100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
「次はどんな依頼にしましょうか」
フリーダが依頼掲示板を眺めながら言う。
「せっかく瑪瑙級になったんだから、少し難しい依頼を受けてみてもいいんじゃない?」
「そうだね。でも、いきなり危険な依頼にする必要もないと思う」
セレナも掲示板を見上げる。
俺も並んで依頼書を眺めた。
魔物の討伐、街道の護衛、素材の採取。
瑪瑙級になったことで受けられる依頼の幅はかなり広がっている。ヴェルグラードにいた頃なら、まだ手を出さなかったような依頼も混ざっていた。
その中で、少し変わった依頼書が目に入った。
「……倉庫の調査?」
依頼書を手に取る。
内容は、王都にある商会の倉庫で不可解な現象が起きているため、その原因を調査してほしいというものだった。
「怪異、ですか?」
フリーダが横から覗き込む。
「そう書いてあるね」
「幽霊屋敷みたいなものでしょうか」
「なんだか似てるね。でもこっちは向こうと違って最近の依頼みたい」
俺は依頼書を裏返した。
依頼主の名前を確認する。
そこには、見覚えのある名前が書かれていた。
「……ラングフォード商会」
「ラングフォード?」
セレナが首を傾げる。
「前に護衛した商会だよ」
「ああ、あの……」
セレナも思い出したらしい。
クレストリアへ向かう途中、俺たちが護衛した商人一家。アルベルトさんと、その娘のリーナ。
「リーナちゃん、元気でしょうか」
フリーダが少し嬉しそうに言った。
「前に会ったとき、また冒険のお話を聞かせてって言ってましたよね」
「そうだったね」
依頼書を見る限り、場所も王都の中だ。
断る理由はない。
「行ってみようか」
「はい」
「うん」
俺たちは受付で依頼を受けると、ラングフォード商会へ向かった。
◇
ラングフォード商会は、王都の中でも比較的大きな建物だった。
表には商会の看板が掲げられ、出入りする従業員も多い。
「ここだよね」
セレナが建物を見上げる。
「うん。間違いない」
中へ入ると、受付らしい男性が声をかけてきた。
「冒険者の方ですね。倉庫の調査依頼を受けていただいた方でしょうか」
「はい。今日から調査に入ります」
「ありがとうございます。では、こちらへ――」
そのとき聞き覚えのある声が響いた。
「リコレットお姉ちゃん!」
振り返ると、廊下の向こうから小さな女の子が駆けてくる。
「リーナちゃん、こんにちは」
リーナは俺のところまで走ってくると、そのまま勢いよく抱きついてきた。
「また会えた!」
「久しぶりだね」
「うん!」
顔を上げたリーナが、今度はセレナとフリーダを見る。
「セレナお姉ちゃんも、フリーダお姉ちゃんもいる!」
「こんにちは、リーナちゃん」
セレナが笑顔で手を振る。
「元気そうですね」
フリーダもしゃがんで目線を合わせた。
「リーナ元気だよ!」
リーナは満面の笑みを浮かべる。
「リーナに会いにきてくれたの?」
「それもあるけど、冒険者として依頼を受けてきたんだ。倉庫の調査だよ」
「倉庫?」
リーナが首を傾げる。
「うん。なんだか変なことが起きているらしくてね」
「じゃあ、私も手伝う!」
即答だ。
元気だな。
「え?」
「私も一緒に行く!」
リーナは俺の服を掴んだまま、期待に満ちた目でこちらを見る。
この反応、前に会ったときとまったく変わっていない。
冒険者に憧れているという話は、本当らしい。
「リーナ」
少し離れたところから、男性の声が飛んできた。
振り返ると、アルベルトさんがこちらへ歩いてくる。
「お久しぶりです」
俺たちが挨拶すると、アルベルトさんも穏やかに笑った。
「これは驚いたな。まさか君たちが依頼を受けてくれるとは」
「こちらこそ、またお会いできて嬉しいです」
「以前の護衛では世話になった。あのときは本当に助かったよ」
アルベルトさんはそう言ってから、リーナを見る。
「リーナ。お姉ちゃんたちは遊びに来たんじゃないんだぞ」
「分かってるもん」
「倉庫には入らないでいなさい」
「せっかくリコレットお姉ちゃんが来てるのに……」
アルベルトさんは困ったような顔をする。
「今回の依頼は、少し事情が特殊でね」
俺たちは応接室へ案内され、そこで詳しい話を聞くことになった。
「異変が起き始めたのは、1週間ほど前だ」
アルベルトさんが説明する。
「最初は、倉庫に置いてあった箱が別の場所へ移動していた」
「誰かが動かしたというわけじゃないんですね?」
セレナが尋ねる。
「最初はそう思った。従業員が間違えて移動したのだろうとね」
アルベルトさんは首を横に振った。
「ところが、誰も触っていないはずの箱が、翌日には別の場所に移っている。しかも、箱だけではない」
「他にもあるんですか?」
「商品の積み方が変わっていることがある」
「積み方?」
「例えば、同じ種類の商品をまとめて置いていたはずなのに、翌朝には別の商品と入れ替わっている。棚から床へ移されていたり、逆に高いところへ積まれていたりすることもある」
それだけなら、誰かが悪戯している可能性も考えられる。
だが、次の話は少し違った。
「夜になると、倉庫から物音がするようになった」
「どんな音ですか?」
フリーダが身を乗り出す。
「箱を引きずるような音だ。何かが床を歩くような音が聞こえることもある」
「中を確認しなかったんですか?」
「もちろん確認した」
アルベルトさんは苦い顔をした。
「最初は私自身が見に行ったし、従業員にも確認させた。しかし、誰も何も見つけられなかった」
「でも、物は動いている」
「そういうことだ」
アルベルトさんは腕を組んだ。
「商売をしている以上、商品が勝手に動くのは困る。何より、従業員たちが怖がってしまってね」
「それで冒険者に依頼したんですね」
「最初は自分たちで原因を突き止めようと思っていたんだが、誰も倉庫へ入りたがらなくなった。仕事にならないから、外部へ依頼することにした」
なるほど。
話を聞く限り、怪異というより、何者かが倉庫へ侵入している可能性もある。
ただ、誰も見ていないのに物が移動しているというのが気になる。
「倉庫の中を調べてみます」
「頼む」
俺が答えると、横からリーナが手を挙げた。
「私も行く!」
「駄目だ」
アルベルトさんが即答する。
「なんで?」
「危ないからだ」
「でも、リコレットちゃんたちがいるよ?」
「それでも駄目だ」
「むう……」
リーナが頬を膨らませる。
前に会ったときから変わらないな。
俺は少し考えてから、アルベルトさんへ声をかけた。
「リーナちゃんが倉庫の中を見たいということなら、条件を決めて同行してもらうのはどうですか?」
「リコレット?」
「私たち3人が一緒にいます。それに、倉庫から外へ出ないようにします」
「だが……」
「危険なものが見つかった場合は、すぐにリーナちゃんを外へ出します」
アルベルトさんはしばらく考えていた。
リーナは期待するように父親を見つめている。
「……分かった。ただし、絶対に倉庫から出ないこと」
「やったあ!」
「それから、君たちが必ず見ていてくれ。頼んだ」
「もちろんです」
「お任せください」
リーナが嬉しそうに跳ねる。
アルベルトさんはそんな娘を見て、少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「えへへ、またリコレットお姉ちゃんといっしょ」
「よろしくねリーナ」
俺はそう言ってリーナの頭を撫でた。
「それじゃあ、倉庫へ案内しよう」
応接室を出て、リーナと手を繋いだまま商会の奥へ向かう。
表の明るい雰囲気とは違い、奥へ進むほど人の気配が少なくなっていく。
やがて大きな扉の前で、アルベルトさんが足を止めた。
「ここが問題の倉庫だ」
扉には鍵が掛かっている。
アルベルトさんが鍵を開けると、重い音を立てて扉が開いた。
「……広いね」
セレナが中を覗き込む。
棚や木箱が並び、様々な商品が整理されている。
少なくとも、今見た限りでは特におかしなところはない。
フリーダも中を見回していた。
「……何かいるような気はします」
「そうだね」
俺も同じ感覚を覚えていた。
はっきりとした魔力反応があるわけではない。
ただ、倉庫の奥に何かがいるような、微かな違和感が残っている。
やはりヴェルグラードのうちの屋敷……が、幽霊屋敷だった頃に近い雰囲気がある。
リーナはそんな俺たちの様子には気づかず、目を輝かせながら倉庫の中を見回していた。
「すごい……いっぱいある!」
「リーナ、勝手に走り回らないでね」
「はーい」
俺は倉庫の中へ足を踏み入れる。
まずは何が起きているのかを確認しよう。
物が勝手に移動しているなら、最初にやるべきことは決まっている。
今、ここに何があって、どこに置かれているのか。
それを把握するところから始めよう。
「じゃあ、調査を始めようか」
「はい!」
「うん!」
「わたしも!」
俺たちはそれぞれ倉庫の中へ散らばり、奇妙な現象の調査を始めた。