100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
3人で掲示板を眺め始めて、しばらく。
俺たちは、ちょうどよさそうな依頼を見つけた。
「これなら受けられそう」
セレナが指差したのは、街の外れにある街道沿いで確認された魔物の討伐依頼だった。
内容は、はぐれゴブリンの討伐。
群れから離れたゴブリンが街道の近くに居着いてしまい、通行人を襲うようになったらしい。
報酬も大理石級の討伐依頼としては妥当な金額だった。
「はぐれゴブリンなら、この前も倒したね」
セレナがそう言って俺を見る。
「そうだね。フリーダが加わった今なら、もう少し楽に戦えると思う」
「私も大丈夫だと思います」
フリーダは依頼票を読みながら頷いた。
「フリーダに魔法での攻撃を任せられるなら、対応の幅も広がるよね」
昨日までの俺たちは、セレナが前衛で俺がその補助をするという2人組だった。
そこへ後衛を務められるフリーダが加わった。
戦力として考えれば、当然こちらの方が安定する。
問題は、3人で実際に戦った経験がないことだ。
どれだけ能力の高い人間を集めても、互いの動きが分からなければ邪魔になる。
逆に言えば、そこさえ噛み合えば、かなり戦いやすくなるだろう。
「じゃあ、これを受けようか」
「うん」
「はい!」
依頼票を受付へ持っていき、手続きを済ませる。
こうして俺たち3人の最初の討伐依頼が始まった。
◇
街を出てしばらく歩くと、街道から外れた場所に小さな林が見えてきた。
依頼人の話では、この辺りでゴブリンを見かけることが増えているらしい。
「この辺りかな」
セレナが周囲を見渡す。
剣に手を添えながら、足元や木々の間へ視線を走らせていた。
その様子は、以前よりもずっと冒険者らしくなっている。
「足跡があります」
フリーダが地面を指差した。
「こっちです。複数……ではなく、たぶん1匹ですね」
「分かるの?」
「魔法の素材を集めるために森へ入ることが多かったので、こういうのは少し」
「じゃあ、案内をお願いできる?」
「はい」
フリーダが先頭に立ち、その後ろをセレナが続く。
俺は最後尾についた。
なるほど。
自然とこういう配置になるのか。
セレナは前を警戒し、フリーダは周囲を観察しながら進む。
俺は2人の間に入るより、後ろから全体を見る方が都合がいい。
しばらく進んだところで、木の陰から物音がした。
「来ます」
フリーダが小声で告げる。
次の瞬間、茂みから緑色の小鬼が飛び出してきた。
ゴブリンだ。
ただ、1匹ではない。
「2匹!」
セレナが剣を抜いた。
前へ出て、最初の1匹を受け止める。
ゴブリンが振り下ろした粗末な棍棒を剣で受け流し、そのまま身体を回して斬りつけた。
動きは悪くない。
以前よりも、相手との距離を意識している。
「右からもう1匹!」
俺が声をかけると、セレナはすぐに反応した。
振り返るのではなく、身体だけをずらして攻撃を避ける。
その隙をフリーダが逃さなかった。
杖の先に炎の術式を組み上げ、魔力を収束させる。
炎が一直線に飛び、ゴブリンの足元へ着弾した。
直撃ではない。
だが、ゴブリンは驚いて足を止めた。
その一瞬でセレナが間合いを詰める。
「これで!」
剣が振り抜かれ、ゴブリンが倒れた。
「……うまいな」
思わず呟く。
フリーダの魔法は威力そのものより、相手の動きを止めることを目的としていた。
セレナもそれを理解しているのか、魔法が当たるのを待つのではなく、止まった瞬間を狙っている。
初めて組んだとは思えない。
「リコレット!」
セレナの声で我に返る。
もう1匹がこちらへ向かってきていた。
俺は剣を抜く。
一般的な新人冒険者らしく見せるなら、ここで自分が倒してしまう必要はない。
ゴブリンの攻撃を受け流し、足元へ小さな風を走らせる。
ほんの少しだけ体勢を崩させた。
「今!」
セレナが横から斬り込む。
ゴブリンは地面へ倒れた。
「大丈夫?」
「うん。リコレット、ありがとう」
「どういたしまして」
俺が何をしたのか、セレナには細かく説明する必要はない。
ただの補助魔法に見えているだろう。
実際、その程度の出力に抑えている。
「2匹とも倒しましたね」
フリーダが近づいてきた。
「でも、思ったより簡単でした」
「ゴブリンだからね」
そう答えたところで、林の奥から枝の折れる音が響いた。
今度は、さっきまでとは比べものにならない大きさだった。
セレナが剣を構える。
フリーダも杖を握り直した。
木々の向こうから現れたのは、巨大なゴブリンだった。
普通のゴブリンより頭1つ以上大きい。
腕も太く、手には大きな棍棒を持っている。
「……ホブゴブリン?」
フリーダの声が僅かに震えた。
俺も見た瞬間に理解した。
依頼票に書かれていたのは、はぐれゴブリン。
目の前にいるのは、その上位種。
ホブゴブリンだ。
「これ、依頼の内容と違うよね?」
セレナが確認するように尋ねてくる。
「たぶん、途中で何かあったんだと思う」
ホブゴブリンは俺たちを見つけると、低い唸り声を上げた。
大きさだけではない。
身体の動かし方にも明らかな違いがある。
普通のゴブリンとは別物だ。
ギルドの危険度で言えば瑪瑙級。
新人3人で相手をするには、本来なら荷が重い。
とはいえ、逃げるという選択肢もある。
俺が単独で倒すことも簡単だが……二人を見ると、どうやらやる気のようだ。
なら、最大限にサポートするとしようか。
「セレナ、防御魔法をかけるから前をお願いできる?」
「分かった!」
万が一にも命に係わる怪我をしないよう、防御魔法を発動させた。
と同時に、セレナが格上の魔物にも関わらず恐れる様子もなく踏み込む。
ホブゴブリンが棍棒を横薙ぎに振った。
セレナは剣で受けるのではなく、半歩下がって軌道を外した。
それでも風圧だけで髪が大きく揺れる。
「速い……!」
セレナが驚きながら距離を取る。
ホブゴブリンが追撃してくる。
「セレナ!剣の強化いくよ!」
俺はそう言ってセレナの剣へ強化の術式を重ねた。
今のセレナならこれだけでも十分に意味がある。
「セレナ、右!」
俺の声に合わせてセレナが身体を傾ける。
棍棒がすぐ横を通り過ぎた。
そのまま懐へ入り、剣を振る。
浅い。
それでもホブゴブリンは怯んだ。
「フリーダ、今なら撃てる!」
「はい!」
フリーダが距離を取る。
杖の先に炎の術式が組み上がっていく。
さっきまで使っていたものとは違う。
術式が大きい。
時間もかかっている。
あれなら、それなりの威力になるだろう。
ただし、その分だけ隙も大きい。
ホブゴブリンが再度セレナへ向かって突進する。
このままだとセレナ一人で正面から受け止めるしかない。
「私が止める!」
そう言って足元へ風を走らせる。
ホブゴブリンの進路を僅かに逸らすがそれだけでは止まらない。
俺は続けて、目の前の地面へ小さな土の隆起を作った。
ホブゴブリンの足が引っ掛かる。
ほんの一瞬。
それで十分だ。
「今だ!」
フリーダの術式が完成する。
炎が一気に膨らみ、ホブゴブリンへ向かって放たれた。
真正面から炎を受けたホブゴブリンが大きく後退する。
倒れはしない。
だが、明らかに動きが鈍った。
「セレナ!」
「分かってる!」
セレナが駆ける。
ホブゴブリンが棍棒を振り上げるより先に懐へ入り、身体を低くして攻撃を避ける。
そして、無防備になった脇腹へ剣を突き込んだ。
ホブゴブリンの動きが止まる。
そのまま巨体が地面へ倒れた。
「……倒した?」
セレナが残心の体制のまま確認する。
「倒したみたいです」
フリーダが息を切らしながら答えた。
俺は2人の様子を確認する。
セレナは腕に浅い傷がある。
フリーダも、魔法を使った影響で少し疲れているようだ。
「2人とも、怪我を見せて」
「え?」
「セレナ、腕。フリーダは魔力を使いすぎてない?」
「私は少し疲れただけです」
「それでも休んで」
セレナの腕へ治癒の術式を組む。
傷が塞がっていく。
「……やっぱりリコレットの治癒魔法って、かなり上手だよね」
セレナが腕を眺めながら言った。
「そりゃあ練習してるからね」
適当に答える。
フリーダがこちらをじっと見ていた。
「どうしたの?」
「治癒術式の構成が少し気になって……それにさっきの防御魔法も……」
「気にしないでほしいかなあ」
「うー……はい」
素直に引き下がってくれた。
助かった。
もし今の術式について詳しく聞かれていたら、説明するだけで面倒なことになっていた。
「それにしても……」
セレナがホブゴブリンを見る。
「本当にホブゴブリンだったね」
「はい。普通なら瑪瑙級の魔物です」
フリーダも頷いた。
「私たち3人だけで倒せるとは思っていませんでした」
そこは同感だ。正確には俺が本気を出せば簡単に倒せるが、そういう話ではない。
セレナが前で敵を引きつけ、フリーダが攻撃する。
その間に俺が2人の動きを見ながら必要なところだけ補助する。
3人で連携して戦った結果、瑪瑙級の魔物を倒すことができた。
「意外と、私たちって相性いいのかも」
セレナが言う。
「私もそう思います」
フリーダも笑った。
俺は2人を見てから、ホブゴブリンから魔石を取り出した。
「そうだね。思ったよりずっと戦いやすかった」
今回の依頼は、最初から最後まで予定通りというわけにはいかなかったが、結果としては悪くない。
むしろ、3人で冒険を続けるなら、かなり心強い組み合わせになりそうだ。
「じゃあ、魔石を持って帰ろう」
「うん」
「はい!」
3人で街へ戻る。
最初の討伐依頼は、少し予定外の相手が出てきたものの、無事に達成することができた。