お楽しみに。
人生はギャンブルだ。
どれだけがんばっても、どれだけ頭をひねっても、最後は運で全てが決まる。正しい選択も、悪い選択も関係ない。今までどう過ごしたか、考慮なんてしてくれない。毎日新しい命が生まれ、古い命が消えていく世界で、絶対なんてないから。
私の財布からお札が消えたのも、きっとそんな運で回る世界のせいだ。
「……2000回転させてくれたオマケが華麗なST駆け抜けとか、ほんとどんな罰ゲームよ」
今朝、家を出る時より薄くなった財布を見て、私──
世界が運で回る以上、つきの悪さは波の如く訪れる。大人しく家に篭もるか、大学の課題をする方がいくらか建設的だろう。
そもそも、だ。
わざわざ負けるとわかっているのに、パチ屋に行くのはバカがやることで、ちょっとでも賢ければ、他に金をかけるべき部分が見えてくるはず。美容院で髪を整えて、プリンになりそうな髪色を染め直したり。オシャレなカフェで優雅なティータイムをきめたり。やれること、やりたいことなんて幾らでも思いつくはずなのに……。
「でもまぁ……明日もきっと、行っちゃうんだよねぇ、これが」
悲しいことに、過去の自分からしたら泡を吹いて倒れるくらい手に負えないパチカスが、今の私だ。
品行方正で委員長タイプだった宝泉千穂は、もういない。魔法少女として、
世界に牙を剥き、理由もなく力を振るう怪物も。それに対抗し、魔法という異能に目覚めた力で戦う魔法少女も。既に私の手を離れた世界の理であり、もう関係のないことだ。
今、こうしてここにいるのは、抽選から並んだパチ屋から情けなく端玉のお菓子を持って帰る、ただの女子大学生。どうしようもない、パチカス女だ。
◇
夕暮れ時、とぼとぼと帰る悲しい帰り道。億劫になるマンションの階段を上がり、三階端にある自分の部屋までもう少し……だったのだが、誰かがいる。中学生かそこらだろうか。この辺りでよく見る学校の制服を着てリュックを背負い、手には近くにあるスーパーのビニール袋を握っている。よほど買い込んだらしい、遠目でも大きめの野菜が入っているのがわかる。
問題は、そんな荷物を持つ少女が、私の部屋の前にいることだ。隣の部屋は空室だったし、そっちに越してきたんだろうか。帰ってきたタイミングで簡単な挨拶を、なんて、そんな感じならいいが……少女は怖いくらい動かない。ずーっと、部屋のドアを眺めている。
三つ編みポニテな黒髪と口元のチャーミングなホクロが恐怖を和らげてくれているが、如何せん微動だにしない様はさながら仁王像。一切動かないんだから、より恐怖が湧いてくる。身長はほどほどだが、スタイルはいい方だし……力勝負に持ち込まれると、不摂生が祟った体では勝てない自信がある。
意を決して話しかけるべきか、はたまた、パチ屋に戻って財布を更に薄くするべきか、最悪過ぎる選択だ。
「……だとしても、なるようになるよね、多分」
案外、穏便に終わって、部屋を一階分間違えてしまってたなんてパターンもあるわけで、一概に結論はつけられない。食費を削らないためにも、勇気を持って踏み込むのが大事だろう。善は急げ。心が変わらぬ内に行動するのが、正しい人生の歩き方だ。
「あの……私の部屋に何か用? ずっとそこに居られると少し入り辛いんだけど……」
「……ぁ……もしかして、あなたが宝泉千穂さん、ですか?」
「へっ? あぁ、うん、そうだけど……?」
「は、は、初めまして! わたし、魔法少女管理協会所属、
何が起こってる。
何が、起こってる。
いや、ありえない。
協会の魔法少女が来るなんて、それこそ魔法を悪用でもしてない限りありえないし、そんなことした覚えない。確かに、一回くらいは、パチンコで玉を無理やりヘソ入賞させようと試行錯誤していた時期はあったが、未遂だ。
清廉潔白の身ではないが、犯罪に手を染めた覚えはないし、加担した記憶もない。元とはいえ、所属していた組織に追われる理由なんて一つもない……はずだ。いくら魔法少女管理協会が政府公認組織とはいえ、人一人の身柄を拘束することは簡単じゃないし、相応の理由がいる。
なんだ、なにかあるか。
すぐにでも取っ捕まりそうな理由。
……ない、ないはずだ。なら何故。何故、彼女はここに来た。夕凪里穂という少女がこの場所を訪れた理由はなんだ。
「うーん、その、話が見えてこないんだけどさ……夕凪さんは、なんで家まで来たの?」
「あっ! すみません! そっちの話が先でしたよね……実は──」
曰く、協会として引退後の魔法少女のフォローは基本的な業務の一つであり、今回、夕凪さんが私の家に来たのもその一貫らしい。なんでも、所属中に報酬金として渡していた金額が一時期を境にありえない速度で減っていったから、日常生活を監視する意味でも彼女を派遣したとか何とか。
はい、まぁ、納得の理由でした。
パチンコを始めたのは、高校卒業して大学入ってからだし、20歳を過ぎた最近では、お酒も嗜むようになった。他のものへの出費が少ないとはいえ、酒とギャンブルはどう取り繕おうとも、平均的なお金の消費が早く、そして多い。そこを、協会が心配したんだろう。
「……理由はわかったけど、けど……なんで夕凪さんが家に一緒に住む流れになるの……?」
「自炊、苦手だと伺いました。わたし、よくお料理するので、味は悪くないと思います! それに、家事も一通りやれますので、千穂さんの生活をサポートできるはずです!」
「あはは……ありがたいけど、流石に中学生と同居はちょっと──」
「お金」
「っ!?」
「遊びに行くお金、困ってるんですよね?」
「くぅ……ぅぅ……」
グサグサと、切れ味のいい言葉が体に刺さる。お金は、欲しい。収支表に書かれる数字が一向に青くならない現実を考えれば、彼女の提案を受け入れない手はない。別にやましいことをしてるわけではなく、お目付け役として派遣されたのだから、他意はない。
そうだ。他意はないんだ。
なら、取る選択は一つ。
「同居したら……協会が援助してくれるってこと、だよね?」
「はい。本来は、もっと早く支給されるはずだったのですが……千穂さんは、あの事件以来すぐに協会を去ってしまったので。色々と手続きがゴタゴタしてまして……」
あぁ、もう、三年も経ったんだ。
あれから、三年も。
忘れたいけど、忘れられないあの日から、三年……三年か。長いような短いような。
「……同居の件、私の方からお願いしてもいい? 最近、1人も少し寂しくなっちゃって」
「っ! はい! わたしで良ければ、喜んで! ふつつかものですが、改めて、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね──里穂ちゃん」
いいよね。
この子なら、この子ならきっと居なくならないから。
大丈夫、だよね。
次回もお楽しみに!
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