ルーデウス・グレイラットの1日は空の赤い玉に聖級水魔術キュムロニンバス(?)を撃ち込むことで終わる。
魔力というのは使えば使うほど、次の日には魔力量が増えるものらしい。恐らく若ければ若いほど成長すると思う。子供の頃は、それこそ倍々に増えてた魔力量が、今は微々たる物だ。というか、俺の魔力量は既にかなり多いから違いがわからん。
精密作業をしたりして何とか使い切ることも出来るが、掛かる時間を考えると割に合わない。エリスの家庭教師をしながら出来ることではない。
ある日、空に浮かぶ赤い玉に中級土魔術の岩砲弾を撃ち込んでみた。暇つぶしだ。玉に当たると、岩砲弾は跡形も無く消えた。水弾も、火弾も、例外なく玉に触れると消えた。これは使える。
ロキシー師匠から最後に教えてもらった聖級水魔術キュムロニンバス。簡単に言えば雷雲を召喚する魔術なんだが、なんと魔力をいくらでも込められるのだ。沢山込めると見渡す限りの雷雲というヒャッハーな地獄絵図になる。
しかし!あの赤い玉を使えば、まさに魔力をドブに捨てるかのように使い切れる。勿論放っておけば雷雲が四方に広がるので魔力操作をして雷雲を赤い玉に集める必要があるが、もう3年も同じことをしているのだ、慣れたものである。雷雲を圧縮して赤い玉にねじこめば、10分そこらの作業で済む。
師匠がいないから新しい魔術を覚える事はできないし、魔力量だけは努力して底上げしておき、ロキシーと胸を張って再会できるようにしておくのだ。頑張れ俺!
10歳の誕生日にエリスお嬢様から杖を頂いた。
傲慢なる水竜王。アクアハーティア。
エリスお嬢様から、この杖を使った聖級魔術を見たいと言われたので、キュムロンで適度に雷を落として場を盛り上げた。エリスはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるし、ギレーヌも尻尾がビタンビタンと跳ねているので楽しんでくれているみたいだ。
それにしても、良い杖だ。魔力操作が格段に楽になるし、込める魔力もいつもの半分で済んでいる。すると、丁度いい所に空中城塞が通りかかった。有名な空飛ぶ伝説の城だ、ラピュタだ、実在したんだ!雲を動かして空中城塞を雲から出たり入ったりラピュタごっこをして遊んで、調子乗って空中城塞に雷を落としたりもした。城から煙が立ち登る。ふはは、ゴミのようだ!!!!
その日の夜、城の主であるペルギウスの配下に拉致られた。ラピュタは実在したし、伝説の人は存在していた。こっぴどく怒られた。2度としません。
それよりも驚いたのが、空中城塞には、前世に俺が暴走トラックから助けようとした女性に瓜二つな女子高生がいた。というかこの世界ではお目に掛からない制服姿だから、まず間違いないだろう。
なんでも、赤い玉が消え、空から落ちてきた彼女をペルギウスがキャッチしたらしい。やっぱりラピュタじゃないか。ケイオスブレイカーなんてダサい名前やめてラピュタに改名してしまえ。
ペルギウスは転移者、名を七星静香というらしい、に興味深々らしく、同じく転生者で尚且つ通訳できる俺を暫く借りる旨をボレアス家に伝えた。ボレアス家からしたら強力な後ろ盾を得るわけで断る理由はない。有無を言わさずエリスと離れ離れにされた。腹いせに滅びの呪文を唱えたが、空中城塞が落ちる事はなかった。
七星は優秀で、1週間もすると、こっちの言葉をかなり話せるようになっていた。俺もこの1週間、遊んでいた訳ではない。何処かにあるはずの飛行石を見つけ出して破壊する為、城をくまなく探索したのだ。見つからなかったので嫌がらせに土魔術でラピュタのロボット兵を城に量産しておいた。七星もラピュタを知っているようで、仲良くなった。
拉致されて1ヶ月が経った。
七星は前世の記憶を元に、ペルギウスの配下と前世に戻る為の計画を練っている。もうペラペラだ。
俺は前世に戻る気はなかったので、折角ならと、ペルギウスに魔術を教えて貰っていた。どうやら俺の魔力量は、あの赤い玉を使った特訓のおかげで化け物じみているらしい。その量を制御できている時点で、火弾に魔力を込めれば王級並になるから覚える必要はないと言われた。
ちゃうねん、かっこいい詠唱知りたいし、帝級とかだとエフェクトカッコ良さそうじゃん。無詠唱使えるから、詠唱しなくてもいいんだけど、たまには使いたい。『黒棺』とか、詠唱あってこそのカッコ良さだしね。
拉致されて2ヶ月後。
俺は水魔術を帝級まで覚えた。聖級で何となく想像ついてたが、帝級はほぼ雷撃だった。俺は土魔術で作った砲弾をこの雷撃で加速して敵を撃ち抜く。そう、超電磁砲だ!これがやりたかった!!
超電磁砲の完成記念に例の曲を歌いながら散歩していると、『カラオケでそれ聴いた事あるわ、日本の曲を久々に聴きたい』との七星の案で、お互いアカペラでカラオケ大会をした。俺はアニソンを、七星はCMで聞いたことある曲を。
懐かしくて俺も七星もちょっと涙目だった。
約2ヶ月の軟禁から解放され、地上に無事帰還した。
七星は城に残って前世への帰還手段の研究を続けるらしい。
ペルギウスは『用があればこちらから兵を遣す。さらばだ』と格好付けて去っていった。
『空中城塞(ラピュタ)には飛行石(土魔術で勝手に作った)があり、それで飛んでいる。庭には心優しいロボットがいて、平和を守っている』と、吟遊詩吟に伝えて、広めてもらう事にした。やっぱりラピュタって名前の方がしっくりくるからな。
ところで、結局あの赤い球は何だったんだろうか。ペルギウスが言うには、俺が『魔力を注ぎ込んでいた』のは間違いないらしい。帝級を何発も撃ち込める俺の魔力を何年もかけて溜め込むだけ溜め込み、吐き出したのは七星だ。しかも、七星は魔力が全くない。冗談で「いつか俺の溜めた魔力が七星から爆発するかもしれませんね」なんて言ったら、本気でその可能性を考えているようだった。
地上に戻った俺はエリスの家庭教師に戻り、更に1年が経った。ギレーヌの剣の修行は苛烈さを増し、俺はエリスを治す為に聖級治癒魔術を覚えた。2人はそれを知ると、更に稽古は苛烈になった。いくら治せるとはいえ、四肢を飛ばすのは辞めてほしい。ボレアス家の庭は、稽古の時間になると血の雨が降る。
ラピュタはたまに屋敷の上を通る。その度に超電磁砲で挨拶するとペルギウスの配下が飛んでくる。毎回怒られるが、これしか呼ぶ方法ないし。
ペルギウス曰く、七星は「不老」、ということらしい。俺の魔力が七星の身体情報の維持に使われているとのこと。リアル永遠の17歳だ。成長できないということは障害もあるだろう、哀れみを込めて七星の胸を見る。「あれが限界か…」ボソリと呟いたが聞こえてしまったようで、冷たい目で見られてしまった。
更に一年が経ち、家庭教師の約束である計5年が経った。エリスは今年14。来年は15で成人だ。あと1年延長して、エリスの成人を祝いたい気持ちはあったが、エリスは貴族の娘だ、10歳であれだけ豪華だったのだから、15歳の成人式はもっと豪華だろう。もう、俺のような田舎貴族が側にいちゃいけない気がする。それに、家族ともなんだかんだ5年会えてないのだ。別れる時に別れておかないと、別れられなくなりそうだ。
お別れの日。
エリスはいつも通りだ。屋敷のみんなも笑って送ってくれた。ちょっと散歩に行ってくる人を挨拶するような雰囲気だ。そうだ、また寂しくなったら遊びにこよう。ここは俺の第2の家と同じだ。ラピュタをタクシー代わりにすれば直ぐに着く距離なのだ。俺も笑ってボレアス家を後にした。
馬車に揺られて揺られて、懐かしい景色になってきた。
ロキシーとの卒業試験の草原。
シルフィと待ち合わせしていた丘。
懐かしい、俺が生まれて育った家。
5年ぶりに聞いた、我が家のドアの開く音。
「ルーデウス・グレイラット、ただいま戻りました!」