第四の壁を超える少女は武器を取る   作:Type90B

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DDLCの武装jkってありだな...そう思っていたら書けた小説。一応連載する予定です。


日常からの非日常

「何なんだろう、このファイル」

 スクリプト書き換えを行っている時。ふと知らないファイルが生成されていることに気付いた。Tac.wsimという見た事のないファイル、拡張子の表示も全く知らない代物。

 

「とりあえずいじってみましょ」

 

 そう思ってファイルに手を触れた瞬間、視界に立ち眩みのようなノイズが満ち始め、頭が重く、痛くなる。これ自体はファイル改変を行っているとよくある事そう思って手をコンソールに触れようとする。しかしコンソールは反応せず、ノイズがさらに強くなってゆく。

 

「...!、なんで……」

 

 そう思っていると、いよいよ視界が全て砂嵐に包まれる。頭の痛さも相まって、立っている事もままならなくなり、膝から崩れ落ち始める。そこで自分の体勢にある違和感が1つあることに気が付いた。

 さっきまで立っていたのが、座った感覚へと変化したという事、それに合わせて視界を覆っていた砂嵐が徐々に消えてゆき視界がはっきりとなってゆく。

 

「……ここは、どこ?」

 

 目に映った光景は、さっきまでの部室ではない、真っ白な部屋。そして目の前には――

 

「ようやく全員揃ったな」

 

 壁の穴の向こうの彼が目の前、円卓の向こう側に座っていた。それ以外にも私の近くにももう一人座っている人がいる。

 

「あ……貴方は……」

 

「そう、プレイヤー、そして、隣にいるのが――」

 

「私の名前は曽根美雪よ」

 

 彼が話すのを遮って隣にいた私と同じぐらいの年齢の女の子が喋る。

 

「手間省いてくれて結構、自己紹介も終わったところで、まずこれだけははっきりと言わせてもらう」

 

 向こう側の彼が話の主導権を握り始める。依然として何が起きているのか分からないが、間違いなくプログラム以外の出来事が起きているのが感じ取れる。

 

「俺ですら、いまあんたらとこうやって円卓を囲んで喋っている状況の理由が呑み込めていない」

 

 最初に彼が言った言葉で、私は困惑する。しかし、彼は右手を上げて何か言おうとしたことを静止させ、何が起きているのかを彼は淡々と話を続ける。

 

「多分全員同じ形でここに来たんだと思う、自分に関わりのあるファイルの中にTac.wsimのファイルがあってクリックしてみたらいつの間にかここにいたって感じでな」

 

「私たちはともかく、プレイヤーであるあなたは警戒しなさいよ……」

 

 美雪と名乗る少女が口を開き、思っていたことを代わりに言う。

 

「いろいろやってみてから覚悟決めて押したさ、削除、ウィルス検出、タスクマネージャー、全部やっても全く効果が無かったし、放置しようにもそうする気が浮かばなかったから、クリックしたら今に至るって訳だ」

 

 彼の淡々とした口調の後、彼は手元にあったパソコンへ視線を落とす。ふと彼に合わせて自分の前に同じような事務用のノートパソコンが置かれているのに気が付いた。

 

「先に来たからいろいろと調べてみたんだが、このパソコンの情報曰く、俺のパソコンの中と全く変わらない」

 

 私の前にあるパソコンの画面はおそらく彼のパソコンの画面が映されているのだろうか、マウスカーソルが勝手に動かされている。背景画像はユリの画像が映っているのが、個人的には少し気になる。

 

「それで、1つ違ったのはこのファイル、入学書類ってやつだ」

 

 静かな空間にマウスによるダブルクリックの音が一瞬だけ鳴り、目の前の画面に、ファイルの内容が写される。

 

「少なくとも俺を含めた12名分の入学に関するPDFらしい」

 

 映されているのは入学書類として細かな説明の書かれている書類であり、その契約内容の下には彼の本名が直筆されたのようなサインが書かれている。

 

「12名ってことは私たちのゲームの中だけじゃなくて、この隣にいる奴のゲームも入ってるってこと?」

 

「その通りだ、ただどうやら定員数が少ないらしいから俺の方のオリキャラ、それと俺のありえたかもしれない存在ってのがいる感じらしい」

 

「オリキャラって……、アンタはどういう扱いなの」

 

 目の前の彼は美雪の声に反応し、少しばかり考え込む。

 

「まず世界観の時点で俺が本当の俺として生まれる事は無い、PDFの名前も現実での本名で書かれてないしな」

 

 そう思って手元の画面に映っている彼の名前を確認する。彼の本名はパソコンの中を探っている時に何度か見た事があるけど、そこに書かれていた名前はそれと全く違う名前だ。“篠崎綾斗”それが今から私達が送られる世界での彼の名前らしい。

 

「あとオリキャラの方は昔3Dモデル作れるソフトで作ったことのあるキャラクターがそのまま使われてる」

 

 画面の映っている画像がスクロールされ次の人物が現れる。“篠崎綾女”同じ篠崎の名字を持っている事から、彼と近い存在なのかもしれない。丁寧に証明写真も載っているのが見て取れ、そこにはボブカットの私と変わらないほどの年齢の女子が映っている。

 

「ただ少なくとも俺の方は“DDLC”の学園に、綾女の方は“ととの”の学園に入学するらしい」

 

「またなんでそんなことに」

 

 美雪が言葉を発する。

 

「多分思い入れの強さがDDLCの方に入学することを決めたって所かな、あんまり二人の前で大声出して言いたくないけど、ユリが一番心動かしたキャラだし」

 

 その言葉を聞いて、少しばかり納得する心がある。事実、パソコンの壁紙がユリであった事でその信ぴょう性を裏付けている。

 

「それはともかく——」

 

「——ッ、あれ……、私、さっきまで学校に……」

 

 空席のところに新しく同じぐらいの少女が現れる。

 

「……!、ってラブラブスクールデイズもそういえば一応学園でメタ要素のあるゲームだったな」

 

 彼は一瞬だけ現れた少女に驚いた後、冷静な感情を取り戻す。

 

「貴方、もしかしてプレイヤーなの……?」

 

「一応そうだが、って事はマキナもあの拡張子のファイルを踏んだって事か」

 

 何が起きたのか分からない表情を浮かべる、“マキナ”と言われた少女から彼は視線を外し、ファイルを再読み込みする。

 

「……、増えたな、それも丁寧に12人分」

 

 増えたって何、と言いたそうな表情をするマキナへ彼は私に伝えたように淡々と説明する。

 

「……つまり、あの変な拡張子のファイルを触ったから、ここ、というかよくわからない世界に飛ばされたってことでいい?」

 

「その通りだ、まぁ、またなぜか俺の作り上げた人間が一人追加されてるが」

 

 もしかして謎に増える一人は彼がゲームを結ぶために追加されるのでは?私はそう考えながら目の前の少女の名前を聞く。

 

「とりあえず、この世界でどうなるか分からないけど、ひとまず自己紹介しておくわね。私は桜吹マキナ、これからよろしく」

 

「……、ってことはこれで全員が本当に集まったって事でいいのかな、って何だこれ」

 

 そう彼が話した直後、視界が白い光に包まれ始める。僅かに見えるパソコンの画面からは世界の生成完了というメッセージウィンドウが映っていたが、それもほどなくして見えなくなった。そして光で満たされた視界が暗転してゆく。

 

 ——

 

 どれ位の時間が流れたのだろうか、眠っているような感覚で再び目を開くと、自分の部屋の天井が視界に入った。首だけを動かして壁に掛けられている時計を確認する。朝の7時、いつもと変わらない目覚めの時間。ベットの上から起き上がって、クローゼットの中から制服を取り出して着替える。今の所変わったことが起きているといった感覚はない。そう思って視線をクローゼットの中に落とした時、見慣れないものが映った。

 銃だ。それも彼の検索履歴で見た物と変わらないような代物。

 何でここにそれがあるのかと思いながらそれに手を伸ばそうとした時、なぜそれがここにあるのか思い出したように理解する。これは学校での訓練で使う物だ。彼が話していた事と学園名の中にあった装甲機動学園の名前を思い出す。つまる所、世界で私、そして彼女らの通っている学校は軍事的な物を扱っているのだろうか?

 考えていても仕方ないため、ブレザーを着てから部屋を出る。とりあえず朝食を食べよう、何が起きているのかは彼——と言っても彼と出会えることが出来るか分からないが——と出会ってからにすればいい。

 

 ——

 朝食を食べている時になんとなくテレビを点ける最初に映ったのは朝のニュース番組であり丁度全国の天気予報が流れていた。いや、厳密に言えば日本の一部のみの天気が流れている。具体的に言えば東北地方以降の天気が映し出されていない。そのままニュースに移り変わり、内容が入って来る。そこでのニュースの内容で、さっきの疑問の答えが出る。

 

「……昨日、札幌政権の実効支配地域にて新潟方面に脱出中の難民船が、札幌政権の航空機による攻撃により撃沈された事態に対し……」

 

 札幌政権という聞き慣れない言葉、彼、そして私の知っている日本では札幌は北海道の一番大きい都市であると記憶している。となると、この世界の日本の国土には2つの国があるという事なのかもしれない。テレビを見ながらそう考えた。

 

 朝食を食べ終えた後、メッセージアプリで彼——綾斗君からのメッセージが入って来た。

 

「分かっていると思うけど、銃持ってくるんだぞ」

 

 その事を聞いて、再び自分の中で何かを思い出すような、それとも刷り込まれるような感覚になる。銃器は外に見えないように運ぶ事や銃の取り扱いの基本的な心得、そして、“それ”自体を撃つ方法なんかも思い浮かぶ。

 とりあえず朝のルーティーンを済ませた後、学生鞄と銃器の入ったバックパックを背負ってみる。時間を確認すると時間は7時40分を示していて、これまでの感覚を頼りにすると、今学校へ向かえば朝のホームルームまで余裕の持って登校ができる。それなら向かうのも悪くはないだろう。

 メッセージアプリで綾斗君に——なぜ私とメッセージがやり取りできているのか分からないが——メッセージを送り返す。

 

「ちょっと情報交換したいから、昼休み一緒にいてくれる?」

 

 メッセージを送った後、すぐに既読がつく。

 

「分かった」

 

「部室でいいか」

 

 短いメッセージで彼が返事をしてくる。いいよ、と私も同じような短いメッセージを送り返す。メッセージに既読が着いた事を確認してから、私は家を出た。

 

 ——

 

 いつもと変わらない通学路を歩き、学校へ向かう。文化祭が終わってから早くも2か月が過ぎ、あっという間に11月の中頃となった。おかげかそれまでうんざりするほど暑かった気温も鳴りを潜め、秋晴れの空と涼しさの感じられる出来るような風が通学路に吹いている。通学路にある木々も、それまでの青々しさを感じられる色から変化して、茶色や赤色といった紅葉特有の色になっている。

 

「レイ?」

 

 隣を歩いていたサヨリが口を開き秋晴れの感傷に浸っていた意識が引き戻される。

 

「どうした、サヨリ」

 

「最近、なんか学校の方で先生たちが少しピリピリした空気になってるよね」

 

「あー、そうかもな」

 

 確かに最近の先生の会話を聞いていると、多少なりとも口調に強い力がかかっているように感じる。その理由が何なのか分からないが、昨今の南北状勢を考えると、少しばかり心当たりのようなものが思い浮かぶ。

 

「最近は米沢盆地の方で大規模演習があったってニュースで報道されてたし、一昨日の難民船爆撃とか首都圏の電力関連施設なんかでのスパイ侵入とかがある以上、それにつられて緊張してるのかもな」

 

「レイはさ、このまま戦争がはじまると思う?」

 

「分からないな」

 

 とりあえず俺の中で思ったことを口にする。

 

「俺としては起きてほしくは無いって思う」

 

「もし戦争になったらさ、私たちも前線に行くんだよね」

 

 サヨリは少しうつむいた表情を浮かべる。

 

「私、死ぬのが怖い」

 

「俺もだよ」

 

 サヨリの思っている事は同じだ。戦争になってしまえば特定国防学園として指定されている俺らの学校の生徒は国防隊の指揮下に入り、戦闘に参加することとなっている。

 

「でも、戦うことは出来ると思う。一年生の時に入れられたナノマシンのおかげでね」

 

 そうサヨリが言う。学生を作戦に参加させるため、そして正規軍なんかとの連携を図るために俺たちの体の中にはナノマシンが注入されている。そのナノマシン、正式名称complex combat control(複合戦闘制御)通称、復戦。そのおかげで普段の授業のに混ざって行われる射撃、戦闘といった授業だけで正規軍のような組織の兵士と同じぐらいの技量が身に付く。

 まるでどこかのゲームのようだ。

 そんなことを考えながら学校の入口までたどり着く。安全指導の警備ボランティアの人に挨拶を行いながら他の人の波の1つのように歩き、校舎の入口にたどり着く。

 

「あ、モニカちゃんおはよー」

 

 校舎の入り口で文芸部の部長、モニカと出会う。

 

「おはよう、サヨリ、それからレイ君」

 

 俺も流れでおはようと口に出し、そのまま会話に入り込む。

 

「誰か待ってるの?」

 

「綾斗君を待っている所ね」

 

 綾斗君、文化祭での発表後、興味を持って入部してくれた新入部員だ。と言っても、入ったのは彼一人だけだが。

 

「もしかして部活の事?」

 

 サヨリが質問する。

 

「そんな所かしらね、彼も入ったばっかりだし少しばかり部活動の事で話し合いをしたいところだし~」

 

「もし綾斗君の事で何かあったら、私にも伝えてね」

 

 モニカは分かったというような表情を見せて頷いた。

 そんな会話をした後俺とサヨリは玄関を潜り、それぞれの教室へと向かう事にした。

 

 ——

 

 しばらく待った後、彼が登校してくるのが見えた。

 

「おはよう、綾斗君」

 

「おはよう、武器のチューンアップは済んでるか」

 

「とりあえず置かれている状態から何もいじらずに持って来たわ」

 

 それでいい、と彼は言った後にどれぐらいの時間で部室に向かうか時間を合わせた。

 

 ——

 昼休み、昼食を食べ終えた私は部室に向かう。彼も部室の場所はわかっているだろう。職員室に向かって鍵をもらった後、いつもの廊下を歩いてゆく。廊下に貼られているポスターなんかが、それまでの学校生活と違う雰囲気を持っていて、それと同時にこんな感じだったという感覚になる。おそらく、表現されていなかった部分が彼の記憶と想像が混ざって作られているのかもしれない。

 

「……あ、モニカ来たんだな」

 

 どうやら私より先に彼は部室に来ていた。手には歴史の教科書を持っている。

 

「待たせちゃった?」

 

「いや、鍵がかかってたから職員室へ取りに行こうかと思ってた所」

 

 彼の話を聞きながら部室の鍵を開いて中に入り、手ごろな椅子に座る。綾斗君も、私が座った席の前の席から椅子を拝借し。向かい合う状態で話す体制になる。

 

「それで、この世界がどうなってるか、分かってる範囲で教えてくれない?」

 

「とりあえず日本は分断されてる。歴史の教科書漁ったらそうなってる理由が書かれてた。それで二次大戦後に1回戦争が起きてる。言ってしまえば日本版朝鮮戦争だな。結果的に福島は奪還したことが書かれてる。」

 

 歴史の教科書の後半のページを開きながら説明を続ける。

 

「この戦争の後に、この学校みたいな国防にかかわる学校が出来たみたい。多分、徴兵制が出来ないからその代わりとして出来たんだと思う。メタ的に考えると、武装JKを動かすための口実だな」

 

「武装JK、って綾斗君とレイ君は男子でしょ」

 

「一般的にこの手の奴の略称がJK主体だから、あと男子高校生の時の表記が分からん、とりあえず仮として武装高校生って言っておく」

 

 会話を行っている途中で彼はポケットの中にあった小さめのペットボトルを開いて、中の飲み物を一口飲む。

 

「それで、俺の予想では多分戦争が始まる」

 

「その根拠は?」

 

「世界的な状況で言うと北日本……、この世界で言うと札幌政権からの脱出者が増えてる。ニュースで流れてた、それ以外にも米沢平野の方で大規模演習が行われた後、その部隊が依然として仙台に展開中らしい」

 

「それだけじゃ根拠にならないと思うけど」

 

「ここからがメタ的な考えだ。この世界には正体不明の化け物なんて存在はいない。そして日本が分断国家になっている。この条件で武装高校生の活躍を行わせるには、戦争という手段が一番あり得ると考えても違和感はないだろ?」

 

「ま、まだ特殊部隊的な方向で活躍するというのはあり得ると思えるんだけど」

 

「この学校の名前に機動装甲って名前がついているのと、僕の方で授業の中で戦車を動かす訓練があったから、その可能性は低い」

 

 その言葉で感情的にこの先通る道が1つであることを理解し、思わずため息が口からこぼれる。

 

「戦争開始はいつになるか分からない以上、今のうちに武器の準備と動かし方を学んでおいた方がいい」

 

 綾斗がそう言ったのに合わせるかのように、昼休みが終わる5分前のチャイムが鳴る。

 

「それじゃ、次は部活で」

 

 そう言うと彼は部屋を出て行った。

 

 ——

 

 長い授業をとホームルームが終わり、俺は文芸部に向かう。VR訓練での射撃合戦によって疲れ切った体を休める家以外の心地よい場所、そこに向かってサヨリと共に向かう。

 

「でね、シミュレータの中でドリフト出来たんだよ!すごいと思わない?」

 

「それは頼もしい運転テクだな」

 

 サヨリが訓練での面白かった話を聞きながら歩いてゆく。

 サヨリの運転技術は上手い方であるが、時折訓練用のシミュレーターの僅かな仕様を突いたトリッキーなことを行う事がある。一方でそれが仕様でない事も度々ある。それが彼女に与えた天性の才能なのか、それとも学習の結果なのかは分からない。

 そう考えていると部室の目の前にたどり着き、それに俺が気付くのに合わせてサヨリが扉を開いた。

 

「お、ようやくやって来たわね」

 

 クローゼットの傍にいたピンク色の髪をした少女、ナツキが声を出す。まるで何かを待っていたかのような反応だ。モニカ達他の部員も、それまで各々個別なことを行っていたのを止めて、俺らの方を向く。

 

「それじゃ、全員集まったことだし、ナツキ、準備してくれる?」

 

 モニカがそう言うと、部室の中にいた全員が動き出す。

 

「なぁサヨリ、今日何かの記念日だったか?」

 

 そう聞こうとしたら、モニカに机の移動を手伝ってほしいと言われたため、彼女に従う。

 机を並べ終えると部屋の中央に1つの大きな机と、そこに集まったように椅子が並べられている。その上にナツキが金属のトレーを置く。中身が何なのか、恐らくカップケーキだろうと予想は出来るが、確定できる要素は無い。

 

「モニカ、急にどうしたんだ」

 

「ちょっと時間が空いたけど、綾斗君の入部祝いね」

 

 そう言われて、自分が入部した時を思い出す。あの時もこんな感じで椅子が準備されていたな、と思う。

 

「先に始めるのも悪いと思いましたので、それまで普段通り過ごしていたんです」

 

「わざわざ僕のためにこんなの準備するって言われても、いまいち実感わかないけどね」

 

 眼鏡をかけた黒髪で、ユリと同じぐらいの身長のうすほそ男子が口を開く。今回の入部祝いの対象、綾斗だ。

 

「ま、そんなことはいくらでも口実作れるし」

 

 ナツキがどこか勝気な声で呟く。

 

「それより二人とも、早く座って!」

 

 少しばかり綾斗に視線を向けていると、視界の端でサヨリが椅子に座りながら、こっちに手招きしてくる。それに流されるように俺はサヨリの隣に座った。

 

「せーの、じゃじゃーん!」

 

 おお、と思わず目の前のカップケーキに視線を奪われる。俺が入部した時とは逆に——と言ってもネコの反対がどんな生き物かは人によるだろうが——、今回のカップケーキの見た目は犬をもとにした代物だ。

 

「かわいいワンちゃんだー!」

 

 サヨリはすぐに12個並んでいるカップケーキの1つをつかみ取り、口にする。

 

「ちょっとサヨリ!、また子供みたいなことして……」

 

「そんなもんで丁度いいだろ、少なくとも僕はね」

 

 サヨリが食べ始めた事によってなし崩し的に全員がカップケーキを手に取る。その間にユリは全員の机の上にティーカップを置いてゆき、俺は置かれたカップを手に取って中の飲み物を一口飲む。

 

「普段は烏龍茶ですが、今回はナツキちゃんの作る物が分かってたので紅茶を用意しました」

 

 はっきり言って俺は紅茶の味に関しては素人同然だ。だがユリが淹れた紅茶の香りは茶葉の優雅さがあるのかもしれないと、思える代物だし、味も渋さが強すぎない程度の物になっている。

 モニカの隣に座っている綾斗も紅茶を啜った後、手元のカップケーキを両手で持ち。一口目として噛り付いた。俺もそれと同じように、カップケーキをかじるのに丁度いい角度を眺めて、口にする。

 流石ナツキ大先生、といったような感想が思い浮かぶような風味の豊かさを感じさせる。犬の輪郭を作り上げているチョコペンの味と、犬の白い毛を再現しようとして塗られたアイシングは砂糖と柑橘類、特にミカンのような味を醸し出しており。このカップケーキのメインを務めている。

 

「ホントにナツキのカップケーキっておいしいな」

 

「まぁ、何年も作って来たからね、経験の蓄積よ」

 

 そう言いながらナツキは自信あり気な反応を見せる。

 

「それはそうと、綾斗さんはどんな本を読んでいるんですか?」

 

「いきなり急だな、ユリ」

 

「部活に入られた時、何も聞いていませんでしたからね」

 

「そうだな……、サイエンスフィクションなんかをよく読んでるって所、それかライトノベル」

 

「そうですか、具体的な作者とか言えますかね」

 

「最近だと伊藤計劃の虐殺器官って小説とかかな、と言っても何回も読み直してる、海外小説だとメトロ2033とかその辺の小説を読んだ事がある感じだな」

 

「意外と、というより見た目通りハード系な作品を読むのね」

 

 モニカが喋る。

 

「あと、漫画としてはエリア88とか、読みたいものとしては攻殻機動隊とかみたいな古い作品とかも興味あるかな。それ以外に……、あんまり人に言うような作品じゃないけど汽車のえほんとか……」

 

 最後に言った作品で少しばかりの笑いが起きる。

 

「ごめんね、まさか絵本が入ってるなんて思わなかったから」

 

「ぶっちゃけ琴線に触れた作品ならある程度手を付ける事はする感じだな、汽車のえほんに関しては語るだけ語れるけど興味無さそうだから聞きたい人だけ残ればいい」

 

 まるで笑われたことを気にも留めない様子で、淡々と話を続ける。汽車のえほん以降は少しばかり声を小さくしていたが。

 

「でもいいんじゃない、ファンタジーに、少女漫画に、SFとそれなりの知識を求めるような本、文学のあり方がそれぞれ個性を持ってる感じだし~」

 

 いい方向にモニカが話を流す。

 

「それもそうだな、って時間結構押してるぞ」

 

 綾斗が時間を確認して、その視線の方みると、冬季の部活動終了時刻が迫っていた。

 

「よし!、それじゃあ今日の部活はここまで!」

 

 そう言いながらモニカは立ち上がり、それに合わせるように全員がバラバラに帰宅の準備を始める。俺もサヨリと一緒に自分の学生鞄と武器の入ったバックパックを持ち、部室を後にする。

 

 ——

 

 自宅に帰って夕食の生姜焼きを食べ終え風呂に入った後、俺は自分の部屋でネット漁りを行いながら、サヨリと一緒に部屋でなんとなくの時間を過ごしていた。時折面白かった動画を一緒に見ては、お互いに笑いあっている。

 

「この動画のコメントの大喜利、滅茶苦茶完成度高いよな」

 

「どんなのがあるの?」

 

「例えば、大どんでん返し:実際の状況はこれだったが、主人公にはゲーム本編の様子で見えていた。とか」

 

「それは面白いね!」

 

 そう笑いあっていると、突然部屋の照明が落ち、辺りが真っ暗になる。

 

「?、停電か?」

 

 そう思いながらベッドの上から降りて備え付けの懐中電灯——作戦の時に使うかもと、母が買ってくれた代物——を手に取り、部屋を出る。ブレーカーはキッチンにあるからそこに向かおう。

 暗くなっているはずの廊下を軍用の眩しすぎるとも言えそうな光で照らしながら、キッチンへとたどり着く。母さんもこの状況を分かってか、自分のスマホの明かりを利用して、キッチンまでやって来ていた。

 

「レイ、さっきブレーカー確認したけど、ヒューズが切れた感じではなさそう」

 

 俺の持っている懐中電灯の光で母さんの顔が見える。

 

「もう車の蓄電池の電源に切り替えたから、多分復旧するはず……」

 

 そう思っていると復旧のせいか、電灯の明かりが一斉につき始める。

 復旧したようだ。しかしなぜ?急に停電した?そう思ってスマホを見てみると、電波のアンテナが一本も立っていないことに気付く。

 

「レイ!、スマホの電波が消えてる!」

 

 階段を下りてくる足音と一緒に、サヨリの声が聞こえる。電力復旧が出来た事から俺はすぐにテレビの方あるリビングへと向かい、テレビの電源を点ける。何も変わったところはなく、バラエティ番組が流れている。他の局も変えてみているが、今のところ変化があったというのは放送されていない。

 

「母さん、型番停電って予定にあった?」

 

 そんな予定はないと、母は言う。となると送電施設なんかに問題が起きたのだろうか。俺はそのまま唯一の情報収集装置と化したテレビを眺める。サヨリも俺の横に座り、一緒に見ている。

 しかしそれは普段映画を見るようなものではない、緊急時の表情だ。

 しばらく番組を眺めている内に21時を回った所で、テレビはニュース番組が始まろうかといった様子である——と思った所で番組の映像がオープニングコールから切り替わり、アナウンサーが映る。

 

「番組の途中ですが、現在起きている停電についてのニュースをお伝えします。現在20時50分ごろから首都圏各地において大規模な停電が起きており、現在関東電力が早期の復旧を努力しております。また現在何らかの要因により首都圏で通信障害が起きているとの情報も入ってきているとの発表が日本通信にて行われています……、ええ、現在入ってきた情報ですが、関東電力の発電所や変電所などで爆発があったとの通報が関東電力より警察へ入ってきました」

 

 どうやら俺らの居る地域全体が停電している事が分かった。同時に関連施設での爆破の一方も起きている。

 

「サヨリ、懐中電灯貸すからすぐに家に帰れ、武器と装備取ってこい」

 

 直感的にこれが単なる事故に感じられない。そう思った時にはサヨリに帰るよう口を開いて、手元に持っていた懐中電灯をサヨリの手に置いていた。

 

「分かった、何かわかったらすぐ連絡入れて」

 

 サヨリも普段よりも低い声で反応が返って来る。すぐにサヨリは立ち上がり、一目散に玄関へ駆けてゆく。俺も直ぐに自分の部屋へと向かう。何が起きているのか分からないが、同時に何か所もの電力施設で爆発が起き、同時に通信網が麻痺しているというのは、偶然にしても出来すぎている。最悪の事態に備えなければ。

 二階に上がってから自分の部屋に行きロッカーを開く、今日の訓練でも使ったアサルトライフル、HK416と、普段は着ていないプレートキャリア——プレキャリ——を取り出す。一緒にプラスティック製のマガジンに10発でまとめられたクリップを取り付けて、1マガジンに30発の5.56mm弾装填する。マガジンに弾薬を入れっぱなしにすると弾薬の重さでバネが塑性変形して給弾不良の原因になると、訓練で教わったためにこうやって装填を行っている。

 30連マガジン6個に弾薬を入れた後、プレキャリのマガジンポーチに入れ、同時にアーマープレートも挿入する。合わせて学生服に着替えてからプレキャリを着て、ミリタリーベルトやヘルメット、そのほかの装備を体に纏わりつけ再び一階へ降りる。

 

「ええ、あ、今、武力有事宣言が発令され——」

 

 直後に甲高い電子音が流れ、青い画面と有事避難命令を示す画面が流れる。予想しうる最悪の事態だ。そう思っていると耳元に取り付けていたヘッドセットから声が聞こえる。

 

『機動装甲学園の全生徒へ……一方通信、自身の管轄範囲内……警察との……携を密に……避難行動の支援を開始せよ』

 

 無線にはノイズがかかっており、聞き取ることが難しい、しかしはっきりと聞こえる単語を並べてゆき、意味を理解する。民間人の避難を開始しろとの事だ。

 俺は手元に持っていた小型の注射針一体型注入器を開き、自身の静脈に差し込む。体内の復戦用ナノマシンは普段の学生生活中では非活性化状態である。しかし戦時になると活性剤を何らかの仕組み、例えば経口摂取などで起動させる事になる。今俺が行っているのは即応時に体内吸収の早い物として、静脈を経由してに直接投与する物だ。

 活性剤を打ち込んだ後、すぐに銃を手にもって、玄関から飛び出す。辺りは俺の家以外に街灯の明かりも無ければ家からこぼれ出ている光もない。本当に大規模な停電が起きているというのが、目で見てわかった。

 

「レイ!」

 

 遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。サヨリの声だ。それと同時に大出力の光がこっちに向かって飛び込んで来る。

 

「サヨリか、いま丁度、避難誘導関連の指示が回り始めてる」

 

「やっぱり、この辺はどうなの?」

 

「今のところこの辺は避難準備対象地域扱いだが老人とか避難が困難な人は避難しろとテレビで言ってた」

 

 会話をしていると遠くから警察車両が甲高いサイレンの音と早めの避難が必要な人への勧告を流しながら、やって来るのが聞こえ、赤色灯の光も見えてくる。おそらく避難準備対象地域となっているだけあって、警察や国防隊の面々が動き出しているのだろう。そう思っていると一台のパトカーが目の前にやって来て、俺らに気が付いたように急停車し、中から二人の警官が降りてくる。

 

「動くな!……ってあんたら特定国防学校の生徒か」

 

 9mm銃口の拳銃を向けられたかと思うと、警官はすぐにそれを降ろす。自分の口からそうですと、自身が特定国防学校の生徒であると言い、アドミンポーチの中に入れていた学生証を取り出す。

 

「避難誘導はどうなってます」

 

「現状岩川区の避難場所への誘導が何世帯分か行われている」

 

 そう話をしていると、後方からバンが数台、ゆっくりと走って来るのが見えた。どうやらどこかの老人ホームの車両らしい。

 

「おい!、警官さんよ!、年寄りしこたま乗っけてるから早くしてくれないか!」

 

 やって来た車両を確認すると、そこの言葉通り何人かの人影が車両の運転席の後ろに見える。

 

「ついていきます、警官さん」

 

 早期避難誘導のために、俺とサヨリは警察車両の区部座席に乗り込む。警察官もそれに応じるように乗り込んで、車両は発進した。

 

 ——

 

 なぜか家の中にあった無線機から雑音交じりの声が聞こえた。雑音が多かったが民間人の避難誘導を開始しろとの事。それが分かってからは自身の武器と装備を取って、家の中から飛び出していた。

 昨日まで、いや私の中にデータとしてあるのだろう夜の風景はもっと明るかったと記憶に記されている。それとはまったく違い、辺りは暗く月明りすらない。どうやら今日は新月らしい。

 

「……カ、……モニカ!」

 

 遠くの方からつい数時間前に聞いた声が聞こえる。綾斗君の声だ。薄暗い視界の向こう側で暗い影が全力疾走でこっちに向かってきている。輪郭だけ見ても私と同じか、それ以上の重装備が、太陽光発電のために唯一点いていた街灯で一度だけ見え、後は暗闇の中の影として迫って来る。

 

「モニカ!」

 

「綾斗君、この状況何が起きてるの」

 

「昼休みに俺が言った事、戦争が始まる……ってか始まってる」

 

 次に口からどうすればいいと零れ出る。

 

「俺らの任務は民間人の避難誘導、特に今の状況的には避難困難者の早期避難が行われている。学校の方で大型のトラックがこっちに回されてくるらしい」

 

 そう思っていると、無線機から声が再び流れてくる。

 

『……区、島川交番より報告、現在無反動砲および機関銃らしき物で武装した車両が同交番を襲撃の後、岩川区方面へ向けて逃走中、対応可能ユニットは直ちにこれを阻止せよ』

 

『こちらPC(警察車両)、現在当該車両の追跡を開始、現在都道182を岩川区方面に向けて追跡中、現在当該車両がこちらに向けて発砲中』

 

「こっちに来てるな大通りの方に向かうぞ」

 

 間髪入れないような声で綾斗君が移動を始め、それに合わせるように私も歩き出す。大通りの方となると歩いて大体2分程度場所だ。

 

「大丈夫なの、相手は……、何か強い装備を持ってそうじゃない?」

 

「注意が後ろのパトカーへ向いてる間に、俺らが奇襲をかける。無謀かもしれないがな」

 

 そう言いながら綾斗君はアサルトライフルに取り付けてあったグレネードランチャーへ、弾丸を装填する。気が付いたらもう大通りに出ていた。ここも、静寂が漂っている。

 

「もし怖いなら、降りていいんだぞ」

 

 いいや、と彼の言葉を否定する。

 

「嘘言うな、視線が定まってない。まさかとは思うが復戦の活性剤打ってないのか」

 

 突然言われた事に動揺する。活性剤と書かれていたカプセルの薬は飲んだはず……いや、彼が打ってないって言った以上、飲んだ物とは違う物なのか?

 

「メディポーチ開けろ、その中に緊急活性剤入っているはず……」

 

 彼が言った通りに十字架の書かれたポーチ中を漁る。状況を見てか、彼もヘルメットに取り付けたライトで照らし、一緒に探す。

 

「あったぞ」

 

 彼がポーチの中から一本の小さな絵の具用のチューブみたいなものを取り出す。

 

「薬の方も飲んでる以上投与量が多くなるかもしれないが、即応性はこっちのほうが早い打つぞ」

 

 そう言いながら彼はカバーを外して何か動作を行った後、私の左腕をまくる。

 

「少し痛むが我慢しろ」

 

 そう言うと同時に私の腕にあった青い静脈へ針が刺され、一気に何かが流し込まれる。針が抜かれた後、ポーチの中からコットンがどりだされて、私の腕に張り付けられる。

 

「これで大丈夫だ、1分もすれば効果が出てくる」

 

 そう言うと彼は自身の銃を構え直し、通りの方へ銃口を向け直す。

 

「武装車両追跡中のPC(警察車両)に通達、こちら私立岩川機動装甲学園所属の特定国防学生だ、現在当該車両予想進路上にて待機中、前方より攻撃を行う、誤射回避のため車間距離を開け、オーバー」

 

『待機中の特定国防学園生へ、了解、車間距離を40mほどに位置し待機する』

 

 冷静さを持っている綾斗君が冷静に角に隠れ、照準する。しばらくすると警察車両のサイレン音が聞こえ始める。私もその音が聞こえた時に、彼の背中に張り付き、待機する。

 

「来たな、擲弾を使う」

 

 そう言うと爆音のエンジン音が聞こえ始める。おそらく件の車両だろう。そう思っていると射撃音が聞こえ、ヘッドライトの光と後方から見える数台のパトカーが見えた。武装車両は2両。

 

「擲弾発射」

 

 綾斗君の声に合わせて栓の抜けるような音が聞こえ、グレネードランチャーから40mmのグレネード弾が撃ち出され、一番先頭にいた軽トラへ吸い込まれるように飛んで行き、運転席で爆発が起きる。直後ライトの光が揺れ動き後続車両とぶつかって轟音が鳴り響く。

 

move(動け!)!」

 

 そう言いながら綾斗君は遮蔽からと出てゆき、照準を合わせ始める。私も一緒に移動し、彼の後ろを続く。後続のパトカーからも銃を持った何人かの警察官も降りてゆく。

 直後、銃声が何発か聞こえ始め、綾斗君はすぐに近くのレンガ造りの花壇に隠れ、私も一緒に隠れる。

 

「撃って来た!」

 

 そう言いながら彼は遮蔽から上半身を出して、銃口を横転した軽トラに向ける。私も銃を構えるが引き金が引けない。

 

「安全装置外せ」

 

 緊張の中にいたからか、安全装置を外す事を忘れていた。すぐに単発射撃の位置に切り替えて、引き金を引こうとする。

 

「まて、このままだと警察に当たる」

 

 そう言われながら彼が私の持っている銃を片手で下げる。

 

「パトカーの中にもパトロールライフルはある、人数もいるから誤射が起きないためにも撃つな」

 

「わかったわ」

 

 そう言うと彼は銃声の合間を縫って花壇から花壇へと移り、軽トラへ近づいてゆく。無論、私の方も彼の後ろをついていく形ではあるが、花壇伝いに軽トラへ近づく。

 

「武器はおそらくPK(カラシニコフ機関銃)だろう、銃声が鳴り止んだらすぐ狙え」

 

 彼からのバースト通信で指示が飛び、了解と小さく返事をした後、花壇のほんの数メートルほどの場所で鳴り響く銃声を聞く。敵の数が何人いるのか分からないが、少なくとも3人分ほどの銃声が鳴り響いている。一方で警官のなる銃声も同時に鳴り響いている以上、どれがどの銃声か分からない。そう思っていると一番近く重たい銃声が鳴り止み、軽い銃声だけが鳴り響く。

 チャンスだ。

 すぐに遮蔽から上半身を乗り出して、目の前にいる人間へ照準を合わせる。彼の方も同じように花壇から身を乗り出して狙いをつける。1番最初に視界がとらえたアサルトライフル持ちの男の頭にドットサイトの赤い点を合わせて、引き金を絞る。直後、白と橙の明るい光が視界を覆うと同時に目の前の男が倒れる瞬間を視界に納める。

 綾斗君の方も機関銃を持っていた男に引き金を引き、命中した弾丸によってリロードを行っている途中のまま、男は地面に倒れ込む。そしてすぐに銃口を別の男に向けて銃弾を次々と撃ち込む。

 時間にして僅か5秒、それだけの短い時間で、3人が死んだ。

 銃声が鳴り止み、パトカーの赤色灯の光が、一定間隔でこちらを照らす。

 

「モニカ……おいモニカ!」

 

 綾斗君の声で再び現実に引き戻される。気が付くと自分の呼吸が止まっていたことに気が付き、大きく深呼吸する。

 

「残りは警官が逮捕した、すぐに現場処理班の人間が来るらしい」

 

 ひとまずは何とかなったと言っていいのかもしれない。再び視線を倒れている男に向ける。彼の頭の辺りからは血だまりが出来始めていて、一目見ただけで死んでいると分かる様子だ。

 戦闘の興奮が収まり始めると同時に、少しばかり頭痛がし始めて、地面にしゃがみ込む。

 それに気が付いたのか綾斗君が駆け寄って来る。

 

「モニカ、大丈夫か」

 

「大丈夫、ちょっとだけ頭痛がしてるだけ」

 

「活性剤の副作用か……、しばらく安静にしてろ」

 

 まるで普段通りの学校生活の一幕のように話しかける口調で、彼は私に肩を貸す。さっきまで居た植木の花壇まで運んでくれて、そこに座り込む。血管の流れの影響か、少しばかり痛みが和らいでゆく。遠くの方では綾斗君と警官が何か話をしているのが聞こえてくる。

 

 ——

 

 しばらくした後、増援の警察官によって警察署まで運ばれ、取調室で何個かの質問を行われた後、そのまま開放してもらえた。スマホの時計を確認してみると、時間は午前1時を過ぎている。

 

「どうやら敵さんは札幌政権の工作員で間違い無さそうだ」

 

 非常用電源によって動いているLEDライトが照らす署内の明かりの下で、綾斗君は口を開く。電源が一応繋がっていたからと、自販機で買ったホットココアを一本渡してくれた。

 

「動向としては避難誘導の攪乱のため交番に砲弾撃ち込んで、そのあとはここに切り込むって所だったらしい」

 

「結局はそれが防げたってことで良いの?」

 

「多分な、それと俺らが戦っている間に予想通りの事が起きた」

 

 予想通り、という言葉に私も、多分彼の言おうとしている事と同じことを考える。

 

「福島と新潟の境界地区で武力衝突が起きてる、後、官庁街の方にも何発かミサイルが飛んで来たらしい」

 

 その言葉を聞いて缶に口をつけようとするのを止める。

 

「学校が明日あるか分からないが、恐らく有事動員制度で前線……かそれに近い所には行くかもしれない」

 

 そう思っていると、スマホの方に着信音が流れる。学校のクラス用メッセージアプリからだ。

 

「本日の登校時は、所有装備すべてを携帯した上で、通常通りの時間に登校するように」

 

 これだけの事が起きているという事もあってか、思っていたような内容のメッセージだ。

 

「とりあえず避難誘導は完了した感じだし、一度家に帰ろう」

 

 彼の言葉に合わせて、私も座っていた待合の椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。この場所も警察署以外は停電しているのが目に留まる。ひとまずは彼に合わせる方がいいだろう。

 

 ——

 

 暗い夜道を歩いて、自宅との分かれ道にたどり着く。距離がそれほどなかったのは不幸中の幸いだ。

 

「それじゃ、また明……、数時間後」

 

 そう言う彼に合わせて、こっちもさよならを言って家に帰った。




タグに戦車って書いてるけど戦車出てこなかったですね。
まぁ次かその次位に出てきますよ。
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