまた何かありましたら、お越しください」
頭を下げ、本日最後の来館者を見送った。
「はーー……」
今日の疲れを吐き出すかの如く、長い長い、息を吐いた。
この仕事は嫌いじゃない。むしろいいお金もらってるし、一応国の機関だからいろいろ安泰だし、助かってる。助かっているんだけれども、たまにすごく疲れる。
「佐藤ちゃん、お疲れー」
「お疲れ様です。珍しいですね、こっちに来るの」
お疲れ、と声をかけてきたのは付喪神対策局管理課の松井先輩だった。ちゃん付けについてはもう、ツッコミを入れる気もない。
「ほら、この前の佐藤ちゃんから報告上がってた平成のシュシュの確認帰り」
先輩から手渡された書類には、消滅確認の文字が記されていた。
あの黒ギャルは、彼女風に言うなら無事召されたようだ。
役所の受付と来館者というだけの間柄だけど。なぜだか少し、胸が痛む。
「それにしても、佐藤ちゃんも不思議な子だよね。付喪神が人型で見えるなんて」
松井先輩は俺の奢り、と缶コーヒーをくれた。
「昔からそうだったから、私自身不思議でもなんでもないですけどね」
口から流し込む苦いコーヒーは、今の私にちょうど良かった。
「対策局の中でも、人型として見えて、それも相互意思疎通が可能な子、レアだよ」
私の席の隣の窓口Aの子は、付喪神は光の玉で見えるらしい。それコミュニケーション取れるの?って聞いたら、玉の色でコミュニケーション取るから、相談窓口としては成り立っているようだ。
「レアなんですかねー……」
だからか、より細かい相談内容のものはじゃんじゃん私に振ってくる。何それ酷いと思ったものの、自分が役所に来て雰囲気だけ相談に乗られるより、より具体的に相談に乗ってほしいと思うと思うから、致し方なしという奴だ。
「えー、だって付喪神界隈で人気みたいじゃん? うめちゃん、うめちゃんて!」
その言葉に思わず松井先輩を見上げた。
「まさか佐藤恵から、うめちゃんてあだ名が出てくるなんて思わないでしょ? 最初誰のことかと思ったよ」
そう言えば松井先輩は、付喪神の姿は見えないけど声だけ聞こえる人って話だ。だから声は聞こえないけど見える人とバディを組んで現場に行くとかなんとか。
「今度佐藤ちゃんも俺と現場行く?松と梅で縁起良さそうだし」
「行きませんし、うめじゃないです」
「どうせなら竹もほしいよなー」
「ほしくないです」
松井先輩は、松竹梅トリオでも作りたいのか、竹に頭を悩ませている。
そんなトリオになってしまったら、今以上に付喪神界隈で噂されそうで嫌だ。
「今日の書類整理して上にあげておきますね」
一つ咳払いして、デスクに向き直る。
「あ、自分だけ抜けようとしても、もううめちゃんもトリオに入ってるからね。今はまだコンビだけど」
何を言ってるんだと無言で松井先輩を見るけれど。先輩は言うだけ言って、軽やかに去って行った。
この仕事は嫌いじゃない。かなり慣れてきたと、自分でも思う。……だからといって、松竹梅トリオになって堪るかと、自分の本分である事務仕事に取り掛かった。