100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~   作:Fiomia

49 / 49
異変の原因

オーガがこちらへ向かって走り出した。

巨体に似合わない速度だった。畑の土を踏み砕きながら、棍棒を振り上げている。

 

「2匹はこっちで受け持つ。1匹、やれるか?」

 

ローガンが大剣を構えながら叫ぶ。

 

「やります!」

 

セレナが即答した。

 

「私も大丈夫です」

 

フリーダも杖を握り直す。

俺も細身の剣へ手を添えた。

 

「それなら、私たちは右の1匹を」

 

「任せた!」

 

ローガンたちが左へ駆け出す。

オーガの巨体が3つに分かれ、それぞれが別の相手へ向かった。

俺たちの前に残った1体が棍棒を振り下ろす。

セレナが横へ飛んだ。

轟音とともに棍棒が地面へ叩きつけられ、土が跳ねる。まともに受ければ、剣ごと吹き飛ばされるだろう。

 

「セレナ、左!」

 

「分かった!」

 

俺の声に合わせて、セレナが踏み込む。

オーガが棍棒を引き戻そうとした瞬間、その腕へセレナの剣が走った。深く斬ることはできないが、攻撃の軌道を逸らすには十分。

オーガが唸り声を上げる。

その隙を逃さず、フリーダが術式を組み上げた。

炎が一直線に飛び、オーガの肩を焼く。

 

「効いてます!」

 

「そのまま距離を取って!」

 

俺はオーガの足元へ視線を落とした。

巨大な身体を支える足は、それだけで狙いやすい。セレナが正面から注意を引いている間に、俺は横へ回り込む。

 

オーガがこちらへ気づき、棍棒を振り回した。

俺は一歩だけ後ろへ下がる。

風圧が髪を揺らした。

大振りの攻撃を避けたところで、オーガの体勢が崩れる。俺はその瞬間に踏み込み、足首へ剣を滑らせた。

 

「今!」

 

セレナが駆ける。

オーガが振り向くより早く、セレナの剣が脇腹へ食い込んだ。

巨体が大きく傾き、そこへフリーダの魔法が直撃した。

炎がオーガの胸元を包み込み、巨体が後ろへ倒れる。

地面が揺れた。

 

「倒れました!」

 

「ちょっと調べたいことがある。セレナとフリーダは周囲を見てて」

 

俺は倒れたオーガの魔石を回収した後、少しだけ死体に干渉した。

すると、その身体が淡い光へ変わり始める。

ダンジョンの魔物は死体を残さない。代わりに時間が経てば魔力へ還元される。

それ自体は珍しい現象ではないが、本来はもっと時間がかかる。そこで俺は還元されるまでの時間を少し早めた。

 

光へ変わっていくオーガの身体から、周囲へ魔力が流れ出していく。

その流れが、妙に偏っている……俺が見たいのはこれだ。

 

「……やっぱり」

 

「どうしたの?」

 

セレナが剣を下ろしながら尋ねる。

俺は周囲を見回した。

夏の区画だというのに、秋の木々が混じっている。

魔力の流れも、普通のダンジョンとは違っていた。

 

「魔力の流れが偏ってる」

 

「どういうことですか?」

 

フリーダが質問してくる。

 

「これは単に魔力が多いとか少ないとかじゃないんだ」

 

俺は地面へ目を向ける。

オーガから抜けた魔力が、そのまま周囲へ拡散しているわけではない。一定の方向へ流れ、途中で別の流れとぶつかっている。

まるで、複数の水路が途中で無理やり繋がれているようだった。

 

「魔力の流れそのものが歪んでる。これなら季節が混ざるのも、本来いない魔物が出るのも説明できる」

 

「つまり、原因は魔力の流れが偏ってるから、本来別の場所にあるはずの魔力が混じっちゃってるってこと?」

 

フリーダが聞く。

 

「そう。ただ、魔物を倒して魔石を回収するだけでも、その偏りは少しずつ解消されるはず」

 

マティアスから聞いた話とも一致する。

問題は、その方法では時間がかかることだ。

俺は周囲を見渡した。

 

「だったら、調整すればいい」

 

セレナが首を傾げる。

 

「調整?」

 

「うん。この区画だけで魔力を消費してもらうんじゃなくて、魔力の流れそのものを正常な状態へ戻す」

 

俺は夏の区画の奥を見た。

 

「ブロックコアを使えばできると思う」

 

「ブロックコア?」

 

ローガンの声が聞こえた。

振り向くと、向こうでは2体のオーガがすでに倒れている。ルチアーノが負傷の有無を確認し、クラリスがこちらへ歩いてきていた。

 

「そっちも倒したか。死体が妙に早く消えてるようだが……」

 

「魔石は確保しましたよ」

 

俺はローガンに魔石を見せる。

ローガンが大剣を肩へ担ぎつつ話を続けた。

 

「まあいい。ブロックコアってのは、この区画の天候や温度を調整している魔石だろ?」

 

「そうです。それなら魔力分布も調整できるはずです」

 

「……何でそんなことを知ってる?」

 

ローガンの視線が俺へ向く。

しまった。

ブロックコアが魔力分布まで調整することは、一般の冒険者が知っているとは限らない。

俺は少し考えてから答えた。

 

「事前に調べてきました」

 

「事前に?」

 

「農場ダンジョンの設備について、学院にある資料を見せてもらったんです。ブロックコアが季節を調整しているなら、魔力の偏りにも何か関係していると思って」

 

かなり苦しい。

自分で言っていても苦しいと思う。

だが、フリーダがすぐに口を挟んだ。

 

「リコレットは魔法について調べるのが好きですからね。私も、今回の依頼を受けてから色々調べていると思っていました」

 

「ええ、まあ……」

 

セレナも頷く。

 

「リコレット、こういうこと詳しいから」

 

2人とも助けようとしてくれている。

ありがたい。

ありがたいのだが、余計に不自然になってしまっている気がする。

クラリスも少し考え込むように腕を組んだ。

 

「私たちが話をしたのは昨日の夕方よ? それに学院の資料に、そこまで詳しい情報が載っていたのかしら?」

 

「それは……」

 

言葉に詰まる。

このまま誤魔化すのは難しいだろう。

そもそも、これからブロックコアを実際に調整するなら、俺が詳しい理由を説明できた方が都合がいい。

それに、銀狼とは今回限りの付き合いになるとは限らない。

俺は小さく息を整えた。

 

「……ごめんなさい。実は、1つ話していないことがあります」

 

セレナが俺を見る。

フリーダも少し驚いた顔をした。

 

「私、魔女カサンドラの弟子なんです」

 

一瞬、ローガンが目を丸くした。

 

「魔女カサンドラ様の?」

 

「はい」

 

「それは……初耳だな」

 

クラリスが驚いたように呟く。

 

「リコレットがカサンドラ様の弟子だったなんて……」

 

フリーダが俺を見る。

その顔には、驚きと同時に「言っちゃっていいんですか?」という意思がはっきり浮かんでいた。

セレナも同じだ。

 

「リコレット、それ言って大丈夫なの?」

 

「うん。今回の話なら、隠しておく方が難しいと思う」

 

俺は苦笑した。

カサンドラの弟子だと名乗ったところで、世界調律師だと知られるわけではない。

魔女の弟子が魔法やダンジョンの構造について詳しい。

それなら十分に自然な話になる。

 

「カサンドラから魔法や魔道具について色々教わっています。だから、農場ダンジョンの設備についても少し知識があるんです」

 

「なるほどな」

 

ローガンが納得したように頷く。

 

「それなら話は早い。ブロックコアを調整して異変を止められるなら、やってみよう」

 

クラリスも頷いた。

 

「私も賛成です。問題は、どう調整するかね」

 

「そこは、いくつか確認してから決めたいです」

 

俺は周囲を見渡した。

 

「今回の異常は、この区画だけの問題じゃないと思う。魔力が偏っているなら、他の区画にも同じような歪みがあるはずです」

 

「全部の区画を調べるの?」

 

セレナが尋ねる。

 

「そうした方がいい。まず各区画の魔力の流れを確認して、どこからどこへ偏っているのかを把握する。その上でブロックコアを調整する」

 

「調整って、具体的には?」

 

クラリスが聞く。

 

「例えば、この区画なら火属性の魔力が足りなければ少し足す。風属性が多すぎるなら、少し抜く。そうやって全体のバランスを戻していく」

 

「そんな細かい操作ができるの?」

 

「できると思う。魔力操作に慣れた魔術師が必要だけど」

 

俺は言い切ってから、少しだけ言葉を選び直した。

 

「もっと正確には、できるように私が調整する」

 

クラリスが考え込む。

 

「なるほど……」

 

フリーダの目が輝き始めた。

 

「それなら私とクラリス先輩で魔力操作を担当できますね」

 

「そうね。属性ごとの調整なら、私たちが慣れているわ」

 

「じゃあ、セレナとローガンさん、ルチアーノさんは魔物への対応をお願いします」

 

「分かった」

 

ローガンが即答する。

ルチアーノも頷いた。

 

「魔物が出た場合の補助と回復はお任せください」

 

俺は地面へ視線を落とした。

さっきのオーガが消えた場所には、もう何も残っていないが、そこに流れた魔力の痕跡だけは俺にはまだ見えている。

流れるべき魔力が少しずつ道を外れているなら、道を戻してやればいい。

 

「まずは各区画を回って、魔力の状態を確認しましょう」

 

俺たちは次の区画へ向けて歩き出した。

異変の原因が分かった以上、あとは修復するだけだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった(作者:春海とまと)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

ジャンル不明の魔法少女アニメの男モブ、影倉伊月に転生してしまった主人公。▼ミリしらなので普通の中学生として過ごしていたある日、三人の女子小学生と出会い、いつもとちょっとだけ違うことをしてしまう。▼その行動が数年後の運命を変え、三人は魔法少女に、主人公もまた裏方役モブから厄ネタっぽい魔導書と契約し、TS魔法少女に変身してしまう。▼ミリしらなのでだんまりも良くな…


総合評価:219/評価:6.67/連載:31話/更新日時:2026年10月29日(木) 12:07 小説情報

TS双子姫と乙女ゲーム世界(作者:熱湯キチ郎)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

乙女ゲーム世界の王族の双子姫として転生した元男性二人。▼可憐な見た目とは裏腹に、二人の趣味は人間観察とトラブル鑑賞だった。▼やがて学園に入学した双子は、王子の婚約者である令嬢が追い詰められていることを知る。▼追い詰められた令嬢は双子へ助けを求めた。▼「私たちと契約すれば万難を排して見せましょう。」▼契約を交わした瞬間から、何者かのシナリオは崩壊を始める。▼こ…


総合評価:1206/評価:7.72/完結:55話/更新日時:2026年09月25日(金) 07:00 小説情報

儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する(作者:うすほそ~(挨拶))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

人生に疲れていた社畜は、気がつけば異世界で儚い系うすほそエルフとなっていた。▼当然チートも持っている。▼ちょっと儚すぎること以外、何一つ不満のない状況を手に入れたのだ。▼これからは自由に生きていい、そんな幸福感に満ちながらうすほそエルフ”リリア”の新たな人生は始まった。▼しかし儚すぎる見た目のせいで、生き急いでいるようにしか見えないうすほそは、周囲に多大な心…


総合評価:1654/評価:8.52/連載:5話/更新日時:2026年08月30日(日) 12:35 小説情報

TS娘の曇った心を義理の兄がVRMMOゲームを通じて徐々に癒していくお話(作者:乾いた布団)(オリジナル:現代/日常)

タイトル通りのお話です。とある事件がきっかけで、引きこもりになってしまったTS娘の心を義理の兄がVRMMOゲームを通じて、徐々に癒やしていく物語。


総合評価:189/評価:8.8/連載:7話/更新日時:2026年11月06日(金) 20:00 小説情報

TS女神の地球救済政策 ~26年かけて異世界を救った元勇者、絶世の女神になって帰還したら地球が滅びかけていたので、ダンジョン災害で救います~(作者:TS女神)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

高校二年生だった高瀬悠真は、気まぐれな邪神によって異世界へ放り込まれた。▼そこは魔王によって人類が最後の一国まで追い詰められた、滅亡寸前の世界。▼それから二十六年。▼勇者となった悠真はついに魔王を倒し、さらには自分を異世界へ送り込んだ邪神まで撃破する。▼しかし、その代償――というより邪神からの余計な置き土産によって、悠真は絶世の美女神へと姿を変えてしまった。…


総合評価:2975/評価:8.46/連載:28話/更新日時:2026年11月06日(金) 07:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>