100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
ホブゴブリンを倒した翌日。
俺たちは再び冒険者ギルドへ来ていた。
昨日の依頼で3人の相性が悪くないことは分かった。セレナが前衛を務め、フリーダが後方から魔法で援護する。その間に俺が2人の動きを見ながら必要なところを補助する。
役割分担としては、かなり綺麗に噛み合っている。
だからこそ、次はもう少し難しい依頼を受けてみてもいい。
「昨日みたいな討伐依頼を探す?」
セレナが掲示板を眺めながら尋ねてくる。
「それもいいけど……」
俺は掲示板に並んだ依頼票を眺めた。
薬草採取、街道の護衛、魔物の討伐、素材の採取。
どれも冒険者らしい依頼ではある。
けれど、俺の目は別のものへ向いていた。
「大迷宮って、行ったことある?」
「大迷宮?」
セレナが振り返る。
「私はないよ。フリーダは?」
「私もありません」
フリーダは少し考えてから答えた。
「でも、ヴェルグラードにいるなら、一度くらいは行ってみたいと思っていました」
「そうだね」
正確には、俺の場合は興味というより確認したいことがあった。
ヴェルグラードには世界最大のダンジョンがある。
世界調律師として、この街に塔を建てる予定の俺にとって、その内部構造を一度見ておくのは悪くない。
それに、100年間も世界を見てきた俺としても、ダンジョンという存在には少し興味がある。
「大迷宮って、そんなにすごいのかな」
セレナが依頼票から視線を上げる。
「聞いた話では、かなり大きいみたいです。1階層だけでも相当広いらしいですよ」
フリーダが答える。
「それに、下へ行くほど景色そのものが変わるそうです。普通の洞窟とは違って、森になったり、遺跡のような場所になったりするって」
「それは面白そうだな」
思わず口に出た。
セレナも興味を持ったらしい。
「じゃあ、3人で行ってみる?」
「……3人で?」
フリーダが少し迷うような顔をした。
「どうしたの?」
「いえ。行ってみたい気持ちはあります。ただ、大迷宮ですよね」
「うん」
「私たち、まだ大理石級ですよね」
「そうだね」
そこで3人とも黙ってしまった。
大理石級。
駆け出し冒険者のランクだ。
昨日は運良くホブゴブリンを倒すことができたが、だからといって俺たちが瑪瑙級の冒険者になったわけではない。
ヴェルグラードの大迷宮について調べてみても、低層ですら大理石級5人以上が推奨戦力になっている。
「3人だと、やっぱり少し不安かな」
セレナが正直に言った。
「昨日のホブゴブリンも、リコレットがいたから何とかなったところがありますし」
「私もそう思います」
フリーダも頷く。
「3人で行くなら、もっと経験を積んでからの方がいいかもしれません」
その判断は正しい。
俺としても、セレナとフリーダを危険な場所へ連れていくつもりはない。
「じゃあ、今回はやめておこう。もっと修行して強くなってからにしよう」
「うん」
「そうですね」
興味が湧いたところだったが、セレナとフリーダの安全が最優先だ。
それに大迷宮は逃げない。
俺は掲示板へ向き直って、他の依頼を探そうとした。
「おっ、セレナにリコレットじゃねえか!」
聞き覚えのある大きな声が響いた。
振り返ると、そこには3人の少年がいた。
「ガレス?」
初心者講習で一緒だった3人組。
ガレス、エリオ、ニール。
たしか3人で「蒼天の三剣」というパーティを組んでいたはずだ。
「久しぶりだな!」
ガレスがこちらへ歩いてくる。
その後ろからエリオとニールも続いていた。
「最近、見かけないと思ったら女子3人で組んでたのか」
ニールが俺たちを見る。
「女の子3人のパーティって、なかなか珍しいな」
「ニール、そういう言い方は失礼だよ」
エリオが注意する。
「いや、別に悪い意味じゃないって」
相変わらずの3人だ。
俺は少し笑いながら答えた。
「フリーダが入ってくれたんだ。昨日、3人で討伐依頼にも行ってきたよ」
「へえ。どうだった?」
「意外と相性が良かったかな」
「それならさ」
ガレスが俺たちの掲示板へ視線を向けた。
「今、ダンジョンの話してなかったか?」
「聞こえてたの?」
「少しな」
やっぱり聞かれていたらしい。
「3人だと不安だから、今回は諦めようかって話してたところ」
俺が説明すると、ガレスはすぐに笑った。
「だったら、俺たちと一時的に組まないか?」
「え?」
セレナが驚いた声を上げる。
「俺たち3人も、ちょうど大迷宮に行ってみようって話してたんだ。低層なら大理石級が5、6人いれば探索できるって聞いた」
「6人なら、推奨人数を超えますね」
フリーダが反応する。
「そうなんだよ。だからどうするか相談してたところだった」
ガレスが胸を張る。
「俺たちは前衛が俺、後ろからニールが狙って、エリオが支援する。そっちには剣士のセレナと魔術師のフリーダがいる。かなりバランスが良いと思わないか?」
「俺は後ろから急所を狙うだけじゃなくて、罠とかの確認もできるからな」
ニールが付け加える。
「僕は治癒もできるし、支援もできる。女性がいるなら怪我をさせないようにしないと」
エリオまで胸を張った。
それぞれが自分の役割を理解しているらしい。
少なくとも、初心者講習で一緒だった頃よりは成長している。
「どうする?」
セレナが俺を見る。
フリーダもこちらへ視線を向けていた。
2人とも興味はありそうだ。
「私はいいと思うけど、2人はどう?」
俺が答えると、2人も頷いた。
「じゃあ、詳しい話を聞いてみよう」
「任せろ!」
ガレスが嬉しそうに笑った。
◇
俺たちはギルドの端にあるテーブルへ移動した。
6人で座ると、さすがに少し狭い。
ガレスが地図を広げた。
「これが大迷宮の入口周辺の地図だ」
「ずいぶん細かいですね」
フリーダが覗き込む。
「この前、ギルドで低層の情報を集めてきたんだ。実際に1層へ入ったことのある冒険者から聞いた話もある」
へえ……ガレスは猪突猛進かと思いきや、きちんとこうやって下調べする堅実さも持ち合わせてるみたいだ。
ガレスは地図の一角を指差した。
「1層は、滅びた街みたいになってるらしい」
「街?」
「そう。建物がずっと並んでるんだってさ。道もあるし、建物の中に宝箱が出ることもあるらしい」
「宝箱……!」
フリーダの目が輝いた。
分かりやすい。
「ただし、看板とかに書かれてる文字は誰にも読めないらしい」
ニールが続けた。
「昔の文字なんじゃないかって言われてるけど、詳しいことは分からない。だから、勝手に建物へ入らず、分かっている場所を中心に探索する予定だ」
なるほど。
かなり真面目に準備しているな。俺は3人を少しだけ見直した。
「魔物は?」
セレナが尋ねる。
「ゴブリンとウルフが多いらしい。どっちも大理石級6人なら対応できる相手だ」
「2層は?」
「そこから先は情報が少ない。1層と同じような街らしいけど、常に夜になってるそうだ」
「今回は1層だけにする?」
俺が聞くと、ガレスは頷いた。
「ああ。最初から深く潜るつもりはない。1層を探索して、危なくなったら帰る。それでいいと思ってる」
その判断なら問題ない。
6人とも大理石級。
低層1層の推奨戦力を満たしている。
経験の浅い俺たちにとっては、ちょうどいい挑戦だろう。
「それなら、行ってみようか」
「うん」
「私も賛成です」
「俺たちも異論なし!」
6人でダンジョンへ行くことが決まった。
出発は明日。
今日は必要な道具を揃えて、早めに休むことになった。
話が一段落したところで、俺は少しだけ考える。
せっかく大迷宮へ行くのだから、俺自身も内部を確認しておきたい。
人間がどこまで進める場所なのか。
それくらいは知っておいても損はないだろう。
世界の構造を掌握する。そのままヴェルグラードの大迷宮へ意識を伸ばしていく。
入口……1層……2層。
その先へ。
人間なら何日も、何週間もかけて進むはずの場所を、俺は魔法による探査で一気に通り過ぎていく。
3層……4層……。
さらに下。
景色が変わる。
街だったものが森になり、森だったものが巨大な建造物へ変わっていく。
さらに奥へ進むと、これまでとは比較にならないほど巨大な空間が広がっていた。
……まだ続いている。
その先にも。
さらに先にも。
階層の数を数えるのも面倒になってきた。
俺はしばらく探査を続けてから、意識を戻した。
危険度の問題だけじゃない。
単純に広すぎる。
人間が徒歩で進むなら、移動だけで途方もない時間が必要になるだろう。
しかも階層ごとに環境が変わる。
食料や水、魔力、負傷者への対応まで考えれば、深く潜るほど必要な準備は増えていく。
そして何より、探査した時間が短かったとはいえ、俺自身がまだ終点を確認できていない。
……これ、人間には攻略無理じゃないか?
思わずそんな感想が浮かぶ。
もちろん、俺なら話は別だ。
けれど、それを人間の冒険者が目指すとなると、話はまったく違ってくる。
世界調律師としてなら、ダンジョンのコアを見つけて壊せば終わる。
でも、それではダンジョン攻略を生きがいにしている人たちの目的を奪ってしまうことにもなる。
だから、俺はそんなことをするつもりはない。
少なくとも、街や世界が危険にならない限りは。
「リコレット?」
突然、セレナに呼ばれた。
「どうしたの?」
「ぼーっとしてたから」
「ああ、ごめん。ちょっと明日のことを考えてた」
適当に答える。
「明日は楽しみですね!」
フリーダが嬉しそうに言った。
「ダンジョンの魔法構造も気になりますし、魔物の生態も調べたいです。それに、宝箱の中身も――」
「フリーダは宝箱が目当てになってない?」
「もちろん、それも楽しみです!」
やっぱりそうだった。
俺は苦笑しながら、明日の予定を確認する。
6人の臨時パーティを組む。
目指すのは、ヴェルグラードの大迷宮。
まずは低層1層。
俺たち3人だけでは難しいと思っていた冒険だったが、思わぬところから仲間が増えた。
「じゃあ、明日はよろしくね」
「任せろ!」
「よろしくお願いします」
「こっちこそ」
6人で頷き合う。
明日は、初めてのダンジョン探索だ。