100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
「……それで、この子がヴィヴィアン?」
ギルドへ戻ると、依頼を探していたセレナとフリーダが、俺の隣にいる少女へ視線を向けた。
「うん。さっき街で知り合ったんだ」
「知り合ったって……」
セレナの視線が俺とヴィヴィアンを行き来する。
「どういう経緯で?」
「追われていたから助けたんだ」
「追われていた?」
フリーダが興味深そうに身を乗り出す。
「何か事件に巻き込まれたんですか?」
「事件というほどじゃないよ。家から逃げてきたらしくて」
「家出……?」
セレナが少し驚いたように呟いた。
ヴィヴィアンは2人へ向かって頭を下げる。
「はじめまして。ヴィヴィアンです」
「私はセレナ。よろしくね」
「フリーダです。よろしくお願いします」
セレナは少し緊張した様子だったが、ヴィヴィアンが笑顔を向けるとすぐに表情を和らげた。
「リコレットから話は聞いたけど、冒険者になりたいんだよね?」
「はい!」
「でも、冒険者登録はできなかったんだよね」
「身元を証明できないからって言われました」
ヴィヴィアンが少しだけ困った顔をする。
「家から逃げてきたので、家名を出すわけにもいかなくて……」
「なるほど」
フリーダが納得したように頷いた。
「それなら仕方ありませんね。冒険者登録には年齢の証明も必要ですから」
「だから、私たちと一緒に行動してみないかって誘ったんだ」
俺が説明すると、セレナはヴィヴィアンを見た。
「危険なこともあるけど、それでもいいの?」
「はい!」
返事が早い。
「……本当に冒険者になりたいんだね」
「ずっと憧れてたんです。街の外へ行って、色んなものを見て、色んな人と出会って……そういう生活をしてみたくて」
ヴィヴィアンの目は本気だった。
セレナは少し考えてから、俺へ視線を戻す。
「リコレットが大丈夫だと思ったなら、私はいいよ」
「私も構いません」
フリーダも頷いた。
「ただ、危険な依頼は駄目です。ヴィヴィアンは正式な冒険者ではありませんから」
「分かってる。今日は簡単な依頼にしよう」
「はい!」
ヴィヴィアンが嬉しそうに笑った。
それを見ていると、こちらまで少し楽しくなってくる。
「じゃあ、依頼を探そうか」
俺たちは掲示板へ向かった。
「これなんかどう?」
セレナが指差した依頼書には、薬草採取と書かれている。
冒険者なら誰でも一度は受けるような、ありふれた依頼だ。
「いいと思います」
フリーダも賛成する。
「薬草ならヴィヴィアンも一緒にできますし、魔物と遭遇する可能性も低いです」
「薬草採取……」
ヴィヴィアンが依頼書を覗き込む。
「これも冒険者の仕事なんですか?」
「そうだよ」
「魔物を倒すだけじゃないんですね」
「むしろ、こういう依頼の方が多いんじゃないかな」
俺たちが普段受けている依頼も、討伐ばかりではない。
街の人から頼まれた仕事をこなし、その報酬で生活する。
冒険者といっても、実態は便利屋に近いところがある。
「じゃあ、これにしよう」
依頼書を受付へ持っていき、手続きを済ませる。
それから必要な道具を揃え、俺たちは王都の外へ向かった。
門を抜けた瞬間、ヴィヴィアンが立ち止まった。
「……わあ」
目の前に広がっているのは、街の外に続く草原だった。
風に揺れる草。
遠くに見える森。
街道を行き交う馬車。
王都の中から眺める景色とは、まるで違って見える。
「これが……街の外」
「そうだけど?」
「本当に出られた……」
ヴィヴィアンはしばらく景色を眺めていた。
俺はその様子を見て、少しだけ不思議な気持ちになる。
俺たちにとっては何度も見てきた光景だ。
けれど、おそらく城の中で暮らしていた彼女にとっては、これだけでも十分に冒険なのだろう。
「ほら、行きますよ」
フリーダが先に歩き出す。
「薬草はこの辺りでも採れます。見分け方は分かりますか?」
「分かりません!」
「では教えますね」
フリーダが地面にしゃがみ込み、似たような草をいくつか並べた。
「これが依頼の薬草です。葉の形が似ているものもありますが、茎の色が少し違います」
「本当だ」
ヴィヴィアンもしゃがみ込む。
「こっちは?」
「それは違います。似ていますけど別の草です」
「じゃあ、これは?」
「正解です」
「やった!」
フリーダが先生役になるのは、こういうとき妙に様になる。
「セレナさんは採取が得意なんですか?」
「え? うん。故郷でも薬草を採ることがあったから」
「すごい」
「そんなに難しくないよ」
「私にも教えてください!」
「もちろん」
セレナが採取した薬草を見せながら、根を傷めない抜き方を説明している。
ヴィヴィアンはそれを真剣に聞いていた。
俺は少し離れた場所で周囲を警戒しながら、3人の様子を眺める。
なんだか、いつもの冒険とは少し違う。
いつもなら魔物の気配を探りながら、依頼を効率よく終わらせることを考えている。
今日はヴィヴィアンがいるせいか、少しだけ時間がゆっくり流れているように感じた。
「リコレットちゃん!」
「ん?」
「これ、採れました!」
ヴィヴィアンが嬉しそうに薬草を掲げる。
「ちゃんと依頼の薬草だね」
「やった!」
「じゃあ、その調子で集めよう」
「はい!」
それからしばらく、俺たちは4人で薬草を集めた。
途中で昼になり、街から持ってきたパンを食べる。
ヴィヴィアンはそれすら楽しそうだった。
「外で食べるだけなのに、なんだか特別ですね」
「そう?」
「はい。いつもは食事をする場所も決まっていたので」
「そういうものなのか」
貴族の生活というのは、やっぱり色々と決まりがあるらしい。
俺たちにとっては宿で買ったパンを適当に食べるだけでも、ヴィヴィアンにとっては新鮮な経験になる。
「冒険者って、毎日こんな感じなんですか?」
「依頼によるけど、似たような日は結構あるよ」
「いいなぁ」
「そんなに?」
「はい。自分で今日何をするか決められるって、すごく楽しそうです」
その言葉に、俺は少しだけ考えた。
冒険者生活には危険もある。
魔物に襲われることもあるし、怪我をすることだってある。
それでも、誰かに決められた道を歩くのではなく、自分たちで進む方向を選べる。
ヴィヴィアンが憧れているのは、案外そこなのかもしれない。
「3人はどうやってパーティを組んだんですか?」
ヴィヴィアンが、ふと思い出したように尋ねる。
「私は故郷を出て冒険者になって、そこでリコレットと出会ったんだ」
セレナが答えると、フリーダも続ける。
「私は学園都市で魔法を勉強していたんですが、素材を集めるために冒険者活動を始めたら、いつの間にかヴェルグラードにいたんです。そこでリコレットたちと一緒になりました」
「じゃあ、最初から3人で?」
「ううん。最初は私とリコレットの2人だったよ」
「そうそう。そこへ私が加わったんです」
2人の話を聞いていたヴィヴィアンが、俺へ視線を向ける。
「じゃあ、リコレットちゃんがリーダーなんですね。こんなにちっちゃくて可愛いのに」
「……」
俺は何とも言えない表情でヴィヴィアンを見る。
別に間違ってはいない。
ただ、今の言葉にはどうしても引っかかるが、口に出すのは別のところで抗議する。
「リーダーっていうか、3人で相談して決めてるだけだよ」
「でも今日一緒にいて思いました。リコレットちゃんが一番頼りになりそうです」
「……そう」
セレナもフリーダもうんうんと頷く。
褒められているはずなのに、素直に喜べない。
見た目についてまで一緒に評価されると、どうにも複雑な気分になるのだった。
◇
その後も採取を続け、必要な量を集め終えたところで、俺たちは街へ戻ることにした。
「これで依頼達成ですね」
セレナが採取した薬草を確認する。
「思ったより早く終わりましたね」
「4人でやったからね」
「私も役に立てましたか?」
ヴィヴィアンが少し不安そうに尋ねる。
「もちろん」
「本当に?」
「うん。ちゃんと薬草を見分けられるようになったし、採取も上手だったよ」
「よかった……」
ヴィヴィアンが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私も冒険者の仲間みたいですね!」
「みたいというか、一緒に依頼をこなしたんだから、仲間だよ」
「やった!」
セレナも笑い、フリーダも楽しそうに頷いている。
街道を歩きながら、ヴィヴィアンは今日の出来事を何度も話していた。
薬草を見つけたこと、自分の足で街の外へ出たこと、外で昼食を食べたこと。
どれも特別な出来事ではない。
魔物を倒したわけでもなければ、珍しい場所を探索したわけでもない。
それでもヴィヴィアンにとっては、忘れられない1日になったらしい。
「じゃあ、今日は冒険者らしいことができたかな?」
「はい!」
ヴィヴィアンは満面の笑みで頷いた。