100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
昇格試験から数日後。
俺たちはいつものように冒険者ギルドへ来ていた。
依頼を受けるためではなく、昇格試験の結果を聞くためだ。
「リコレットさん、セレナさん、フリーダさん。お待ちしていました」
受付にいたリーシャが、いつもより少し嬉しそうな顔で俺たちを迎える。
その表情を見た時点で、なんとなく結果は分かった。
それでも、正式な言葉を聞くまでは安心できない。
「試験の結果ですが、3人とも合格です」
「本当ですか?」
セレナの顔が明るくなる。
「はい。おめでとうございます。これで3人とも瑪瑙級冒険者です」
リーシャさんがカウンターの上へ新しい冒険者証を並べた。
以前のものとは少し違う。刻まれている紋章が瑪瑙を模したものになっており、名前の横に刻まれたランクが、大理石級から瑪瑙級へ変わっている。
「ありがとうございます」
フリーダが冒険者証を手に取る。
表と裏を何度も確認しているあたり、かなり嬉しいらしい。
俺も自分の冒険者証を眺めた。
瑪瑙級か。冒険者になってから約1年。
最初はセレナと2人で薬草を採っていたところから始まり、フリーダが加わり、3人で魔物を倒し、何度も依頼をこなしてきた。
もう駆け出しではないということだな。
「これで受けられる依頼も増えますね」
セレナが冒険者証を大事そうにしまう。
「そうですね。皆さんなら、これからもっといろいろな依頼に挑戦できると思います」
リーシャさんが笑う。
「ただ、無理はしないでくださいね。瑪瑙級になったからといって、急に強い魔物を相手にする必要はありませんから」
「分かっています」
俺が答える。
このあたりは冒険者としての経験が増えても変わらない。
強い敵を倒すことより、生きて帰ることの方が大事だ。
「それにしても、リコレットさんたちがもう瑪瑙級ですか」
リーシャが感慨深そうに3人を見る。
「最初に登録へ来た時は、リコレットさんが15歳には見えなくて登録を断ろうとしましたし」
「懐かしいな」
俺は少し笑う。
「でもリコレットは最初から妙に落ち着いていたよね」
「それはセレナもだろう?」
「そうかな?」
「最初からかなりしっかりしていたと思うよ」
「そうですか……」
セレナが少し照れたように笑った。
その様子を見ていると、1年前のことが遠い昔のようにも感じられる。
実際には、たった1年しか経っていないのだが。
「そういえば」
リーシャさんが思い出したように口を開く。
「先ほど、ガレスさんたちも結果を聞きに来ていましたよ」
「ガレスたちが?」
俺が聞き返した、その時だった。
「おーい!」
聞き覚えのある大声が、ギルドの奥から飛んできた。
振り向くと、ガレスがこちらへ向かって歩いてくる。
その後ろにはエリオとニールもいた。
「やっぱりお前らも来てたか!」
「ガレス、声が大きいよ」
エリオがたしなめる。
「いいじゃねえか。久しぶりなんだから」
「そんなに久しぶりでもないだろ」
ニールが呆れたように言った。
彼らとは、6人で一緒に大迷宮を探索した時以来、一緒に行動することもあるし、こうしてちょくちょく話すこともある。
「お前らも合格したんだろ?」
ガレスが俺たちの冒険者証を見る。
「うん。さっき合格って言われた」
「やっぱりか! 俺たちもだ!」
ガレスが嬉しそうに自分の冒険者証を見せる。
そこには、俺たちと同じく瑪瑙級の文字が刻まれていた。
「おめでとうございます」
セレナが頭を下げる。
「そっちもおめでとう!」
エリオが笑顔で返す。
「これで俺たちも一人前に近づいたってことだな」
ニールが冒険者証を眺める。
「まあ、瑪瑙級はまだ初級だけどな」
「ニール、お前そういうこと言うなよ」
「事実だろ」
ガレスがニールの肩を叩く。
「でも、俺たちが同じランクになったってことは、これからもっと強い依頼も受けられるってことだ。今度また一緒に大迷宮へ行こうぜ!」
「それは楽しそうですね」
フリーダが答える。
「じゃあ、お互い頑張ろうぜ!」
「はい」
短い言葉を交わして、俺たちは別れた。
ガレスたちは別の受付へ向かい、俺たちはギルドを出る。
外へ出たところで、セレナが冒険者証を眺めながら言った。
「瑪瑙級か……なんだか不思議な感じですね」
「私は受けられる依頼が増えたことが嬉しいです」
フリーダが楽しそうに言う。
「もっと強い魔法を使えるようになりましたし、これなら少し遠くまで素材を探しに行けます」
「フリーダらしいな」
「リコレットは嬉しくないんですか?」
「もちろん嬉しいよ」
冒険者として認められたこと自体は素直に嬉しい。
だが、そろそろ次の段階へ進んでもいいのかもしれないな。
「ねえ、2人とも」
「はい?」
「何ですか?」
俺は少し先に見える街の通りへ視線を向けた。
この1年、ヴェルグラードで暮らしてきた。
冒険者ギルドにも慣れた。
よく行く店も増えたし、街の道もほとんど覚えている。
それだけ、この街が俺たちにとって身近な場所になったということだ。
だからこそ。
「そろそろ、他の国も見てみない?」
2人が俺を見る。
「他の国、ですか?」
「うん」
俺は頷いた。
「この街で冒険者として生活するのも楽しいけど、せっかく冒険者になったんだ。ヴェルグラードだけじゃなくて、いろんな場所を見てみたい」
もちろん、転移魔法を使えば一瞬でどこへでも行ける。
だがそれでは、本当の意味で世界を知ることはできないのだろうと思う。
街道を歩き、馬車に乗り、知らない土地へ向かう。
そこで暮らす人たちと出会い、その土地の景色を見る。
そういう経験を、俺はまだほとんどしていないし、どうせならこの2人と一緒に経験したいと思っている。
「私は賛成です」
セレナがすぐに答えた。
「私も、いろいろな場所へ行ってみたいです。故郷以外の街も、もっと見てみたいと思っていましたし、お父さんも色々な国に行ったって言ってました」
「私も行きたいです!」
フリーダが勢いよく手を挙げる。
「一度学園都市にも帰らないとって思ってましたし、他の国なら珍しい魔法や魔道具があるかもしれません。大陸によって魔法の研究にも違いがあるでしょうし……」
「分かった分かった。フリーダが魔法大好きなのはもう知ってるから」
「まだ話している途中なんですけど……」
「続けると長くなるだろ」
「……否定できません」
フリーダが少し考え込む。
自覚はあるらしい。
「それじゃあ、少し長めの旅に出てみようか」
俺がそう言うと、2人とも頷いた。
「どのくらいの期間にしますか?」
「そこはこれから考えよう。まずは旅に必要なものを揃えないと」
「冒険者用の道具だけなら、今あるもので足りますよね」
セレナが少し考えるように言う。
「でも、長旅なら普通の旅行用品も必要になると思います」
「そうだな。衣類も必要だし、途中で宿が取れない場合のことも考えた方がいい」
「あと食料も」
フリーダが続ける。
「それから魔法の素材を入れる容器と、本と、筆記用具と……」
「フリーダ」
「はい?」
「今から全部考え始めると、今日だけで終わらなくなるぞ」
「……それもそうですね」
3人で顔を見合わせる。
自然と笑いがこぼれた。
「じゃあ、まずは旅支度だな」
「はい」
「楽しみです!」
瑪瑙級になった。
そして、次に向かう場所も決まった。
まだ行き先も、旅の日程も決まっていない。
それでも、これまでとは違う日々が始まることだけは分かる。
「それじゃあ、明日から準備を始めよう」
そう決めて、俺たちはいつもの道を歩き出した。
ヴェルグラードを出て、まだ見たことのない世界へ向かうために。