第四の壁を超える少女は武器を取る   作:Type90B

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ようやく戦車が出てきます。
あと戦闘も。


戦火の中へ

 綾斗君との射撃が終わり、普段通りに一日を過ごし、そして今、トラックの荷台に乗ってアスファルト舗装の道を移動している。12時間の短い時間を使って最大限行った事、それは簡単なものだった。

 最悪の時のための、遺書の書き残し。

 それだけに残りの時間の大半を使い――と言っても準備や生活のための事にも時間は使ったが――不格好ながらに便箋へ書き留めた。死ぬことはやはり怖い、それだけならまだいい方だが戦場では死に方を選ぶことも出来ない。だからこそ、書ける時に書いておいて、両親へ感謝の気持ちを残したかったし、そのためにもしっかりとした文章で書くことは悪いとは思わなかった。

 私たちは今のところ学校のある首都圏地域からは外れ、栃木県と福島県の県境にほど近い場所までやって来たところだ。

 

「今のところ、国防隊は遅滞戦術で時間を稼いでいるっぽいけど、早く手を打たないと首都圏に札幌軍の連中が流れ込むかもな」

 

 戦況がどうなっているのか、それに関しては今のところ水際防衛で阻止できなかった分の戦力が想定される。侵攻ルートを食い破って侵攻しているという事だけは、出発前の——人によっては最期になる——学校のホームルームで話されていた。残りに関してはスマホの情報なんかで流れてきている話だったりである程度の情報収集が出来た。そうやって得た情報には間違いや嘘が混ざっている事もあるし、何より状況次第では敵の思うつぼな内容が混ざっているかもしれないが、その中の事実を何とか切り貼りして、自分なりの状況を考える。

 それを目の前に座っている青年、篠崎綾斗君は行っていたし、私もその情報を私なりに考えている状況であった。

 

「この辺で話は終わりだな」

 

 それを行っていた綾斗君は一通りの結論を考え終わると手元のスマホを足の間に置いていた大型のバックパックの間にしまい込んで。視線を後ろの方について来ているトラックと、その間にある流れる風景へ視線を合わせて、まるで通学中の普通の学生みたいにぼんやりとし始める。緊張感があるのか分からないような表情であり、私には彼の心がどうであるか理解できそうになかった。

 

「なあモニカ」

 

 突然彼が話を投げかけてくる。どうしたの、と返事をすると後ろを見る視線と首の向きを崩さないで話を始める。

 

「俺らの隊って何を行うんだろうな」

 

 分からない、と返事を行って、私も彼の考えを引き出そうとする。その手の話というのはあまり分からなかったし、戦うにしても突然体に染み込んで来る記憶だけが頼りだ。

 

「まぁ、そう来ると思ったよ。俺の予想では突破してきた敵部隊を制圧する、所謂“火消し部隊”みたいな感じだと思ってるが……、多分状況次第になるだろうな」

 

 何事も、状況次第。そう彼は言っているが、その状況というのがイメージできない。私にとって戦闘というのは、ただ銃の引き金を引き、隠れて、再び飛び出して射撃を行う。その程度のものという貧相さを感じ取れる程度のものだ。ましてや戦車の戦いなんてものは、私にとっては別次元の戦いと思えてならない。そう思い込むと――この世界に入ってからは――正確さのある“情報”が頭の中になだれ込んできて、戦い方を理解する。この現象が何なのか分からないが、とりあえずこれで刷り込まれた情報は生き残るために使えるものであると理解できるし、事実学校での訓練でもこれがあったからこそ優等生としての私が私であり続けられるものであった。

 そんなことに気を向けていたら、乗っているトラックが停止した。

 

「いよいよ部隊の集合地点だな」

 

 綾斗君がそう言うのに合わせるようにトラックの方に国防隊の兵士が回ってきた。

 

「ID管理の確認だ」

 

 回ってきた兵士はそのまま手元の端末で結果を確認し、そのまま端末を脇に抱え直して敬礼を示し去っていった。それに合わせるようにトラックが再び発進し、それまでよりずっと遅い速度で走り始める。トラックの後ろから見える光景は布張りのテントが何個か並んでいるというものが、最初に目へと入って来た。

 ここがこれからの私たちにとってのねぐらになる場所と考えると、どこか味気ないという感情と、スカウト活動のティーンエージャーが体験する物と同じような物かもという感情が入り混じった、2つの妙な感情が浮かんでくる。

 そう思っていると車両が所定の駐車場のような場所に止まり、綾斗君は荷台から降りてゆき、私もそれに続くように降りた。

 

「流石というか何というか、駐屯地機能まで手が回っているようだな」

 

 綾斗君が前線基地の光景を眺めて一言呟き、すぐに歩いてゆく。無論私も一緒に彼へついて行き、その周辺にある光景も一緒に眺める。武器を持った兵士が警戒のためなのか歩いてゆくのにすれ違い、何かの木箱を2人係で持って運んで行く兵士や腕立て伏せを行っている兵士なんかも一緒に視界の端に映る。これが戦場の日常なのか、そう思っていると、後ろの方から聞き馴染んだ声が聞こえ始めた。

 私の部の部員、ナツキの声。振り返るとその二人が普段の学生服とは違う、コンバットスーツと装備を着こんで、私の事を見つけた事を引き金として、私たちの近くに歩いて来ている所だった。

 

「ようやく部長様と小隊長様ご到着ね」

 

「えーっと、小隊長って」

 

「僕の事だ」

 

 ナツキの言葉に合わせるかのように綾斗君が答えを出す。まるでその事を分かっていたかのような感じだ。そう思ってか綾斗君が寄って、話を始める。

 

「ナツキにはバレたから先に言っていたけれど、モニカにも先に言っておく」

 

 本当はここに全員が着いた時に言いたかったんだけどな、と前置きを行った後綾斗君は話し始める。

 

「まず俺らの部隊、第72戦車連隊学徒第5中隊の中で、俺らは戦車に乗る。中隊は小隊に分解できて、小隊は戦車部隊を作り上げる単位としては最小の単位だ。その小隊がととのとDDLCの混成部隊になっている感じで、その指揮官が俺って事になる。分かったか?」

 

 傍からは分かっているであろう情報を改めて理解させられているような、よく分からない光景になっているだろうが、知識がほとんどない私にとってはどういうことなのかある程度かみ砕かれて説明されて、私の頭の中で咀嚼する。

 とりあえず戦車部隊の一番小さい規模で、その指揮官が綾斗君である。それだけを抜き取って理解できた。

 

「僕が指揮官なのは……、理由が分からないがそうなっている、自分にだけ配られた書類にそう書いてあった。もっともこれに関してメタ的に考えるとプレイヤーだからって理由なんだろうな」

 

 困った時のメタ的考えを思い浮かべて、その話を終了させた所で、上空を風切り音が通り過ぎてゆくのが聞こえて来る。そう思って上を見上げると、一機のヘリコプターが低い高度で飛んで行き、着陸しようと旋回しているのが視界に見えた。

 

「また飛んで来たわねあの形のヘリ、ここに着いてからもう3回は飛んで来たわよ」

 

「UH-1か、連絡員か書類辺りでも持って来たって所かな」

 

 ヘリコプターの種類にナツキがふぅん、と息を流してヘリの降りてゆく方へと視線を流している。そう思っていると綾斗君は足を再び歩み始める。感情的には満足か、それとも何か別の理由なのかは分からないが、彼の足取りに私もすぐに歩き始める。ヘリの音が爆音から徐々に小さくなってゆき、その中を淡々と歩く。ナツキの方も私に合わせて一緒に綾斗君の跡をついて行くのが足音で聞き取れた。

 そう思っていると目の前からもう1つのゲーム、〈君と彼女と彼女の恋。〉の登場人物と同じような格好をした黒髪と白色のインナーカラーの入った少女が、綾斗君のもとへと歩いてくる。

 

「おお、綾香か」

 

 綾香と言われた少女はそのまま綾斗君に飛びつき、親しみを表すかのようなハグを行う。いったい彼と目の前の少女の関係性が思い浮かばなかったが、すぐに書類の中にあった名前〈篠崎綾香〉というのを思い出す。

 

「お兄、久しぶりだね」

 

「ここで出会えるなんてな、所属はどこなんだ」

 

「あーしは第5中隊だけど、お兄は?」

 

 その事を聞いたからか綾斗君は少しばかり驚きの表情を見せる。

 

「もしかして、学徒の方か?」

 

「そ、もしかしてお兄も第5?」

 

 その通りだ、と綾斗君は言うと、目の前の彼女は少し目に輝きが浮かび、綾斗君へと喜びの感情を見せた。

 

「やった、お兄と一緒だ」

 

 それに対しても綾斗君は喜びが零れる表情をしてすぐに元の表情に戻る。

 

「言っておくが、今回は俺が小隊長だからな」

 

 まるでお飯事の役割決めのような感覚で、綾斗君は自分の立場を伝える。そうした後、彼は私たちの方へと綾香という少女を突き出し、きっちりした気を付けの姿勢を彼女に取らせる。

 

「とりあえず紹介しておく、こいつは篠崎綾香、俺の妹だ」

 

 そう言った後に、気を付けのために持っていた彼女の手首から、彼は手を放した。すぐに綾香ちゃんの方は右手を肩の位置まで上げてゆっくりと振る。

 

「さっきの見てたなら分かると思うけど、こいつのイモートだよー」

 

「へー、アンタ兄弟居たんだ」

 

 ナツキが知らなかったと言うような表情を見せる。当たり前というか、その手の話は行っていなかったし、そんな話も私は——少なくともあの白い部屋以外では——聞いたことが無かった。

 そう言った視線を彼に向けていると綾斗君の方から近づいてきて、耳元で囁くように話し始める。

 

「一応言っておくが、あいつが昔作ったVR向けのオリキャラ」

 

 やっぱり、そう私が言うと綾斗君はすぐに分かったような顔をして、戻ってゆく。 

 

――

 

 しばらく歩いてゆくと他の文芸部のメンバーと、もう1つのゲームとしてここに送り込まれたであろう別の制服を着た人たちと一緒に、戦車が駐車されている場所へと集まった。並ばれている戦車はその重そうな見た目と威厳を表すと同時に、大型ショッピングモールの屋外駐車場の一般車のように数台ずつ並んでいるのが視界に入って来た。何台かは車両の整備だろうか、別のキャタピラを装備した車両が後ろに着き、クレーンで大型のエンジンを取り外している車両だったり、そのキャタピラの取り付けを行っている戦車兵が見えた。出撃が近いのかどうかは分からないが、とりあえず万全の準備を行っている。それが分かる様子。それだけは分かった。

 歩いていると途中で綾斗君が立ち止まりこっちに振り向く。

 

「さてと、これで全員だな」

 

 一通り彼について来ていた全員に視線を合わせた後、綾斗君は言葉を発する。

 

「私立岩川機動装甲学園、及び北岩瀬武装学園の生徒合計11名の指揮官となる、篠崎綾斗だ。私は本時刻を持って、本小隊の戦闘指揮を執る事となる」

 

 まばら集まった全員に対して、彼は一度敬礼を行った後、その手を降ろす。それにつられてか、残りの面々も敬礼を行い、再びラフな姿勢へと戻る。全員の敬礼が終わると、すぐに彼の緊張したような表情が戻り、この世界で私によく向けている表情を見せた。

 

「ふふっ、ま、堅苦しいのは無しだ、自由に質問していいぞ」

 

 はい、と真っ先に手を上げたのは、別学校の生徒だった。

 

「俺らの車輌はなんだ、16式か、それとも10式か」

 

 話で出てきた戦車とそれに似た車両の事を注釈のように頭に流れ込み、すぐに記憶として咀嚼する。どちらも21世紀に入ってからの軍用車両だ。どちらとも新鋭たる車両で、間違いなく心頼もしい車両と言えるだろう。

 

「流石に10式は回って来ていない、16式に関しては他学園が使っているがそれも関東以西の連中だ」

 

 その話を続けてゆくと、少し隊員が不安の表情を見せる。これ以外の選択肢となると、74式か、あの第3世代主力戦車以外ない。

 

「安心しろ、“例の”第3世代の奴だ」

 

 そう言うと彼はすぐ横にあった戦車へ拳をぶつける。

 

「こいつが今日からの戦友であり、棺桶になりえる代物、90式戦車だ」

 

 そう言うと全員が喜びのような表情を見せ、また安心感をもった表情を表す子もいた。90式戦車、1990年に作られた日本初の第3世代主力戦車、装甲厚は同世代の戦車より硬く、流鏑馬(やぶさめ)の射手(いて)の如く正確無比な射撃性能を持っている。と言っても、その戦闘能力を見出すのはそれを操る兵士も高い質を持たなければならない。

 そう思いながら、戦車の方を全員が眺めている。

 

「ほう、って、このキューマルどこか変じゃないか」

 

 レイ君が車両を見た時に指を指してゆく、1回目は車体の正面下側、続いて車体の上の機銃の順で、違和感を伝える。

 

「よく聞いてくれたな、僕の、というか僕らの乗る予定の90式は近代化改修が行われている。まず上部の50口径M2機関銃だがプロテクターRS2に換装されてある。武装は据え置きでM2のままだから火力に関しては問題ない。訓練では使ったことは無いだろうが使い方は簡単だろう。」

 

「つまり、頭を出した車長が狙撃される心配はないってことか」

 

 学ランの別校生が頷く。

 

「その通り、あとレイが言った前面の凹凸(おうとつ)は92式地雷処理ローラが取り付けられるようになっている。もっともこれに関しては僕の乗る車両だけの話だから、あまり気にしなくていい」

 

 92式を取り付ける、その意味は言い換えれば彼の乗る戦車は時として先頭を走ることになるだろう。

 

「ほかにも改修は行われている。まず、エンジンが2ストロークのV型10気筒エンジンから4ストローク8気筒ディーゼルエンジンに換装されている。10式とさほど変わらない代物だ。更にその分の空いたスペースに補助電源装置がエンジンとは別に取り付けられている。停車中の燃費を改善するためだな。あと車内の快適装備としてディーゼルエンジンを利用した一応のエアコンが追加されている。安心しろ、そのせいで装甲を削ったことが原因で車体下部の装甲が岩にぶち当たって壊れる事なんてない」

 

 淡々と、どこか新しいオモチャをもらって、それを親に事細かく説明する子供のような様子を綾斗君は見せる。

 

「流石にこれだけ色々積んだせいで総重量は大体52トンまで増えたがな。あと、今は取り付けていないがコープケージを点ける事も出来なくはない。その時はプロテクターを外すことになる」

 

 一頻り話を終えたのか一呼吸を整えて、それまでの篠崎綾斗としての目から、兵士綾斗の目のように移り変わる。

 

「車両に関してはこれぐらいだな。VR訓練は行っているからその辺に関しては問題ないと見える。」

 

 そう言うと綾斗君は手元に一枚の紙を持ち上げて、開く。

 

「これが、全員の車輌配置だ。各自見ておいてくれ、とりあえず今はこれ位かな、それじゃ解散、僕は中隊指揮官のもとに向かうから、その紙を見終わったら飯にでもしておいてくれ」

 

 そう言うと綾斗君は歩いて行った。

 

 ――

 

 しばらく経ってから、私達は昼食として野外炊事具から配られた食料を持って、食事場所で食べていた。軍隊の食事といったらレーションのイメージが強いが、こういった基地なんかでの食事に関してはしっかりとした温かい食事をとれるようになっている。味に関しても士気の事を考えられているから美味しさは間違いが無い。

 そんなある程度の味を持っている昼食を食べていると、私の向かい側にある椅子へ、一人腰掛けてくる。顔を上げて、その視線を向けた先に居たのは綾斗君だった。自分の分の食事として、金属トレーに並盛な量の主食と主菜副菜が乗っていて、それを机に置いたと同時にいただきます、と言って食べ始める。

 

「なぁモニカ」

 

 一口目の食事が喉を通ったと同時に彼は話し始める。私も、なに、と返事を返して次に食べようとしていた物から箸を放して彼の方を向く。そうすると、綾斗君はご飯を箸で持ち上げて口の中に入れ、少し咀嚼した後にさっきのように喉を通す。

 

「これは他言無用なんだけどな、一応車長には伝えておけって言われた事がある」

 

 そのためにわざわざ私のところに来たのかと、一応言ってみる。さっき見た車輌への配置、すなわち誰がどの車輌に乗るのか、だれが砲手で誰が操縦手なのかを細かく書いていた紙が、さっき彼から渡された紙の内容だ。そして車長に選ばれたのは綾斗君と別学校の曾根美雪という少女、綾斗君の妹、そして私の4人が戦車一両の指揮を行う事になっている。

 

「俺らの中隊は今夜中に前線へ移動することになってる。目標地点は国道121号線を北上、突出している敵部隊を叩く」

 

 つまるところ、実戦経験を積むための任務である。そう言う事であると理解し、自分のトレーに視線を落とす。

 

「やっぱり、戦闘になるわよね」

 

 ボソりと口から言葉が零れ落ち、多分彼の耳に入っただろう。既に戦闘へ参加したことはあったが、それは日常の延長戦にあった非日常で片付けられると思える。一方で、今から行おうとするのは戦争の中にある光景だ。学校での休み時間にプロテインバーを購買で買うように、戦争の中で戦車がその120mmの砲弾を撃ち出すのは、ベクトルが違うという前提があるにしても同じ日常として考えられる。

 それ以外にも、メタとして彼に言われた事も一緒に思い出す。武装JKというジャンルにおいて、その登場人物が一番輝くことのできる状況、それの1つは間違いなく戦闘である。その流れがあると考えてみても、私たちが戦いの中に飛び込むというのは違和感が無い。

 

「それで、私達はどんな役割なの」

 

「突出している敵部隊を正面から迎え撃つ。その間に16式が連携して敵戦車なんかを遊撃する。そんな感じだ」

 

 つまるところ、ヘイトを私たちは買う事になる。それなりに酷な任務だ。

 

「迎撃部隊は学徒第2と俺ら第5の2個中隊と、国防隊の第11普通科連隊からの第1中隊の寡兵で迎え撃つ、遊撃に関しては第11旅団の即応機動連隊が務めるらしい」

 

「相手の戦力はどうなってるの」

 

 彼がトレーに乗っていた食事を食べるのと重なり、数秒の沈黙が訪れる。

 

「確認できるのはT-72とT-55、それから札幌政権の国産戦車がそれぞれ2個中隊いる。あとはT-90で固められた親衛戦車隊が出張って来る可能性もありえるな」

 

 敵は多くと3個小隊が3つ、合計すると6個中隊になるという事、つまり数ではこちらの方が不利という事になる。ランチェスターの法則にある兵力3倍の法則として、そして弾薬の面で考えればこちらが撃破される可能性は高い。しかしそれはあくまで同等の戦力を持っているという前提で考えたらの話である。事実、学校の授業のなかで湾岸戦争の時の戦いが参考資料として出されたが、第3世代主力戦車である米国のM1エイブラムスと、イラク軍のT-55が交戦した時には、T-55は一方的に撃破されたという事を先生は話していた。つまるところ、脅威になりえるのはどれぐらいの技術力によって作られたか、分からない敵の国産戦車と……。

 

「モンキーモデルか分からないT-72、それから親衛戦車隊のT-90ってところか」

 

 思っていたことをまるで読み解いたように目の前の彼が言葉を発する。それなりの正確さを持って言われたことだったからか、驚きの感情が見えていると、かれから続けて言われた。

 

「それぐらいなら俺も思った事だ。襲撃地点に関しては山地沿いを抜けて平野になる辺りで集中して展開する、田んぼに塹壕掘ってか隠れて、それでいて90式戦車(キューマル)の油圧サスでなるべく姿勢を低くする。そういう考えで動くことを想定している。位置がバレたらそのまま後退して16式機動戦闘車(キドセン)のキルゾーンへ誘い込む形だ」

 

 後退を考えている以上行う事はかなり理にかなっている……と、素人にほど近い私の考えを思い浮かべて。いると彼はすぐに食事へと戻って、主菜をの一切れを飲み込んだ。

 

「これ以上の事に関しては作戦開始前に話す。いまは、その食事を楽しんでくれ」

 

 そう言うと彼はトレーの残りの食事に手を付け始めた。

 

 ――

 

 それから時間は経ち、丑三つ時になった頃、私たちの小隊は中隊長に集められて、出撃のための準備として戦車への装備を積み込んでゆく。自分たちの装備や予備の転輪と履帯。その他多くのいろいろな物、そして戦闘に使う弾薬。それらを積み込んでいた。

 

「弾薬は7割ぐらいをJM33にしろ、残りはHEAT-MPだ」

 

「機関銃の予備弾薬も積めるだけ詰め、予備の転輪と履帯もわすれるな」

 

 色々な声が辺りに響いて、この田舎にある臨時の駐屯地の喧騒さを示している。私も戦車の車体の上に上がって乗る場所の後ろにある弾薬庫へと1.5リットルのペットボトルかそれ以上の大きさを持っている弾薬を置いては、次の弾薬を持ち上げて乗せている。この仕事はかなりの重労働で、戦う前から体力を削っているかのように感じる事ができるし、事実その通りである。

 

「これが最後だ、モニカ」

 

 最後の弾薬を自動装填装置の受け取り口に置いた後、それまで使っていた体をいたわるように、両手を上に伸ばす。溜まっていた疲労感が一気に抜けてゆき、筋肉のゆるみと血管を流れる血の量が、まるでダムの放流のような感覚で押し寄せる。

 私が指揮する90式の面々は、レイ君とサヨリの2人が乗ることになっている。私が車長、レイ君が砲手、そしてサヨリが操縦手、そういう配置が、ここにきてから見たあの紙に書かれていた。

 準備が終わったことに気が付いてか中隊長はすぐに作戦開始の合図を無線機で伝え、私達のような準備を終えた戦車部隊から順に駐屯地を出発してゆく。辺りの空気に関しては月が出ている夜の世界が見えているといった所の様子だ。その時間に8気筒の環境なんか気にしないような大出力のエンジンを唸らせて、私の乗った戦車は出発した。

 前方に居るのは綾斗君が乗っており、その後ろを残りの小隊が追いかけている。間隔に関しては10m程度離れていて車長に当たる人間は全員がハッチから上半身を乗り出して、最大の視界を確保している。そうは言っても視界は夕暮れかつ田舎の夜なせいで生身の視界ではそれほど役に立つものではない。だからこそ運転手のサヨリと車長である私は暗視装置を頭にかぶって暗い夜道に映る進路の景色をはっきりと捉えるようにしていた。

 時間にして1時間をかけて、私たちは目的地にたどり着いた。灯火管制のせいか、それともこの場所も何らかの大停電が起きたためなのか、或いはそもそも街灯が無い田舎道だからか辺りは真っ暗である。そのおかげか空を見上げるとかなりの星と月の明かりが降り注いでいるのが分かる。天体観測にはうってつけの様子と言えるだろう。

 

 「ゴング2-1より小隊全車、横隊になり停車せよ」

 

 綾斗君から言われた指示に合わせてそれまでの縦一列で動いていた状況から田んぼ沿いに横一列の体勢へと変わって停車する。

 

「俺らの隊はこの場所で迎え撃つ、適当に砲塔だけ出せる位置に陣取れ」

 

 その指示に従って私もレイ君とサヨリに対して、戦車を隠せるような場所に移動するよう指示を飛ばす。丁度農道が一段高くなるような場所としてあったため、私はそこに隠れるようにサヨリへ指示を飛ばす。はいよ、戦車長どの、というどこかキャラを作ったような返事がサヨリから帰って来る。複戦の短距離バースト通信の性能は言葉でのコミュニケーションよりも正確なことがある。そいう言う事を別学校の子——確かハルって名前の子——から教わった。その効果がどれぐらいの物なのかはリンクを起動していなかったから分からなかったが、この戦車に乗る前の弾込めの時間や、出発した時に私が見ている視界を運転しているサヨリが、まるで自分の視界としてとらえるような事で理解できた。戦車が暗い中を移動し、指示した通りの場所へとたどり着く。

 

「ゴング2-2、準備出来たわ」

 

「2-3、準備完了」

 

 隊長である綾斗君の車輌に向けて、バースト通信によって準備が出来た事を、それぞれの戦車長が伝え始める。複戦のバースト通信に関しては欠点として離れた場所なんかに居る兵士同士での通信が難しいという欠点がある。その欠点があるのに、今この小隊の車長が連絡を取れているのは、頭に取り付けた航空機用ヘルメットにも似た戦車長用ヘルメットのおかげである。これがバースト通信を増幅させて戦車の車長同士の通信ができるようにしているのだ。

 その技術力の高さがどれぐらい素晴らしいのかを考えるのは後回しにして、私は上半身をキューマル(90式戦車)の中にすべりこまして自分の膝辺りにあるRWS、プロテクターRS2の画面を利用して索敵の体勢を取り始める。生身だと万が一、支援砲撃なんかで近場に砲弾なんかが着弾した時なんかで、負傷することが起きるかもしれない。そのリスクに自分の身をさらすぐらいなら、それよりも安全な場所である戦車の中で、多少の不便さのあるRWSで索敵した方がいい。

 そう考えながら札幌政権軍の戦車がやって来るときの戦術を思う。可能性としては、まず旧式の戦車であるT-55か、改修がされているか分からないT-72がこっちの弾を消費させるためにやって来るか、先んじて札幌政権の国産戦車か親衛戦車隊のT-90なんかがやって来て私たちの事を撃破してくる。

 そのどちらか分からない事を考えながら。私は熱源を探してゆくのだった。

 

 ――

 

 時間が経って夜明け前、眠りかけている体を車内にあったボイリングベッセルという名前の電気ポットで沸かしたお湯による、インスタントコーヒーを使う事によってしっかりとした目覚めの感覚を維持していた。他の戦車に乗っている綾斗君や美雪も同じようにして眠りという人間の三大欲求の1つに抗うのと同時に、ナノマシンによる休眠体制を維持しつつ警戒を維持していた。

 

『中隊全車へ通達、UAVが敵装甲目標を確認、数およそ30輌、道路を一列で南下中』

 

 中隊長の指示が聞こえてきて、体が休眠モードから切り替わり、戦闘のための体勢を取り始める。右手の手元にある戦闘機の操縦桿のような大型のスティックを動かしてひざ元の映像を左右に振る。

 今のところ映像には戦車の影が映っていることは無い。そのことが分ったとしてもやって来ているという情報自体は変わらないため、やって来るであろう方向へRWSの視線を固定する。

 

「レイ君、徹甲弾(SABOT)を装填して」

 

 すぐに頭に流し込まれた情報を思い出し、レイ君に指示を飛ばす。相手が戦車であると考えられるなら、確実な貫徹能力のある装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使う事が鉄則とも言えるだろう。

 そう思っているとRWSを向けていた方に新しい熱源のような物が、列を成してやって来るのが見えてきた。

 

「BRDM-2と、T-72か、まるで湾岸戦争だな」

 

 バースト通信で、綾斗君の言葉が流れ込んで来る。どっちも旧ソ連で作られた古めかしい戦車と装甲車だ。その事を思うとレイ君が話に入って来る。

 

「と言ってもT-72は改修されてるかもしれないがな」

 

 その言葉に合わせるように返事をした時、綾斗君から指示が飛んでくる。

 

「戦車の一番後ろの車輌が見えたら射撃開始だ。先頭のBRDM-2とT-72は俺が仕留める。2-4は最後尾を狙え。2-2と2-3は先頭と最後尾の撃破を確認次第自由射撃」

 

 すぐに了解と確認を取ると続けるように残りの面々も了解という。私はすぐにレイ君に車列の真ん中の戦車を狙うように指示して。RWSの照準を車列の先頭にある戦車へ合わせる。

 

「撃て」

 

 綾斗君の合図が飛ぶのと同時に車体の外から砲弾が飛び出してゆく音が聞こえ、着弾する。赤外線による白黒映像ではあるが、着弾地点した戦車から火柱が上がり始め、爆発する。まるでペットボトルのキャップや、その戦車の異名であるびっくり箱のような様子だ。後続の戦車は突然の奇襲のせいか、全車が散開し始めようと、それぞれバラバラに動き始める。先頭を走っていた装甲車――BRDM-2は綾斗君のキューマルが機銃掃射を行ったこともあってかすぐに動かなくなった。この間、時間にして僅か5秒。

 

「撃ってくるぞ、どの車輛狙えばいい」

 

 レイ君から通信でどの車輛を狙うべきか質問が飛んでくる。すぐにRWSの映像を眺めて、手ごろに狙えそうな戦車を探し出す。

 

「側面向けてる奴、撃って」

 

 複戦の効果によって、どの車輛を狙うべきかをすぐにレイ君は判断し、一輌のT-72に主砲を向ける。そしてすぐに発射、という彼の掛け声とともに、車内が大きく揺れ、同時に爆音が響く。

 

「命中!」

 

 着弾した砲弾は戦車の側面に命中し、T-72は動かなくなる。すぐに、やったか、という事を思うと同時に戦車が本当に撃破されているか、注視する。戦車の撃破というのは、必ず砲塔が吹き飛んで大爆発を起こすというわけでは無い。火柱が上がっている事もあるが、物によってはそのまま全速力でバック走行し始めて、戦場から離脱しようとすることも、理論的にはあり得る。

 今目の前にいる戦車に関しては、火柱が出ている事も無ければ、さっき見たように砲塔がびっくり箱のように飛びあがっているようにもなっていない。だからこそ目の前の戦車が撃破できているのかの判断は慎重にしなければならない。

 そう思っていると戦車の中から一人兵士が飛び出してきて、同時に運転席の人間も降りて来る。その状況を見た後、私はすぐに他の戦車に狙いをつけようと、RWSのスティックを動かす。

 

「次の戦車狙って、撃って!」

 

 その言葉と同時に、別の戦車に機械の照準を合わせて、狙いをつけてもらうように指示する。しかし、敵も数発の弾丸が飛んできたことによって、どこら辺に私たちがいるのか分かったのだろう。今、私が狙いをつけた戦車の砲塔がこっちに向き始めていた。

 

「撃つぞ!」

 

 レイ君の声が響いたと同時にさっきと同じような衝撃と爆音が鳴り、狙っていた戦車に砲弾が命中する。今度の戦車は運が無かったようで、砲塔のハッチから火が噴き出し始めた。着弾した砲弾の破片が弾薬庫を切り裂いたか何かによって弾薬が発火、連鎖的な穂脳になったのだろう。そしてそう思ったと同時に砲塔がびっくり箱のように吹き飛んだ。

 

「2輌目撃破、次!狙って!」

 

 そして再び別の戦車を狙おうと、RWSを動かす。その時に目の前の地面に爆発のような土の巻き上げが起こり、視界を遮る。

 

「撃って来た!」

 

 美雪からも砲弾が飛んできていることに気が付いてか、砲撃とエンジンの轟音が鳴り響く音の混ざり合ったノイズのある、昔ながらの無線の音が聞こえてくる。

 

「全車そのまま後退、キルゾーン1に敵を誘導しろ」

 

 無線機から今度は綾斗君の声が聞こえて来る。指示は単純なものであるが、元々私たちは敵の引き付けるための面々だ。16式(キドセン)が活躍できるようにするにはこうする方が遊撃隊の被害を減らすことに繋がる……かもしれない。

 

「煙幕焚いたら出せるだけの速度でキルゾーン1の指定地点に迎え。殿は2-4と、俺がやる」

 

 綾斗君がすぐに新しい指示を飛ばして、すぐに煙幕を展開する。相手の戦車がどれぐらいの性能であるか分からないが、白リン弾で作られた煙幕はサーマルサイトを使ってもその向こう側が見えないようになる。だから煙幕を張る。発射した煙が一面の壁になったと同時に、サヨリに後退の指示を出して直後に強い衝撃が体に来て、戦車が後ろ向きに走り始めるのが分かった。その感覚を持ったと同時にRWSを今度は後ろの方向に向けて進行方向に障害物が無いかを確認し始める。戦車は後方視界が悪いなんて次元ではない、車長である私が目になって今でいうサヨリの視界を補う事が必要だ。

 

「よし、そのまま旋回して進め」

 

 綾斗君からそう言う指示が飛んでくるのに合わせて、戦車の左右の履帯がそれぞれ逆回転を始める。そして敵に尻を向ける方向となり主砲だけを敵に向けている状況が作り上げられた。

 それに合わせて、戦車の速度がそれまでよりもはるかに速い速度での移動へと変化する。その感覚を肌で感じていると、丘を越えてきた敵さんのT-72がぞろぞろと砲塔を出してくる。

 

「レイ、自由に狙って撃って!」

 

 その指示に合わせるように戦車の砲塔が動く感覚を感じ取り、同時に砲弾を放つ衝撃が体を震わせる。着弾した砲弾が一両の戦車に命中し、三度びっくり箱のように砲塔が吹き飛ぶ。小隊の仲間の戦車(キューマル)も次々砲撃を浴びせ始め、何両かの敵戦車が動かなくなった。そして敵戦車は一度丘の向こう側に隠れてゆく。おそらく体勢を立て直すために一度身を引いたのだろう。どっちにしても、キルゾーン1へ小隊の全員を後退させるための時間が確保できたという事だ。

 

「全車このまま陣形を維持、キルゾーン1へ後退せよ」

 

「2-2了解」

 

 その言葉に合わせて残りの2輌も了解と反応する。

 

 ――

 

 すぐに小隊の全部の車輌がキルゾーン1に移動することが出来た。この間の敵の攻撃は無し、恐らく脱出した味方の救出か被害の状況で体制を立て直すことを行っているのだろう。

 

「それはこっちも同じだ。無事に小隊全車が移動できているが、砲迫の攻撃が来るかもしれない。ま、幸いなことと言えばこの夜間だからこそ小型の可視光線カメラ付きドローンは意味を成していないかもって所だな」

 

「砲迫が来たときはどうすればいい」

 

「まず戦車からは出るな、砲弾は直撃しなければ戦車を吹き飛ばすことは出来ない。それに至近弾が来たとしても砲弾の破片ぐらいでキューマルがぶっ壊れることは無い」

 

「その後どうなる」

 

「さっきのT-72連中がやって来るって所だろうな、多分今度はパンツァーカイルを作ってやって来ると思う、ただT-72ならなんてこと無いがこれぐらい時間が空いていると、後続の戦車も合わさって下手すると2、3個大隊としてやってくるかもな」

 

 その言葉を聞いてすぐに残弾を計算し始める。さっきの戦闘で4発使ってる、自動装填に積んである弾薬は19発だったから今その中にある弾薬は15発。その8割は徹甲弾だ。すぐに弾薬を自動装填に入れるようにレイ君に指示を飛ばす。短い時間だけれど即応位置に弾薬を補充するのは戦車が戦場で生き残る事として重要なことである。イメージとしては歩兵のタクティカルリロードと同じだ。満タンの弾薬に切り替えて万全の状態にする。その状況のために徹甲弾が次々と自動装填装置の中に移し替えられてゆく。

 それを行っているとサーマル越しの映像で丘の向こうから戦車が何台かやって来ているのが見えた。今度の戦車は砲塔の横に何か箱型の装置を取り付けている。

 

「来たぞ、今度は札幌政権の国産戦車だ」

 

 綾斗君がそう言うと同時に後続の戦車がやって来る。どうやら先ほどと同じようにT-72が集まっているみたいだ。

 

「全車、先に例の国産戦車、21型を狙え、俺らが攻撃を始めた所で、キドセンが攻撃し始める」

 

 その指示が聞こえたと同時に、正面にいた21型の一輌に照準を合わせる。残りの戦車も、複戦の力でデータリンクしてそれぞれが別の戦車に照準を合わせ、待機する。

 

「撃て」

 

 今日だけで何度目かの、綾斗君の撃ての指示。それに合わせて私もレイ君に撃てと指示を飛ばす。

 発砲音と共に数百メートル先の戦車に向かって砲弾が飛んで行き、そして着弾する。しかし、今回の射撃は間違いなく砲塔に命中したが、敵の戦車は動いている。直後、砲塔がこっちに向けられる。

 

「流石に新型なだけあるわね」

 

「言ってる場合か綾香!煙幕展開、対戦車ミサイルを回避しろ!」

 

 突然言われた煙幕の展開指示に困惑するも、すぐに彼の言った通りに煙幕を展開する。展開しようとした時、戦車の横に取り付けられていた箱から一瞬光が放たれたように見えた。

 

「なんで戦車にミサイルがあるの?」

 

 美雪が声を出して質問する。

 

「21型はM-2020の北日本版みたいなもんだ。そしてM-2020はM2ブラットレーとか89式歩兵戦闘車みたいに対戦車ミサイル積んでる」

 

 ご丁寧に説明どうも、と美雪が声を上げて返事をする。その会話の間にそれぞれの戦車が位置を少しだけ変えて、煙幕が晴れた時に敵の予測から逃れられるようにする。そう思っていると煙幕の煙が徐々に晴れてきて、こっちのサーマル映像では敵戦車を捉えることが出来るほどになった。

 

「見えた、レイ、sabotで撃って!」

 

 すぐに見えた戦車の一輌に向けて砲弾を撃つよう、レイ君に指示を飛ばす。発射の掛け声共にこの時間で何度目かの射撃が起こり、弾する。今度は戦車の車体に命中したらしく、ハッチから火を噴きだして動かなくなる。

 

「21型一輌撃破!」

 

 大き目な戦果を挙げた。そう思った直後に一発の砲弾がこっちに飛んで来たらしく、車体が大きく揺れる。同時にその衝撃で揺れ動かされた頭をどこか車体にぶつけた。

 

「2-2、どうした!」

 

 綾斗君の声がぼんやりと聞こえ衝撃によるぼやけた視界で車内を見つめる。

 

「2-2応答しろ!」

 

 聞こえて来る声が鮮明になってゆき、私は車内の様子を確認する。どうやら砲弾は貫通することが無かったみたいだ。

 

「こちら2-2、砲塔に被弾、損傷無し」

 

 その知らせを聞いたからか一息つくような声が綾斗君から聞こえて来る。すぐに私もRWSを使って撃って来たであろう戦車へ照準を合わせる。

 

「撃って!」

 

「On the way!(撃つぞ!)」

 

 レイ君が射撃する。そして着弾。今回は何かを迂回しようとして側面を向けていた21型のすぐ近くに着弾した、ここまで撃っていて初めて砲弾が外れた。さっきの被弾のせいなのだろうか。ふと気が付くと自分の左足が貧乏ゆすりを行っているのが、足の感覚として現れており、それに一瞬意識が向いた。次の砲弾を装填するように指示を飛ばして、すぐ横で自動装填装置が主砲に弾丸を込める。それが終わると同時に、レイ君が引き金を引き、そして着弾——する前に別の方向から砲弾が飛んできて、狙っていた戦車の側面に着弾する。

 

「今の砲撃はだれ!?」

 

 そう言うと同時に、無線から声が入って来る。その声の主は私たちの小隊じゃない、別の人の声だった。

 

「こちらカッター1-1、キルポイント1へ到着、部隊は12輌の16式、これより交戦を開始する」

 

 綾斗君の言っていた16式機動戦闘車、通称キドセンで構成された遊撃隊の到着のようだ。

 

「カッター1-1、こちらは4輌の90式で編成されている、側面から攻撃してくれ」

 

 綾斗君から、味方がやって来たという喜びが混ざっていそうな声が入った無線が聞こえて来る。

 

「カッター1は側面攻撃を開始する、カッター2は90式の援護を、カッター3は回り込んで退路を絶て」

 

 それぞれの小隊長からの声と同時に、次々と砲弾が放たれたダーツの矢みたいな砲弾が飛んできては戦車の傍に着弾したり、命中する。その内の一発の砲弾がRWSで照準していた21型に命中する。、しかし当たった場所が悪かったためか、その戦車は片方の履帯が吹き飛んだ以外何ともない様子でこっちに照準を合わせていた。その直後、射撃の衝撃が伝わり、目の前の21型に砲弾が直撃する。

 もう言わなくても感覚でわかったのだろう。私が指示しようと声帯を震わし始めたと同時に、引き金を引いたのだ。

 

「ナイスキル、レイ!サヨリ、そろそろさっきの場所まで移動させて!」

 

「言われなくても!」

 

 そう言うと同時に、戦車のディーゼルエンジンが轟音を上げて今の場所からさっき煙幕を焚いた位置へと53トンの巨体が動き始める。その間も主砲の向いている方向はそのまま敵をねらうようにして、敵戦車の一輌に照準を合わせる。

 

「撃って!」

 

 射撃の合図とともに砲撃。今日だけで何度この指示を飛ばしたのだろう。そう思いながら車体の振動と砲撃の振動に挟まれるような感覚に陥る。

 

「命中!」

 

「流鏑馬(やぶさめ)の本機を出したね!レイ!」

 

 距離がどれ位か分からなかったが停車していた敵後続部隊のT-72に砲弾が命中しびっくり箱のように砲塔が飛びあがる。気が付くと撃破された戦車から敵の戦車兵がぞろぞろと降りて、逃げ出そうとするものが何人かいるのが見えた。それと同じように戦車が旋回して逃げ出そうとしているのも、視界に入っていた。

 

「撃破できるなら撃て!」

 

 そう綾斗君が声を上げたと同時に、残っていた戦車が一斉に砲撃を行う。

 

 そしてそれが最後の砲撃となった。

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