引退魔法少女、パチカスに堕つ   作:しぃ君

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 p.s.
 ブラック5930さん、チキンブイヨンパウダーさん、☆9評価ありがとうございます!



三話「私の選択、私の罪」

 ◇千穂◇

 

 選択には、正解も不正解も存在しない。当たり前だ。誰も、未来のことなんて、わからないんだから……だから、選択して、進んだ先で後悔する。

 

 

 正しい道だと信じたそれが、多くの犠牲によって成り立つことを理解し、絶望する。

 三年前。あの地獄の日を、忘れたことはない。崩れゆく街を、燃えゆく街を、私は覚えている。誰もが必死だった。必死に戦って、必死に誰かを救おうとして、そして、徒花のように散っていった。

 

 

 仲間が命懸けで救った人が、怪物の一息で消えていく。世界の理不尽を体現した存在が、無意味な死を積み上げていく。その光景は、どうしようもないくらい残酷で、心が痛かった。

 痛くて、痛くて、痛くて堪らなくて、逃げたんだ。誰かを救うことも、大切な人を守ることもできない自分が、殺したいくらい憎くて、それと同じくらい悲しくて、逃げた。

 

 

 逃げた先で出会ったのが、パチンコ。最初は、惰性で始めた自己満足な自傷行為でしかなかったが、今では、まぁ、悪くない趣味だ。

 もっとも、パチンコが好きな理由も、まっさらな心で何かをしているのが楽だったから、なんてバカな話なわけだが……別にいいだろう。

 

 

 死にたい、そう思わなくなっただけマシだ。

 

 

「……帰ったら、ちゃんと話さないと」

 

 

 昨日の夜のことは、反省してる。

 いくらなんでも、あの言い方はなかった。元魔法少女としても、大人としても、子供である里穂ちゃんに対して、あんな言葉で伝えたのは……間違っている。とても、正義の魔法少女を名乗っていた人間がしていい行為ではない。

 

 

 正しい真実を伝えるのは大切だが、伝え方に正しさがある必要はない。傷つけないように、言葉を丁寧に包むことも、時には意味があるし、それこそが正義とも言える。つまり、私はまた間違えたんだ。

 

 

 ──いや、違うか。私はあの時、選択すらしていなかった。流されるまま、感情を身を任せて、伝えなくていいことまで言葉にして、彼女を傷つけた。それだけ。

 本当に、酷い話。

 

 

 謝って、しっかり話そう。

 許されなくても、全てを明かそう。

 

 

 悪夢の日。

 最低最悪な一日になった、あの災害の日のことを、全部。

 

 ◇里穂◇

 

 夢を、見てた。

 理想を、見てた。

 魔法少女になった日から、何度も言い聞かされて、わかっていたはずなのに。

 

 

 わたしは、自分たちに訪れる結末の一つを、まるで御伽噺のように遠い物語だと、勘違いしていた。

 

 

「嘘だったら、よかったのに」

 

 

 三年前の災害。『世界同時多発的怪物災害』は、数多の魔法少女の犠牲の上で収束した。その中には市民を、仲間を、守るために特攻紛いの捨て身の攻撃で、命を落とした者も居たという。そんな話が事実なら、きっと、千穂さんの話も嘘じゃない。

 

 

 世界か、仲間か。

 もし、そんな選択を迫られたとしたら、世界のために仲間を見捨てるという行為も、おかしくはない。おかしくはないけど、痛かったはずだ。

 選べるのは自分だけで、救えるのも自分だけで、その上で、散っていった魔法少女の犠牲を無駄にしないために、千穂さんは選んだんだろう。

 

 

 もちろん、これは勝手な妄想だ。真実は、違うかもしれない。本当に見捨てて、自分だけ助かろうと、逃げたのかもしれない。

 けど、それなら、あんな顔はしない気がする。泣きながら苦しんでいるような、あんな顔はしない、気がする。

 

 

「魔法少女も、人。それだけは、変わらない」

 

 

 どれだけ強くても。人とかけ離れた力を持っていても、魔法少女も人間。何もかもを取りこぼさずには、いられない。千穂さんみたいなすごい人も、多分、全てを救えたわけじゃない。わたしは、運が良かっただけで、だから、ズレて見えたんだ。自分の中で作り上げた理想(偶像)と、本当の千穂さんが、ズレて。

 

 

「謝れるかな。謝ったら、ちゃんと……話せるかな」

 

 

 わざとかどうかなんて関係ない。踏み込んでは行けない場所に立ち入って、傷つけた。今ある事実は、それだけだから。

 ただ、待った。

 カチカチと音を鳴らす壁掛け時計を眺めながら、千穂さんの帰りを待った。今日はあまり遅くならない日のはずだが、日はどんどん暮れて、月が昇っていく。

 

 

 大きな、月だ。

 満月だろうか。

 優しく照らす月光が、微かな温もりをくれる。

 

 

「……オムライス、冷めちゃったな」

 

 

 ラップをかけていても、時間が経てば冷めてしまう。それは自然の摂理で、当然のこと。美味しいと言ってくれた味も、今は、食べたくないかもしれない。

 迷って、ちょっと考えて、冷蔵庫にしまってしまおうと椅子を立ったその時、玄関から音が聞こえた。

 

 

「千穂さん……!」

 

 

 転びそうになった体を無理やり起こして、出迎えに行く。

 

 

 夜と朝、お互い、顔を合わせるのが怖くて避けていた今日。数時間ぶりに見る千穂さんの顔は──ほんの少し、いつか見た優しい表情に戻っていた。

 

 

「里穂ちゃん、その、昨日は……ごめんね。私、酷い言い方しちゃって」

 

「謝りたいのは、わたしも同じです! ごめんなさい、千穂さん……」

 

「いやいや、悪いのは私だよ! ちゃんと全部話すべきだったのに、端折った挙句、言わなくてもいいことまで言っちゃったし……」

 

「で、でも! 話題を作ったのはわたしです! 千穂さんは悪くありません!」

 

 

 無駄な争いだったと思う。

 どちらが悪いかなんて、ケリがつくわけないのに、わたしたちはわーわーとお互いを庇いあって。結局、意味のない引き分けで、幕を下ろした。

 

 

 バカっぽくて、なんだか、心が軽くなったような、そんな感じがした。

 

 ◇

 

 気持ちの整理もついて、温め直したオムライスも食べ終わって、わたしたちは昨日と同じく、向かい合って座っていた。しっかりと、話し合うために。

 

 

「……もう一度聞くけど、本当にいいんだよね? あんまり、聞いてて気分のいい話じゃないよ、あの日の話は」

 

「構いません。わたしも、魔法少女ですから」

 

「なら……わかった」

 

 

 真剣な口調で始まり、紡がれていく過去の記憶。わたしと千穂さんの記憶に相違はなく、あの日……世界は地獄だった。突如として起こった、世界各地での怪物の出現。別に、そこだけを切り取れば珍しいことじゃない。日本でだって、各地方で同時に怪物が出現するなんて日常茶飯事だ。

 

 

 問題だったのは、怪物の質。

 

 

「12体……12体の怪物が全てをめちゃくちゃにした」

 

「──嵐級の怪物、ですよね」

 

 

 嵐級。怪物たちの脅威度を表す『災害等級』の、最上位に位置する化け物の中の化け物。その下にある、晴・曇・雨・雷、四つの等級とは別格とも言える存在。協会の記録でさえ、滅多に見ることはなく近代で現れたのは──三年前の災害、たった一回。

 

 

「そう。今では、終末の化身……とか、言われてるんだっけ。正しく、その通りだったよ。現に、世界中にいた私たち魔法少女の数も、あいつらのせいで半分以下になったしね」

 

「…………」

 

「同時に出現した理由は不明。強さにも個体差があって、同じタイプの怪物でもなかった。唯一同じだったのは──あの12体だけが持ってた、怪物の復活能力」

 

 

 復活能力。本来の怪物は持たない、特別な力。長年の戦いの末、わたしたち人類もある程度怪物を理解している部分がある。その中の一つが、核。どんな奇怪な見た目でも、どれだけサイズの大小があっても、怪物も一応は生物。彼らの体内には、自身の存在を保つ核がある。場所はまちまちだが核さえ破壊できれば、怪物の活動は止まり、跡形もなく消滅する。

 

 

 裏を返せば、核がある限り怪物は死なない。何度でも再生し、また動き出す。

 

 

 だが、三年前に現れた12体の怪物は、あろうことか、核を破壊した怪物たちを次々に復活させたという。しかも、一度や二度じゃない。何度でも、何度でも、彼らは死した仲間を復活させ、世界を地獄へと変えた。

 

 

「本当に、あれさえなかったら、どれだけよかったか」

 

「嵐級以外の怪物を倒せれば、本命である彼らに集中できますもんね……」

 

「うん……けど ……そうはならなかった。だから、私の友達は──仲間は、自分を犠牲にしてでも短期決着をつける道を選んだ」

 

 

 12体の嵐級に対して、当時の輪花の人数は13人。今現在は、引退した千穂さんを含めても……2人。聞かなくても、わかる。そういう、ことなんだろうって。わかってしまう。

 誰かに強制されたんでも、望まれたんでもなく、11人の英雄は自ら選んだんだろう。自分以外の大切な人を、力なき人を守るため、未来を取ったんだ。世界のための、未来を。

 

 

「じゃあ、千穂さんが見捨てたっていうのは……」

 

「日本にもね、1体現れたんだよ嵐級が。みんなで、必死に戦った。痛くても、苦しくても、繋いだバトンを落とさないために、必死でやった。負けられなかったんだよ、自分たちに託してくれた仲間のために。んで、私が選ぶ番が来た」

 

 

 目に、浮かぶ。

 話を聞けば、見えてくる。

 選びたくなくても、選ばなきゃいけない、選択肢。

 

 

「傷付いた仲間を助けるか、核が露出した怪物にとどめを刺すか……迷ったよ、ほんと。だってさ、私が手を伸ばせば救える仲間が、目の前にいっぱい居たんだよ? 一緒に傷付いて、一緒に戦った仲間が、いっぱい……いたの」

 

 

 仲間か、世界か。

 正解なんて、ない。

 どちらを選んでも、そこに正義はきっとある。そんな中で、千穂さんは選んだんだ。世界を生かす道を。

 

 

「今でも夢に見るの、あの日のこと。正しいことをしたって、ああするしかなかったって、みんなは言うけど……わからなくて。ずっとずっと、思い返すの……私の罪を」

 

 

 罪なんかじゃない。

 そう、言い切れたらよかったのに。言葉が、出なかった。何を言っても、慰めにもならないような気がして。テーブルに置かれた手を……震えた手を、そっと握るだけ。

 

 

 どうしてか、さっきまで綺麗だった満月が、欠けて見えた。




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