100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
フリーダの実家で朝食をごちそうになった俺たちは、ご家族に礼を言って出発した。
「じゃあ、またね」
「今度はセレナさんの故郷にも行くんでしょう?そちらのご家族にもよろしくお伝えくださいね」
クラウディアさんに言われ、セレナが少し照れたように頷く。
「はい。ありがとうございます」
「フリーダは、ここにいる間はうちに帰るのよね?」
「うん」
「もし出発するときは早めに言うのよ?」
「……前向きに善処します」
「それ、分かってない人の返事よ」
そんなやり取りを最後に、俺たちはアルカディアの街へ戻った。
昨日はいきなりフリーダの昔の友人や家族に会うことになって、街をゆっくり見る余裕がなかった。今日は改めて3人で歩いてみる予定だ。
「まず、どこへ行く?」
セレナが尋ねる。
「そうですね。学院の周辺を見て回るのがいいと思います」
フリーダは少し考えてから、街の奥を指差した。
「学院の周辺には学生向けのお店が多いんですよ。食堂とか、本屋とか、魔法道具を扱っている店もあります」
「魔法道具の店?」
「はい。アルカディアでは学生でも簡単な魔法道具を買いますから」
「なるほど」
俺たちはフリーダの案内で、学院へ向かう道を歩き始めた。
昨日も見た白い石造りの建物が、湖の向こうまで続いている。
アルカディアは島そのものが街になっているため、少し歩けば橋に出る。橋を渡れば別の島で、そこにも店や住宅が並んでいる。
湖面では小型の船が行き交い、橋の上では学生らしい少年少女が談笑しながら歩いていた。
魔法学院の学生が多い街だけあって、年若い人間の姿が目立つ。
「なんだか、街全体が学院みたいだね」
セレナが周囲を見ながら言った。
「実際、似たようなものですよ。学院と街の距離が近いですから」
フリーダは慣れた様子で答える。
そのまま橋を渡り、店が並ぶ通りへ入ったところで、セレナが立ち止まった。
「……あれ?」
「どうしました?」
「パンが……随分安い気がする」
店先に並んでいるパンの値札を見ている。
俺も確認してみる。
確かに安い。
ヴェルグラードで見慣れていた価格より、明らかに低い。
「こっちの定食も安いな」
俺が別の店を覗くと、セレナも頷いた。
「アルカディアって、食べ物が安いんですか?」
「そうですね。アルカディアでは食料の生産もしていますから」
フリーダは当然のように答えた。
「でも、湖の上にある街なのに?」
「それがアルカディアの面白いところなんですよ」
フリーダは楽しそうに説明を始めた。
「学院の中に『農場ダンジョン』というものがあるんです」
「農場……ダンジョン?」
聞き慣れない言葉に、セレナが首を傾げた。
「はい。普通のダンジョンとは少し違っていて、中に農場や牧場、それから里山まであります。そこで食料や木材を生産しているんです」
「ダンジョンの中で農業をするんですか?」
「そうですよ」
「……なんだか不思議ですね」
「私も初めて聞いたときはそう思いました」
俺も同感だ。
ダンジョンといえば魔物が出てくる危険な場所という印象が強い。それを一次産業に利用しているとは思わなかった。
マティアスが管理しているのだろうか。今度会合で聞いてみよう。
「アルカディアは農場ダンジョンがあるから、街の中だけでもかなりの食料を生産できます。他国に食料を輸出までしているんですよ。」
「それなら、値段が安いのも納得」
「はい」
フリーダが頷く。
「もちろん何もかも全部を賄えるわけではありませんけど、アルカディアの食料事情を支えている大事な場所です」
「学院の中にそんな施設があるんだ」
「アルカディアの学生なら、知らない人の方が少ないですよ」
なるほど。
学院が単なる教育機関ではなく、街そのものを支える役割まで担っているらしい。
マティアスが長年学長を務めているという話も含めて考えると、アルカディアはやはり他の都市とは少し違うようだ。
「それで、次はどこへ行こう?」
セレナが尋ねる。
「そうですね……」
フリーダが周囲を見渡した。
「あ、そうだ。学生向けのカフェに行きませんか?」
「カフェ?」
「学院の学生がよく利用するところです。甘いものもありますよ」
(ほうほう……学生向けの甘味ね……)
俺がついその言葉に反応したのを、2人は見逃さなかったらしい。
「リコレット、行きたいの?」
「いや、別に」
セレナが微笑んでいる。
「顔に出てる」
「……そんなことはないと思うけど」
「ふふっ」
フリーダまで頷いた。
「行きましょう。私も久しぶりに食べたいです」
そうして連れていかれたのは、学院から少し離れた場所にある小さなカフェ。
店内には学生らしい客が多く、壁には魔法学院の講義予定や研究発表の案内まで貼られている。
俺たちは窓際の席に座り、それぞれ飲み物と菓子を注文した。
そして運ばれてきたものを見て、俺は少し驚いた。
「……これ、結構大きいな」
ガラスの器に入っているのは、果物とクリーム、それに焼き菓子まで重なった甘味だった。
「すごいでしょう」
フリーダが嬉しそうに言う。
「アルカディアでは学生に人気のパフェなんですよ!」
「なるほど」
俺はスプーンを手に取った。
別に甘いものが特別好きというわけではない。
ただ、こういうものは見た目も含めて楽しむものだろう。
そう思って一口食べる。
「……おいしい」
気づけば、次の一口をすぐにすくっていた。
果物の酸味とクリームの甘さがちょうどいい。
焼き菓子の食感も加わって、思っていた以上に食べやすい。
もう一口。
「リコレット」
「ん?」
セレナがこちらを見ている。
「美味しいですか?」
「うん。普通に美味しいよ」
「普通に、ですか」
フリーダも笑っている。
「さっきからすごく嬉しそうです」
「そうかな?」
「はい」
2人の視線が妙に温かい。
俺はそこでようやく、自分がかなり夢中になって食べていたことに気づいた。
「……そんなに変だった?」
「いえ」
セレナが首を横に振る。
「なんだか可愛らしいなと思っただけです」
「私も同じです」
フリーダまで頷く。
「そういうことは言わなくていいから」
少し耳が赤くなるのを感じながら、俺は残ったパフェへ視線を戻した。
その後はなるべく平静を装いながら食べたつもりだ。
……つもりだった。
「おかわり、食べます?」
「食べないよ」
フリーダの問いに即答する。
2人が笑う。何となく気恥ずかしかったが、同時に悪い気分でもなかった。
昼食を終えた俺たちは、再び街を歩き始めた。
橋を渡り、別の島へ移動していると、向こうから見覚えのある集団が歩いてくる。
「あれ?」
俺が足を止める。
向こうもこちらに気づいたようだった。
「おう! リコレットじゃねえか!」
声を上げたのはローガンだった。
その後ろには、ルチアーノとクラリスの姿もある。
「銀狼の皆さん」
セレナが小さく頭を下げる。
「久しぶりですね。フリーダも元気?」
クラリスも柔らかく笑った。
そういえば、クラリスはフリーダの学院での先輩だったな。
「アルカディアに来てたんだな」
ローガンが尋ねる。
「はい。色々な国を見て回ろうと旅してます。フリーダの実家にも行ってきました」
「へえ、そりゃ良かったな」
「ローガンさんたちは、こちらで何を?」
俺が聞くと、ローガンは少しだけ表情を変えた。
「俺たちはマティアス学長から依頼を受けて来たんだ」
「マティアス学長から?」
「そう。詳しい話はこれからだが、アルカディアの中で少し厄介な仕事を手伝ってほしいらしい」
「へえ……」
俺は相槌を打った。
マティアスから依頼を受けている。
それだけ聞けば大した話ではないようにも思えるが、銀狼のようなベテランをわざわざ呼んでいるのなら、何か事情があるのだろう。
もっとも、俺たちは今のところ関係ない。
「そういうことなら、お互い頑張りましょう」
「おう。お前らも冒険者活動をするんだろ?」
「そのつもりです」
「なら、ギルドで会うかもしれんな」
ローガンは豪快に笑った。
「アルカディアは学生冒険者も多いから、ヴェルグラードとはちょっと勝手が違うぞ」
「それは楽しみですね」
フリーダが答える。
「私たちも何か依頼を受けてみようと思っていたところなんです」
「そうか。なら、ギルドを覗いてみるといい」
ローガンたちはそのまま別の通りへ向かっていった。
姿が見えなくなってから、セレナが口を開く。
「マティアス学長から依頼を受けるとか、さすがベテランは違うね」
「そうだね」
「私たちも何か依頼を受けてみない?」
「そうしようか。せっかくだし」
フリーダも頷いた。
「アルカディアの冒険者ギルドには、学院関係の依頼が多いんですよ。魔法の実験に使う素材を集めてほしいとか、研究に必要なものを採取してほしいとか」
「それなら、私たちにもできそう」
「うん。せっかくアルカディアに来たんだし、ここで冒険者として活動してみよう」
旅先の街を見て回るだけでも面白い。
けれど、俺たちは冒険者だ。
この街でどんな依頼があるのか、それを実際に受けてみるのも悪くない。
「じゃあ、明日はギルドに行きましょうか」
フリーダが言う。
「そうしよう」
俺が頷くと、セレナも笑った。
その後、俺たちはもう少しだけ街を歩いた。
夕方になる頃には、橋の上から湖を眺めながら、今日一日で見たものを話し合う。
「アルカディアって、思っていたより普通の街だよね」
セレナが言った。
「学院都市だから、もっと魔法ばかりなのかと思ってた」
「魔法を学ぶ人が多いだけで、生活そのものは普通ですよ」
フリーダが答える。
「ただ、学院が街の中心にあるから、少し変わったところもありますけど」
「その変わったところを見に来たんだから、ちょうどいいんじゃないか?」
「そうかも」
セレナが笑う。
日が傾き、湖面が夕日に照らされていた。
「今日はここまでにしましょうか」
フリーダが言った。
「私は家に帰ります。明日はギルドへ行くんですよね?」
「うん。私とセレナは宿に泊まるよ」
「じゃあ、また明日」
「また明日、フリーダ」
俺たちは橋の上で別れた。
フリーダは自宅へ向かい、俺とセレナは宿へ戻ることにした。