100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~   作:Fiomia

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旅支度

俺たちは朝食を終えると、居間に集まっていた。

昨日の話を具体的に進めるためだ。

 

「まずは、マルティナに話しておかないとな」

 

「そうですね」

 

セレナが頷く。

 

「長旅になるなら、屋敷を空けることになりますし」

 

「マルティナさんが一人で屋敷を守ることになりますね」

 

フリーダも少し心配そうに言った。

 

「まあ、屋敷の管理については問題ないと思うけどな」

 

マルティナはもともと、この屋敷を管理するために存在している精霊だ。

俺たちが冒険へ出ている間も、掃除や戸締まりなどを任せている。

 

とはいえ、今回はいつもの依頼とは違う。

数日で帰ってくるような外出ではなく、他国を巡るつもりだ。

帰る時期も決めていない。

さすがに一言伝えておく必要があるだろうな。

俺たちは居間を出て、マルティナを探した。

 

「お嬢様、何かご用でしょうか」

 

廊下を歩いていると、ちょうどマルティナが向こうからやってきた。

相変わらず隙のないメイド姿だ。

 

「うん。ちょっと話があるんだ」

 

「承知いたしました」

 

マルティナはその場で姿勢を正す。

 

「俺たち、しばらくヴェルグラードを離れることにした」

 

「まあ」

 

セレナとフリーダが頷く。

 

「他の国を見て回るために、少し長めの旅をする予定です」

 

「なるほど。では、留守中の屋敷はこちらにお任せくださいませ」

 

話が早い。

 

「お願いしても大丈夫?」

 

「もちろんでございます。お嬢様がお留守の間も、屋敷を普段通り維持しておきます」

 

「ありがとう。じゃあ、しばらく頼むよ」

 

「はい」

 

マルティナが丁寧に頭を下げる。

これで話は終わりだと思った。

ところが、セレナがふとマルティナへ尋ねた。

 

「そういえばマルティナさん、最近よく屋敷の外に出ていますよね?」

 

「はい」

 

「……は? 外に?」

 

俺はマルティナを見る。

 

「はい。現在は屋敷の近くであれば、屋敷から出て行動することが可能となっております」

 

「知らなかったんだけど……」

 

マルティナによると、屋敷とつながっているおかげで、ヴェルグラード内くらいなら多少離れても問題ないし、屋敷に異常があれば察知できる上、必要なら瞬時に戻ることもできるらしい。

……確かに管理精霊になってはもらったけど、そこまで細かく能力は設定してなかったんだが。

 

「それで、外へ出てどうしてるんだ?」

 

「主に買い物や、周辺の方々との交流を行っております。近隣の方々とのおつきあいは重要ですので」

 

「交流?」

 

思わず聞き返した。

 

「はい」

 

マルティナは何でもないことのように答える。

 

「屋敷の近隣にお住まいの方々とは、すっかり顔なじみになっております。先日も向かいのご婦人から焼き菓子をいただきました」

 

「焼き菓子?」

 

俺はセレナとフリーダを見る。

2人とも俺と同じような顔をしていた。

 

「商店の方々とも親しくしていただいております。雑貨屋の店主様には、新しい商品の入荷を教えていただくこともございますし、近くの食料品店ではおすすめの商品を教えていただいております」

 

「……いつの間に?」

 

俺が屋敷に帰ってきた時、そんな話を聞いた覚えはない。

そもそも、マルティナが近所の人たちと交流していること自体、今初めて知った。

 

「お嬢様が冒険者として活動されている間に、少しずつでございます」

 

「俺が知らない間に、ずいぶん街へ馴染んでたんだなあ」

 

「皆様、とても親切にしてくださいますので」

 

マルティナが穏やかに微笑む。

 

「それならまあ、留守中も安心だな」

 

「はい。お任せくださいませ」

 

どうやら俺が思っていた以上に、屋敷の管理は順調らしい。

それにマルティナも、ご近所さんとお付き合いできるなら寂しくはないだろう。

幽霊屋敷だった頃には考えられなかったことだ。

 

「では、私たちは旅の準備をしてきます」

 

セレナがそう言う。

 

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」

 

「行ってきます、マルティナさん」

 

フリーダも手を振る。

 

「いってらっしゃいませ、セレナ様、フリーダ様」

 

こうして俺たちは屋敷を出た。

まず向かったのは、青葉雑貨店だった。

冒険者として活動を始めた頃から何度も利用している店なので、必要なものを探すならここが一番手っ取り早い。

店内には冒険用の道具だけでなく、日用品や旅用品まで並んでいる。

 

「長旅なら、これくらいは必要かな」

 

俺は棚を見ながら必要なものを考える。

着替えを入れるための袋。

雨具に水筒、火を起こすための道具。

街道を歩くなら、普段の冒険よりも生活用品が必要になる。

 

「寝具も必要ですよね」

 

セレナが商品を見ている。

 

「宿が取れないことも考えるなら、外套くらいはあった方がいいと思います」

 

「そうだな」

 

「食器も持っていた方がいいでしょうか?」

 

「そこまで持つと荷物が増えすぎないか?」

 

「でも、野営するなら……」

 

セレナが真剣に悩み始める。

冒険者としての装備を考える時とは、少し違う顔をしていた。

 

「リコレット、これ!」

 

フリーダが別の棚から声をかける。

 

「何だ?」

 

「この小さな鍋、旅用なんですって。軽くて丈夫らしいですよ」

 

「へえ」

 

「それに、この容器は薬草を入れておくのに便利そうです。こっちは魔石を分類するために……」

 

「フリーダ、今日は魔法素材を買いに来たわけじゃないぞ」

 

「分かってます。でも旅先で珍しい素材が見つかったら困るじゃないですか」

 

「それは確かに困るな」

 

「でしょう?」

 

フリーダが満足そうに頷いた。

結局、彼女の荷物には薬草や素材を入れるための小袋がいくつか追加された。

セレナは実用性を重視して、丈夫な布袋や雨具を選んでいる。

 

俺は2人が選んだものを確認しながら、足りないものを補っていく。

こうして見ると、3人とも考え方が少しずつ違う。

セレナは旅先で困らないための備えを重視する。

フリーダは現地で何が手に入るかを想像して荷物を増やしていく。

そして俺は、2人の間で荷物の量を調整する。

 

「……これ、全部持っていくのか?」

 

フリーダが積み上げた小袋を見る。

 

「必要になるかもしれません」

 

「その『かもしれない』を全部採用すると、荷物がいくらあっても足りないぞ」

 

「うーん……」

 

フリーダが棚を見る。

 

「では、これは諦めます」

 

そう言って戻したのは、さっきまで真剣に悩んでいた小瓶だった。

 

「何に使うつもりだったんだ?」

 

「珍しい虫を見つけた時に……」

 

「旅先で虫を捕まえる予定まであるのか」

 

「あるかもしれません」

 

「そうか……」

 

否定しきれないのが困る。

セレナが隣で笑っている。

 

「フリーダらしいですね」

 

「セレナまで」

 

「だって、本当にフリーダらしいですから」

 

結局、必要なものを買い揃えて店を出た。

次に向かったのはアイゼン武具店。

冒険者としての装備を確認するためだ。

 

「3人とも瑪瑙級になったんだし、武具も少し見直しておこう」

 

店内に並ぶ武器や防具を眺める。

セレナは自分の剣を抜き、刃の状態を確認した。

 

「この剣なら、まだ大丈夫です」

 

「そうか?」

 

「はい。手入れもしてありますし、お父さんからもらった大切な剣ですから」

 

父親からもらった剣らしいからな。大事に使いたいんだろう。

フリーダも杖を確認する。

 

「私も大丈夫です。魔力を通した時の反応も問題ありません」

 

「なら、今回は武器は買い替えなしだな」

 

冒険者ランクが上がったからといって、何でも新しくすればいいわけではない。

今使っているものに問題がないなら、そのまま使った方がいい。

 

店を出た後は、旅用の服を探すことにした。

ここからは冒険者装備とは違う。

 

「これ、どうかな?」

 

セレナが服を手に取る。

 

「いいんじゃないか?」

 

「本当に?」

 

「うん。動きやすそうだし、旅にも向いてると思う」

 

「じゃあ、これにします」

 

セレナが嬉しそうに服を抱える。

フリーダはというと、服よりも店の端に置かれていた小物へ目を向けているみたいだ。

店を出ようとしたところで、フリーダが足を止めた。

 

「リコレット、ちょっと待ってください」

 

「ん?」

 

振り返ると、フリーダは店先に並べられた小物を覗き込んでいた。その中から、小さな花を模した髪飾りを手に取る。

 

「これ、可愛くないですか?」

 

淡い色合いの花飾りで、派手すぎない。確かに、フリーダが好きそうな品だ。

 

「可愛いですね」

 

セレナも隣から覗き込む。

 

「これなら3人でお揃いにしませんか?」

 

「3人で?」

 

嫌な予感がした。

 

「はい。せっかくこれから一緒に旅をするんですから、お揃いのものがあったら素敵だと思います」

 

「私は賛成です」

 

セレナまで乗ってしまった。

 

「いや、俺は別に……」

 

「リコレットも似合うと思いますよ」

 

「そういう問題じゃなくて……」

 

今の姿なら似合うことくらい分かっている。

それでも、中身は30歳の男だ。

可愛らしい花飾りを身につけて嬉しそうにしている自分を想像すると、どうにも落ち着かない。

 

「だってリコレットって、そんなに可愛いのにいつも地味な恰好ばかりですし」

 

「いやフリーダ、それはだな……」

 

「3人でお揃いだし、いいじゃないですか?」

 

セレナが髪飾りを手に取る。

 

「私もフリーダも着けます。リコレットだけ違うものだと、少し寂しいです」

 

「……う」

 

その言い方はずるい。

 

「ほら、リコレット」

 

フリーダがもう1つ同じ髪飾りを手に取る。

 

「せっかく旅に出るんですから」

 

「……分かったよ」

 

結局、2人に押し切られる形で、俺も同じ髪飾りを買うことになった。

 

「やった!」

 

「リコレットもこれを機会にもっと可愛くしましょうよ」

 

2人が嬉しそうに笑う。

俺は髪飾りを手の中で眺めながら、ため息をつきそうになったが、2人が嬉しそうなので止めておく。

……まあ、2人が喜んでいるならいいか。

 

「旅って、楽しみですね」

 

帰り道、セレナが買い物袋を抱えながら言った。

 

「うん」

 

「私、今まで故郷の村とヴェルグラードくらいしか知らなかったので、どんな場所へ行けるのか楽しみです」

 

「私もです」

 

フリーダが続ける。

 

「アルカディア以外の街に行くのも久しぶりですし、他の国の魔法がどうなっているのかも見てみたいです」

 

「フリーダは結局そこか」

 

「もちろんです」

 

即答だった。

セレナが楽しそうに笑う。

 

「リコレットは?」

 

「私?」

 

少し考える。

世界調律師としての修行中、カサンドラと一緒に、アルノーヴァの各地に転移で移動したことはある。

けれど、それは目的地へ移動して、必要なことを済ませるためだった。

こうして仲間と一緒に街道を進み、知らない土地を見て回る旅とは違う。

 

「私も楽しみだよ」

 

そう答えると、セレナとフリーダが嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、まずどこへ行きましょう?」

 

「それはこれから決めよう。まずは荷物をまとめて、それからギルドで依頼を探す」

 

「依頼ですか?」

 

「ああ。せっかくなら、ただ移動するより冒険者として依頼を受けながら行こう」

 

ヴェルグラードを出る。

知らない街へ行く。

そこでまた誰かと出会い、依頼を受け、魔物と戦い、時には寄り道もする。

それを想像すると、自然と足取りが軽くなった。

 

長い旅になるからこそ、急ぐ必要はない。

俺たちは買い物袋を手に、いつもの街並みを歩いて屋敷へ戻った。

明日から、旅立つための最後の準備を始めよう。

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