前回、無事伊豆大学へと帰ってこれた伊織と耕平。
今回は今件の報告書回です。眠八號こと涅レムちゃんが登場します。
コレにて伊豆事変は終了となります。
今作の設定作のリンクを後書きに貼っておきますので、良かったらどうぞ。
報告ファイル
『伊豆事変
此度の事変について記す。
〇〇年〇〇月〇〇日
虚圏にて謎の存在を確認。
その謎の存在は『北原伊織』『今村耕平』と言う一般人であることが後に確認された。
この存在は霊圧を持たない所謂、無霊能力者でありながら、黒腔を通過し虚圏へと侵入している。
通常、無霊能力者が黒腔を通過できることは無い。通過する前に存在が消滅するからである。しかし、この二つの存在は以下の条件を満たしていた為に黒腔を通過できたと考えられる。
《黒腔突入時の推定条件》
・衣服なし
・自由落下中
・全身にローション付着
・黒腔内滞在時間が極端に短い
『衣服なし』により空気抵抗が少なくなり『自由落下』で速度が上昇、『全身にローション付着』で爆発的な初速が得られた為とみられる。』
「なんですか、コレ?」
十二番隊三席・涅レムは技術開発局の資料室で『虚圏生体人間偶発侵入事案調査報告書』と言うレポートを読んでいた。しかし、そこに書かれている事項が余りにも意味不明な為にレムは頭にハテナマークを浮かべながらページをめくる。
「北原伊織、今村耕平。共に現世の大学生……」
そこには、
・霊能力――なし
・特異な霊圧――なし
・完現術者の兆候――なし
・滅却師との血縁――なし
・魂魄構造――一般的な生者と同一
と書かれていた。
「普通の人ですね!」
「普通の人は虚圏に落ちて帰ってこれませんよ」
いつの間にか隣にいた十二番隊副隊長の阿近が漏らす。
「阿近さん!」
「『伊豆事変』のデータですか。随分とまあ、特殊なデータを見ていますね」
「特別ですか?」
「ええ。ほら、侵入地点周辺では、事件発生数日前から微弱な霊的エネルギーの滞留が確認されています」
「原因は……」
阿近に指差された箇所をレムは読み、首を傾げる。
「『御手洗優氏を十字架に磔にして殺害を試みた際に生じた可能性が高い』?」
「…………」
「儀式ですか?」
「違うらしいです」
「じゃあ、何をしてたんですか?」
「御手洗優を殺そうとしてたとのことです」
「…………同じでは?」
「俺に聞かないでください」
そしてレムはページをめくり、帰還時の黒腔出現の文字を見つける。
「じゃあ、どうして虚夜宮でも黒腔が開いたんでしょう?」
阿近が次のページをめくりながら理由を説明する。
「そこは摂取した酒が原因らしいです」
「『水』です!」
「お前まで感染するな。酒ですよ」
阿近が提示したページにはこう書かれていた。
『スピリタス自体には霊的性質なし。
ただし、生身で虚圏に存在するという極めて不安定な状態の人間が、短時間に一人あたり約二本分を摂取。
肉体機能が大幅に変調。
その結果、肉体と魂魄の結びつきが一時的に不安定化。
本来いるべき現世との繋がりが優位になって、二人の直下で境界が破綻。
黒腔形成。
現世へ強制排出。』
つまり二人の帰還方法は、"スピリタスを二本飲む"だった。
「じゃあ『水』を飲んだから帰れたんですね!」
「…………まあ、結果だけ言えばそうなります」
「阿近」
そこへ十二番隊隊長・涅マユリが声をかけてきた。
「はい」
「その報告書は破棄したまえ」
「えっ!? どうしてですか?」
レムが驚きの声を上げるのに対してマユリはあっけらかんと理由を言う。
「再現性が無いからだヨ」
「理屈自体は一応――」
「再現実験を誰がするのかネ?」
マユリの言葉に阿近が条件を再確認する。
①人間を十字架に磔にする。
②複数人で強烈な殺意を向ける。
③数日待つ。
④別件で簀巻きにされる。
⑤関節を外して全裸で脱出する。
⑥ローションを踏む。
⑦崖から落ちる。
⑧偶発的に開いた黒腔へ突入する。
⑨虚圏でスピリタスを一人二本飲む。
「…………無理ですね」
「だろう?…はあ、サンプルが手に入れば問題無かったのだがネ」
「総隊長が流石に許してくれませんでしたか?」
「いや、何なら平子隊長を派遣しました」
「え!?」
阿近の答えに驚くレム。今回の件は白哉からすれば、生身で虚圏を往復した原因不明の人間がいること自体は調査が必要であると考えていたらしい。
そこで、
現世経験豊富。
人間社会に溶け込める。
何かあった時のために隊長格。
虚にも詳しい。
何かあっても対処できる。
と言う条件から平子が選ばれ、さらに本人が「大学かぁ。おもろそうやん」と乗り気だった為に送り出された。が、数時間後には帰ってきたとの事。
「何があったんですか?」
「報告書によると、大学に潜入直後に目的の二人を含めた六人が激しい喧嘩をしていたため、平子隊長が卍解『逆様邪八宝塞』を使用して敵・味方を誤認させることで落ち着かせようとしたらしいのですが、卍解が意味をなさなかったとの事です」
「隊長格の卍解を破ったんですか!?」
「いえ、破ったのではなく、意味をなさなかったんです。平子隊長によれば――」
『北原伊織は今村耕平を敵と認識した直後、煉瓦を拾って殴打』
「はい」
『卍解解除後、友人だと正常に認識した状態でも煉瓦を拾って殴打』
「…………」
『今村耕平も同様』
「…………」
『他四名についても有意な攻撃性の変化を確認できず』
「――との事です」
「友達ですよね?」
「本人たちはそう言っています」
驚愕するレムにマユリが冷静に伝える。
「つまり逆様邪八宝塞は正常に作用したが、奴らの行動選択において敵味方という変数の寄与率が極端に低いということだネ」
「???」
「仲間でも普通に殺しにくるってことです」
「友達ですよね!?」
「そして、平子隊長がこれ以上関わる必要性を感じられない、寧ろ危険と判断されました」
「なんでですか?」
「本人曰く『コイツらにこれ以上関わっとったらアホが伝染る』との事で」
「…………」
レムが阿近の言葉に無言になって考え出す。そして、
「隊長格にそこまで言わせる人達ってどんな人達なんでしょう?一度会ってみたいです!」
「やめたまえヨ」
「やめて下さい」
レムの言葉をマユリと阿近は即座に反対する。そして、レムは報告書の次のページを見てふと、疑問の声を上げる。
「……あれ?」
「なんです?」
「この人達、服も荷物も全部置いて逃げたんですよね?」
「そうですね」
「じゃあ、………最初に持っていた『水』四本はどこから出てきたんですか?」
「…………」
阿近が報告書を見る。
「…………」
マユリも見る。
「…………」
「書いてませんよ?」
「…………直ぐ様、破棄したまえヨ」
飲水思源……水を飲むときに、その水がどこから流れてきたか(水源)を思うように、物事の基本や、受けた恩を忘れてはならないという戒め。
飲『水』思源……『水』を飲むときに、その『水』がどこからきたか(物理)を思ってみたが答えが出ず、出せることなのかはたまた出したとして重要なことなのか分からないのでそんなものに時間を割くなという戒め。
BLEACH 『未来奇譚篇』