100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~   作:Fiomia

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新人らしくない魔法

午後の講習が始まると、参加者たちは再び訓練場へ集められた。

ローガンは腕を組んだまま全員を見渡し、大きく頷く。

 

「午前は話ばかりだったが、午後は実際に動いてもらう」

 

そう言って木剣の並ぶ一角を指差した。

 

「前衛は俺と模擬戦だ。勝つ必要はねぇ。自分がどれだけ動けるか見せてみろ」

 

続いて弓と的が並ぶ方へ視線を向ける。

 

「魔法使いはあっちだ。的当てで魔法の扱いを見る」

 

実技らしい実技だ。

単純に強さを測る試験というより、それぞれの適性を見る目的なのだろう。

 

「じゃあ、前衛から来い!」

 

最初に名乗りを上げたのはガレスだった。

 

「俺からだ!」

 

木剣を肩へ担いだまま前へ出る姿は、朝と変わらず威勢がいい。

 

「来い!」

 

ローガンが構えた瞬間、ガレスは一直線に踏み込んだ。

 

「おおおっ!」

 

力任せに振り下ろされる木剣。

案外速い。少なくとも普通の15歳とは思えない踏み込みだ。

だが、ローガンは半歩身体をずらしただけで避ける。

続く横薙ぎも受け流し、柄で軽くガレスの肩を突いた。

 

「一本だ」

 

「くっ!」

 

それでもガレスは諦めない。

間髪入れずに二撃、三撃と打ち込む。

豪快で勢いがあり、相手へ考える暇を与えない剣。

悪くない……が。

 

「終わりだ」

 

ローガンの木剣がするりと懐へ入り、ガレスの胸元へぴたりと止まった。

 

「そこまで!」

 

ガレスは悔しそうに頭をかいた。

 

「やっぱ強ぇなあ!」

 

「勢いは十分だ」

 

ローガンは笑う。

 

「ただし、一撃ごとに全力を込めすぎだ。避けられた後の隙が大きい。相手が格上なら、その一回で終わるぞ」

 

「なるほど……」

 

「その豪快さは武器だ。失う必要はねぇが、引くことも覚えろ」

 

ガレスは何度も頷いていた。

叱るというより、長所を残したまま改善点だけを教えている。

ギルドの講師に選ばれるだけあって、新人を育てることに慣れている人なんだな。

次に呼ばれたのはニールだった。

 

「へいへい」

 

軽い返事とは裏腹に、構えは低い。

開始の合図と同時に横へ回り込み、背後を取ろうとする。

かなり速い。

そしてガレスとは違い、正面から打ち合う気は最初からないらしい。

何度も位置を変え、隙を探る。

 

「おっ」

 

一瞬だけローガンの死角へ入り込んだ。

鋭い突き。

しかし、その木剣はあっさり受け止められる。

 

「惜しい!」

 

ローガンは木剣を払うと、その勢いのままニールの足元を軽く払った。

 

「うわっ!」

 

尻もちをついたニールを見て、周囲から小さな笑いが漏れる。

 

「悪くねぇ」

 

ローガンは手を差し伸べた。

 

「動きは器用だし、足も速い。ただ、決めようとしすぎる」

 

「決めようと?」

 

「一番いい機会だけ狙ってるだろ」

 

ニールは少し驚いたような顔になる。

図星らしい。

 

「実戦じゃ、七割の好機を確実に取る奴の方が生き残る。百点だけ狙うな」

 

「……覚えとく」

 

今度は素直に返事をしていた。

最後はセレナだ。

少し緊張した面持ちで木剣を握り、深呼吸を一つ。

 

「お願いします」

 

「来い」

 

静かな立ち上がりだった。

ガレスほど力強くもなく、ニールほど素早くもない。

だが、一歩一歩が丁寧だ。

間合いを測り、確実に届く距離まで踏み込んでから剣を振る。

無理に攻めない。

焦って体勢も崩さない。

 

「ふむ」

 

ローガンの表情が少しだけ変わる。

攻撃はすべて受け止められている。

それでもセレナは慌てず、距離を取り直して構え直した。

基本に忠実。

そんな言葉がぴったりだった。

数合打ち合ったところで、ローガンが木剣を弾き上げる。

 

「そこまで!」

 

セレナはすぐに剣を引き、頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

「いい剣だ」

 

ローガンは短く言う。

 

「派手さはないが、一番安定している。変な癖も少ねぇ。このまま経験を積めば、かなり伸びるぞ」

 

「はい!」

 

その返事には、今日一番明るい声が混じっていた。

隣で見ていて俺まで少し嬉しくなった。

ガレスには勢い。

ニールには器用さ。

セレナには堅実さ。

 

同じ模擬戦でも、評価する視点はそれぞれ違っていた。

単純に勝ち負けだけで判断しているわけじゃない。

新人をよく見て、その人に合った助言をしている。

ルビー級冒険者と呼ばれる実力だけじゃなく、指導者としても一流なんだろう。

 

「よし、次は魔法組だ」

 

ローガンの声で、俺たちは訓練場の反対側へ移動した。

魔法組は訓練場の反対側へ移動した。

木製の台座の上へ、厚い木板を何枚も重ねた的が並べられている。

 

「初心者用だから遠慮はいらねぇ」

 

ローガンは的を軽く叩いた。

 

「しっかり当てろ。威力も見せてもらう」

 

最初に呼ばれたのはエリオだった。

 

「お願いします」

 

エリオの杖先へ淡い光が集まる。

眩い光の矢は的の中央へ命中し、乾いた音とともに木板を大きく砕く。

木片が辺りへ飛び散った。

 

「おお」

 

周囲から感嘆の声が上がる。

新人としては十分な威力だ。

 

「悪くねぇ」

 

ローガンも満足そうに頷いた。

 

「威力は十分。あとは詠唱をもう少し短くできれば実戦でも使いやすくなる」

 

「はい!」

 

エリオは嬉しそうに頭を下げた。

……なるほど。あのくらい壊せれば合格なのか。

新人向け講習とはいえ、意外と基準は高いものだな。

なら、俺も少しだけ頑張った方がいいのかもしれない。

 

「次、リコレット」

 

「はい」

 

前へ出る。

的との距離は二十メートルほど。

この程度なら外すことはないが、問題は威力だ。

世界調律師の基準で放てば、的どころか訓練場まで吹き飛ばしかねない。

 

できるだけ弱く……新人らしく。

そう意識しながら魔力を練り、炎属性の下級術式を展開する。

狙いは的の中心。

 

すっと指を伸ばすと、指先から細い炎が放たれる。

炎の矢は真っすぐ飛び、的のど真ん中へ吸い込まれた。

パン。

小さな音だけが響く。

的には、指先ほどの綺麗な穴が一つ開いていた。

周囲は静まり返る。

 

「あれ?」

 

俺は首をかしげた。

少し威力を抑えすぎたかな。

もっと木片が飛び散るくらいが普通だったのかもしれない。

 

「すご……」

 

誰かが小さく呟く。

 

「中心だ」

 

「真ん中に当たってる」

 

新人たちは穴の開いた的を見て素直に感心していた。

その反応に少し安心する。

どうやら失敗ではなかったらしい。

 

「ふむ」

 

ローガンだけは的の前まで歩いていく。

穴へ指を差し入れ、裏側までゆっくり確認する。

そして、しばらく黙っていた。

 

「ローガンさん?」

 

俺は少し不安になって声をかけた。

 

「……いや、その狙いの正確さはいい」

 

ローガンは短く答える。

 

「続けようか」

 

それ以上何も言わなかった。

その後も実技は順調に進み、全員が課題を終えた。

夕方になる頃には、ローガンが参加者たちを前へ集める。

 

「今日教えたことを忘れるな」

 

腕を組み、一人ひとりを見渡す。

 

「焦って強くなろうとする必要はねぇ。一つずつ経験を積め」

 

誰もが真剣に頷いていた。

 

「以上だ。解散!」

 

講習が終わると、参加者たちは思い思いに帰り始める。

 

「リコレットさん」

 

セレナが少し照れくさそうに近付いてきた。

 

「今日は助けていただいて、ありがとうございました」

 

「気にしないでください」

 

俺は笑う。

 

「困った時はお互い様ですから」

 

「明日、一緒にお買い物しませんか?冒険に出る前に色々と揃えないと」

 

「もちろん」

 

せっかくパーティを組んだのだ。

最初の依頼くらいは一緒に受けたい。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「はい。また明日」

 

二人は並んで冒険者ギルドを後にした。

夕暮れの街道を歩く二つの背中を、ローガンはギルドの入口から静かに見送っていた。

 

◇

 

リコレットたちの姿が人混みへ消えると、ローガンは訓練場へ戻る。

その途中でリーシャとすれ違った。

 

「お疲れ様です」

 

「ああ」

 

ローガンは少し考えるような表情を浮かべる。

 

「リーシャ」

 

「はい?」

 

「あのリコレットって子、経歴は知ってるか?」

 

「いえ」

 

リーシャは首を横へ振る。

 

「昨日登録したばかりです。見た目は幼いですが身分証も問題ありませんでしたし、ごく普通の新人冒険者だと思いますが……」

 

「そうか」

 

ローガンは再び訓練用の的へ目を向けた。

他の的には砕けた跡や焦げ跡が残っている。

だが、一枚だけ。

リコレットが撃ち抜いた的だけは違っていた。

 

焼け焦げはほとんどない。

余計な破壊もない。

中心へ、寸分違わず真円の穴が開いている。

威力ではない。

あれほど魔力を無駄なく収束させる制御は、長年魔法を鍛えた熟練者でも容易ではない。

 

「……あれは新人の魔法じゃねぇぞ」

 

ローガンは誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

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