100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
冒険者になってから、そろそろ1年か。
ヴェルグラードで冒険者として活動を始めてから、俺たちはずいぶん多くの依頼をこなしてきた。
薬草の採取や街道の護衛といった簡単な仕事から、魔物の討伐、大迷宮の低層探索まで、内容はその時々で違ったが、基本的には3人で行動してきた。
セレナが前へ出て、フリーダが後ろから魔法を撃つ。
そこへ俺が状況を見ながら指示を出し、必要なところを補う。それが俺たちのパーティの戦い方だ。
ただ今では、いちいち声を掛けなくても互いの動きが分かる場面が増えている。
セレナが敵を引きつければ、フリーダはその動きを邪魔しない位置から術式を組む。フリーダが魔法を放つと分かれば、セレナは自然と射線から外れる。
俺も2人の位置を確認しながら、必要な時だけ魔法や剣で援護する。
大迷宮でガレスたちと一緒に探索した時と比べても、3人の連携は明らかに良くなっていた。
もちろん、俺が世界調律師としての力を使えば、もっと簡単に片付けられるがそんなことをするつもりはない。
セレナとフリーダが自分たちの力で経験を積むことの方が大切だ。
そんなことを考えながら、俺たちは今日も冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます、リーシャさん」
「おはようございます、リコレットさん。セレナさん、フリーダさんも」
受付にいたリーシャが、いつものように笑顔で迎えてくれる。
「今日の依頼はどうしましょうか?」
「何か良さそうなものがあれば見せてもらえますか?」
俺がそう尋ねると、リーシャは少し考えてから、依頼書ではなく別の紙を取り出した。
「その前に、3人にちょっとお話があります」
「話?」
セレナとフリーダもリーシャを見る。
リーシャは紙を机の上へ置き、穏やかな声で続けた。
「そろそろ、昇格試験を受けてみませんか?」
「昇格試験ですか?」
「はい。3人とも冒険者として活動を始めてから1年になりますし、これまでの実績を考えても、瑪瑙級へ上がる資格は十分にあります」
確かに以前、サイラスからも勧められたな。
大理石級は駆け出しの冒険者。
その次が瑪瑙級で、ある程度経験を積んだ初級冒険者として扱われる。
俺自身はランクにそれほど興味がなかったが、俺たちがパーティとして受けられる依頼の幅を考えれば、ここは素直に上げておいた方がいい。
「試験って、どんな内容なんですか?」
セレナが尋ねる。
「ギルドによって内容が異なるのですが、ここヴェルグラードの試験では、大迷宮の1層へ行ってもらいます」
リーシャは説明を続ける。
「1層の中に、ギルドが事前に用意した札を隠してあります。それを探して持ち帰ってください」
「札を探すだけですか?」
フリーダが首を傾げる。
「それだけではありません。試験では新人冒険者に見立てた先輩冒険者を1人、連れて行くことになっています」
「新人冒険者に見立てた?」
「はい。新人を連れて行動する場合、どう行動するのかを見る試験でもあるということです。ただ本当の新人だと危険なので先輩冒険者がその役を担うというわけですね」
なるほど。
単純に魔物を倒せるかどうかではなく、経験の浅い仲間を守りながら探索できるかを見るわけか。
大迷宮1層はゴブリンやウルフが出る低層とはいえ、普通の新人を連れていくなら、それなりに気を配る必要がある。
同行する先輩を新人に見立てて行動しろということだな。
「その新人役の方は、ギルドから選ばれるんですか?」
「はい。今回お願いするのはミレイア・ベルナードさんです。ちょうど今いらっしゃいますから紹介しましょう」
リーシャさんが、少し離れたところにいた女性へ声を掛けた。
「ミレイアさん、先日お願いしていた試験を受ける子たちです。紹介したいのでこちらへお願いします」
「はーい」
明るい返事とともに、1人の女性が近づいてくる。
俺たちより少し年上に見える。
気さくそうな笑顔を浮かべた彼女は、俺たち3人を順番に見てから頭を下げた。
「ミレイア・ベルナードです。今回、新人役を務めます。よろしくね」
「よろしくお願いします」
俺も頭を下げる。
「私はセレナです。よろしくお願いします」
「フリーダです。よろしくお願いします」
「うん、よろしく!」
ミレイアさんは笑顔のまま3人を眺めている。
なかなかの身のこなしだ。立ち方や周囲への視線も自然で、一人で試験の補佐に選ばれるだけの実力はありそうだ。
「一応、試験について補足しておきますね」
リーシャが説明を続ける。
「ミレイアさんは基本的には何もしません。3人には、経験の浅い冒険者を1人連れているという想定で行動してもらいます」
「つまり、私たちがミレイアさんを守りながら探索できるかを見るんですね」
「その通りです」
セレナが真剣な表情で頷く。
「それなら、いつもより慎重に行動した方が良さそうですね」
「うん。大迷宮は何が起こるか分からないからね」
俺がそう答えると、ミレイアさんが楽しそうに笑った。
「真面目だねえ。私としては、もっと気楽に考えてくれてもいいんだけど」
「そういうわけにもいかないでしょう」
「まあ、それもそうか」
試験の内容は理解した。
札を探して持ち帰る。
その過程で新人役のミレイアさんを守り、適切に判断できるかを見る。
特別難しい内容ではない。
少なくとも、今の俺たちなら問題なくこなせるはずだ。
「今ミレイアさんがいらっしゃるということは、もしかしたら試験はこれから受けられるんですか?」
俺が尋ねると、リーシャは頷いた。
「はい。準備ができているなら、今日このまま向かってもらって構いませんよ」
「じゃあ、行きましょう」
「はい!」
セレナが元気よく返事をする。
「大迷宮かあ。久しぶりですね」
フリーダも少し嬉しそうだ。
そういえば、3人で大迷宮へ入るのは久しぶりになる。
以前はガレスたちと6人で探索した。それ以後も大迷宮に入る時はどこかのパーティと合流するか、助っ人を入れるようにしていた。
だが今なら、以前よりずっと余裕を持って動けるだろう。
「それじゃあ、ミレイアさん。よろしくお願いします」
「こちらこそ。3人がどんな冒険をするのか、楽しみにしてるよ」
なるほど。試験官というわけでもないが、冒険中の俺たちの行動は査定されるのだろうな。
俺たちはギルドを出て、大迷宮へ向かう。
街中を歩きながら、セレナとフリーダが試験について話している。
「まずは大迷宮に入ったら、ミレイアさんの安全を優先しましょう」
「そうですね。魔物が出たら私が後ろから援護します」
「俺は周囲の索敵をする。何か見つけたらすぐに知らせるよ」
「分かりました」
自然に役割が決まっていく。
1年前なら、もっと細かく確認していたはずだ。
今では必要なことだけを話せば、それで十分に伝わる。そのことが少し嬉しいと思った。
しばらく歩くと、大迷宮の入口が見えてきた。
巨大な地下迷宮へ続く入口の前には、今日も何人もの冒険者が集まっているが、俺たちはそのまま内部へと進む。
1層に入ると、以前と変わらない光景が広がっていた。
崩れた建物が延々と並ぶ、滅びた街。
空は曇ったままで、昼なのか夜なのかも分からない。
建物に残された看板には、異界の文字が並んでいる……今度は迂闊に読んだりしないように気を付けないと。
「ここからが試験ですね」
ミレイアさんが周囲を見回した。
その表情は明るいままだが、視線だけは鋭い。
やはり、かなり慣れている。
「それじゃあ、行きましょう」
俺が先頭を確認し、3人で歩き始める。
後ろにはミレイアさん。
大迷宮1層のどこかに隠された札を探すため、俺たちは廃墟の街へ足を踏み入れた。