100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
「そうですねえ……せっかくだからうちの両親も紹介します!」
フリーダはそう言うと、俺たちを連れて歩き始めた。
アルカディアへ来たばかりだというのに、早くもフリーダの昔を知る人物と出会い、さらに実家へ招かれることになった。旅先で昔の知り合いに再会すること自体は珍しくないのかもしれないが、俺たち3人の場合、フリーダの過去を知る人間と会うたびに、彼女の魔法好きがどこから来たのかが明らかになっていく気がする。
「フリーダのご家族って、どんな人たちなの?」
セレナが尋ねる。
「父は魔法学の教授です。母は学院の事務員で、兄は天文塔で研究員をしています」
「みんな学院関係なんだ」
「アルカディアに住んでますからね」
「じゃあ、フリーダも昔から魔法が好きだったんだ」
「もちろんです!」
返事が早い。
「子供の頃から魔法の本ばかり読んでました。父が研究室に持っていた資料を勝手に読んで怒られたこともあります」
「それ、怒られるんだ……」
「内容が難しすぎるからって」
「そういう問題なんだ」
俺が思わず口を挟むと、フリーダは少しだけ考えるような顔をした。
「……でも、父が読んでいいと言った資料は全部読んでましたよ?」
「そういうところだよ」
どうやら昔から筋金入りらしい。
やがてフリーダが立ち止まったのは、学院から少し離れた住宅街にある白い家の前だった。
「ここです」
「結構大きいね」
セレナが建物を見上げる。
「4人家族ですからね」
フリーダが扉を開ける。
「ただいまー!」
返事はすぐに返ってきた。
「フリーダ?」
穏やかな女性の声とともに、奥から40代くらいの女性が姿を見せる。フリーダと同じ青紫色の髪ではないが、どこか雰囲気が似ていた。
「久しぶり、お母さん」
「まあ、この子ったら本当に突然。連絡くらいしなさいって、何度も言ったでしょう?」
「ごめんなさい」
フリーダが素直に頭を下げる。
その後ろから、別の男性が顔を出した。
「フリーダが帰ってきたのか?」
「お父さん」
男性は40代後半くらいで、教授という肩書きから想像していたよりもずっと気さくな印象だった。
「いきなり家を飛び出して行きおって。少し背が伸びたか?」
「まだ成長期だから!」
「分かっているとも」
父親は笑いながら近づいてきたが、ふと俺たちへ視線を向けた。
「そちらは?」
「パーティの仲間だよ。今一緒に旅してる。」
フリーダが俺たちを紹介する。
「こっちの小さな子がリコレット。こっちがセレナ」
「初めまして。リコレット・グランセルです」
「セレナ・フォルティスです。お邪魔します」
セレナと俺はなるべく丁寧に頭を下げた。
社会人は第一印象が大切だ。
「ヴィルヘルム・ライヒェルトだ。フリーダの父親だよ。こちらは妻のクラウディアだ」
「よろしくね」
クラウディアが柔らかく笑う。
「それから、兄さんは?」
「研究所じゃないかしら。今日は遅くなるって言ってたわ」
「そっか」
「お兄さんは天文塔に勤めているんでしたよね?」
俺が尋ねると、ヴィルヘルムが嬉しそうに頷いた。
「そうなんだ。フェリクスは天文学を研究していてね。私とは違う分野だが、なかなか面白い研究をしている」
そんな話をしていると、丁度玄関先から声がした。
「ただいま」
「あら、帰ってきたわ。遅くなるって言ってたのに」
フリーダの兄らしい。
入ってきたのは20代後半くらいの青年だった。手に資料の束を抱えている。
「……フリーダ?」
「兄さん、ただいま!」
「帰ってきたのか」
「久しぶり」
「久しぶりだな。冒険者になったって聞いたけど、本当だったのか」
「本当だよ」
「そうか」
フェリクスは妹を見て、それから俺たちへ視線を移した。
「こちらがパーティの仲間かい?」
「うん。リコレットとセレナ」
「初めまして」
フェリクスも挨拶を返すと、少しだけ安心したような表情を見せた。
「妹が迷惑をかけてない?」
「えっと……」
俺が答える前に、セレナが苦笑した。
「魔法の話になると、すごく楽しそうです」
「それなら大丈夫だ」
フェリクスは即答した。
「それは昔からだから」
「兄さんまで!」
「だって事実だろう」
フェリクスが呆れた顔をする。
クラウディアはそんな2人を眺めながら、楽しそうに笑っていた。
「この家ではいつものことよ」
「お母さんは止めないんですか?」
セレナが思わず尋ねる。
「止める必要がある?」
「……ないんですか?」
「私には魔法の才能があまりないから、聞いていてもよく分からないもの。でも、フリーダが楽しいならそれでいいと思うの」
なんとも大らかな母親だ。
まあ、家族からの評価も一貫しているな。
俺は少し笑いながら、その様子を眺めていた。
◇
しばらく話した後、夕食をごちそうしてくれることになった。
夕食の席では、自然とフリーダの学生時代の話になる。
「フリーダは昔から、授業が終わるとすぐ研究室へ行っていたわね」
クラウディアが話す。
「エステルちゃんも一緒だったでしょう?」
「懐かしいなあ。よく2人で魔法の話をしてた」
「授業で習ったことだけじゃ足りないって言って、2人で術式を弄ってたな」
フェリクスが続ける。
「父さんの研究資料まで持ち出して」
「ちゃんと許可は取ってたよ」
「最初の頃はな」
「……」
フリーダが黙る。
どうやら何か心当たりがあるらしい。
「それで、結局どうなったんですか?」
セレナが興味深そうに尋ねる。
「魔力の流れを少し変えたら術式の効率が上がるんじゃないか、という実験をしていたんだ」
ヴィルヘルムが答える。
「結果は?」
「失敗しました」
「そこは失敗するんですね」
「当然だろう。研究というのは失敗の積み重ねだ」
そう言いながら、ヴィルヘルムは楽しそうだった。
「ただ、そのときフリーダが考えた着眼点は面白かった。あの頃から魔法に対する感覚だけは鋭かったんだ」
「父さん、それ褒めてる?」
フェリクスが口を挟む。
「もちろん褒めている」
「じゃあ、あのときフリーダが研究室を滅茶苦茶にした話は?」
「それは別の話だ」
「やっぱりそういう話があったんですね……」
セレナが困ったようにフリーダを見る。
「昔の話でしょ!」
「フリーダが冒険者になったと聞いたときも、私は驚かなかったわ」
クラウディアが言う。
「魔法の素材を自分で集めに行くなんて、いかにもこの子らしいもの」
「私も最初は心配だったんだけどな」
ヴィルヘルムが腕を組む。
「冒険者として旅をしていると聞いたときは驚いた。でも、フリーダが楽しいなら、それも悪くないと思っているよ。ただあまり危ない依頼は受けないでほしいな」
「わかってる。ありがとうお父さん。リコレットもセレナもいてくれるから大丈夫だよ」
そんな話をしているうちに、俺たちの視線がヴィルヘルムへ集まっていることに気づいたらしい。
「そういえば」
ヴィルヘルムが俺を見る。
「リコレットさんは変わった魔法を使うんだったね?」
来た。
俺は心の中で身構えた。
「はい。一般的な魔法を少し」
「少し?」
「……はい」
「では、何か見せてもらえないだろうか」
フリーダが嬉しそうにこちらを見る。
「お父さん、珍しい魔法が好きなんですよ」
「それ、さっきエステルからも聞いた」
俺は小さく息を吐きそうになった。
さっきので十分学んだはずだ。
変わった魔法を見せると、魔法好きが集まる。
だから今回は、できるだけ普通のものにする。
「それでは、風の魔法を」
「風か。いいね」
俺は立ち上がり、庭へ出た。
周囲に人がいないことを確認してから、簡単な風の術式を組み上げる。
魔力を集め、風の流れを作る。
庭の木々が揺れ、少し離れた場所に置かれていた枯れ葉が一斉に舞い上がった。
「なるほど」
ヴィルヘルムが近づいてくる。
「風を発生させる位置が少し低いね」
「はい」
「地面近くに風を集めることで、上方向への拡散を抑えているのか」
「そうです」
「では、術式の後半で風圧を調整しているのは何故だい?」
「周囲への影響を抑えて、その分は効果範囲内の風量が上昇するように」
「なるほど。なら、最初から出力を抑える方法もあるんじゃないか?」
「それだと風の流れが弱くなります」
「ふむ……では魔力の流量を――」
そこから先は早かった。
ヴィルヘルムは風の流れ、術式の構成、魔力の配分について次々と質問を投げてくる。
俺は1つずつ答えていった。
すると、答えた内容を元にさらに新しい質問が飛んでくる。
「この場合、術式の一部を固定せずに流動させることは?」
「できますけど、その分制御が難しくなりますね」
「だが、それなら――」
「お父さん」
クラウディアが口を挟んだ。
「夕食が冷めるわよ」
「……そうだった」
ヴィルヘルムは名残惜しそうに庭を見た。
「続きは食事の後でも――」
「今日は駄目です」
クラウディアが即答する。
「せっかく帰ってきた娘と、そのお友達が来ているんだから」
「分かった」
素直に戻っていく父親を見ながら、俺はようやく肩の力を抜いた。
危なかった。
フリーダが魔法好きなのは知っていたが、どうやら父親も相当なものらしい。
しかも、俺の魔法を見て楽しそうに質問してくるところまでそっくりだ。
「フリーダはお父さん似だね」
セレナが小声で言う。
「そう?」
なぜかフリーダは嬉しそうだった。
「嬉しそうだな」
「だって、魔法が好きなのは良いことですから」
俺は何も言わなかった。
夕食を終える頃には、すっかり夜も更けていた。
客間を用意してもらい、俺とセレナ、フリーダはそこで休むことになった。
荷物を置いて一息ついたところで、セレナがふと思い出したように口を開く。
「そういえば、リコレットからもフリーダからも家族を紹介してもらってるよね」
「そうだね」
「リコレットはカサンドラ様を紹介してくれたし、フリーダは今日、ご家族を紹介してくれた」
セレナは少し考えてから、穏やかに笑った。
「だから、ヴェルグラードに戻ったら私の家族も紹介するよ」
「セレナの家族を?」
「はい」
「楽しみだな」
俺が答えると、フリーダも嬉しそうに頷いた。
「私も楽しみです!」
「じゃあ、旅から戻ったらみんなでセレナの村に行きましょう」
「うん」
こうして俺たちは、フリーダの実家で一晩泊めてもらうことになった。
アルカディアへ来て早々、昔の友人と再会して、魔法の話で質問攻めにされ、今度はフリーダの家族まで紹介してもらった。
旅を始めてから、俺たちの関係も少しずつ変わってきた気がする。
もちろんそれは悪い変化ではない。
むしろ、こうして互いの故郷や家族を知っていくことが、仲間として自然なことなのだろう。
ただし――。
「明日は普通の魔法だけにしよう」
俺がそう呟くと、隣のフリーダが首を傾げた。
「明日も魔法を見せてくれるんですか?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どんな魔法を見せてくれるんです?」
「見せないよ」
「えー」
「えー、じゃない」
セレナの笑い声が聞こえる。
そんな話をしながら俺たちは眠りについた。