100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
カサンドラの森から戻って数日。
俺はセレナとフリーダをギルドに残して、1人で王都クレストリアの街を歩いていた。
2人が依頼を探している間、今のうちにこの街で必要なものを確認しておこうと思っている。
何せ、セレナとフリーダが一緒だと、買い物1つでもそれなりに時間がかかる。
特にフリーダは魔法関連の品を見つけると足を止めるし、セレナはセレナで、結構可愛い服やアクセサリーが大好きだ。
女の子の買い物というのは、どこの世界でも時間がかかるものだな。
そんなことを考えながら歩いていると、通りの角を曲がったところで不意に誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
小さな身体が俺の胸元へ飛び込んでくる。
反射的に腕を伸ばして、その身体を支えた。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい!」
顔を上げた少女は、セレナやフリーダと同じくらいの年頃に見えた。
ただし、身につけている服は明らかに上等だ。
貴族の令嬢か、それとも裕福な商家の娘だろうか。
そんなことを考えていると、少女は俺の腕を掴んだ。
「お願い! 助けて!」
「……はい?」
「追われてるの!」
少女は来た道を振り返る。
その顔には、さっきまでの申し訳なさとは違う焦りが浮かんでいる。
俺も視線を向けると人通りの向こうに、数人の男が見えた。
鎧を着ているわけではないが、明らかに何かを探しているようだ。
そして、そのうちの1人がこちらへ顔を向けた。
少女の手に力が入る。
「お願い、隠して!」
状況はだいたい分かった。
この子が何か悪いことをしたようには見えないし手助けするか。
「分かった」
俺は少女の手を引いた。
「こっち」
「え?」
「少しだけじっとしてて」
通りから少し外れた建物の陰へ移動する。
俺は周囲から見たとき、そこに人がいることを認識しにくくする程度の幻影を重ねた。
高度な術式を使う必要はない。この程度の魔法で十分だ。
少女の姿が周囲の景色に溶け込む。
「これで大丈夫」
「……すごい」
少女が目を丸くした。
「やっぱり魔法使いだったんだ」
「うん、音は消せないから静かにしててね」
俺が小声で答えている間に、男たちが通りを通り過ぎていく。
「この辺りに来たはずなんだが」
「別の道へ行ったんじゃないか?」
そんな声が聞こえたものの、こちらへ近づいてくる気配はない。
しばらく待ってから、俺は術式を解いた。
「もう大丈夫だと思う」
「……ありがとう」
「じゃあ、私はもう行くね」
「え?」
「追われている理由まで聞くつもりはないから。気をつけて帰ってね」
手助けとしては、こんなところで十分だろう。
……と考えて立ち去ろうとすると、少女に呼び止められた。
「待って!」
「どうしたの?」
「……少しだけ話をしてもいい?」
なんだろう。どうも面倒な予感がするな。
◇
「うーん。それじゃ聞くけど、どうして追われてたの?」
「……それは」
少女は言い淀む。
おおよそ察するものはあるが、話したくないんだろうな。
「言いたくないなら無理に聞かないけど」
「ううん。助けてもらったから、それくらいは話す」
少女は立ち上がり、服についた埃を払った。
「私、ヴィヴィアン」
「私はリコレット。冒険者だよ」
「可愛い名前だね。それにしても冒険者かあ……」
「うん。これからギルドへ戻るところ」
「ギルドに?」
「そう。仲間が待ってるから」
「仲間って?」
「私の他に女の子が2人。3人でパーティを組んでるんだ」
「……そうなんだ」
「冒険者がどうかした?」
「私、冒険者に憧れてるんだ」
「冒険者に?」
「うん!」
さっきまで追われていた人間とは思えないくらい、声が弾んでいる。
「街の外へ行って、魔物を倒したり、知らない場所へ行ったりするんでしょう?」
「まあ、そういう仕事だからね」
「色んな街に行ったりもする?」
「するよ。私たちは今、旅をしてるから」
そう答えると、ヴィヴィアンはますます嬉しそうになった。
「いいなぁ……」
その顔を見ると、本当に冒険者になりたいらしい。
ただ、気になることがある。
「それなら、どうして登録しないの?」
「それが……できなかったの」
「できなかった?」
「うん」
ヴィヴィアンは少し困ったように眉を下げた。
「私、家から逃げてきたの」
「家出?」
「そう。家にいると、色々と決められちゃうから」
「冒険者になりたいって言ったら、反対された?」
「それもあるけど……私のこれからについて、全部家の人が決めるの」
「それが嫌で?」
「うん。自分で見て、自分で決めてみたいの」
なるほど。
貴族の娘なら、そういうこともあるのかもしれない。
「それで冒険者になろうと思ってギルドへ行ったんだけど、登録できないって言われたの」
「年齢?」
「違うと思う。私、15歳だから」
なるほど、それなら普通は冒険者登録はできるな。俺みたいに幼く見えるわけではないし。
大方、家名がばれるとかそういうのだろうと思うが、敢えて聞いてみる。
「じゃあ、何が理由だったの?」
「身元を証明できないから、って」
「なるほど」
家から逃げてきたなら、身分証明ができないのも当然か。
創世神教会へ行けば年齢証明は発行できるが、それも無理だろうなあ。
「でも、冒険者になりたいんでしょう?」
「うん」
ヴィヴィアンは即答した。
「私、ずっと憧れてたの。お城……じゃなくて、家の中にいるより、外の世界を見てみたい」
この子、今何か言い直したな……。
まあ、深くは聞かないでおこう。
家から逃げてきた貴族の娘。
そのくらいの認識でいい。
「だったらさ。私たちと冒険してみる?」
「……私が?」
「うん。正式な冒険者としてじゃなくて、私たちと一緒に行動するだけ」
ヴィヴィアンは少し考え込んだ。
「……本当にいいの?」
「もちろん。ただし、私の仲間が良いって言ったらね。それから、危険なことはしない」
「危険なことはしないんだ?」
「冒険者だっていつも戦ってばかりじゃないよ。まずは簡単な依頼から」
「……それなら」
ヴィヴィアンが顔を上げる。
「お願いしてもいい?」
「あとは、正式な冒険者登録が出来ないなら、私たちの仲間として一緒に行動するだけになる。それでもいい?」
「それでもいい!」
食いつくのが早い。
それにヴィヴィアンが何者なのかは分からないが、少しくらいの自由な時間を満喫させてあげても良いんじゃないか。そんな風に思った。
「本当に?」
「本当!」
ヴィヴィアンは俺の両手を掴んだ。
「ありがとう、リコレットちゃん!」
「ちょっと待って。まだ仲間に確認してないから」
「あ……そうだよね」
「あと少しは人を疑わないと。もし私が悪者だったらさらわれちゃうよ?」
釘も刺しておこうか。
「大丈夫。リコレットちゃん悪い人には見えないもん」
「だとしても、だよ」
「うん、わかった。でもリコレットちゃんは大丈夫だよね」
「まあそうだけど……」
セレナとフリーダに何て説明しようかな。
さっきまで追われていた少女を拾ってきました、なんて言ったら2人はどんな顔をするだろうか。
「ねえ、リコレットちゃん」
「何?」
「冒険者って、どんなことするの?」
ヴィヴィアンが期待に満ちた目で尋ねてくる。
「色々だよ。魔物を倒すこともあるし、人を護衛することもある。薬草を採ったり、迷宮へ行ったりもする」
「薬草?」
「そう。冒険者だからって、毎日魔物と戦うわけじゃないからね」
「へえ……」
ヴィヴィアンは興味深そうに聞いている。
「じゃあ、朝から街の外へ行ったりするの?」
「依頼によるかな」
「野宿したり?」
「することもある」
「魔物と戦ったり?」
「それもある」
「すごい!」
目が輝いている。
俺は思わず笑ってしまった。
「そんなに珍しいものじゃないよ」
「私には珍しいの!」
その言葉には、妙な説得力があった。
きっと、この子にとっては本当に知らない世界なのだろう。
「じゃあ、まずはギルドへ行こうか」
「え?」
「仲間に紹介するよ」
「うん!」
ヴィヴィアンは元気よく頷いた。
俺たちは並んで歩き始める。
街の大通りへ戻ると、さっきまで追いかけていた男たちはもう見えなくなっていた。
念のため周囲を確認する。
問題はない。
「ねえ、リコレットちゃん」
「何?」
「私も、ちゃんと冒険者できるかな?」
「それはこれから分かるんじゃない?」
「そうだね!」
ヴィヴィアンは笑った。
その表情を見ながら、俺は少し考える。
家から逃げてきた貴族の娘。
事情は色々ありそうだが、本人が冒険をしたいという気持ちは本物らしい。
それなら、少しくらい付き合ってもいいだろう。
俺たちの旅も、こんな感じの出会いから始まったのだから。