100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
宿で朝食を済ませた俺たちは、フリーダと合流してアルカディアの冒険者ギルドへ向かった。
昨日までは街を歩いているだけだったが、今日からは冒険者として活動する。
ヴェルグラードを出てからしばらく依頼を受けていなかったので、久しぶりの仕事ということになる。
「アルカディアのギルドって、どんな感じなの?」
セレナが歩きながら尋ねる。
「ヴェルグラードとはかなり違いますよ」
フリーダは懐かしそうに答えた。
「アルカディアは学生冒険者が多いですし、依頼を出す人も学院の教授や研究員が多いんです」
「研究員からの依頼?」
「はい。魔法の実験に使う素材を採取してきてほしいとか、研究対象の魔物を探してほしいとかですね。学院の中だけでは手に入らないものもありますから」
なるほど。
冒険者といえば魔物退治やダンジョン探索という印象が強いが、学術都市なら需要そのものが違うらしい。
「ヴェルグラードは、もっと魔物討伐や護衛が多かったよね。あとは迷宮絡み」
セレナが続ける。
「クレストリアは、街道沿いの護衛依頼とか薬草採取とかが中心だった気がする」
「そういった意味だと、アルカディアはやっぱり魔法に関係する依頼が多いです」
「それなら、フリーダには向いてそうだな」
「もちろんです!」
予想どおり、食いつきがいい。
「私も学生の頃は、よく依頼を受けていましたから」
「そういえば、フリーダが冒険者になったきっかけも、素材採取だったんだよな」
「はい。最初は勉強のためだったんですけど、外へ出て素材を探すのが思った以上に楽しくて……」
そこでフリーダは少しだけ視線を逸らした。
「気づいたら、そのまま冒険者になってました」
「昨日、ご家族から聞いた話とだいたい一致してるねえ」
「セレナ、それは言わないでください」
フリーダが恥ずかしそうに言う。
そんな話をしているうちに、ギルドの建物が見えてきた。
ヴェルグラードのギルドほど大きくはない。
それでも学院都市だけあって、出入りしている冒険者には若い人が多かった。装備を見る限り、本格的な冒険者もいるようだが、学生らしい服装のまま受付へ向かっている者もいる。
「本当に学生が多い」
セレナが目を丸くして呟いた。
「これでも朝は少ない方ですよ」
「これで少ないの?」
「授業が始まる時間と重なっていますから」
なるほど。
学院の授業が終われば、もっと増えるらしい。
俺たちは受付へ向かった。
「おはようございます。依頼をお探しですか?」
受付嬢が明るく声をかけてくる。
「はい。3人で受けられるものを探しています」
フリーダが答える。
「全員、瑪瑙級ですね」
受付嬢は俺たちの冒険者証を確認しながら、掲示板を指した。
「こちらの依頼は瑪瑙級向けです。学院関係の依頼でしたら、あちらの掲示板に多く出ていますよ」
「ありがとうございます」
掲示板へ向かう。
張り出された依頼を眺めてみると、確かにヴェルグラードとは内容が違う。
『魔力茸の採取』
『火蜥蜴の鱗、20枚』
『魔法薬用の水草採取』
『実験用として指定した魔物の生息状況調査』
そんな依頼が並んでいる。
「面白いですね」
セレナが興味深そうに眺めている。
「魔物を倒す依頼より、採取の方が多いね」
「学院の研究に使うものが多いですから」
フリーダは慣れた様子で依頼書を見ていく。
「それに、アルカディアにはちょっと特殊な制度もあるんですよ」
「特殊な制度?」
「はい。魔法学院の高等科の学生は、条件を満たせばアルカディア内の依頼に限って、大理石級の依頼を受けられるんです」
セレナが首を傾げた。
「高等科って……15歳より下の年齢だよね?」
「そうです」
「15歳なら冒険者になれる年齢だけど、14歳でもギルドで依頼が受けられるってこと?」
「そこが特例なんですよ」
フリーダが依頼書を一枚手に取りながら説明する。
「アルカディアには魔法の研究に必要な素材がたくさんあります。でも、研究員や教授が毎回自分で採りに行くわけにはいきませんし、普通の冒険者に依頼すると簡単な採取でも手続きが大きくなります」
「だから学生に?」
「はい。高等科では実践的な魔法を学びますから、ある程度の危険がある依頼でも経験になります。それで、アルカディア内の依頼に限って、大理石級まで受けられるようになっているんです」
「そっか。授業の延長みたいなものなんだね」
「そういう面もあります」
俺は掲示板を眺めながら考える。
制度としては合理的だ。
学生側は実地経験を積める。
学院側は必要な素材を確保できる。
ギルドとしても依頼を処理できる。
誰にとっても都合がいい。
「でも、フリーダも学生の頃に依頼を受けてたんだよな?」
「はい。高等科の頃によく受けました」
「何かおすすめはある?」
そう尋ねると、フリーダは少し考えた。
「それなら、魔力草の採取なんてどうでしょう?」
「魔力草?」
「学院のすぐ北にある島に群生しているんです。魔法薬の材料になりますし、今でも依頼が出ています」
フリーダが掲示板から依頼書を探し出す。
「これです」
そこには、島の名前と採取する植物の特徴、それから必要な本数が記されていた。
「危険度は?」
セレナが確認する。
「低いですよ。島そのものに危険な魔物はほとんどいません。昔、私も受けたことがあります」
「じゃあ、これにしようか」
俺が言うと、セレナも頷いた。
「私も賛成」
「それなら決まりですね」
依頼書を受付へ持っていく。
「魔力草の採取ですね。こちらでしたら本数は30本。状態の良いものをお願いします」
「分かりました」
「島へ渡る船は、ギルドの裏手にある桟橋から出ています。学生もよく利用する場所なので、迷わないと思いますよ」
「ありがとうございます」
俺たちは必要な道具を確認し、ギルドを出た。
◇
アルカディアの北側へ向かう。
学院のある中央島から橋を渡り、さらに北へ進むと、小さな島が見えてきた。
「あそこです」
フリーダが指差す。
「魔力草は島の北側に多いですよ」
「ずいぶん近いんだね」
セレナが湖を眺める。
「学院から歩いても半日かからないので、高等科の学生でも受けやすいんです」
「それなら、採取依頼としてはちょうどいいな」
島へ渡る橋を歩きながら、俺は周囲を観察した。
穏やかな湖。
木々の間に伸びる道。
少し離れた場所には学院の建物も見える。
確かに、学生が授業の合間に来られる距離だ。
「この辺りです」
フリーダが足を止める。
草むらを探すと、普通の草に混じって淡い青色の葉を持つ植物が見つかった。
「これが魔力草です」
「見た目だけなら普通の草とあまり変わらないね」
セレナがしゃがみ込む。
「あ、葉脈のところが少し光ってる」
「魔力を吸収しているからです。強い場所だともっと色が濃くなりますよ」
フリーダが説明しながら、1本を丁寧に採取する。
「根を傷つけすぎないようにしてください。ここは群生地なので、採り方を間違えると来年の収穫量が減ります」
「なるほど」
俺も採取を始めた。
特に難しい作業ではない。
魔力草を見つけ、周囲の土を少し避けてから根を傷つけないように抜く。
セレナも手際よく採取している。
「これで10本です」
「こっちは12本」
「私は8本ですね」
3人分を合わせれば、ちょうど30本。
「これならすぐ終わるね」
セレナが採取した魔力草を確認する。
「状態も問題なさそう」
「じゃあ戻りましょうか」
島を出る前に、俺はもう一度周囲を見渡した。
学院のすぐ北にある小さな島。
ここにも学生や研究者が利用する場所として、きちんと手が入っている。
アルカディアは魔法を学ぶ場所というだけではなく、街そのものが学院と繋がっている。
そんな印象が少しずつ強くなってきた。
◇
ギルドへ戻ると、受付嬢が依頼書を確認してくれた。
「魔力草30本ですね。状態も問題ありません」
「よかった」
フリーダが安心したように笑う。
「報酬はこちらになります」
受け取った報酬は、それほど多くない。
けれど危険らしい危険もなく、移動時間を含めても半日程度。
冒険者としては、かなり効率のいい依頼だ。
「アルカディアの依頼って、こういう感じなんですね」
セレナが報酬を見ながら言った。
「はい。危険な仕事ばかりではありませんよ」
フリーダは少し嬉しそうだ。
「私は学生の頃、こういう依頼を受けるのが好きだったんです。魔法の勉強にもなりましたし、外へ出る理由にもなりましたから」
「なるほど」
俺は掲示板を振り返る。
魔力草の採取を終えただけなのに、少しだけこの街の冒険者事情が分かった気がする。
「明日も何か受けてみる?」
セレナが尋ねた。
「そうですね。あとは学生の頃は受けられなかった瑪瑙級の依頼を受けてみたいです」
フリーダも頷く。
俺たちは受付を離れ、次の依頼を探すために掲示板へ向かった。
アルカディアでの冒険者活動は、こうして静かに始まった。