100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
護衛依頼
翌朝、俺たちは朝食を済ませると、さっそく冒険者ギルドへ向かった。
長旅の準備は昨日まででほぼ終わっている。あとは、ヴェルグラードを出るきっかけになる依頼を探すだけだ。
「どんな依頼があるでしょうね」
セレナが少し楽しそうに言う。
「できれば、行き先が決まっている依頼がいいな。街道沿いの護衛とか」
「そうですね。せっかくなら移動しながら報酬も貰える方が効率的です」
フリーダも頷く。
俺たちがギルドの掲示板へ向かうと、いくつかの依頼書が並んでいた。
魔物の討伐、薬草採取、迷宮探索、それから街道沿いの護衛。
その中に、見覚えのある地名があった。
「……クレストリア王国行きか」
依頼書には、ヴェルグラードからクレストリア王国へ向かう商人一家の護衛と書かれている。
報酬も悪くない。何より、俺たちがこれから向かおうとしていた方向と一致していた。
ヴェルグラードから他国に行くには、陸路でクレストリア王国へ行くか、海路で海洋国家スカルディアへ向かうかの2つ。
いきなり船に乗るよりも、まず隣国からのんびり旅するのがいいと3人で昨日相談していた。
「これ、ちょうどいいんじゃないですか?」
フリーダが依頼書を覗き込む。
「うん。条件も悪くない」
「クレストリアなら、私たちの行先と一緒ですね」
セレナがそう言ってから、ふと俺を見る。
「どうしますか、リコレット?」
「受けよう」
迷う理由は無いな。
クレストリア王国は俺にとって少し特別な場所だ。
あの国の森には、俺が100年近くを過ごした場所がある。
カサンドラの塔。
修行時代の大半をそこで過ごしたから、里帰りということになるのかなこれは。
……そういえば、カサンドラにも長いこと会っていないな。
世界調律師としての仕事や、塔を建ててからの冒険者生活で、こちらから会いに行く機会を作っていなかった。
せっかくクレストリアまで行くのなら、顔を出しておこう。
そんなことを考えながら、俺は依頼書を受付へ持っていった。
「こちらの護衛依頼を受けたいんですが」
「はい、確認しますね」
リーシャが依頼書へ目を通す。
「クレストリア王国までの護衛ですね。依頼主の方が、少し後にこちらへ来られる予定です。顔合わせをしていただいて、問題がなければ正式に受注という形になります」
「分かりました」
「ありがとうございます。では、こちらでお待ちください」
「そうだリーシャ」
「どうされました?」
「私たち、この依頼の後はしばらくヴェルグラードに戻らずに旅をしようと思うんだ」
「まあ」
「だから、次に会うのは少し先になると思う」
「わかりました。冒険者ですからね。寂しくなりますが、皆さん気を付けて行ってらっしゃい」
そんな話をリーシャとした後、俺たちは受付近くの椅子に腰を下ろして待つことにした。
しばらくすると、ギルドの入口から3人の姿が見えた。
30代半ばくらいの男性と、その隣にいる女性。そして、女性に手を引かれた小さな女の子だ。
「お待たせしました」
男性がこちらへ近づいてくる。
「ラングフォード商会のアルベルト・ラングフォードです。今回は護衛を引き受けていただけるとのことで、ありがとうございます」
「リコレットです。こちらがセレナとフリーダです」
「よろしくお願いします」
セレナが頭を下げる。
「よろしくお願いします」
フリーダも続いた。
アルベルトは3人を順番に見た。
俺たちは全員、どう見ても若い女の子だ。
特に俺は、見た目だけなら子供にしか見えない。
「……失礼ですが、本当にこの3人で?」
アルベルトが戸惑ったように尋ねる。
まあ、そうなるよな。
「リコレットさんたちは若いですが、しっかりと実績もありますよ」
リーシャもフォローしてくれる。
そこへ奥さんらしい女性が柔らかく笑った。
「あなた。この子たちなら大丈夫だと思うわよ?」
「いや、そうは言うが……少し若すぎないだろうか」
女の子ばかりで頼りない、とまではさすがに言わないらしい。
「心配ないわよ。この子たち見た目よりずっとしっかりしているわ」
「……わかった。マリアは人を見る目があるからな。信じるよ」
アルベルトが困ったように笑うと、先ほどの女性が話しかけてきた。
「妻のマリアです」
「よろしくお願いします」
俺たちも頭を下げる。
その間にも、俺は隣の女の子へ視線を向けた。
5歳くらいだろうか。
こちらをじっと見ている。
目が合うと、少女は少し首を傾げた。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「お姉ちゃん、すっごくかわいいね!」
満面の笑みだった。
「ありがとう」
俺は自然に笑い返して頭を撫でた。
少女は嬉しそうに目を細めている。
「リーナ、いきなり失礼だろう?」
アルベルトがたしなめる。
「でも、かわいいもん」
「そうね。リコレットさんはとっても可愛らしいわね」
奥さんのマリアにまで言われた。
……この流れ、俺が否定すると余計に面倒なやつだな。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
素直に受け取っておく。
リーナは俺の服や髪飾りを眺めている。
「そのお花もかわいい!」
「これ?」
俺は髪に着けた花飾りへ触れる。
昨日、セレナとフリーダに押し切られて買ったものだ。
「セレナとフリーダも同じのを着けてるよ」
「ほんとだ!」
リーナが2人を見る。
「3人ともお揃いなんだ!」
「そうですよ」
フリーダが嬉しそうに答える。
「仲良しだからな」
セレナも笑った。
リーナはしばらく俺たちを眺めていたが、やがて満足したように頷いた。
「リーナも大きくなったら、お姉ちゃんたちみたいな冒険者になりたい!」
「冒険者になりたいの?」
「うん!」
元気な返事が返ってくる。
アルベルトが少し困った顔をした。
「娘は冒険者に憧れていましてね。色々なところへ行って、色々なものを見たいと言って聞かないんです」
「それで今回、リーナも一緒に?」
俺が尋ねると、マリアが頷いた。
「はい。リーナももう5歳になりましたし、少しずつ遠出ができるようになりましたから」
「クレストリアにいる祖父母にも会わせたいんです」
アルベルトが続ける。
「私たちは商売でヴェルグラードとクレストリアを行き来していますが、娘を連れていくのは今回が初めてでして」
「なるほど」
家族旅行というわけか。
商人一家にとっては大切な旅なのだろう。
「任せてください。しっかり安全にクレストリアまでお送りしますよ」
俺がそう答えると、マリアが嬉しそうに笑った。
「お願いします」
こうして正式に護衛を引き受けることになった。
◇
翌朝、俺たちはラングフォード一家と合流し、クレストリア王国へ向けて出発した。
商人が使う荷馬車はそれほど大きくない。
荷台には商品が積まれていて、その後ろには旅に必要な荷物がまとめられている。
リーナは母親と一緒に荷台へ乗り、俺たちはその周囲を歩くことになった。
「お姉ちゃん!」
しばらく進んだところで、荷台からリーナの声が飛んでくる。
「どうした?」
「さっき、フリーダお姉ちゃんに魔法見せてもらったの。セレナお姉ちゃんには剣を見せてもらった!リコレットお姉ちゃんも魔法って使える?」
「使えるよ」
「見たい!」
即答だった。
5歳の子供からすれば、魔法は絵本や物語の中に出てくるものと大差ないのだろう。
俺は少し考えてから、指先に魔力を集めた。
一般的な術式を使う必要はない。
ただ、こういう時に派手な魔法を見せる必要もない。
小さな光をいくつか浮かべ、それを動物の形へ変えていく。
最初に作ったのは小さなウサギだった。
「わあ!」
リーナが身を乗り出す。
「ウサギさん!」
幻影のウサギは俺の手の上を跳ねるように動き、それから地面へ降りると街道を走っていく。
「待ってー!」
リーナが荷台から身を乗り出しかけた。
「リーナ、危ないですよ」
マリアが慌てて抱き止める。
「次は何がいい?」
俺が聞くと、リーナは目を輝かせた。
「犬!」
今度は小さな犬を作る。
犬は尻尾を振りながらリーナの周りを走り、やがてふわりと消えた。
「すごい!」
リーナは大喜びだった。
俺は営業時代、子供を相手にする機会なんてほとんどなかったが、甥や姪を持つ同僚の話を聞いているうちに、子供との接し方くらいは覚えていた。
要するに、相手が楽しんでいるうちは余計なことをしない。
そして、こちらが主導権を握りすぎない。
子供相手に大人の都合を押しつけても、だいたいうまくいかない。
「次は何がいい?」
「猫!」
「分かった」
今度は猫。
リーナが笑う。
セレナも楽しそうに見ている。
フリーダはというと、俺の手元をじっと見ていた。
幻影が消えると、フリーダが小さな声で呟く。
「……後で聞こう」
「何か言った?」
「いえ、何でもありません」
フリーダはそれ以上、何も言わなかった。
その目だけが、いつも以上に輝いている。
……まあ、たぶん今の魔法のことだろうな。
けれど、今は依頼中だからさすがに我慢しているらしい。
俺も特に触れず、そのまま街道を進んだ。
昼を過ぎ、休憩を挟みながらさらに進む。
リーナはすっかり俺に懐いたらしく、何かあるたびに話しかけてくる。
「お姉ちゃんは、どこから来たの?」
「ヴェルグラードだよ」
「ずっとヴェルグラードに住んでるの?」
「最近はね」
「クレストリアには行ったことある?」
「あるよ」
「どんなところ?」
「大きな街だよ。それに、森もたくさんある」
「森?」
リーナが興味深そうに聞き返す。
「うん。クレストリアには大きな森があるんだ」
そこには俺が100年間暮らした森もある。
久しぶりに訪れることになると思うと、少し懐かしい。
カサンドラは元気にしているだろうか。
そんなことを考えているうちに、日が傾き始めた。
今日はこの辺りで野営することになった。
「今夜はどうしましょう?」
セレナが荷物を降ろしながら尋ねる。
「3人で見張りを分担しましょう」
「なら俺は真ん中で」
「リコレットが真ん中ですか?」
セレナが首を傾げる。
「うん。最初はまだ明るいし、最後は朝が近い。私にとっては真ん中が一番眠りやすい時間帯だからね」
実際は真ん中は眠りが浅くなるから一番疲れる位置だ。
それを分かっているからか、セレナが躊躇する。
「でも……」
「大丈夫。こういうのは慣れてる」
「わかりました。じゃあ私が最初にする」
「それじゃ私が最後ね」
肉体的な疲労や睡眠不足は魔法でどうにかなるので、世界調律師にとっては問題にはならない。
だから、本当は俺が夜通し警戒しても問題ないが、それでは2人が納得しないだろうし、ずっと徹夜を続けるのも不自然だ。
だったらせめて、一番疲れるポジションは俺が担当するべきだろう。
「決まりですね」
セレナが頷いた。
「最初は私、その次がリコレット、最後がフリーダです」
「うん。それでいこう」
夕食を済ませ、ラングフォード一家が休む。
俺たちは交代で見張りにつくことになった。
こうして、クレストリア王国への旅は始まった。
まだ道のりは長い。
けれど、隣を歩くセレナとフリーダ、それに荷台から時々聞こえてくるリーナの楽しそうな声を聞いていると、今回の旅も退屈することはなさそうだと思った。