100年修行したら幼女世界調律師になってました ~最強だけど世界を気ままに旅します~ 作:Fiomia
俺たちは銀狼と一緒に冒険者ギルドへ戻ると、受付で農場ダンジョンの異変が解消したことを報告した。
「それでは、確認のためにこちらへ記録をお願いします」
受付嬢から渡された書類へ、俺たちが確認した内容を書き込んでいく。異常が発生していた区画、遭遇した魔物、ブロックコアの調整を行ったこと、その結果として季節の乱れが収まったこと。
銀狼の3人も、それぞれ確認した内容を付け加えていった。
「これで報告は終わりですね」
「はい。今回の件については、こちらから学長へも報告しておきます」
受付嬢が書類を受け取ったところで、別の職員がこちらへやってきた。
「銀狼の皆さんと、リコレットさんたちですか?」
「そうだが」
ローガンが答える。
「マティアス学長がお呼びです。皆さんで来てほしいとのことです」
「学長が?」
俺はセレナとフリーダを見る。
わざわざ全員を呼ぶということは、今回の依頼について何か話があるのだろう。
「行ってみましょう」
俺たちは職員の案内でギルドを出た。
向かった先は、学院の最奥にある校長室と呼ばれている建物。
一見すると普通の学院の施設だが、俺はその建物の正体を知っている。
ここはマティアスの塔でもある。
もちろん、冒険者リコレットとして来ている以上、そのことを表に出すつもりはない。
「失礼します」
職員が扉を開ける。
中へ入ると、広い部屋の奥にマティアスが座っていた。
小太りの体型に穏やかな表情。
これまで何度か会っているが、こうして学長として仕事をしている姿を見ると、やはり落ち着いた人物に見える。
「皆さん、ご苦労でした」
マティアスは立ち上がると、俺たちへ丁寧に頭を下げた。
「農場ダンジョンの件については、ギルドから報告を受けています。季節の異常が解消したことも確認できました」
「それなら良かったです」
クラリスが答える。
「こちらとしても、予定より早く解決できたので助かりました」
マティアスが笑う。
「元々は、銀狼の皆さんで魔物を討伐し続けて、原因の魔力が自然に消費されるのを待つことを考えていました。そちらのリコレットさんたちに協力を求めたローガンさんの判断は正しかったようですね」
「俺たちも助かった。リコレットたちがいなかったら、あれだけ細かく魔力を調整するなんて考えなかったからな」
ローガンが俺を見る。
「こちらこそ、貴重な経験になりました」
クラリスが微笑んだ。
「では、今回の報酬をお渡ししましょう」
マティアスが机の上に置かれていた袋を手に取る。
「こちらは依頼に対する正式な報酬です。銀狼の皆さんとリコレットさんたち、それぞれに分けてあります」
「ありがとうございます」
俺が代表して受け取る。
袋を手にしたところで、部屋の奥にいる女性たちへ目が向いた。
マティアスの仕事を補佐しているらしい女性……なんだか……こう……。
全員、かなりデ……おっと、ふくよかだ。
1人や2人なら偶然だと思う。
けれど、視界に入る女性が全員そうなのだ。
細身の人が1人もいない。
俺はマティアスを見る。
マティアスは特に気にする様子もなく、彼女たちへ仕事の指示を出している。
……そういえば、この人。
俺はこれまで、マティアスのことをかなりまともな人だと思っていた。
学園都市を運営し、世界調律師としても冷静で、介入についても慎重だ。
サイラスみたいに、会うたび求婚してくるわけでもない。
ヴァレリアみたいに、好き勝手世界中飛び回っているわけでもない。
フィーネは……まあ、あれはあれで別の問題がある。
そんな世界調律師たちの中で、マティアスは常識人枠だと思っていた。
だが、なるほどなあ……女性の好みだけは、ものすごく個性的なのか……。
俺はそっと視線を逸らした。
世界調律師って、どうしてこういうところで変な個性を発揮するんだろう。
「リコレットさん、どうしました?」
「いえ、何でもありません」
俺は笑顔で答えた。
この人だけは、まともだと思ってたのになあ……。
「それでは、私たちはこれで失礼します」
ローガンが挨拶をすると、マティアスも頷いた。
「はい。改めて、ありがとうございました」
俺たちは校長室を出た。
外へ出てしばらく歩いたところで、ローガンが口を開く。
「……なんか、妙な顔してなかったか?」
「してないよ」
「そうか?」
「そうですよ」
フリーダが俺の代わりに答える。
セレナも笑っている。
どうやら3人とも、同じことに気づいていたらしい。
「まあいいか。それより、今日は打ち上げにしようぜ」
「賛成」
セレナが即答した。
俺たちはそのまま、冒険者たちがよく利用する酒場へ向かった。
ローガンたちは酒を飲み、俺たちは料理を中心に楽しむ。
依頼中はどうしても気を張っていたから、こうして何も考えずに食事をしていると依頼が終わった実感がある。
「そういえばよ」
料理を取り分けながら、ローガンが俺たちを見る。
「お前ら、パーティ名は付けないのか?」
「パーティ名?」
セレナが首を傾げた。
「俺たち銀狼だって名前があるだろ。ガレスたちは何だっけか……ああ、蒼天の三剣だった。3人でずっと活動してるなら、そろそろ付けてもいいんじゃないか?」
言われてみれば、その通りかもしれない。
俺たちはこれまでずっと「リコレットたち」とか「3人」と呼ばれてきた。
特に不便がなかったから、考えたこともなかった。
「そういえば、決めてませんでしたね」
「『星降る乙女たち』とかどう? あなた達3人とも可愛いし」
クラリスが提案してくれたが……。
「『乙女』はちょっと……」
ちょっとどころではない抵抗感がある。
フリーダが俺を見る。
「リコレット、何か思いつきますか?」
「うーん……」
俺はふと、自分の髪へ手を伸ばした。
そこに付けている髪飾り。
草原に咲く、小さな白い花を模したものだ。
クレストリア王国で3人で一緒に買ったもの。あれからずっと身に付けている。
「この髪飾りの花を名前に入れるのはどう?」
「髪飾り?」
「うん。私たち3人だし、それにこの花って葉っぱが3枚なんだよ」
セレナが髪飾りを見る。
「いいと思う。じゃあ『三枚葉』とか?」
「でも、4人とか5人になったらどうします? それにもうちょっと可愛いほうがいいです!」
フリーダの指摘に、俺は考え込んだ。
確かに。
冒険者パーティなんだから、人数が増える可能性は普通にある。
「じゃあ……『白詰草』っていうのはどうかな?」
「白詰草?」
「この花の名前だよ。これなら人数が増えても関係ないし」
セレナが少し考えてから頷いた。
「私はいいと思う」
「私も賛成です」
フリーダも頷く。
「じゃあ決まりだな」
ローガンが笑う。
「いい名前じゃねえか」
クラリスも微笑んだ。
「私も素敵な名前だと思うわ」
「それなら、私たちのパーティは今日から白詰草だね。ギルドにもパーティ名を登録しておかないと」
名前を口にすると、不思議な気分になった。
今まで名前のなかった俺たちの3人組に、初めて呼び名ができた。
「……そういえばさ」
俺はセレナとフリーダを見る。
「私たち、誰も3人が別れることなんて考えもしなかったね」
「確かに」
セレナが笑う。
「最初からずっと3人だったみたいな感じがする」
「実際にはフリーダが仲間になったの、セレナと2人で活動してからしばらく後ですけどね」
「そうでしたね」
3人で顔を見合わせて、笑った。
ローガンが少し呆れたように笑う。
「仲がいいことで」
「そういうの、大事ですよ」
ルチアーノが静かに頷く。
「良い仲間に恵まれることは、冒険者にとって大切なことですから」
「それは俺も同感だな」
ローガンが酒を一口飲む。
「俺たちもそろそろヴェルグラードへ戻るつもりだ。お前たちのおかげで依頼も問題なく完了したしな」
銀狼とは、今回の依頼で一緒に行動した。
短い間だったが、信頼できる人たちだと思う。
「じゃあ、ここでお別れですね」
「またどこかで会うこともあるだろ」
ローガンが笑う。
「その時はまた一緒に仕事をしようぜ」
「はい。機会があれば」
俺たちはそれぞれ別れの挨拶を交わした。
銀狼と別れた後、3人で宿へ戻る。
そこで俺は、セレナとフリーダへ切り出した。
「そろそろ、私たちも次の国へ行こうか」
「私もそう思ってた」
セレナが頷く。
「エイレンへ行くんだよね?」
「うん。カサンドラからの頼まれごともあるし」
「それなら準備を始めましょう」
フリーダが答える。
「明日にでも出発できますよ」
「その前に」
俺はフリーダを見る。
「家族と友達には、ちゃんと挨拶してきなよ」
「そうそう」
セレナも続ける。
「特にエステルには会っておいた方がいいんじゃない?」
フリーダが少しだけ困った顔をした。
「分かっています。ちゃんと挨拶してきます」
「忘れないようにね」
「忘れませんよ!2人ともひどい!」
◇
出発の準備を終えた俺たちは、アルカディアの街を出る前にフリーダの友人、エステルのもとへ向かった。
しばらくして戻ってきたフリーダへ、俺は尋ねる。
「挨拶してきた?」
「してきました!」
フリーダが胸を張る。
「家族にも、エステルにも、ちゃんと挨拶してきましたよ」
「それならよし」
セレナが頷いた。
俺たちは荷物を確認し、アルカディアを出る。
湖に浮かぶ白い街並みが、少しずつ遠ざかっていく。
橋を渡り、街道へ出る。
その先にあるのは、深い森に囲まれた国。
森の国エイレン。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「行きましょう」
3人で並んで歩き始める。
新しく決めた名前を胸に、俺たちの次の旅が始まった。
――白詰草としての、最初の旅だ。