「おはコンハロチャオ〜! あなたの目玉をエレキネット! ナニモンなんじゃ? ナンジャモで〜す! 今回はスペシャルなゲストをお呼びしてるゾ〜!」
パルデア地方 ハッコウシティ。きらびやかなネオンが空を薙ぐこの街の真ん中で、ハッコウジムのジムリーダー ナンジャモの生配信が行われていた。
ナンジャモの対戦配信は同接百万を優に超える超人気コンテンツ。それはナンジャモ自身の魅力もさることながら、対戦相手の珍しさにも比例している。
ナンジャモのスマホロトムはそのスペシャルなゲストに向けられた。
「今回のスペシャルゲストはぁ〜っ! な、な、なんと! あの幻のポケモン ボルケニオンと、そのトレーナーのハルノ氏だぁ〜っ!」
一人の白髪の青年と、その傍らに立ち、凄まじい咆哮を轟かせた黄金のポケモン——ボルケニオンが映し出されるや否や、配信は大騒ぎに陥った。
・ボルケニオンって何!?
・黄金の精神を感じる……!
・覚悟してきてる人だな!?
困惑、興奮、歓喜、あらゆるものが入り混じるコメント欄の嵐に比例して、シビルドンのぼりに上がっていく視聴率に、ナンジャモ自身も似たような感情を抑えきれなかった。
「くふふ、視聴率がとんでもないことになってるぞ〜……! これは腕の見せ所!」
ギザ歯を覗かせながら、ナンジャモは肩を回した。
「うっし! ハルノ氏、何か意気込みはあるかな!?」
「はいはーい、ありまーす」
カメラ慣れしていないハルノに手ほどきを加えるよう、スマホロトムを寄せてやれば、意外にもハルノはノリノリで応じた。
「オハコンハロチャオ〜ハルノです。今日はボルケニオンと一緒に、視聴率荒稼ぎしてしまいますよ」
・初々しい
・鬼カワイイぞ
・抜けるッ! 抜けるッ! 抜けたァッー!
(˃ᯅ˂)
( █) ンァーッ!
「ホラホラ〜、ハルノ氏早速大人気!」
「どーも」
ハルノはぺこりとお辞儀をする。
黒いスーツ姿にその表情、冷徹な印象を受けてもおかしくはないが、ハルノ本人の印象はかなりの真逆だ。
「ではでは、ハルノ氏に質問!」
「はい」
「好きな食べ物は!」
「好きな食べ物は〜チョココロネ。故郷に帰って、シンプルなチョココロネが食べたいですね」
・かわいい!
・頭チョココロネ、ってコト!?
・シンプルな丸刈り?(難聴)
「故郷? ハルノ氏はどこ地方なんじゃ?」
「カロス地方です——あっ……すいません、記憶喪失なもので、あんまり自分のことは詳しく話せないのです」
「ありゃりゃ、それは困った。視聴者のみんなー! なにかハルノ氏に質問あるかなー!?」
ナンジャモの問いかけに、コメント欄は渦巻くように活性化した。
「ほうほう——"ハルノちゃんの好きなポケモンのタイプは何ですか"だって」
「じめんタイプ。電気の一貫を切れるし、交代技縛れてとても強いです」
・なんて?
・意外と対戦ガチ勢なんだ
・お前の心は永遠に分かるまい
「次のしつもーん! ——"ハルノちゃんとボルケニオンの出会いについて教えて"!」
「……すいません。それがあまり覚えていなくって。カロス発電所で捕まえたということ以外、何もわからないんですよ」
ハルノが申し訳なさそうに頭を下げると、ボルケニオンがその隣で鳴いた。
その後も質問は続いたが、ハルノは馬鹿丁寧に返すばかりで、ナンジャモの求める面白い回答は一切返ってこなかった。
だが、視聴者にはそれが刺さったらしい。ナンジャモはつくづくインターネットにおけるバズの難しさを痛感させられた。
「ふふん、今回の配信は視聴者参加型! ばしばしコメント送ってくれればハルノ氏とボクがリクエストにお答えしちゃうぞー!」
露骨なコメント稼ぎだが、ナンジャモも本意ではない。
ハルノが望んだことである。
コメント欄は嵐と化す。
・好きなポケモン!
・ボルケニオン以外で好きなポケモン!
・好きなポケモン知りたい!
「おぉ! ボルケニオン以外で好きなポケモンだって、ハルノ氏!」
「この子以外で? ……うーん。フシギバナですかね」
「ほーほー、その理由は?」
ナンジャモがギザ歯をちらつかせながら問い詰める。
「くさ・どくってタイプが優秀だし、メガシンカすると更に耐久性能が上がって頼りがいがあるからです!」
「……ハルノ氏、皆が求めてるのはそういうのじゃないと思うゾ」
「え、なにかダメでしたか?」
「たとえばぁーハラバリーのくりくりおめめがカワイイから好きーとか、そういうの」
「あー……それなら、ブルンゲルですね」
「それはナゼ!?」
「美味しそうだから」
ナンジャモが顔をしかめるが、コメント欄は次々流れていった。
「えー、次。"ハルノちゃんは100億円手に入ったらどうしますか"、だって!」
「私とこの子の分の、食べきれないほどのチョココロネを買い占めます」
「よッ、かわいい!!」
・よッ、かわいい!
・俺が買う
・この子にチョココロネを食わせてやりたいのですが、構いませんね!
次から次に質問はやってくる。
このペースでやらねば終わらない。今回のノルマは「100の質問」なのだから。
「"長所と短所"は!」
「長所は、バトルが強いこと! 短所は、バトルが強すぎること!」
「反感買うゾ」
「"もしも特殊能力が手に入るとしたらどんなのがいい"!?」
「明日の天気が分かる能力!」
「ニュース見よう」
「"無人島に持っていくとしたら"!?」
「ボルケニオン! 水蒸気爆発で海を割って脱出します!」
「私欲にまみれたモーゼ」
「"最近あったショックなことは"!?」
「捕まえたロトムが買ったばかりの電子レンジを気に入っちゃった……」
「それはどんまい」
「"どんなことされたらキュンとする"!?」
「両側から車が水をはねても防いだくれたとき!」
「どこ二人で歩いてんの」
「"大喜利:ナンジャモが突如として配信者引退。何があった?"」
「サバ読めなくなってきた」
「10まんボルト〜(殺意)」
その後も質問は続いたが、ハルノは個性たっぷりの返しで視聴者を沸かせ続けた。
◇
配信は大成功。ハルノの幼いながらも、個性的な性格とナンジャモのバラエティ経験がベストマッチを引き起こし、ただ質問に答えていく配信にも関わらず、炎上狙いの配信以上の視聴率を獲得した。後半がほぼ大喜利大会になっていたのは趣旨がブレている気がするが。
「ナンジャモさん、今日はありがとうございました」
「いやぁ、ハルノ氏のおかげで良い配信ができたよ。ボクからもありがとう」
配信終了後、ハッコウジムの応接間で二人は相対する。
ハルノは何も、無償でこのコラボを引き受けたわけではない。
「何か、この子の手がかりになることは見つかりましたか?」
ナンジャモにアーカイブを確認してもらい、ボルケニオンに関するコメントを片っ端から探していた。
一応、動画内でもボルケニオンへの情報提供をほのめかす旨の発言も行ったが、ナンジャモの反応は芳しくない。
「むむむむ〜……みんな初見の反応だね。それっぽいコメントはないよ」
「そうですか」
ボルケニオンが納められたマスターボールに視線を落とし、ハルノは目を伏せた。
「でも、これだけの視聴率取れたんだし、何かしらハルノ氏のほうにアプローチがあってもおかしくないよ」
ナンジャモがフォローを入れた。
「ありがとうございます」
ハルノは柔く微笑みながらも、マスターボールに力を込めた。
ハルノは探している、否、渇望している。
ボルケニオンと出会った場所への手がかりを。
そして、ボルケニオンが求める「むかしのともだち」の手がかりを。
「ねぇねぇ、またボクとコラボしてくれる!?」
「凄く楽しかったですし、ナンジャモさんが良かったら」
「うっし! 次の企画も考えとくね」
ナンジャモはガッツポーズをする。配信者にとってこれほど視聴率を取れる協力相手は、喉から手が出るほど欲しいものだ。
配信を終えたハルノは、少しばかり悲哀に満ちた顔つきになっていた。
ハルノがこの配信に出た理由は、ボルケニオンのためだ。
自分がわからないボルケニオンのことを、世界中の人ならわかるかもしれない。そういう思いで、影響力のあるナンジャモに協力を仰ぐつもりで参加したが……結果はすぐには出なかった。
「ハルノ氏はボルケニオンのことがだいすきなんだね」
落ち込むハルノを励ますつもりで、ナンジャモが投げかける。
ハルノは苦笑を漏らしながら言う。
「だいすき……なんです。何も覚えていませんが。私がこの子を、そしてこの子も私をだいすきってことは、記憶がなくても分かる。逆に、それ以外何もわからない」
胸に押し当てられたマスターボールが、微かに軋みをあげた。
ボルケニオンはそもそも伝承でしか存在しなかった幻中の幻。その伝承すら知らない人が大多数だ。エンタメ方面に富んでいるナンジャモですら、ボルケニオンの伝説は知らなかった。
「パルデアの真ん中に、おっきい学校あるの知ってる?」
「はい。アカデミーですよね」
「そこに行ったら、ボルケニオンについて何かわかるんじゃないかな。類を見ないほど大きな教育機関だし、そういう伝説とか伝承に関することはあるんじゃない?」
普段の彼女からは考えられない冷静なアドバイスだ。エンターテイナーである前に、彼女も一人の大人だ。迷える子供には導を作ってやるのが使命である。かつてジムリーダーとして、多くの学生にそうしてきたように。
悲哀に満ちていたハルノの目に、微かに希望が宿る。
「ありがとうございます、ナンジャモさん。私はまだまだ諦めません」
「その意気! 応援してるゾ!」
立ち上がったハルノは、ジムを出ようとするが踵を返して口を開いた。
「そうだ、ナンジャモさん。ナンジャモさんは、この言葉ご存じですか」
「?」
「█████」