引退魔法少女、パチカスに堕つ   作:しぃ君

5 / 5
 私はトラウマを抱えた女の子って、いいですよね。

 p.s.
 chikinさん、はひふへさなさん、 Reikuさん、鷹のメメさん☆9評価ありがとうございます!
 夜市よいさん、月見一杯さん、七奈南さんも評価ありがとうございます!

 皆さんの応援もあり、日間16位をとることができました!
 今後とも、よろしくお願いいたします。


五話「壊れた心と芽吹く希望」

 心は移ろいやすいものだ。

 子供の頃好きだったものが、大人になってから見えなくなるみたいに。初恋も、いつかは色褪せていく。変わらないのは、私を生かす楔のような願いと、果てしない後悔だけ。

 

 

 だから、自分が抱えているものから、ちょっとでも目を背けるように、銀の玉と戯れる。ピカピカと光る液晶、うるさく響く先バレの音、当落を知らせる役物。どれも、工夫の凝らされた逸品だが、如何せん、逃避の時に打つパチンコほど味気なく感じるものはない。

 

 

 純粋に演出を楽しむことはできず、減っては増え、増えては減る持ち玉を見つめ、薄くなった財布を持って……私はパチ屋を去る。大概、こういう時は大負けをこく。パチンコの女神様が、真剣に向き合えと責めてるのか、運命の女神様が自分の責任と向き合えと責めてるのか。

 

 

 はたまた、その両方か。

 

 

「……折角、期待してた新台だったのに」

 

 

 運良く取れた抽選の結果は悲しいくらいに残酷で、帰ってからの未来も……想像に難くない。昨日の話をして今日だから、もしかしたら、呆れられて出ていかれたりして。まぁ、考えたとしても後の祭りでしかない。

 

 

 先に謝りを入れるべきか、お菓子でも献上するべきか。そうやって悩みながら、とぼとぼと帰り道を歩いていると、自分を追い抜かしていく影が見えた。

 

 

「ご飯っ! 準備っ!」

 

 

 見覚えのある制服と後ろ姿。今朝も、鏡の前で結っているのを見た、三つ編みのポニーテールに──ファンタジー小説や漫画で見るようなスタッフ(長杖)型のステッキ。間違いない、里穂ちゃんだ。

 

 

 時刻は18時前。学校帰りにしては、少し遅い時間。恐らく、怪物災害のサポートにでも行っていたのだろう。……警報が出てなかったのを考えるに、『晴』級、もしくは弱い『曇』級か。ひよっこである五級魔法少女が経験を積むには、妥当な案件だ。

 

 

「……私が昨日、あんな話したのに……偉いなぁ、里穂ちゃんは」

 

 

 弱くても、怪物は怪物。油断していれば怪我をするし、命を落とすことだってありうる。3年前の災害を知っていて、私の話を聞いても尚、あの子はしっかりと自分の責務を果たしている。眩しい、話だ。

 

 

 やっぱり、帰る前になにかお菓子とかアイスとか買って行くべきだろう。なんて、いらない気遣いを焼こうとしたその時、里穂ちゃんの手の甲から血が垂れているのが、見え、た。

 

 

「里穂ちゃんっ!!」

 

 

 話して、思い出したからか。

 夢で、見てしまったからか。

 赤い、赤い血は、私の心を大きく揺さぶる。

 

 

 たかだか数滴、死ぬわけなんてない。当たり前だ。そんなのわかっている。わかっていても、動悸が止まらなくなる。焦りか、恐怖か。自分でも驚くくらいの声と共に、私は彼女を呼び止め、手を掴んだ。

 

 

「ひゃっ!? ち、千穂さん!?」

 

「はぁ……はぁ……手、どう、したの……?」

 

「へっ? え? あ、あぁ……この怪我のことですか? そんなに心配しなくても、ちょっとしたかすり傷ですよ。帰ったらすぐに魔法で──」

 

「ダメ! すぐに治すの!」

 

 

 冷静ではなかったと思う。

 救えなかった強迫観念が私を突き動かして、回復の魔法を使うための言の葉を絞り出していく。

 

 

『傷ついた者に、聖なる癒しを』

 

 

 協会で習う初歩の回復魔法。

 作られた定型から、一切変えることなく紡がれた呪文は、魔法となり、癒しとなる。淡い黄金色の魔法陣が、里穂ちゃんの手の甲に浮かび、傷ついた部分を正常な状態に戻していく。

 

 

 みるみるうちに塞がる傷。何事もなかったように消えていく傷と共に、私の鼓動も正常なリズムを取り戻し始める。

 

 

「ふぅ……」

 

「……えっと……ありがとう、ございます」

 

「──あんまり、怪我を見ないフリしちゃダメだよ? 自分がいいって思っても、それが、思いがけない事故に繋がったりするんだから」

 

「は、はい! 気をつけます!」

 

「うん、元気でよろしい」

 

 

 明らかに口調がおかしいが、気にかけている余裕はない。感情の振れ幅が大きくなるほど、自分がどれだけ壊れているか自覚して、吐きそうになるから。潰れでぐちゃぐちゃになった心に蓋をして、笑顔を貼り付ける。

 不自然だっただろうけど、里穂ちゃんはびっくりしているのか、あまり状況を飲み込めてないように見えた。

 

 

 不幸中の幸いとはこのことか。

 

 

「……もう時間も遅いし、今日は出前でも取ろうか」

 

「いいんですか……?」

 

「魔法少女のお仕事、がんばって来たんでしょ? ゆっくりするためにも、今日はのんびりしようよ。ね?」

 

「千穂さんがそういうなら……」

 

「よし。じゃあ、帰るまでになに食べたいか決めよっか。私はね、ハンバーガー!」

 

「えぇ、ジャンキー過ぎませんか……?」

 

 

 うまいこと意識を逸らせたのか、帰り道は夕食の話題で盛り上がり、平穏無事に帰宅できた。

 

 

 蓋をした、私の心だけを残して。

 

 ◇

 

 魔法とは、想像を現実にする力。ファンタジー小説の中のそれとは、少し異なる力。どちらかと言えば、現代の少年マンガでいう異能、もしくは超能力といったものに近い。思い描くことができなければ、想像は想像のまま。現実を侵食することなく、頭の中で霧散していく。

 

 

 故に、魔法少女はみんな自分だけのイメージを持つ。昔からある少女向けアニメを参考にする子も入れば、長寿シリーズのファンタジー映画を理想にする子もいる。ようは、連想ゲームなんだ。わたしが持つ、ステッキがスタッフ型なのも、それが理由。

 

 

 どんな魔法を使うにも、形から入った方がイメージの連想はし易いし、制御も安定する。明確に、正確に、想像を形にすることが魔法としては大事で、時に仲間と自分の命を救うことになる──と協会の教官は口にしていた。

 

 

 なのに、千穂さんはなんでもないみたいに、当たり前に魔法を使った。魔法少女の衣装も着てなければ、ステッキもない……言葉にし辛いが、精神状態だってお世辞にもよくは見えなかった。見えなかったのに、魔法は発動し、わたしの怪我は消えた。

 

 

 ありえない。

 そんな言葉を使いたくなる。でも、いるんだ。魔法を、完全に自分の力として御してる人が。

 

 

「輪花って、やっぱりすごいな」

 

 

 世界に13人いた、最高の魔法少女。終末の化身に挑み、その身を賭して世界を救った英雄たち。その中の一人が、千穂さん。特別な魔法は使えなかったと聞いていたが、納得してしまう。だって、あの人は──そんなものがなくてもきっと、強い。

 

 

 どんな自分でも、どんな状況でも、魔法を完全に掌握する力。普通の魔法少女が至ることのできない境地だと、思う。

 何故なら魔法少女は、言葉の通り少女だから。多感な時期、自分自身の感情にさえ振り回されるのが、わたしたち。不要な言葉で友達を傷付けることもあれば、不安定な環境で自分すら傷つけてしまう。

 

 

 現に一部の魔法少女は、自身の魔法の力を過信し、よくない方向に走ってしまうケースもあると聞く。

 それくらい、魔法少女は脆い。

 定期的に健康診断があり、その中にメンタルチェックが入っているのも、それが理由。

 

 

「……聞いたら、教えてくれるかな」

 

 

 勿論、才能の可能性だってある。最初から、魔法の制御が完璧だった、そんなこともあるだろう。けど、もし違うなら。もし、わたしでもその域にまで到れるなら、今よりももっと、もっともっと多くの人に手を伸ばせるようになる。

 

 

 痛くても、怖くても、力があればきっと怯まず誰かの手を取ることができる、はず。

 

 

「善は急げ、だよね」

 

 

 時間は待ってくれないから。わたしはすぐに明日出すためのゴミの片付けを終わらせ、寝室に急ぐ。心なしか早足になるのは、緊張なのか高揚感なのか。自分でも判断のつかないまま扉を開ければ、上下を黒のスウェットに身を包み、のそのそと布団を敷いている千穂さんがいた。

 

 

 申し訳ない気持ちは、ある。去った場所に連れ戻すなんて、心にどういう負担があるのかなんて想像できないし……わからない。あの日、誰よりも死が渦巻く場所にいた千穂さん。かすり傷を見て激しく動揺していた千穂さんを、もう一度魔法少女の関わる場所に連れて行くのは、ハッキリ言って最低の行為だ。人として決して褒められることではない。

 

 

 だけど、止まってる余裕なんてない。怪物が起こす災害は、時間も、場所も、選ばない。三年前のような災害が再度起こることだって、ある。

 

 

 もう、千穂さんみたいな人が傷つかなくていいように。力なき人が、明日をちゃんと生きられるように。わたしは、強くなりたいから。

 

 

「あの! 千穂さん!」

 

「え? は、はい!?」

 

「わたしに……魔法を、教えてください!」

 

「……教えてくださいって言われても……私、引退して三年は経ってるよ? ブランクありまくりだし、そういうのは百花にでも──」

 

「ダメなんです!! 千穂さんじゃなきゃ! 憧れたあなたに一歩でも、一歩でもいいから、近付きたいんです!!」

 

「もう、急にやめてよそういうの…………断り辛いじゃん」

 

 

 照れを隠すように笑った千穂さんは、そう言って、顔を逸らした。ここからは、根気の勝負だ。言質を取らなければ、約束は形にならない。ならないから、わたしは待つ。待って、待って待って待って、見つめたまま、時計の針の音を聞き続ける。

 

 

 やがて、千穂さんは根負けしたのか、一言小さく呟いて布団を被った。

 

 

「場所は、里穂ちゃんが何とかしてね」

 

 

 一も二もなく、「はい!」と大きく返して、私も布団に入る。

 決意が漲る感じがした。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想や評価にここ好き、お気に入り登録もお待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

穏やかに生きたいTS村娘。今日もヤンデレ女勇者様が結婚を迫ってきます。(作者:汝とせがらを愛せよ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

十年の旅を経て魔王を倒し世界を救った女勇者様が、どういうわけかそこら辺の一般村娘に結婚を迫るお話▼「大丈夫、女神さまに祈れば子供も作れるから!」▼「そういう問題ではなくてですね!」


総合評価:1018/評価:8.6/連載:4話/更新日時:2026年09月22日(火) 19:03 小説情報

TS転生者、魔法少女世界に転生するも洗脳悪堕ち魔法少女にされて妹と戦わされる(作者:辻契約マスコット)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 悪の組織『シン・アーク』と魔法少女達が日夜戦う世界にTS転生した光の魔法少女オタク(自称)は、ある日悪の組織に連れ去られ、洗脳悪堕ち魔法少女にされてしまった!▼ 一方その頃、彼/彼女の今世の義妹はマスコットと契約し、魔法少女として戦う覚悟を決める。▼ これは、愉快な悪の組織の洗脳悪堕ち魔法少女と、愉快なニチアサ風光の魔法少女の、姉妹の戦いのお話し。


総合評価:2131/評価:8.22/連載:6話/更新日時:2026年07月11日(土) 21:51 小説情報

転生したら余命僅かな美少女だったので、悪のカリスマの振りして遊んでる。(作者:悪のカリスマをこよなく愛するオタク)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 悪のカリスマとは、悪を尊ぶ大罪人でありながら、人を惹きつける魅力を有する存在である。▼ ▼ 余命僅かな超絶美少女に転生した主人公は、魔法少女が存在する異世界で「悪のカリスマのごっこ遊び」を開始する。▼ あくまで、悪のカリスマの振りをして遊ぶだけ。▼ 迷える子羊の脳を焼き、チヤホヤされたいだけだったのに。▼ …‥いつの間にか、主人公の周囲には「本物の悪い子」…


総合評価:4521/評価:8.69/連載:2話/更新日時:2026年10月08日(木) 17:22 小説情報

【無自覚TS】ダンジョンで記憶喪失になった女の子だけど、周りの反応がなんかおかしい(作者:じっくりコトコト弱火メス堕ち)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

ボクはどうやら、ダンジョンで重症を負い記憶喪失になったらしい。▼それなら仕方ない。ゆっくり思い出していけばいいでしょ!▼……ところで、なんでボクの下着はトランクスばかりなんだろう。▼10/9 更新しました


総合評価:1145/評価:8.67/連載:7話/更新日時:2026年10月09日(金) 07:02 小説情報

TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします(作者:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物)))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

大学生の主人公は、いつの間にやら美女ボディで異世界に居た。でっけぇ胸にでっけぇ夢を詰め込みながら、彼……あるいは彼女はこう考える。▼「ダウナーお姉さんごっこがしたい!」▼片手には小さな竪琴を。もう片方の手は握り締めて敵をぶん殴る。▼吟遊詩人系TSダウナーお姉さん(要審議)の爆誕である。▼カクヨムでも掲載しています。


総合評価:1407/評価:8.02/連載:28話/更新日時:2026年10月22日(木) 00:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>