先日の端切れおじゃるは、土手の草木ギリギリに引っかかっていたところを無事回収できたそうだ。東南に風が少しでも吹けば、完全にアウトで川に落ちていたらしいから、管理課というか、現場に駆り出されてた松井先輩から感謝された。
「付喪神から、これうめちゃんにって」
すっかりうめ定着してますけど、佐藤です。という言葉飲み込んで、差し出された手紙を受け取った。
おじゃるは礼に来ると言っていたけれど、万福寺の御開帳期間ギリギリだったため来館叶わずだそうだ。付喪神は本体から離れて自由に出歩けるけど、それは本体が密室空間等に閉じ込められていない時に限定される。だから御開帳終了と共に、おじゃるもしばらく出歩けなくなるから手紙を託したのだろう。
「いや、これ読めな……」
開いた手紙は、あまりの達筆さに読めなかった。さすが平安時代のやんごとなき端切れ。文字からもやんごとなさが伝わる。
「だよねー? だから管理課で解析してたから少し時間かかってさ」
人の手紙、勝手に解析したんですか。とは思うものの、解析してもらわないと読めないレベルだから正直助かる。
「書いてあったのこれ」
そう言われながら差し出されたメモ用紙を受け取った。
風吹けば 流るる端も もとの枝
うめの君待つ 春ぞ恋しき
「……え? なんですかこれ?」
「ほら、例の付喪神、平安時代の付喪神でしょ? その時代の手紙って言ったらやっぱり和歌でしょ」
「いやー……、人生で初めてなんで。和歌の手紙……」
なんとなく意味はわかるものの、リアクションに困る。
「まぁ、ざっくり要約すると、次の御開帳の時に会いに来るぞって感じだろ?」
「すごいざっくりですけど、だいたいそんな気しました」
ざっくり要約されたところで、余計リアクションに困った。
「うめちゃんは付喪神殺しだねー」
「……なんですか、それ?」
「男殺しとか聞くでしょ? それの付喪神バージョン」
どうしよう、全く嬉しくない。
「一応伝えておくけどさ」
「はい?」
「その手紙渡された時、『この時代のおなごは、どのような返歌をしたためるのであろうな』って言ってたのが聞こえたから、うめちゃんの返歌待ってると思うよ?」
「……いやー、義務教育でも習わなかったものはしたため用がないですね」
何が嬉しくてあんなまどろっこしい手紙を書かなければならないのか。ダイレクトに「命拾いしたわ、ありがとな!」くらいでいいのに。
「そのつれなさが、付喪神殺しになるのかもね」
「あー、皆さん
「そりゃそうでしょ。規模は違えどいちいち地震火事大雨洪水土砂災害を繰り出されたくないもん」
松井先輩の乾いた笑いが響いた。
私が見てきた付喪神はだいたいお人好し(お神好し?)が多いけど。その
そんな大災害を食い止めるべく、私たちは存在しているのだけれど。
「あの人たちも、話せば意外とわかりあえるとこ、あるんですけどね」
「そもそも人じゃないけどね」
意思を持ち、同じ言語を話す彼らと私たちの違いはなんなのか。考えなくもないけれど、考えたところで答えなど出るはずもないから、そこで踏み止まっている。
「返歌かー……。まぁ、次の御開帳までには……」
「3年に1回だっけ? あそこの寺の御開帳」
「完全に忘れてますね」
「ま、思い出したらでいいでしょ」
そう言い、松井先輩は仕事に戻った。私も私で、おじゃるを荒御魂にさせないように、手紙は大切に保管してたよアピールをしようと、そっとデスクの引き出しに仕舞い、残りの業務に向かった。