デュエル・マスターズ。それは、ハゲしくアツかりしカードゲーム。
かつて人々は、時にカードをめぐった争いを起こし、時にカードの力を使い世界をわがものにしようとした。
しかし、それらの出来事も時の流れには抗えず、都市伝説や眉唾物の話として、人々の記憶から忘れ去られていった。
ここ、捲札町に住まう人たちも例外ではなく、今ではデュエル・マスターズも『お店で買えるホビー』のひとつに過ぎなかった。そうして、今日もまた。
「はじめ、今日こそ私が勝たせてもらう!」
「残念だが小春、そんな未来はやってこない!今日も勝たせてもらうぜ!」
河原のちょっとしたスペースに構えられた
「【プラチナ・ワルスラS】でシールドをW・ブレイク!!」
「なんの!【ゴースト・パイレーツ】でワルスラのパワーをマイナス8000!」
ツンツンと逆立った赤髪の青年が攻勢に転じるも、Sトリガーで自身のクリーチャーを破壊されてしまう。青年の場にいた青いスライムの王様のようなクリーチャーが、幽霊船から放たれる光線により爆散した。
「お前!相変わらず変なカード入れてんなあ!フツー【波壊Go】じゃねえのかよ!」
「案外こっちの方がよかったりするんだよ!私のターン!5マナで【Dの機関 オール・フォー・ワン】展開!ターンエンド時に効果!私の【テック↑】を破壊!」
黒髪の少女がカードを掲げ
「出てこい切札!【禁断機関ーVV8】ォ!!」
工場の中心にある床下から、青いバイクのパーツを体中に取り付けたようなロボットが登場した。まだ起動していないのか、アイラインや様々なパーツに光は灯っておらず、胸には巨大な鍵が刺さっていた。
「【VV8】の能力は知ってるよな?言っとくけど、これがラストターンだ、はじめ」
彼女は不敵に微笑み、勝利を確信した。ギャラリーがざわざわと騒ぎ立てるが青年は視線を落とし、微動だにしない。
「…あのねーちゃん、どうやって【VV8】の封印を1ターンで取るつもりなんだ?」
「な。【D2W ワイルド・スピード】が場にいれば話は別なんだろうけど…」
脇にある坂で、2人の対戦をのぞき込んでいた小学生が、あーでもないこーでもないと先の展開を考える。答えたのは、意外にも対戦相手の青年だった。
「【チューン・アゲイン】。場のカードを戻し、それが水の非進化コマンドなら場に出せる。おそらく【VV8】の封印に、【ワイルド・スピード】を仕込んだんだろ?」
伏せていた視線をあげ、少女を見据える。答えを言い当てられた少女は、ぐっと言葉に詰まった。
「せ、正解~。【ワイルド・スピード】は登場時に山札を捲って、6以下のクリーチャーを呼び出せる…。しかも、私の場にD2フィールドがあれば、水のクリーチャーは全てコマンド…!つまり、なんでも出せれば絶対に【VV8】の禁断起動が使える!無限に追加ターンをとって、私の勝ちじゃあ~~~!!」
説明を続けていくうちにテンションが高くなったのか、わざわざ次ターンにすることをベラベラと話していく。よほど勝利を確信しているのであろう、手札に持っていたチューン・アゲインを見せびらかし、青年を煽りに煽った。だがしかし、青年は不敵に笑うだけだった。
「そりゃお前。次の小春のターンが来たら、の話だろ?【絶叫の悪魔龍 イーヴィル・ヒート】召喚!」
「…ひょ?」
青年が召び出したのは、髑髏のような花と無数の茨と牙の生えたツタを体に巻き付けた、まさに悪魔の名に相応しいドラゴンだった。ドラゴンは青年の墓地から、青くゆらめく魂を吸収した。
「【イーヴィル・ヒート】はスピードアタッカー!召喚酔いはしない!小春へ攻撃!」
ドラゴンは翼を大きくはためかせ空中へ飛び上がると、大きな口を開け少女へと突進していく。
「…す る と き に 」
「げっ!」
突撃していくドラゴンの遥か後方から、それ以上のスピードで何かが迫ってくる。悪魔龍よりもさらに大きく、紅いマントをたなびかせ、蒼き鎧に身を包む、龍を超えた龍の姿が、そこにはあった。
「革命チェンジ!【蒼き団長 ドギラゴン剣】だぁぁーーっ!!」
「やっぱりィーーーーっ!!?」
悪魔龍とハイタッチを交わし、場と手札にポジションをそれぞれ入れ替える。咥えていた刀の柄からは、黄金に煌めく刀身が現れた。
「ファイナル革命!こい!【勝利のアパッチ・ウララー】!お前の手札を1枚確認だ!」
「あっ!わ、私の【チューン・アゲイン】がっ」
「確認したカードの文明は水!よって超次元ゾーンから【勝利のリュウセイ・カイザー】を場へ!」
ドギラゴンから呼び出された炎を纏った超獣が叫ぶと、次元の狭間から片翼の龍が現れる。ドギラゴンのいななきに鼓舞され、2体のクリーチャーの力が増した。
「【ドギラゴン】の効果でこの2体もスピードアタッカーだ!いけ!【ドギラゴン】でシールドをT・ブレイク!!」
「残りアタッカーは2体!しかも【アパッチ】は場を離れた時も、さっきと同じ効果が発動する…!クロォーーーック!!【終末の時計 ザ・クロック】カモナァウ!!」
ドギラゴンが刀を振るうと、3枚あった彼女のシールド全てにヒビが入る。祈りも虚しく、割れたシールドは3枚とも光ることなく手札に収まった。
「ブサマル!【ハヤブサマル】はどこだ!【オロチ】でもいいぞ!!だぁーーっ畜生!!」
「【リュウセイ】で…トドメぇーーっ!!」
「うぎゃーーーーーっ!!!!」
龍のブレスに飲み込まれ、デッキが散らばりながら後方へ大きく吹き飛ばされる。小学生たちは青年を称え、少女をからかった。
「兄ちゃんすげーっ!そっか、【ワルスラS】って、【ドギラゴン】をドローしながら攻撃できるんだ!」
「【イーヴィル・ヒート】で墓地に送った【ドギラゴン】も回収できるんだな!なあ兄ちゃん!名前教えてよ!!」
目を輝かせながら捲し立てる小学生2人をなだめつつ、腰を下ろして彼らより少し低い目線になる。
「俺ははじめ。桃原はじめだ。で、あっちで吹っ飛んでるのが…」
「鬼塚小春だ!おめーらはじめばっかじゃなくて、こっちにも注目しろ!」
「え~…ねーちゃん変なカード入れてるじゃん。はじめ兄ちゃんのデッキと比べものにもならないよ」
「ていうかパンツ丸出しの人にデュエマ教わりたくないよ」
「パンツじゃない!これはスパッツ!スカートの中見えても大丈夫なようにしてんの!」
「スカートの中は見えないようにしてくれ…」
寝っ転がったままスカートが捲りあがり、偉そうにふんぞり返っている小春をよそに、はじめは彼女の散らばったデッキをかき集めて小春に手渡す。
小学生らと別れた後、はじめと小春も帰路についた。通い慣れた通学路を、真っ赤な夕焼けがさしノスタルジックな気分にさせる。
「これで通算…あーもう数えるのめんどくせー!負けた方が飯驕りだなんて、決めたやつをしばきたい」
「小2のお前が言いだしっぺだろ?そこから俺はお前からタダ飯貰うために、強くなろうと決めたんだからな~」
「なんだその理由!ふざけんな!あっおい待てコラ!クッソー!」
他愛ない話を続け、はじめが煽り小春が間に受ける。背負っていた手さげかばんを振り回し、小春ははじめを追いまわした。昔から2人を知っている人からすれば、いつもの光景だと笑っているだろう。
やがて小春の家につく。大通りから少し外れた路地は、かつて栄えたであろうシャッター通りだった。その中でも数軒、今でも営業を続けている店がある。そのうちの1つが小春の実家、鬼塚ラーメン店だ。
「ただいまー」
「おう、おかえり。はじめちゃんもいっしょかい?」
「お邪魔します、おじさん」
「今さらかしこまんなよ。この時間に来たってことは、食ってくんだろ?そこ座りな」
「はい!小春のおごりなんで、麺大盛りのトッピングマシマシで!」
「お前…。情けってものはねーのかよ…」
小春は手をきれいに洗うとエプロンと三角巾を身に着け、厨房へと回る。
「ってことは小春、お前また負けたのか!はじめちゃんが強いのかお前が弱いのか、わかんねぇなあ!」
「両方っすよ、おじさん」
「違いねえ!」
慣れた手つきで具材を切る横で、小春の父親が麺を茹でながら豪快に笑う。はじめだけでなく、父親にまでバカにされたようで余計に腹が立った。
「けどな、はじめ!テストじゃあ私の勝ちだからな!去年の期末テストの点数、忘れたわけじゃないだろうな!」
「へーへー覚えてますよ。捲札高校はじまって以来の才女サマ。全教科満点だったんだろ~?けどそれを言うなら、俺はスポーツでお前に勝負を挑むぜ?」
「ぬっ…ぐぬ…」
「口喧嘩も勝てたことないなぁ」
「お父さんは黙ってて!」
捲札高校。小春とはじめ、2人が通う地元の高等学校。小春は中学時代、推薦でもっと良い学校を狙えたのだが、母を幼いころに亡くし、学費や父の負担を心配した小春は進学そのものを取りやめようとした。が、それを父が大反対。折衷案として、地元の捲札へ通うことにしたのだ。
はじめも決して地頭は悪くなく、中学では全国大会は逃したものの、野球部に所属しスーパースラッガーとして大活躍していた。高校に進学してからも健在で、1年からいきなりレギュラーを獲得。2年になった今では主砲として先輩後輩問わず、チームメイトから頼りにされていた。
「そういやはじめちゃんは部活どうしたんだ?」
「今日からテスト期間中なんで、練習無いんスよ」
「ほ~。デュエマやってて大丈夫なのかぁ~?」
「大丈夫っス!俺、頭は悪くない方なんで!」
「私以下だけどね」
「コラ!」
ぼそりと呟いた小春の表情は、少しでもマウントをとってやろうと悪い顔をしていた。それを見過ごせなかった父は小春にゲンコツを落とす。
茹で上がった麺を切ると、丼に盛り付けはじめに提供する。
出されたラーメンを食べていると、徐々に客がやってきた。昔から比べるとかなり減ったが、それでもこの店の味を気に入った常連だ。小春も駄弁るのをやめ、接客へと回る。
スープを飲み干したころには、ガラガラだった店内には客が入り、座る席はもう少なくなっていた。
「ごちそうさま!じゃあ俺、帰りますんで!」
「おう!気ぃつけて帰んな!」
「はじめ、また学校で」
「ああ、じゃ!」
ぴしゃり、と店の扉が閉められる。時刻が回ると同時に、客足も増えていった。なんとか父と小春は2人で訪れる客を捌く。他に従業員もなく親子2人だけだが、いつものことなのか慌てるそぶりもなく、淡々と業務をこなす。
時々常連が2人に話しかけたり、くだらないことで話題を作って店内が盛り上がるなどした。中には小春とはじめを小さいころから知っている客が2人の関係を聞いた際には、小春は恥ずかしかったのか顔を赤くして怒った。
8時を回る頃には客足も徐々に衰えていた。以前であれば日付が変わるまで途絶えることは無かったのだが、大通りに大型チェーン店ができてからは、ほとんどの客はそちらへ流れて行ってしまった。小春は時の流れを嫌でも感じていた。
「小春、もう上がっていいぞ。いつもすまんな」
「そういうの、もういいってば。私がやりたいからやってるだけ。これ捨てたらお風呂準備するからね」
ゴミ袋の口を締めると、店の裏口の扉を開ける。ゴミ捨て場へ袋を投げ入れると夜空を見上げる。今週はずっと晴れが続き、星が輝いて綺麗だった。
ひゅう、と風が吹く。暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は少し冷える。腕をさすりながら家へ帰ろうとすると、夜空が急に瞬いた。
「えっ、なに。このド晴天で雷…?そんなまさ…って、えぇーーーっ!!」
再び見上げてみると、そこには大小さまざまな流れ星。町が明るくなるほどの流星群だ。テレビも新聞も、こんなことは一切報じてない。突然の出来事に、綺麗だと思う前に小春は怖くなった。
「ハレー彗星!?恐怖の大王!?地球はやっぱり隕石によって滅亡しちゃうのか!?」
だが妙だ。これだけの流星群だというのに、大通りの方は全く騒がしくない。それどころか道行く人たちは、流れ星などまるで見えていないかのように歩いていた。
「見えて…ない…?他の人たちに?私の幻覚?疲労かなァ…」
額に手を当ててみたが、熱はない。なんなら外気に当てられ少し冷たいぐらいだ。しばらく見上げていると、はじめとデュエマをした河原の方に1つ星が落ちた。落ちたと言っても衝撃は全くなく、河原の方が少し明るいぐらいだった。その光も徐々に小さくなっていく。
「…これ、新発見の隕石で学会に取り上げられないかな。そしたら、お金が多少は入ってくるかも!お父さんにラクさせられるぞ!」
小春は河原へと走り出した。他の流れ星も山の向こうや町はずれに落ちていっているらしく、河原に着く頃にはもう流星群は終わっていた。
ざざざ、と坂を立ったまま器用に滑り降りると、スマホのライトを頼りに隕石を探す。幸い、まだ鈍い光を放っていたため、発見は容易だった。
「げっ!ここって、さっき私がはじめに負けて吹っ飛んだ場所じゃん。なんでそんなピンポイントで…って、は?」
隕石にライトを当てる。妙なことにクレーターもなく、更に偶然かちょうど小春が大の字になったところだった。しかし、そこにあったのは隕石ではなく。
「何これ…?デュエル・マスターズのカード…?それも束になってて…デッキ!?」
40枚の束になった、デュエル・マスターズカードだった。クセで中身を確認すると、そこには見たことも無いカードが。
「【ソッコウ童子】に【ガワラ入道】…。というか、種族の鬼札…王国ってナニ?聞いたことも見たこともないんだけど」
坂に腰掛け、見たことないカードをスマホで照らしながら、じっくりとテキストとイラストを確認する。見たところ、火と闇文明の速攻デッキのようだ。目を引くのは、種族に鬼札王国を持つカードの共通能力の『鬼タイム』だ。
しばらく眺めていると、上の道の方から誰かがライトで小春を照らした。どうやら中年の警察官のようだ。
「おうい、こんな時間になにしてるんだ。早く帰りなさい…。キミ学生かい?なおさら出歩いてちゃいかんよ」
「あっ、すいません。今帰りますんで…」
「ン?それは何だい?本官の方で預かっておくから、早く渡しなさい」
「は、はぁ。デュエマのカードです。多分、誰かの落とし物なので、よろしく…」
デッキを警察官に渡そうとすると。
___ワタスナ!!
頭の中に声が響いた。
「うえっ!?な、何…。今の」
「何だ、どうしたんだ。早クそのカードを渡しなさイ…」
声がしたと同時に、警察官の様子がおかしくなっていく。
「ちょっ…お巡りさん?様子が変ですけど…」
___ワタスナ!!
「渡すな、って…。まさかこの声、カードから!?」
まさか、と思いデッキを持っていた手を見ると、完全に光を失っていたデッキが、再び激しく光りだした。
「覚醒…した、ナ!ジャオウガァァ!!」
「うええええーーーーーっ!!?!?」
光に当てられた警官は、更に様子がおかしくなり、手に持っていた懐中電灯を振り上げ小春に殴りかかろうとする。咄嗟に頭を守り、目を瞑って衝撃を待つが、一向に振り下ろされる気配がしない。恐る恐る目を開けると、警官と小春の間におどろおどろしい見た目をした槍があった。これが小春を懐中電灯の一撃から守っていたらしい。
「え”っ…、なにこれ…!どういうことなの…!」
小春が当然の疑問を抱き口にすると、光っていたデッキから1枚のカードが宙に浮き、小春の眼前で止まる。フチは黒くなく、赤と紫の王様を彷彿とさせる豪華な装飾でかたどられていた。
「デュエル・ウォリアーだ、小娘」
「デュエ…喋った!?」
「いちいち騒ぐな。己の名は【ジャオウガ】。鬼札王国の王だ」
ズズズ、とイラスト部からクリーチャーの上半身がせり出した。デュエル中はデュエヴィジョンにより、ホログラフィックでクリーチャー等が出現し、プレイヤーの命令を聞く。だがそこに当然クリーチャーらの意志や自我はなく、ただ機械により映像化しただけだ。
だが、目の前のこれは違う。ホログラフィックなんかじゃない、正真正銘、生きたクリーチャー、超獣だ。
怒涛の展開に小春がついていけなくなっていると、ジャオウガは淡々と説明を続けた。
「いいか、あの人間は己のようなクリーチャーに憑りつかれている。もっとも、あれと己では格が違うがな。だが、ああして人間を媒介にしなければ、この世界では本来の力を発揮できぬ。あれのように、貴様を洗脳してもよかったのだが…。何故か貴様は洗脳できん。抗う素振りも無ければ、特殊な呪文によって強化されているわけでもない。なんなのだ、貴様」
「い、いや…。なんなのだ、と言われても…」
「うっ…ウガぁーーーっ!!」
槍と拮抗していた警察官だったが、やがて槍を振り払うと小春の方を向いた。その顔は先ほどまでとは打って変わり、どこか機械的で歪だった。
「どどど、どうしよう!」
「デュエマだ!小娘!」
「はァ!?」
「デュエル・ウォリアーと雌雄を決する方法はただ1つ!デュエマをし、勝利することのみだ!」
「けどさっきからアイツ物理的に襲ってきてるんですけど!!」
「ルール違反だ」
「ジャオウガあぁぁぁぁ!!」
再び懐中電灯を振り上げ、小春に襲い掛かる警察官。そこへ今度はジャオウガが割って入り、槍を呼び寄せる。
「出でよ…。オニ・フィールド!!」
ジャオウガが地面へ槍を突き刺すと、砂利道がガラスの様にひび割れ、小春と警察官を飲み込んだ。