p.s.
chikinさん、はひふへさなさん、 Reikuさん、鷹のメメさん☆9評価ありがとうございます!
夜市よいさん、月見一杯さん、七奈南さんも評価ありがとうございます!
皆さんの応援もあり、日間16位をとることができました!
今後とも、よろしくお願いいたします。
心は移ろいやすいものだ。
子供の頃好きだったものが、大人になってから見えなくなるみたいに。初恋も、いつかは色褪せていく。変わらないのは、私を生かす楔のような願いと、果てしない後悔だけ。
だから、自分が抱えているものから、ちょっとでも目を背けるように、銀の玉と戯れる。ピカピカと光る液晶、うるさく響く先バレの音、当落を知らせる役物。どれも、工夫の凝らされた逸品だが、如何せん、逃避の時に打つパチンコほど味気なく感じるものはない。
純粋に演出を楽しむことはできず、減っては増え、増えては減る持ち玉を見つめ、薄くなった財布を持って……私はパチ屋を去る。大概、こういう時は大負けをこく。パチンコの女神様が、真剣に向き合えと責めてるのか、運命の女神様が自分の責任と向き合えと責めてるのか。
はたまた、その両方か。
「……折角、期待してた新台だったのに」
運良く取れた抽選の結果は悲しいくらいに残酷で、帰ってからの未来も……想像に難くない。昨日の話をして今日だから、もしかしたら、呆れられて出ていかれたりして。まぁ、考えたとしても後の祭りでしかない。
先に謝りを入れるべきか、お菓子でも献上するべきか。そうやって悩みながら、とぼとぼと帰り道を歩いていると、自分を追い抜かしていく影が見えた。
「ご飯っ! 準備っ!」
見覚えのある制服と後ろ姿。今朝も、鏡の前で結っているのを見た、三つ編みのポニーテールに──ファンタジー小説や漫画で見るような
時刻は18時前。学校帰りにしては、少し遅い時間。恐らく、怪物災害のサポートにでも行っていたのだろう。……警報が出てなかったのを考えるに、『晴』級、もしくは弱い『曇』級か。ひよっこである五級魔法少女が経験を積むには、妥当な案件だ。
「……私が昨日、あんな話したのに……偉いなぁ、里穂ちゃんは」
弱くても、怪物は怪物。油断していれば怪我をするし、命を落とすことだってありうる。3年前の災害を知っていて、私の話を聞いても尚、あの子はしっかりと自分の責務を果たしている。眩しい、話だ。
やっぱり、帰る前になにかお菓子とかアイスとか買って行くべきだろう。なんて、いらない気遣いを焼こうとしたその時、里穂ちゃんの手の甲から血が垂れているのが、見え、た。
「里穂ちゃんっ!!」
話して、思い出したからか。
夢で、見てしまったからか。
赤い、赤い血は、私の心を大きく揺さぶる。
たかだか数滴、死ぬわけなんてない。当たり前だ。そんなのわかっている。わかっていても、動悸が止まらなくなる。焦りか、恐怖か。自分でも驚くくらいの声と共に、私は彼女を呼び止め、手を掴んだ。
「ひゃっ!? ち、千穂さん!?」
「はぁ……はぁ……手、どう、したの……?」
「へっ? え? あ、あぁ……この怪我のことですか? そんなに心配しなくても、ちょっとしたかすり傷ですよ。帰ったらすぐに魔法で──」
「ダメ! すぐに治すの!」
冷静ではなかったと思う。
救えなかった強迫観念が私を突き動かして、回復の魔法を使うための言の葉を絞り出していく。
『傷ついた者に、聖なる癒しを』
協会で習う初歩の回復魔法。
作られた定型から、一切変えることなく紡がれた呪文は、魔法となり、癒しとなる。淡い黄金色の魔法陣が、里穂ちゃんの手の甲に浮かび、傷ついた部分を正常な状態に戻していく。
みるみるうちに塞がる傷。何事もなかったように消えていく傷と共に、私の鼓動も正常なリズムを取り戻し始める。
「ふぅ……」
「……えっと……ありがとう、ございます」
「──あんまり、怪我を見ないフリしちゃダメだよ? 自分がいいって思っても、それが、思いがけない事故に繋がったりするんだから」
「は、はい! 気をつけます!」
「うん、元気でよろしい」
明らかに口調がおかしいが、気にかけている余裕はない。感情の振れ幅が大きくなるほど、自分がどれだけ壊れているか自覚して、吐きそうになるから。潰れでぐちゃぐちゃになった心に蓋をして、笑顔を貼り付ける。
不自然だっただろうけど、里穂ちゃんはびっくりしているのか、あまり状況を飲み込めてないように見えた。
不幸中の幸いとはこのことか。
「……もう時間も遅いし、今日は出前でも取ろうか」
「いいんですか……?」
「魔法少女のお仕事、がんばって来たんでしょ? ゆっくりするためにも、今日はのんびりしようよ。ね?」
「千穂さんがそういうなら……」
「よし。じゃあ、帰るまでになに食べたいか決めよっか。私はね、ハンバーガー!」
「えぇ、ジャンキー過ぎませんか……?」
うまいこと意識を逸らせたのか、帰り道は夕食の話題で盛り上がり、平穏無事に帰宅できた。
蓋をした、私の心だけを残して。
◇
魔法とは、想像を現実にする力。ファンタジー小説の中のそれとは、少し異なる力。どちらかと言えば、現代の少年マンガでいう異能、もしくは超能力といったものに近い。思い描くことができなければ、想像は想像のまま。現実を侵食することなく、頭の中で霧散していく。
故に、魔法少女はみんな自分だけのイメージを持つ。昔からある少女向けアニメを参考にする子も入れば、長寿シリーズのファンタジー映画を理想にする子もいる。ようは、連想ゲームなんだ。わたしが持つ、ステッキがスタッフ型なのも、それが理由。
どんな魔法を使うにも、形から入った方がイメージの連想はし易いし、制御も安定する。明確に、正確に、想像を形にすることが魔法としては大事で、時に仲間と自分の命を救うことになる──と協会の教官は口にしていた。
なのに、千穂さんはなんでもないみたいに、当たり前に魔法を使った。魔法少女の衣装も着てなければ、ステッキもない……言葉にし辛いが、精神状態だってお世辞にもよくは見えなかった。見えなかったのに、魔法は発動し、わたしの怪我は消えた。
ありえない。
そんな言葉を使いたくなる。でも、いるんだ。魔法を、完全に自分の力として御してる人が。
「輪花って、やっぱりすごいな」
世界に13人いた、最高の魔法少女。終末の化身に挑み、その身を賭して世界を救った英雄たち。その中の一人が、千穂さん。特別な魔法は使えなかったと聞いていたが、納得してしまう。だって、あの人は──そんなものがなくてもきっと、強い。
どんな自分でも、どんな状況でも、魔法を完全に掌握する力。普通の魔法少女が至ることのできない境地だと、思う。
何故なら魔法少女は、言葉の通り少女だから。多感な時期、自分自身の感情にさえ振り回されるのが、わたしたち。不要な言葉で友達を傷付けることもあれば、不安定な環境で自分すら傷つけてしまう。
現に一部の魔法少女は、自身の魔法の力を過信し、よくない方向に走ってしまうケースもあると聞く。
それくらい、魔法少女は脆い。
定期的に健康診断があり、その中にメンタルチェックが入っているのも、それが理由。
「……聞いたら、教えてくれるかな」
勿論、才能の可能性だってある。最初から、魔法の制御が完璧だった、そんなこともあるだろう。けど、もし違うなら。もし、わたしでもその域にまで到れるなら、今よりももっと、もっともっと多くの人に手を伸ばせるようになる。
痛くても、怖くても、力があればきっと怯まず誰かの手を取ることができる、はず。
「善は急げ、だよね」
時間は待ってくれないから。わたしはすぐに明日出すためのゴミの片付けを終わらせ、寝室に急ぐ。心なしか早足になるのは、緊張なのか高揚感なのか。自分でも判断のつかないまま扉を開ければ、上下を黒のスウェットに身を包み、のそのそと布団を敷いている千穂さんがいた。
申し訳ない気持ちは、ある。去った場所に連れ戻すなんて、心にどういう負担があるのかなんて想像できないし……わからない。あの日、誰よりも死が渦巻く場所にいた千穂さん。かすり傷を見て激しく動揺していた千穂さんを、もう一度魔法少女の関わる場所に連れて行くのは、ハッキリ言って最低の行為だ。人として決して褒められることではない。
だけど、止まってる余裕なんてない。怪物が起こす災害は、時間も、場所も、選ばない。三年前のような災害が再度起こることだって、ある。
もう、千穂さんみたいな人が傷つかなくていいように。力なき人が、明日をちゃんと生きられるように。わたしは、強くなりたいから。
「あの! 千穂さん!」
「え? は、はい!?」
「わたしに……魔法を、教えてください!」
「……教えてくださいって言われても……私、引退して三年は経ってるよ? ブランクありまくりだし、そういうのは百花にでも──」
「ダメなんです!! 千穂さんじゃなきゃ! 憧れたあなたに一歩でも、一歩でもいいから、近付きたいんです!!」
「もう、急にやめてよそういうの…………断り辛いじゃん」
照れを隠すように笑った千穂さんは、そう言って、顔を逸らした。ここからは、根気の勝負だ。言質を取らなければ、約束は形にならない。ならないから、わたしは待つ。待って、待って待って待って、見つめたまま、時計の針の音を聞き続ける。
やがて、千穂さんは根負けしたのか、一言小さく呟いて布団を被った。
「場所は、里穂ちゃんが何とかしてね」
一も二もなく、「はい!」と大きく返して、私も布団に入る。
決意が漲る感じがした。
次回もお楽しみに!
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