100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
可愛い。
それが、最初にリコレットを見たときの感想だった。
冒険者ギルドの掲示板の前で、茶色の髪をした少女と依頼票を眺めている。金色の髪は左右で結ばれていて、振り返るたびに小さく揺れていた。
年齢は……10歳か11歳くらいに見えるけど、ギルドの規則があるから15歳なんだろう。
けれど、あの子がただの可愛い女の子ではないことは、ギルドにいる冒険者たちの様子を見ていれば分かった。
「リコレットって、あの子だよな」
「この前、薬草採取とゴブリン討伐を一緒にやったっていう」
「新人なのにゴブリンを倒したのか?」
そんな噂が、あちこちから流れてくる。
私は少し前から、この街で冒険者として活動していた。
魔法を学んでいた身としては、冒険者活動は魔法の実験に使う素材を集めるための手段だったはずなのだけれど、実際にやってみると意外に面白い。
素材を探して森へ入り、魔物と遭遇すれば戦う。
自分が覚えた魔法が実際の戦いでどこまで通用するのかを確かめられるのだから、私にとっては都合のいい環境だった。
そんな中で、少し気になる子を見つけた。
リコレット。
小さな身体なのに、かなりの魔法の腕前らしい。
依頼を受けるときも、依頼票を何度も確認するのではなく、必要なものを整理してから一緒にいるセレナという女の子と相談していた。
それだけではない。
冒険者としての振る舞いが妙に落ち着いている。
そのくせ、セレナと話しているときは普通の女の子にしか見えない、不思議な子。
面白い。それにやっぱり可愛い。
私は掲示板から離れたリコレットを見ながら、しばらく迷った。
魔法を使える仲間と一緒に冒険したかった。
そして、あの子と一緒に冒険してみたい。
そう思ったら、もう我慢できなかった。
「……よし」
私は2人のところへ歩いていった。
◇
ギルドの掲示板を眺めながら、俺は次に受ける依頼を考えていた。
薬草採取を続けるのも悪くないが、そろそろ別の依頼にも挑戦してみたい。
とはいえ、セレナと2人だけで受けられる仕事となると、そう多くはない。
「これなんかどうかな」
掲示板の下の方に貼られた依頼票を指差す。
「街道沿いの雑用……報酬はあまり高くないね」
「安全そうではあるけど、昨日より簡単かも」
セレナと話していると、背後から声が聞こえた。
「あの、すみません!」
振り返る。
そこにいたのは、見覚えのない少女だった。
年齢はセレナより少し上に見える。
青紫色の長い髪を、後ろで幅広のリボンでまとめている。
魔術師らしい杖を持っているが、服装も冒険者というより、魔法を学ぶ学生のような雰囲気があった。
「私、フリーダ・ライヒェルトっていいます」
「フリーダさん?」
「はい。それで、突然こんなことを言うのもどうかと思ったんですけど……」
フリーダは俺をまっすぐ見つめた。
「私も一緒に冒険させてもらえませんか?」
「……え?」
思わず聞き返した。
初対面の相手からいきなりパーティ加入のお願い。
営業マン時代なら、まず相手の目的を確認するところだ。
セレナも同じことを考えたのか、俺より先に口を開いた。
「どうして、私たちと?」
声は穏やかだったが、少しだけ硬い。
当然だろう。
知らない相手をいきなり仲間に入れるのだから、警戒するくらいでちょうどいい。
「理由はいくつかあります」
フリーダは少し考えてから答えた。
「まず、リコレットさんがとても可愛いからです」
「……そこ?」
思わず素で返してしまった。
「はい」
即答だった。
迷いがない。
俺の隣でセレナが微妙な顔をしている。
「もちろん、それだけじゃありません」
フリーダは慌てたように付け加えた。
「ギルドで見ていたんです。依頼を受けるときも、帰ってきたときも、リコレットさんはちゃんとセレナさんと相談していました。それに、新人なのに2人でゴブリンを倒したと聞いています」
「たまたまだよ」
「でも、ゴブリンを倒せる新人が、そう何人もいるわけじゃありません」
それは確かにそうなのだろう。
俺の場合は、そもそも一般的な新人冒険者とは比較にならない。
だからこそ、そこを評価されると少し困る。
「それに、セレナさんは剣士ですよね。私は魔術師なので、役割も分けられると思います」
「魔術師なんだ」
俺が尋ねると、フリーダの表情が明るくなった。
「はい。炎と氷の術式を使えます。特に炎術式が得意で、魔力の収束と射出速度については――」
「……待って」
突然、話す速度が上がった。
「え?」
「魔法の話になると止まらないタイプ?」
「……よく分かりましたね」
フリーダは少しだけ気まずそうに笑った。
なるほど。魔法好き……というより魔法オタクか?
だとしたら、俺が迂闊なことを言えば、面倒なことになりそうだ。
そもそも、100年かけて学んだ世界調律師としての知識を、普通の魔術師に披露するつもりはないのだが。
そんなことを考えていると、セレナが俺を見た。
「リコレット、どうする?」
少し迷う。
フリーダの実力は、まだ分からない。
ただ、話を聞いた限りでは目的もはっきりしているし、こちらを利用しようとしているようにも見えない。
何より魔術師が1人加われば、できることは増える。
セレナも警戒はしているが、露骨に反対しているわけではなかった。
「フリーダさん」
「はい」
「私たちと一緒に冒険したいっていうのは、本気?」
「もちろんです!」
返事が早いな。
やはり悪い子ではなさそうに見えるし、何か問題があっても俺なら対応できる。
「……じゃあ、よろしくお願いします」
「えっ」
フリーダが目を丸くした。
「いいんですか?」
「うん。セレナもそれでいい?」
「私は……うん。リコレットがいいなら」
セレナが頷く。
「ありがとうございます!」
フリーダは嬉しそうに笑った。
「今日からよろしくお願いします、リコレットさん、セレナさん!」
「こちらこそ」
「よろしくね、フリーダ」
これで3人。
俺とセレナ、それから魔術師のフリーダ。
昨日まで2人だったパーティが、一気に3人になった。
「そういえば、フリーダはどうして冒険者になったの?」
何となく聞いてみる。
「魔法の研究に使う素材を集めるためです」
やっぱり魔法絡みだった。
「もともとは学園都市アルカディアで魔法を学んでいたんですけど、冒険者として素材を集めているうちに、こっちの方が楽しくなってしまって」
「それで、そのまま?」
「はい」
手段と目的が入れ替わってるような気がしなくもないが、少なくとも行動力はありそうだ。
セレナが感心したように頷いた。
「魔法を勉強するために冒険者になるって、すごいね」
「セレナさんも、故郷を守れるくらい強くなるために冒険者になったんですよね?」
「え、どうしてそれを?」
「こないだ、食事中にリコレットさんと話しているのを聞きました」
「そうなんだ……」
セレナが少し照れたように視線を逸らした。
どうやらフリーダは、本当に俺たちのことをある程度調べてから声をかけてきたらしい。
それなら、まあ大丈夫だろうか。
「じゃあ、これから一緒に依頼を探そうか」
「はい!」
フリーダが元気よく返事をする。
3人で掲示板へ向かう。
今までなら、セレナと2人で無理なく受けられる依頼を探していた。
けれど、魔術師が加わったことで選択肢は増えている。
討伐依頼も視野に入れていいかもしれない。
とはいえ、いきなり危険な仕事を選ぶ必要はない。
まずは3人の相性を確かめるところからだ。
俺は掲示板を眺めながら、ちょうどよさそうな依頼を探した。
「この依頼を三人で依頼を受けてみよう」