役所のうめと付喪神   作:猪口零都

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やんごとなき端切れ

「なるほど。ご自身の現住所がわからなくなった、と」

 

 付喪神対策局相談窓口B。本日の来館者は、なんと平安時代の端切れ。

 平安? 1300年前? そんな年季入ってるの? という言葉をグッと飲み込み、平常通り対応している。

 

「言の葉に尽くしがたし。磨呂は今、空を舞っているのでおじゃる」

 

 でもツッコミたい。平安時代では、本当におじゃるって使っていたのでおじゃるか? と。

 

「ええーっと、じゃあもう一度確認させて頂きますが、昨日登録住所である、満福寺にて本尊が御開帳された」

「左様でおじゃる」

「その時、風が吹き込み、あなたが宙に舞った」

「厳密には磨呂の一部でおじゃる」

 

 一部、端切れが舞う、とメモ用紙に走り書きした。

 

「行ってはならぬと、そちらに意識を向けた途端、その端切れに憑いてしまったのでおじゃる」

「なるほど、なるほど」

「日頃薄暗い本殿に閉ざされてる故、ひらりひらりと舞う様が、いみじや、蝶のようで、しばし漂っていたのでおじゃる」

「そして気がついたら寺からかなり離れてしまっていた、と」

「いといみじ」

 

 やんごとなきお方の袈裟だったらしい端切れおじゃるは、さめざめとすすり泣くけれど、涙なんて出ていないだろうとツッコミそうになった。いとをかし。

 

「今後についてですが、管理課と連携し、至急回収に向かうことになるかと思います」

「あなや、さらに人の手を借りるとは」

「現在、ご自身でどの辺りにいるかは把握されてますか?」

「川原近くでおじゃる。土手の縁に留まってるのでおじゃる」

「えっ!?」

 

 思わず大きな声が出た私を、端切れおじゃるは、きょとん、という言葉がピッタリな顔をして見つめてきた。

 

「土手に引っかかってるんですか!?」

「……土手の縁に腰を下ろしてるのでおじゃる」

 

 その言葉を聞いた直後に、反射的に内線電話をかけていた。

 

「はい、管理課」

「窓口Bの佐藤です。すみません、実は今ーー」

 

 電話対応してくれた管理課の事務員に急ぎで事の次第を伝えた。

 土手の縁に引っかかってるなんて、いつ川に流されるかわからない。そんなことになってしまったら、発見がさらに困難になる。これは時間との戦いだ。

 

「わかりました。至急、人を向かわせます。その方には本体にお戻り頂くよう伝えてください」

「承知しました」

 

 受話器を置いて、ふぅ、と息を吐いた。

 

「失礼致しました。管理課と連絡が取れたので、至急本体にお戻り頂き、その場に待機してください」

 

 付喪神は、付喪神として宿った物から離れることができる。その距離や時間は、どのくらいの歳月を付喪神として生きたかで変わるようだ。……ということは、平安時代のおじゃるは、それはそれは長い時間、遠い距離を彷徨える可能性が高い。

 

「忙しないのぉ……。もう少し、おうめの君と話し合っていたかったでおじゃる」

 

 おうめの君って、もはや別人の名前では?

 

「それは無事本体が回収された後でにしませんか? 今はいち早く回収されることが優先です」 

 

 私の言葉に、端切れおじゃるは苦笑いをした。

 

「姿形は珍妙なれど、おうめの君が磨呂と同じ時に生きていたら、磨呂は文をしたためたでおじゃる」

 

 いや、あなた布だからしたためられなかったのでは? そもそも姿形が珍妙って豪速球でディスられたけど、私から見たら磨呂が珍妙でおじゃる。

 

「そうですか。それは残念でしたね」

 

 なんて想いを微塵も感じさせることなく口にした。

 

「無事回収された暁には、礼に来ようぞ」

「お待ちしていますね」

 

 笑顔で見送る私に、端切れおじゃるは優雅に消えて行った。

 

「はぁーー……」

 

 どうか、無事回収されますように。

 

「……38番の方、お待たせ致しました」

 

 そう祈りながら、次の業務へ移った。

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