日常の終わりとは突然にして現れる。それは意図的であったり、そうでないこともあったり、とにかく起きるときは起きる。普段通り家にこもっているときに起きた不明な大停電から始まって、数十分が経った頃アオイを連れた美雪が家に飛び込んできた。
「心一、急いで装備整えて!」
普段の学生服の上にプレキャリを取り付け、ヘルメットを被り、手元には学校支給品のアサルトライフルを持っている。それを言われて俺も直ぐに自分の部屋へ向かい、装備の閉まってあるロッカーを開く。装備を取り出して、同時に複戦の活性剤も打ち込む。学校供与の自動小銃、89式小銃を取り出して、すでに装填済みのマガジンを取り付ける。
準備万端だ。
準備を終えた俺はすぐに玄関に戻ってゆき、二人のもとに戻る。
「何が起きた」
「戦争、始まった」
質問をした時に、アオイの方が先に口を開いた。
「武力有事宣言が発令されてる、民間人の避難に私たちも回るわよ」
武力有事宣言、つまるところアオイの言っている戦争の始まりそのものだ。家の鍵をかけた後、俺はすぐに二人の後を追いかけて、家から飛び出す。大停電の影響もあってか辺りの家は明かりが無く、一方で警察車両のサイレン音が遠くから聞こえる。それと同時に閑静で平和な住宅街からはまず聞こえないだろう爆発音と銃声が聞こえた。
「――!!」
すぐさま美雪が銃を構え、爆発音の聞こえた方向に銃口を向ける。
『こちら島川PB!、武装車両による攻撃を受けている!』
無線機から声が入って来る、PB、つまるところ交番が襲撃されているという事だ。爆発音からしてすぐ近い場所で起きている事が分かる。銃声は断続的に聞こえており、同時にパトカーのサイレン音が迫ってくる。
「心一、なに突っ立ってんの、私たちも向かうわよ」
そう言った美雪はすぐに駆け出し、俺と一瞬だけ反応が遅れてアオイも後を追う。交番だろう場所からは銃声がまだ聞こえている以上、警察官たちは相当粘っているとみていいだろう。頼むから、俺らが着くまで持ってくれ。そう思いながら足を全力で動かす。複線を撃ったおかげで体の負担が減らされていると実感しながら、3人で光の無い道を走る。
疾走の甲斐あってか、銃声が鳴り止む前に交番の近くまでたどり着いた。銃声が大きくなり、その音の断続性にヘッドセットを着けていなければ耳が壊れるのでないかと思う。
「こちら北岩瀬武装学園所属、曽根美雪!、救援要請を受けて到着した、そちらの状況を送れ!」
『特定国防学園の生徒か!、助かった、攻撃中の存在は現在機関銃と自動小銃で武装、現状こちらは負傷1名』
そういう声がヘッドセットの無線機から聞こえ、同時に背後から混ざる銃声と自分の耳から直に聞こえる銃声が混ざり、現場に近づいたという事を感じさせる。交番はここの角を曲がった先なはず……、そう思って3人全員がだれか分からない家の外壁に張り付く。夜間かつ光が無いという状況で、交番の状況がどうなっているか分からない。
列の先頭にいた美雪が手鏡を取り出して、向こう側を観察する。
「見えた、敵推定8人、内小銃武装5人、車両は軽トラ、荷台に無反動砲搭載」
言葉を聞いた俺とアオイはすぐに銃の安全装置を外し、隊列を維持したまま壁からゆっくりと出て、照準を合わせ、そして引き金を引いた。
乾いた発砲音と共に弾丸が放たれ、敵目掛けて飛んで行き被弾させる。発砲音に気が付いたためか、交番を攻撃していた内の何人かがこっちにも銃弾を放つ。即座に外壁へ隠れ直し、最初に飛んできた弾丸から身を守る。
「クソッ、奴さんの増援か!」
銃声の中に混ざった声で、敵が日本人である事に気が付く。おそらく、札幌政権の工作員。そう考えた後に、初動の銃弾が着弾した音に合わせて再び顔を出し、再び敵に向けて照準を合わせて再び引き金を引く。
こちらに銃口を向けていた影に銃弾を3発発射し、全弾を命中させる。その影が力なく倒れた後、美雪とアオイも直ぐに引き金を引き、更に2人の影が倒れる。
「無反動砲使え!」
軽トラの荷台に乗っていた兵士がこっちに向けてデカくて太いパイプのような影をこちらに向ける。
「――!、伏せて!」
美雪の声に合わせて建物の影に全員が倒れ込む。直後、建物の背後で閃光が浮かび、爆発が響く。おそらく無反動砲の榴弾が後ろで炸裂したのだろう。すぐに立ち上がり、爆風で舞い上がった埃を払っていると、エンジンの轟音が聞こえ、それと同時に遠くで聞こえていたサイレンの音が近づいてくる。
視線を通りの方に向けると2台の軽トラが駆け抜けてゆくのが視界に留まる。それが過ぎ去った後、数台のパトカーが走ってゆき、一台が俺らの前で停車する。
「アンタら国防学校生か、追跡の戦力に加わってくれ!」
そう言われて、すぐに俺たちはパトカーの後部座席に座る。無論、高速走行になる事を考えてシートベルトをしっかりと着用し、乗り込むのが完了したのと同時に車両が急発進した。一瞬にして時速100kmを超え、追跡していた軽トラ2台とパトカー2台のテールランプが見えてくる。そして弾丸の軌跡も。
「撃ってきてるわね、私と心一で相手する」
「――えぇ⁉、危なくないか?」
「できるんだったらやってくれ!」
警官はすぐに車両の速度をさらに上げ、ものの数秒でパトカーの車列に加わった。
「ここまで近づけば当てられる……!」
そう言って美雪は着けていたシートベルトを外し、上半身を窓から乗り出す。そして手元に持っていた俺と同じ型のライフルを手に取り、引き金を引き始める。
「心一!、アンタも撃つのよ!」
言葉に合わせて俺も直ぐに窓を開き手元のライフル……、ではなく拳銃を取り出して乱れ撃ちをかける。拳銃弾がどれだけの効果をもたらしてくれるか分からないが、とりあえず何もしないよりかはマシだろう。そう思いながら1弾倉分を撃ち切り装填を行おうとした時、無線機から声がし始めた。
『武装車両追跡中のPCに通達、こちら私立岩川機動装甲学園所属の特定国防学生だ、現在当該車両予想進路上にて待機中、前方より攻撃を行う、誤射回避のため車間距離を開け、オーバー』
どうやら俺らとは違う学校の生徒が俺らの追跡をしている車両に攻撃をしようとしているらしい。
「待機中の特定国防学園生へ、了解、車間距離を40mほどに位置し待機する」
そう言うと車両の速度が落ち、目の前の軽トラが遠くへ見えるようになる。荷台からライフルを撃っていた人間は突然車間距離が開いた事に気が付いてか、撃ってくるのを止める。
直後、一番先頭を走っていた軽トラに極僅かな閃光が走り、直後制御を失ったように暴れ出す。こっちのパトカー3台は急ブレーキをかけ、目の前の2台の軽トラが巻き添えの大事故を引き起こすのを遠くから見守る。まるで台風のような轟音が鳴り響いたと思え、それが収まったのと同じぐらいのタイミングでパトカーも停車する。
「降りて!」
さっきまで銃を車両の窓から撃っていた美雪が一度車内に戻り、ドアを開く。それに続けて俺とアオイも車両から降り、銃口を事故った2台の軽トラへ向ける。直後、銃声が鳴り、曳光弾の数発が尾を引いて飛んでくる。それを耳と目で認識した時に、俺は車両のドアを盾にして身を守る、この国のパトカーは有事や武装強盗などで銃が使われることを想定して、装甲が貼られている。拳銃用マグナム弾位ならしっかりと受け止めることは出来る。……もっとも今撃たれているのがフルサイズライフル弾の徹甲弾なら話は変わるが。
『move!』
遠くの方から短距離バースト通信を経由した声が聞こえる。距離が距離だけにほとんど届いていないが、恐らくさっき目の前の軽トラにグレネードか何かを直撃させた、別学校の生徒だろう。
こっちも相手の銃声の合間に顔を出し、今度は単発射撃で狙う。パトカーのライトがハイビームになっている事から相手ははっきりと影を見せ、それに俺と美雪、アオイ、警官達が銃弾を撃つ。
『武器はおそらくPKだろう、銃声が鳴り止んだらすぐ狙え』
向こう側から再びバースト通信で声が聞こえる。距離が近づいているからか、さっきより正確な言葉が聞こえた。直後、一番轟音を轟かせていた機関銃の射撃音が途切れる。
今だ。
そう思って味方となる全員が一斉に遮蔽物から体を出し、それぞれが一番に見つけた目標へ銃口を向け、そして引き金を引いた。乾いた5.56mmの発砲音が聞こえ、照準器越しに見えた人影が倒れ、静寂が現れた。
――
初めて人を殺した、厳密にはもしもの世界線で先に殺しを、それも——もっともとは言えないかもしれないけど——親しい人を殺したかもしれないが、こうやって数発の銃弾を使っての殺しというのは初めてだ。
「大丈夫よね」
「……大丈夫」
「こっちも無事だ」
二人の声を聞いて冷静に考えを後回しにして敵に向けていた銃口を降ろす。
「……おい、……おい!」
聞いた事のある声が耳に入って来る。この世界が生まれた原因、そして、私を見つけたプレイヤー、篠崎綾斗。視線を横に向けると、武器と装備を完全に着けた彼が歩いて来ているのが見えた。
「綾斗君だったのね」
ああ、と彼は頷く。
「それにしてもどうして対応できたの」
「こっちも万が一に備えて警察無線にチャンネル合わせたら無線が聞こえてな、それで対応できただけだ」
ふと思えば花壇の傍にもたれかかっている人影が見えた。
「あの子は?」
「モニカだ、複戦の活性剤取りすぎてダウンしている」
「取りすぎって、何をしたらそうなるのよ」
「即応活性剤と錠剤どっちも使った所」
復戦の活性剤は取りすぎると頭痛、吐き気、めまい起きる、特に即応活性剤を打ったあと、8時間は錠剤の活性剤を飲んではいけない。飲んだ場合はさっきの症状が出る。即応活性剤についての説明書きが偶々あったから読んでいてよかったと、心の中で思う。
「それはそうと、そこにいる奴さんの中に生存者はいるか」
彼がそう言った時に、倒れ込んでいた一人がうめき声をあげて起き上がろうとする。すぐに私はそいつに銃口を向け、警官も抑え込みに向かい、襲撃者の一人のすぐ近くにあった拳銃を足払いで手の届かない所、私の足元に寄せる。観念したのか男は倒れ込んでそのまま腹ばいにさせられて、手錠を掛けられた。
彼はというと、私の足元に流れてきた拳銃に手を伸ばし、それが何であるかを調べ始める。
「トカレフ……、いや安全装置がある以上コピー品の類か」
「よく分かるわね」
「ま、これでも
そう言いながら彼は、持っていた拳銃から弾倉を外し、薬室内の弾薬も引き抜く。
「弾薬は強装弾か、鉄の弾芯と組み合わせて貫通力を稼いだといった所だな」
確認が終わったのか、彼は拳銃を地面に置き直す。
「こんな事態になったのなら、避難誘導は中止だな。多分サツの増援も来るだろう」
冷静な対応をしながら話を終えた彼は、一仕事後の一服のように一息をついた。
数十分が経過して、警察の増援と救急車が何台かやって来た。負傷している敵は何人かで応急処置を施したがすでに2人が死んでしまった。一方でほとんど怪我の無かった何人かの敵はパトカーの後部座席に座らせられて、現場から警察署への連行が行われている。
「それで、僕らも署までご同行願う、ってことですね」
「お手数かけますが、その通りです」
現場に居合わせた特定国防学校の生徒は、言ってしまえば民間人と変わりはない。そのため武器の使用などに関しては、事件など次第で一応の尋問を受けることになる。と言っても有事対応事態時の尋問というのは書類上かつ形式上取っておくといった物であり、警察のボディカムなんかによってある程度の状況確認なんかで分からない事を聞かれて終わりといった感じだ。
「それではあっちの車両に乗ってください」
そう言われて、増援で駆け付けた数台のセダンタイプのパトカーの内、3台に分乗して、私たちは現場を去った。
――
形式上と言っても事件の冒頭から終焉まで居た事もあってか、それなりに長い時間署の取調室で質問を受けていた。おかげで時間としては午前1時30分を回っている。
美雪が何か話していた別学校の生徒たちはすでに帰っており。この場所にはアオイと美雪、そして俺の3人が残った。と言っても、もう尋問は終わっているのと、避難困難者の誘導もある程度は済んでいる事から、俺たちに与えられた次の任務は家に帰るという事だけだ。
「戦争始まったって言っても、いまいち実感が無いな」
ボソッと尋問中に耳へ入ってきた情報を思い出す。北日本の部隊が国境線を突破して、進軍してきている。それもすでに境界地域の大半が占領されるという規模で。
「少なくとも、ネットワークがほとんど使えなくなっているのと、大停電は工作員の仕業と見ていいわね」
「とりあえずはそう見ていいだろうな」
「それじゃ、帰りましょ、警官さんも明日に備えてって言ってたし」
時間もそうだな、と言っていいような時間だ、そのため俺は——多分軽トラに奇襲をかけた特定国防学園生と同じように——入り口から出た。非常用電源で回されているエアコンの生ぬるい空気から一転して、冷え切った冷たい風が頬を伝う。そう感情に浸ってもいられないために、そのまま足を一歩、暗闇の世界に踏み出す。ライトは装備として用意していたこともあって、明かりの無い道を100mは照らしてくれている。
「ねぇ、心一、今夜は家に泊めてくれない?」
美雪がどこか寂し気のある声で、質問してくる。
「るる……、怖いの」
そう言ってアオイも一緒に寄り添ってくる。そう思っていると、スマホに着信が入る。学校からだ。
「明日の登校は、所有している軍用装備を持っての登校。教科書、学生鞄などは不必要」
一緒に泊まることに関しては、次の日に問題ない——つまるところ学校鞄などを家へ取りに帰る必要が無いという事を知らせる内容のメッセージが流れてくる。
「いいぞ」
そう言いながら、俺らは家に帰っていった。
――
眠ることが出来なかった。というわけでは無いが、戦闘の血の気が引いた脱力感を感じながら体を起き上がらせる。綾斗君と別れて、そのまま停電した自分の家のベッドに倒れ込み、そのまま気が付いたら朝になっていた。今日は金曜日、と言っても普段の日常の様子とは違う。電気が無いため朝食もパン一枚とやかんで沸かしたお湯を注いだスープ一杯、それだけで済ませた。
怖かった。いや、正確には怖いと感じないのに怖かったと思えている。そう考えたあとすぐにその感覚が消えてゆく。これも彼の言っていた復戦の影響なのか、そう思いながら。朝の身支度を済ませて、家の玄関を開けた。
「おはよう、モニカ」
玄関を開けたのと同時に、数時間前聞いた声が耳に入って来る。
「あ、綾斗君?」
そうだが?、と簡単な返事を行って、私の近くにやって来る。
「どうして私の家に来たの?」
「昨日あんなことがあった以上、今日ぐらいは一緒に登校しようと思ってな」
綾斗君の家の場所は私の家を通る道ではないし、学校とは逆方向だ。つまるところわざわざやって来てくれたという事になる。彼はそのまま道へと歩いてゆき、私もそれに続く。
停電のせいか辺りの様子は朝の8時だというのに静かな様子であり、歩いているのは私達以外にいる様子が無い。昨日と同じように近場の大きな通りへ出るが、普段なら何台も続く車の列があるはずなのに、まばらな台数の車しか走っていないし、普段なら点いている信号機も光なく佇んでいるだけだ。
「流石に一日二日で復旧するほどじゃないか」
そう言って光のついていない信号の横断歩道を渡り、そのまま歩いてゆく。
「戦争、始まったな」
「そうね」
小鳥のさえずりと、時折走ってゆく車両の音以外、静寂に包まれている道路で彼の言葉に反応する。
「学校が機甲部隊育成系の学校になってる以上、多分前線に向かうんだろうな」
昨日の事が頭によぎる。あれが私にとって初めて殺した人間——と言ってももしかしたら単なるプログラムかもしれないけど——、初めての銃撃戦と、間接的にではない殺し。
鉄は熱いうちに打てと言うが、その温められた鉄と同じような、生々しい感覚が目に思い浮かぶ。
「そうかもね」
「……、モニカ、怖いのか?」
昨日と同じように、綾斗君は私に怖いかを聞いてくる。
「……、正直に言って、私は怖いと思ってる。サヨリの鬱を悪化させたのとは違う、自分の両手で直接殺した感覚。これは多分消えないだろうね……」
綾斗君は黙ったまま、どこか宙を見るような視線を浮かべる。
「僕も最初はそんな感じだった。それもゲームで」
そう言って彼はそのまま話を始める。
「中学の頃に、メタルギアソリッドをやってな、普段非殺傷で敵を殺さないように動いてたんだ。ただ、あるサイドミッションでどうしてもクリアできなくて、そのゲームの中で殺しを行った」
「ゲームでって、貴方にとってはこの世界もゲームかもしれないけど、もしかしたら現実なのかもしれないのよ」
そう私が言った後、綾斗君は右手を肩のところまで上げる。
「少なくとも、その時の感覚は罪悪感と、殺した、っていう感情で押しつぶされそうになったんだ。実際、今でもその時の感覚が、はっきりと思い出せる。コントローラーのボタンを押す感覚、鳴る銃声、排除するごとに流れる達成音、全部がはっきりと思い出せる。これからだったかな、殺しの抵抗感が薄れたのは」
思っていたよりもはっきりとしていた感覚で、私はそれまでの考えを見直す。戦場に出た兵士は少なからず戦争の後遺症を患うと聞いたことがある。それに近い物を彼が感じ取ったというのは、それがゲームの世界でも例外ではないのかもしれない。
考えをまとめていると、学校が見えてきた。周りの生徒も私や綾斗君と変わりない、プレートキャリアに自動小銃といった組み合わせの装備を持って、学校の門を潜り抜けている。
学校に通うという日常なのに、その通っている生徒は武器という非日常。その様子がどこか可笑しく感じれた。
「多分全校集会で俺らの今後は決まるだろうな」
綾斗君は再び宙を眺めるような首の向きと、目の焦点でぼそりと呟く。
「んじゃ、あるんだったら部活でな」
そう言うと彼は足早に歩きを進め、門をくぐって行った。
――
サヨリと一緒に学校へ着いた後、全校集会があるからと学校の生徒全員が体育館に集められた。周囲から聞こえるガヤの声は、昨日から続いている一連の大停電と通信障害の事で持ち切りといった様子だ。中には実戦を経験したという声も何人かが喋っている。
そんなガヤも、ステージの上に一人の男性が立ったと同時に収まってゆき、静寂へと移り変わる。
「えー、皆さん初めまして、わたくしは陸上国防隊より公式にこの学校の動員のために参りました、八田野と申します」
国防隊の、恐らく士官ぐらいの階級の人が淡々と話を続ける。
「明日
淡泊な声と喋り方で、俺らが正規軍と同等な役目を持って、軍隊の中に組み込まれるという事を伝えられた。しかし、生徒は俺やサヨリも含めて、その言葉に驚きを行わない。この学校に入った以上、そのような事はイメージできていたし、そのためのイメージトレーニングも学校の訓練の中で行われてきた。
話が終わったと同時に、男性がステージから降りてゆき、先生の指示が流れる。自分の教室に帰れと言うものだ。クラスの面々が川の流れのように一列で戻ってゆき、俺もそれに合わせるように流れに乗る。周辺からは静寂の反動のようにガヤが聞こえ始める。
「できれば俺はお前と一緒の隊に所属したいよ」
「どうしよう……、死にたくない……」
色々な声が聞こえてくる中、俺は無意識にサヨリの声が聞こえないか探り始める。
「ま、これ位想定の範囲内ね」
「まぁ、そうだろうね~」
ナツキの声とサヨリが反応する声、その2つが薄っすらと聞こえる。
「私も出来れば文芸部のみんなと一緒の部隊に居たいな」
「私も...、そうわね、出来ればアンタ達と一緒に居たい」
「多分部隊の編制が決まれば分かると思うけどね」
その会話を聞いていながら。体育シューズをシューズに履き替えて、教室に向かった。
教室に帰った後貼り出された所属部隊の編成を確認すると、所属は第72戦車連隊学徒第5大隊と書かれているのが俺の目に入った。それを確認した後に、帰りのホームルームが始まり、そのままの流れで全員が今日のところは解散となり。各々が自宅に帰るように動き始めた。その中で俺はというと、人の流れに逆らうかのように、3年生しか使っていない部屋へと向かってゆく。
文芸部の面々がどうなっているのか、それを確かめたいと思って俺は歩いてゆく。早足気味に歩いてゆき普段から見慣れた部屋が視界に入って来る。そして、5人の人影も。
「あ、レイ君も来たんですね」
最初に反応したのは長い紫の髪をした少女、ユリだった。
「やっぱりアンタの事だから、来るとは思ってたわ」
続いてナツキ、サヨリ、モニカ、綾斗の順に連鎖的に反応し始める。
「おう、全員ここに来たんだな」
「そうだな、どうだった」
そう言うと全員が顔を合わせ、少し安堵したかのような表情を出す。
「喜んで、全員学徒第5中隊の所属になったわ」
そう聞いた時、心の中で安堵と喜びからか、アドレナリンとセロトニンが分泌するような感覚に陥る。そのあとにその感覚引いてゆき、冷静さを取り戻す。
「ただ、学校に関しては他の2つの学校との混成部隊になるわ」
モニカは喜びの表情から一転して、真面目な話をするときの表情へと切り替わる。
「復戦の効果があると思うから特に問題は起きないだろうけど、その点だけは頭に入れて頂戴」
そうモニカが言うと、綾斗とモニカ以外は冷静にピシッと敬礼をした。
「とりあえず、今日の部活に関してはここまで、出兵は明日らしいから、各自自宅で最後の休みと装備の最終点検をしてね」
その言葉を聞いてから、話があると綾斗君とモニカ以外の面々は帰宅することになった。
――
「偶然にしては全員が同じ部隊に所属することは違和感がある?」
「そうね、でもそれがシナリオの流れなんでしょうけど」
他の部員が帰った後、私と綾斗君は部室前の廊下で現状を考えていた。前線への移動は明後日、少なくとも時間が少し空いているのが、どこか最後の晩餐を食べさせるためのような感覚だ。綾斗君の方は時折銃に視線を向けて、考え込むような素振りを見せている。彼も多分同じようなことを考えているのだろう。
「多分だけど、ととのも同じ隊に編入される」
メタ的に考えれば、そうなるのが自然な流れだと思える。私が見た貼り出しの紙には注釈で2つの学園の混成部隊であると書かれていただけだが、学校名だけはそのととのというゲームの学校――と言ってもこの世界に合わせたような名前の表記ではある――の名前が書かれていた。だとしたら、間違いなく彼女らがやって来るだろう。それ位は思い浮かぶのが容易いものだ。
「そういや、復戦使わないでの射撃ってのは行ってなかったよな」
「ええ、そうね」
「今日は午前終わりだし、一緒に近場の射撃場来るか?」
まるでこれが普通のように、彼は話す。正直言って、銃を撃つことに関しては遅かれ早かれ受けなければならない。記憶として刷り込まれている物ではなく、しっかりと実際に撃ったという結果は、多分必要だと思う。
「それなら一緒に向かうわ」
午後の予定が決まったことで、私と彼の2人は教室の前から歩き出し、学校を後にしようとする。既に他の生徒は下校している様子で、他の人とすれ違う事は無い。
玄関に着いて靴を履き替えた後、そのままの流れで学校の門から出てゆく。部活か、仲良しグループの面々かといった4から5人の生徒の集まりが、点在している。その輪を気にしないように、綾斗君は歩いてゆき、私も後に続く。視線だけ周りを見るように動かすと、私と綾斗君の2人で歩いているのが目に留まったのか視線をこちらに向ける子も何人かいる。おそらく視線の元凶、綾斗君はその目に無反応と言える様子だ。
彼は気にしないように歩いてゆき、そのまま学校が遠ざかる道を歩いてゆく。帰宅する時に使う道とは逆の、商店街の方だ。
「モニカは普段射撃とかしてる事は……、ないか」
「ええ、昨日の訓練でも、持ってきたのはあくまで携行訓練のためだったしね」
そう言いながら彼と横一列に並んで歩く。傍から見ればどこかカップルのように見えるかもしれない。それでも背中に背負っているバックパックは普通の学生が背負うようなものではないし、体にはプレートの入った
「そこの交差点の、あのデカい建物あるだろあそこが射撃場」
彼が指を指しながら、見えている建物に視線を合わせる。雑居ビルに混ざるように建てられた、コンクリートの箱のような建物、それが彼の言っている射撃場だ。
信号機が動いていないこともあって、注意しながら道路を横断して、射撃場の入口に着く。扉にはOPENの看板が立てられている。周辺の店が軒並み臨時休業を行っているこの状況下で店を開いているというのは珍しくも、或いは商売魂を感じる。
「失礼します」
迷いもないように綾斗君は扉を開き、店の中に入ってゆく。無論私も後に続く。店内は営業中と表には看板が掛けられているのにもかかわらず、光が灯ってなく、窓から入って来る太陽の光が入って来るだけで、薄暗い。
「んぁ、ああ、篠崎のボウズか、隣のは友達か?」
カウンターのレジの近く、椅子に座っている中年の女性が読んでいた新聞からこちらに視線を向ける。
「そんな所、射撃場動いてるか?」
「いま、旦那が撃ってるところさ、安心しな、発電機とソーラーパネルで最低限の電気は動いてる」
「感謝するよ、はい、射撃場使用料と的代、あと5.56mm弾一箱頼む」
レジで弾薬と2人分の射撃場使用料を払った後、綾斗君はそのまま建物の奥の方に歩いてゆき、それに続くように私も歩いてゆく。
扉を開こうとした時、綾斗君が一度立ち止まった。
「ヘッドセット、ちゃんとついてるか」
そう言って彼は私の耳についているヘッドホンのような物を軽く指でたたく。すぐに調整して耳に取り付けられているのを確認する。よさそうだな、と彼は言ったあと扉を開いた。そこに見えた物は奥行きのある空間で、直後に一発の銃声が鳴り響く。おそらく、さっき言ってた旦那という人かもしれない。中に入ると、拳銃を撃っている一人の男性が見えた。
「あの人が、さっきの人の旦那さん?」
「そ、元国防隊の軍曹」
それだけ言って彼はレーンに立ち、さっき手に取った紙製の的を持ってレーンに立つ。
「俺らも撃つことにするか」
そう言うと彼は背負っていたバックを降ろして、ファスナーを開く。そして中から昨日の作戦にて使っていたライフルを取り出して、射撃レーンの上に置く。
「ここでの射撃はこっちのタッチパッドで距離を入力して、後は撃つ、簡単だろ」
そう言ってレーンに的を取り付けて、距離を設定する。私の方も彼から的を手に取りそのまま隣のレーンで彼と同じように取り付ける。距離はとりあえず射撃場の最大距離の半分。すなわち25mの距離に設定した。
「そういやモニカの銃は名前らしく——と言ってもモニカは別にドイツ系じゃないけど——ドイツ産なんだな」
銃口を的に向けて構えた時、彼から言葉を投げかけられた。困惑した表情を見せたらすぐに再び口を開く。
「ヘッケラー&コッホ、HK416。元デルタの兵士が正確な口出しして作られた、M16とかM4の現代改修型だ」
「良いように言ってるけどどんな銃なの」
構えた体勢を崩して彼の方に視線を合わせる。
「ドイツとかフランス、ノルウェーなんかで使われてる21世紀初頭の傑作だ。この国だと特殊作戦群とか特殊急襲部隊が使っている。1回群馬の方に遠出した時の射撃場で民間仕様のMR556を撃ったことがあるが、名銃って言われるだけの事はある」
確かに昨日の事件の時、この世界が出来て——おそらくそれまで行われていた訓練以外で——初めて撃ったが彼の言うように“良い”という感覚になる、そして頼りになる銃となんとなく感じ取れた。
「そうみたいだけど、綾斗君の銃はそれを選んでないわよね」
視線を再び彼の銃に向ける。彼の銃は灰色のどこか近未来的なライフルで、スコープとかみたいな後付け装備もかなり多くの物が取り付けられている。
「こいつか?」
「どこか未来的に見えるわ、何て名前の銃なの?」
「これはベレッタARX160、元イタリア軍正式採用のアサルトライフル」
「原産国は……、聞いた感じだとイタリアっぽいわね」
すぐに彼は頷いて右手でサムズアップをする。
「あたり」
「ベレッタは映画で何回か聞いたことはあるからね。でもその銃あまり映画とかゲームで見ないけど名銃なの?」
「海外じゃ
「その理由は?」
「まず排莢——撃った後に残る物を捨てる方向が左右に切り替えられる。これで目の前を熱々の危険物が横切る心配はいらない」
「どうしてそれが重要なの」
「僕は効き目と利き手が左だから、どうしても左の肩で銃を構える。そうなるとどうしても普通のライフルじゃ、さっきの熱々の危険物から逃れられない。ほかにもその弱点を補ってるライフルはあるが、個人的にはブルパップ——マガジンが引き金より後ろにある銃よりか普通のライフルの形状で左に排莢されているのが決め手だな。」
「なるほどね、つまり普通のライフルで左利きの不便さを打ち消せるから選んだわけね」
「ほかにも理由はある。細かい部品がM4やらに比べて少ないから整備性が良い。細かい物を紛失することが少ないから心置きなく整備できる。と言ってもこれは俺の注意力不足だがな」
皮肉的に彼の口角が上がる。それにつられてか、私のほうも少し口角が上がった。
「そう言う所を抜きにしても、一部の国で特殊部隊向けとして採用されている事がある以上、性能に不満は無い」
そう言った後、彼は再びレーンに戻り銃口を構える。時間にして数秒しか経っていないが、少し笑いのある表情から一転して昨日見せた剣幕とも真顔ともとれる表情で照準器に映っているであろう的を狙う。私もさっき行おうとしていた射撃の体勢に戻り、設定した的に向けて照準と銃口を向けた。
真横で彼が引き金を引く。銃声が空間をわずかに揺らし、それに合わせるように私も引き金を引く。昨日と変わらない銃の中身と飛び出した弾丸、火薬のガスが銃身から抜けてゆくときの反動、そのすべてを構えた右の肩で受け止める。
初弾は命中、続けて引き金を絞り、再び銃の先端から火薬の光が閃光のように現れる。再び命中。再び照準、発砲、命中。それが繰り返される。きっちり10回撃った後、安全装置をかけマガジンを外し、薬室の弾丸を取り出して、距離を0メートルに切り替え結果を確認する。横で撃っていた綾斗君もどうやら撃ち終わっていたらしく。私の方に寄って来る。
結果は10発中10発命中を示していた。しかし命中したと言ってもすべての弾丸が同じ場所に命中するワンホールショットをたたき出した訳では無い。手振れのせいなのか数発は的の上半分の円の中にまとまっており、それと同じように下半分にも数発がまとまっている。最高得点は10点満点中8点の部分に命中した2発であり、それ以外は5から7点の範囲だ。
「合格点は達成した感じよね」
綾斗君は結果を見て、すぐに親指を立てて頷く。
「5点以上の黒丸に収まってるんだったら合格点だよ」
そう言った後、彼も自分の持っていた命中弾の結果を取り外す。彼の方はというと、7点から9点の範囲に10発全弾の弾痕が残っているのが見えた。おそらく私よりもずっと銃に慣れているから出来た事なのかもしれない。
「私より上手なのね、綾斗君」
「これでも昨日の戦闘が起きる前までは、現実世界のVRゲームとエアガン、あとはこの世界に来た時の最初の授業ぐらいでしか撃ったことは無いんだけどな」
彼は現実の日本——つまるところ私と同じようにこの世界“本当の”日本人ではない。それ位は分かっている。しかしその経験と知識からなのか、彼の方が一枚上手な射撃技術を持っていると言っていい。そう口にすると、彼は首を横に振る。
「まさか、本職の人には比べ物にならないよ。調べてみたけれど10発撃ったらこの丸の中心に10発が命中して1つの穴を作る——所謂ワンホールショットが平均みたいだからな。僕らはあくまで戦車兵のコースを通っている1つ学園生にしか過ぎないんだ」
それも復戦の影響か、と聞いてみると、その通りと彼は言う。
「復戦っていうのは言ってしまえばメタルギアシリーズのサンズ・オブ・ザ・パトリオット、通称SOPみたいなものだ。射撃に関しても正確無比なものが行えるようになるし、戦車なんかの運用を学校生活の中にある50分の授業の本当の最初の数回でマスターするのも、これのおかげと言えるかもな」
そう彼が言った後、私たちが入って来た扉から銃声の残響をかき分ける様に開く音が鳴る。
「やっぱりここに居たのね、“プレイヤーさん”」
そう言いながら近づいてくる声。1回だけ聞いたことがあるもの。声のした方向に視線を合わせると、最初に出会った少女の1人が武器を手にしてこっちを向いていた。
「美雪か、どうしてここが分かった」
「このご時世でまともに動いている射撃場なんてここぐらいだからな」
横にいた隠れ目の青年が口を開く。
「とりあえず派兵が決まった以上、射撃の感を取るためには実戦あるのみって、アンタが言ってたでしょ」
美雪という少女の発言にそんなこと言ったか、というような表情を綾斗君が見せ、すぐにまぁどうでもいいかという表情に切り替わる。
「そっちの得物は89式か、買い替えとか行っていないのか」
「俺の学校はその辺厳しいからな、89式しか使えるものが無い」
「そこらへんは学校次第か、というか心一達もここに来た理由は……、やっぱり射撃だよな」
再び心一がうなずく。
「腕位は見せてくれるか、あと個人的に89式の射撃が見たい」
隠れ目の青年、心一はすぐに頷いてレーンに立つ。さっきまで私が使っていたレーンにそれこそ私が狙っていたのと同じような的を取り付け、適当な距離を入力する。構えは私と同じような感じにの様子を持ち、そのまま男女合計4人が1人の射撃を見守る光景となる。
すぐに一発目が撃たれその銃声によってヘッドセットの機能で音が一度途切れる。続いて2発目、3発目と並んで射撃が行われる。的の方は5.56mmの弾丸が、この距離では目視して見えないほどの穴をあけているだろう。
すぐに弾倉の中にあるすべての弾丸、すなわち20発分の弾丸が撃ち切られ、結果確認のために的が戻って来る。それに合わせるように後ろで見守っていた全員が近づいて、的へ近づく。
「うぉう」
「かなり良い線言ってる……のかな」
綾斗君の言葉に合わせて発言する。見えた弾丸の痕跡は4発が最高得点である真ん中の10点の範囲に収まっていて、高得点の黒丸の範囲にも全体の7割が、残りの1割に関しても的を外れたという事は起きていない。
「弾数が多かったのもあるんだろうけど、50mでこの腕だったら間違いなく俺よりも上手だな」
少しばかりの喜びともとれる表情、しかしそれでも口調に関してはさっきの皮肉的な形を崩さない感じで彼は褒める。すぐに心一君が質問をして、それに応えるようにさっき撃った的を綾斗君は見せる。
「確かにこれなら俺の方が上手だって言われても納得だな」
そうだろ、と心一君の言葉に合わせるように言葉を発し、結果を認めさせる。もっとも、認めさせる内容は綾斗君よりも彼が上手であるという事であるが。
話を進めている間に、残りの2人が射撃場のレーンに入ってゆくのが視界の端に入り、残りの2人もそれに気が付いたらしく、彼女たちの方に視線を合わせる。
「始めるわよ」
黒髪の長い、この世界が生まれるときに出会った方の少女、美雪が手元のライフルの折り畳みストックを展開し構える。隣の方の少女も同じようにセットした的へ銃口を向けている。
一瞬の静寂の直後、まるでYouTubeの動画で
構えている様は結構いい感じだな、綾斗君は言葉をかけ、壁に寄りかかって視線を向ける。確かに彼女らの様子は——昨日の学校での座学の合間に読んでみた教科書の内容が正しければ——立射の基本的な体勢を示しており教科書に載っていてもおかしくない構えを持っている。
正直言って、少女が持つ華やかさと武器を手に取った凛々しさが混ざり、どこか美しげな様子を射撃場の片隅に作り上げていた。
最後の銃声が鳴り終わり一旦の静寂が訪れて、レーンに立っていた射撃手2人は的を自分のところに寄せて、それを取り外し、私たちの方へと歩んで来る。終わったかと心一君は話を始める。
すぐに美雪は撃っていた的を片手で令状のように掲げる。
「距離50mフルに使っての射撃でコレか、いいセンスだ」
目の前に出た射撃の結果は私と似たような全弾黒丸範囲への命中で更に中心命中が2発、集弾率としてはかなり高いレベルだ。
「アオイはどうなんだ」
心一君が光りの届いていないような目をしている少女に結果を見せてくれるように頼む。はい、とその子は言いながら手に持っていた的を持ち上げ、私たちの前に見せる。
「……おお、今ここのメンバーだと最高得点だな」
彼女が持ち上げた的の命中弾はかなりの物であった、黒丸の真ん中、それも3発の弾丸が1つの穴を作っている、他も高得点の範囲に収まっており、最高得点ではこの場所での一位を勝ち取ったと言っていいだろう。
すぐに全員から拍手が送られる。当の本人はどこかポカンとした顔を崩さなかったが。
――
そのあと射撃場で軽い雑談を行った後、全員がその場解散——と言っても勝手に合流して勝手に分かれただけとも言うが——という形に近い様子で射撃場を後にした。まるで海外の射撃場の体験のように思えた事を生々しくも感じ取り家への道を歩む。外は朝から変わらない秋晴れの様子であり、射撃後の硝煙の臭いが風によってかき消されるような心地よい風の香りが嗅覚に入って来る。
「さっきの子たちが、もう1つのゲームの子たちなのよね」
私はさっき会った3人のうち、顔を初めて合わせた2人の事を質問する。すぐに綾斗君が反応して、話を聞く体制と話す体制を組み合わせたような形で言葉を話し始める。
「美雪じゃない方の少女は向日アオイ、所謂電波系って感じの子だ、そしてモブっぽい見た目の方の男子が君と彼女と彼女の恋の主人公、須々木心一、美雪とは幼馴染な存在」
「レイ君、つまるところMC君とどこか似てるわね」
「まあ、ギャルゲーの主人公なんてそれ位が丁度感情移入させやすくて合理的なんだろ」
そんなものかしら、と思いながらイメージを作る。そうすると確かにそれ位の主人公像なら確かに主人公としては感情を込めやすそうに感じ取れた。
「言っておくが、僕は物語の主人公にはなれないぞ。感情移入させるにしても生まれ持った癖がキツイせいでな」
そんなに自分を卑下しないの、と言って彼の湧き出そうな感情を一度止めさせる。
「それで、この後どうする」
「あー……」
どうすると言われても特に内容が無い、やるとしたら明日の準備を行うぐらいしかやることは無いだろう。そう言ってみた。
「だったら今日はここまでだな」
そう言いながら彼と別れた。
結局戦車出ませんでしたね。
次回こそは戦車が出ます。(戦闘シーンがあるかは分からないが)