100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
ある日の夕方、俺たちは簡単な採取依頼を終えて、冒険者ギルドへ戻っていた。
今日の依頼は、学院で使う薬草の採取だった。危険な魔物が出るような場所でもなく、瑪瑙級の俺たちにとっては特に苦労する仕事でもない。
報告を終え、報酬を受け取ったところで、背後から声が飛んできた。
「おう、リコレット。ちょっといいか?」
振り返ると、そこには大剣を背負った大柄な男が立っていた。
「ローガンさん?」
「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが」
ローガンさんは、ヴェルグラードで受けた初心者講習の時に講師をやっていたルビー級冒険者だ。
隣には神官の男性と魔術師の女性もいる。魔術師の方は学院時代のフリーダの先輩だと聞いている。
そういえばこの間会った時に、マティアス学長から依頼を受けているという話をしていたな。
「私たちにできることならいいですけど、何でしょう?」
「ここじゃ話しにくい。飯でも食いながら話そうぜ」
「分かりました」
セレナとフリーダを見ると、2人とも頷いた。
こうして俺たちは、ギルド近くの酒場へ移動することになった。
店内は夕食時ということもあって、学院帰りらしい若者や冒険者たちで賑わっている。
ローガンが注文した料理が運ばれてくると、俺たちもそれぞれ食事を頼んだ。
「頼みというのはだな、学院の農場ダンジョンに、一緒に来てもらえないか?」
ローガンは肉を切りながら切り出した。
「農場ダンジョンですか?」
「そうだ。俺たち銀狼は、マティアス学長からあそこの調査依頼を受けてるんだが……少し行き詰っていてな」
「調査……?」
フリーダが興味を示す。
「何か魔物が大量発生したんですか?」
「それが少し違う」
ローガンは首を振った。
「農場ダンジョンそのものに、妙な異変が出てるんだ。俺たちは最初、3人だけで調べてた」
「戦闘で困ったわけではないんですね」
俺が尋ねると、ローガンは笑った。
「そこは問題ない。俺たちはルビー級だしな。多少強い魔物が出たところで、どうにでもなる」
それなら、なぜ俺たちを?
俺がそう考えていると、ローガンは少しだけ真面目な顔になった。
「問題は、戦うことじゃない。調べることだ」
「調べる?」
「ああ。あのダンジョンは学院の食料生産を支えてる。農場も牧場も里山もあるからな。勝手に魔法を使ったり、設備を壊したりされたら困る」
クラリスが横から補足する。
「今のところ、強い魔物が発生したらそれを倒すという対症療法しか出来ていません。本当はもっと調査にも時間を割きたいのですが、ルビー級の魔物が出現することもあってパーティを分割するわけにもいかず……」
「だからアシスタントが欲しくなった、ということですか?」
「そういうことだ」
ローガンは頷いた。
「最初はギルドで適当な奴を探そうと思ったんだがな」
そこで一度、店内を見回す。
「今いる低ランクの冒険者は、ほとんど学生か学院関係者だ。学院の依頼だからって張り切る奴も多いんだが、そういう奴ほど余計なことをする」
「……分かる気がします」
フリーダが苦笑した。
学園都市なのだから、学生冒険者が多いのは当然だろう。
しかし、農場ダンジョンのように学院の管理下にある場所なら、勝手な判断で動かれると確かに困る。
「そこで、私たちに声をかけたんですか?」
「そうだ」
ローガンは即答した。
「強い奴が欲しいんじゃない。ちゃんと指示を聞いて、その上で自分で考えて動ける奴が欲しい」
何だか、地球のブラック企業の求人みたいなことを言いだしたと思って聞いていたが、どうやら真剣らしい。
その言葉には、冗談らしいところがなかった。
「お前ら3人なら、ヴェルグラードで普段依頼を受けてる様子を知ってる。ギルドの評価も高いし、他の冒険者からの評判も良いからな」
「そんなに見られてたんだ……」
セレナが少し驚いたように呟く。
「まあ、試験官なんてやってるとな。若い奴らに目が行くもんだ。特にお前らは3人とも、自分の役割だけやって終わりって感じじゃない」
ローガンはセレナへ視線を向けた。
「セレナは前に出るが、無茶はしない」
次にフリーダを見る。
「フリーダは魔法を使うだけじゃなく、周囲をよく見てる」
そして最後に俺を見る。
「リコレットは……まあ、3人の中じゃ一番周りを見てるな」
「そうですか?」
「そうだ。だからお前たちに頼みたい」
俺は料理を口へ運びながら考える。
農場ダンジョン。
話には聞いていたが、アルカディアの食料生産を支える特殊なダンジョンだ。単なる魔物退治ではなく、内部の環境そのものを維持する必要がある場所なら、確かに慎重な人間を連れて行きたいというのは理解できる。
問題は、俺たちがそこで何をすることになるかだ。
「具体的には、何を調べるんですか?」
「そこは明日、現地で説明する」
ローガンが答えた。
「前回の調査では、いくつか妙なところを確認してる。学院側からも詳しい話は聞いてるが、俺たちだけでは判断材料が足りない」
「危険はありますか?」
セレナが尋ねる。
ローガンは少し考えてから答えた。
「ある。ただし、農場ダンジョンそのものが危険になってるわけじゃない。少なくとも今のところはな」
「少なくとも、ですか」
「異変の影響で、普段なら出ない魔物が出ている。俺たちも何度か遭遇した」
その言葉に、俺は箸を止めた。
普段なら出ない魔物。
ただの設備故障という話でもなさそうだ。
「銀狼の皆さんと、私たち3人で調査するということですね?」
セレナが確認する。
「もちろん、嫌なら断ってくれて構わない」
ローガンはそう言った。
「俺たちが頼んでるのは、あくまで補助だ。無理に危険な魔物の相手をさせるつもりはない」
「報酬はどうなりますか?」
フリーダが尋ねた。
「お、ちゃんと確かめたな? 言い出さなかったら叱ってやろうと思ってたところだ」
ローガンがニヤリと笑う。
「はい!報酬は大事ですから!」
「そうだ。依頼を受ける前にきちんと条件を確認する。そういうところもお前らに声をかけた理由の一つだな」
ローガンは料理を食べ終えてから、依頼の報酬について説明した。
提示された金額は、俺たちにとって悪くない。
何より、アルカディアの農場ダンジョンを実際に見られるのは少し興味がある。
「私は受けてもいいと思う」
セレナが俺を見る。
「私も賛成です。農場ダンジョンは学院の中でも特殊な場所ですし、調査という仕事にも興味があります」
フリーダも乗り気だ。
2人とも問題なさそうなら、俺としても断る理由はない。
「分かりました。私たち3人でよければ、依頼を受けます」
「助かる!」
ローガンが大きく頷いた。
「明日の朝、ギルドで待ち合わせよう。農場ダンジョンの入口まで案内する」
「よろしくお願いします」
俺たちはそう言って、ローガンたちと握手を交わした。
店を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。
それにしても、農場ダンジョンで起きている異変か……。何が起きているのだろうか。
俺はそんなことを考えながら、セレナと並んで宿へ向かった。