テキスト確認よろしいでしょうか   作:無悪岩

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2話 相手の公開領域のカードは確認しておきましょう

「いだっ!」

 

 

 地面が砕け、中空へ落ちたのも束の間、突然どこかへ放り出され、尻を痛めた。


 よろよろと立ち上がりながら辺りを見回すと、そこはまだ炎が燃え盛る焼け野原だった。少し離れたところには先ほどの警察官の姿もあり、小春たちを取り囲むように炎がゆらめいている。さらに、決闘台と思しき木製でボロボロの台が、2つ置かれていた。

 

 

「い…いったい何がどうなって…」

 

「まだ状況を飲み込めないのか?愚か者め。とにかく貴様はあれとデュエマを…ぐぇっ」

 

 

 ふわふわと顔の近くを浮かぶジャオウガのカードを、小春は右手でガッシリと掴む。カードにしてはやたら固く、思い切り握っても破れるどころか、曲がりそうにもない。

 

 

「な、何をするか!」

 

「何をする、じゃねーんだよ…。説明しろ!何がどうなってんの!あの警察官のおじさんの様子がおかしいのは、お前の仕業!?デュエマをしろって何の冗談!?あとここ、どこ!捲札町じゃないよね!!」

 

「わか…わかった…!順を追って説明する…!だからまず手を離せ小娘…!」

 

「小娘じゃない!小春!鬼塚小春だ!!」

 

 

 ぎりぎりと右手に力を込めると、ジャオウガのカードからは苦しそうな声が聞こえてきた。心なしか、イラストも締めつけられているような姿勢になっていたような気がした。

 ジャオウガは観念したのか、わかった小春と言うと、ようやく小春も手を離した。

 

 

「貴様にもわかるように説明したいところではあるが、時間が無い。まずはあれをデュエマで打ち負かすことだ」

 

「で、それとおじさんを元に戻すこととなんの関係が?」

 

「ここ、『オニ・フィールド』では先ほどのように、決闘者(デュエリスト)同士が直接手を出すことができない。つまりここにいれば、あれに貴様が襲われる心配はないのだ」

 

 

 確かに警察官の方を見てみると、こちらを鬼気迫る形相で睨んでいるが、襲ってくるような気配はない。

 

 

「次に、ここで行われるデュエル。仮に『オニのデュエル』と名付けよう。これに敗北した者は、一番大事なものを奪われる」

 

「えっ…全然おじさん元に戻せないじゃん!?」

 

「最後まで聞け。この一番大事なものだが、これは勝者側が選べる。カードだろうが財産だろうが、それこそ…」

 

「なるほどな。スーパーブラックなアンティデュエマね。これに勝って、おじさんに憑りついているやつから…何を奪うの?命、とか言ったらお前今すぐビリビリに破いてやっからな」

 

「…………そんなわけないだろう」

 

 

 ジャオウガがこんこんと説明を続けるが、内容と警察官を元に戻す方法が、少しズレているように小春は感じた。要するに、今から賭けデュエマをして、小春が勝てば、警察官に憑りついている者から何かを奪えるらしい。ジャオウガが物騒なことを言い出す前に、小春は牽制として脅迫した。

 

 

「奪うのは、『使命』だ。これだけでいい」

 

「ふ~ん。何かヘンだね。まぁ、私からすればいきなり襲い掛かってきたヤバいやつだし、情け容赦はなし!」

 

 

 決闘台に着くと、警察官はうなりながらも律儀に小春を待っていた。戦いの火蓋が切られようとしたとき、小春は大事なことに気づいた。

 

 

「…やっば、デッキ家じゃん」

 

「あるではないか、我が鬼札王国のデッキが」

 

「い、いや中身は確認したけどさぁ…。一人回しもしてないし、いきなり使えだなんて…」

 

「このデュエルでは、覚醒したカードのみ扱える。貴様らが普段遊んでいるようなオモチャとはわけが違う。シールドを展開しろ!デュエマを始めるのだ!」

 

「急かすなよ!」

 

「ちなみにこの空間はあと20分ほどで閉じる。それまでに勝負を決しろ」

 

「閉じるとどうなる?」

 

「永遠にこの空間に閉じ込められる」

 

「そういうことは早く言えって!!」

 

「だから時間が無いと言ったのだ」

 

 

 後ろで偉そうに腕を組んで浮かんでいるジャオウガにイラつきながらも、急いで決闘台にデッキを置き、シールドを展開する。

 

 

「…で、お前は?」

 

「己は観戦だ。貴様が我が力となれるかどうか、試してやろう」

 

 

 チッ、と聞こえるように舌打ちをし、手札を確認する。初動は引けたようだ、悪くない。決闘台が先攻後攻を決定する。小春が先攻のようだ。

 

 

「いくぜ、おじさん?今助けてあげるからな…!」

 

「こイ…!ジャオウガの手下…!」

 

「「デュエマ・スタート!!」」

 

 

 2人の掛け声と同時に、フィールドを取り囲みゆらめいていた炎の勢いが増す。

 

 

「【闇鎧亜 ジャック・アルカディアス】をマナチャージ、ターン終了」

 

「【ヘットルとフエートル】をチャージして、ターンエンド…!」

 

 

 チャージしたカードを見たジャオウガは眉間にしわを寄せる。デュエルウォリアーの言動やジャオウガの態度からして、どうやら彼らには浅からぬ因縁があるようだ。しかし、そんなことは小春には関係ない。

 

 

「テキスト確認よろしいでしょうか!!」

 

「…貴様、一刻を争っているのだと理解しているのか?」

 

「理解も何も、勝負を急いて負けたら意味ねーだろ!え~っとなになに…」

 

 

 空中に浮かぶディスプレイをタッチして操作し、警官のマナに置かれたカードを確認する。テキストを一通り確認し、厄介な能力をしているなあ、と渋い顔をした。

 だが、それ以上に目を引いたのは種族。『ジョーカーズ』に『チーム切札』。こちらのデッキ同様、本当に知らないカードだらけだ。故に小春は、知らないカードを使うことを避け、自分の知っているカードだけで戦うことにした。

 

 

「【ソッコウ童子】をチャージして、【虹彩奪取 ブラッドギア】召喚!ターン終了!」

 

「【ノー千休】を召喚!ターンエンド」

 

「テキスト確認失礼しまァす!」

 

「貴様!いい加減にしろ!テンポが悪い!」

 

「うっせー!ギャラリーは黙ってろ!…ホラ見てみろ!こいつパワー3000もあるじゃねえか!ブラッドギアで殴っていたら、返り討ちにあってたところだぜ…」

 

 

 あぶねえ、と言いながら『キズグイ変化』をマナに置く。とことん自分の知っているカードだけで戦うようだ。自分の選りすぐりの配下を次々とマナに置かれ、ジャオウガの機嫌はドンドン悪くなっていく。

 

 

「【ブラッドギア】で軽減!【轟音 ザ・ブラックV】を召喚!こいつはスピードアタッカー!さらに、攻撃する時お前の手札を1枚墓地に送るぜ!!」

 

 

 バイクに乗ったクリーチャーが飛び出し、警官のシールドと手札を1枚ずつ破壊する。割れたシールドは何の反応もなく、警官の手札に収まった。

 

 

「マナをチャージして…【ノー千休】でプレイヤーに攻撃!」

 

「カードを何も実行(プレイ)せずにアタックステップとは、随分舐められてるねえ」

 

「いいや。狙いは恐らく…」

 

 

 千利休を模したクリーチャーが湯飲みを小春に投げつける。しかしシールドに阻まれ、直接小春へ攻撃を届かせることはできない。ブレイクされたシールドを確認するが、Sトリガーではなかった。

 

 

「で、ターンエンドかい?いくら攻撃されない効果を持っていようと、さすがに今のは【ブラックV】と相打ち取っておいた方が…」

 

「『キリフダッシュ②』発動!」

 

「よかった…ナニィ?」

 

「やはりな…」

 

 

 アンタップ状態だった3つのマナのうち、2つがタップされる。通常マナを使えるフェーズは、メインステップのみ。今までに経験したことのないギミックに、小春は警戒を深めた。

 

 

「味方の攻撃終了時、それがシールドをブレイクしていたなら…指定コストを支払い召喚できる!頼むゾ!【新導 バット】!」

 

「4コストのクリーチャーを軽減、ブースト無しで早出しだぁ!?ズルじゃんこんなの!」

 

 

 急いでテキストを確認する。『キリフダッシュ』というキーワード能力により、本来のコストよりも少ないマナで召喚できるようだ。かつて経験した『革命チェンジ』や『侵略』などのキーワード能力は強力だったが、それはどれも特定のカードが場に居ることが条件だった。

 だが、これは違う。シールドをブレイクさえできれば、どんなクリーチャーでも問題ない。攻撃できないだけの『ノー千休』が、一気に脅威になった。

 

 

「【バット】はスピードアタッカー!【ブラックV】を攻撃ダ!!」

 

「しまっ…!」

 

 

 コウモリのようなクリーチャーが乗った小舟からの砲撃で、『ブラックV』は破壊されてしまう。

 ビートダウンを仕掛けるつもりだったが、一気にプランが破綻した。

 

 

「クソッ…!【ジャック・アルカディアス】を召喚して、【バット】を破壊!ターンエンド…」

 

「愚か者め…」

 

 

 頑なに鬼札のカードを使わない小春にため息を吐く。これだけの事態を前に物怖じしない胆力は、少し買っていたのだが、デュエルの腕は素人かそれに毛が生えた程度。決着がつくのもそう遠くはないだろう。

 

 

「再び【ノー千休】で攻撃!」

 

「やべえ…。けど、Sトリガーが発動するかもだし、しなくても手札数では圧倒的に有利!クリーチャーを早出しできても、結局リソースが物言うんだよ!」

 

 

 強がってみるが、ブレイクされたシールドは光らない。再び『キリフダッシュ』を使われる可能性に警戒する。先ほどの『新導バット』のようなクリーチャーが出てきたら厄介だったが、所詮は小型のルーターだ。ビートダウンは、息切れした瞬間が敗北を意味する。小春はその瞬間を狙っていた。だが___。

 

 

「『キリフダッシュ④』発動!出でよ【熊四駆 ベアシガラ】!」

 

「パワー8000にW・ブレイカー…!しかもこれは…!」

 

「登場時、マナを2つブースト!さらにマナゾーンのクリーチャーを1枚手札に加えル!」

 

 

 登場したのは、7コストの大型クリーチャー。しかもマナをブーストし、『バット』を回収して手札を補強した。

 最悪だ。あんなクリーチャーが入っているだなんて聞いていない。相手のマナゾーンには『無頼勇騎 タイガ』のカードが見える。『ベアシガラ』をなんとか破壊しても、再び『キリフダッシュ』を使われるのは明白。このままではジリ貧だ。

 

 

「ぐっ…」

 

「小娘、このままでは貴様負けるぞ?」

 

「分かってるって…!よし、コイツだ!【ツルハシ童子】召喚!山札の上から3枚を墓地に置いて…クリーチャーを1体回収!【ブラックV】を手札に!」

 

 

 ツルハシ…のような武器を持った小鬼が、小春の墓地を掘り起こす。『バット』にやられた『ブラックV』の魂を、手札へと返した。

 

 

「【ジャック】でシールドブレイク!…ターンエンド」

 

 

 『ジャック』が雄叫びをあげ、赤と黒の光弾を放つ。Sトリガーもなく、ターンは警察官へと移った。

 

 

「これデ、お前も終わりダ、ジャオウガ!そしてその手下の娘!」

 

「私は手下じゃねえ!それにまだ、デュエルは終わっちゃいねーぜ!」

 

 

 ジャオウガは静観を続けながら、お互いの盤面を整理する。

 

 小春の場には『ブラッドギア』『ジャック・アルカディアス』『ツルハシ童子』の3体。

 

 対する警察官は『ノー千休』『ベアシガラ』の2体。

 

 どちらもシールドの数は3枚。

 

 小春の場にはブロッカーは無いように見え、確かに総攻撃を仕掛ければ警察官が勝てそうな展開だ。しかし、そのことはジャオウガだけでなく、小春も理解していた。

 

 

「ジャオウガ、これでいいんだよな?」

 

「…【ツルハシ童子】はシールドの総数が6枚以下の時、『ブロッカー』となる。加えて『スレイヤー』。ヤツの『キリフダッシュ』はシールドをブレイクされていないと使えない。しかし、日和ってクリーチャーへ攻撃しようとしても【ジャック】も『スレイヤー』。付け焼刃にしては、上出来だ」

 

「うっし!さぁきやがれってんでぃ!」

 

 

 ジャオウガは小春に対する評価を改める。未知のカードや戦法に対してすぐに理解を深め、さらには初見の能力に最適解を出す。使い捨てにするには勿体無いと思い始めた。

 

 

「【飛べ!イカロソくん】を召喚!」

 

 

 召び出されたのは、炎の着いた燭台に翼が生えたようなクリーチャー。

 

 

「なぁジャオウガ、『ジョーカーズ』って何?ふざけてんの?史実に基づいた偉人や絵本がテーマかと思えば、クマは出てくるしイカロソってアレ、イカロスだろ?ギリシア神話の…」

 

「阿呆が。前を見ろ、突っ込んでくるぞ」

 

「【イカロソ】はスピードアタッカー!プレイヤーを攻撃!」

 

 

 ふざけた名前のせいで注意が散漫になり、ついテキスト確認を怠った。マナをほとんど使ったため、『キリフダッシュ』も飛んでこないだろうと高を括っていた小春だが、ジャオウガの表情は険しくなる。

 

 

「【イカロソ】の効果!攻撃時にマナゾーンのカードを5枚、アンタップすル!」

 

「うそォ!なんだそのデザイナーズ!?ズルじゃん!!」

 

 

 燭台の光により、警察官のマナが5つ起き上がる。それはすなわち、『キリフダッシュ』の使用が可能になった合図だ。

 

 

「ぐっ、ブロックはしねえ。クマのW・ブレイクに回した方が良さそうだからな…。トリガーはないぜ」

 

「『キリフダッシュ④』発動!オレ、召喚!!」

 

 

 警察官から赤いオーラが飛び出し、形を成していく。それは、ロボットと化した金太郎のようなクリーチャーだった。

 

 

「【ゴールド・キンタックス】…。おじさんに憑りついていたクリーチャーか!つか、金太郎…?だからクマなのか…!?」

 

「言っている場合ではないぞ!」

 

「【オレ】でプレイヤーに攻撃!するときに、『ブロッカー』を破壊できる!【ツルハシ童子】を破壊だァ!」

 

「やべえ!【GENJI XX】みたいな能力を持ってやがんのかよ!」

 

 

 温存していた『ツルハシ童子』が、『キンタックス』が振るった斧に叩き潰され、爆散する。そのままの勢いで、残ったシールド2枚を粉砕した。

 

 

「さァ、トドメだ…!いけ相棒!【ベアシガラ】で、ダイレクト…」

 

「待てよ、今トリガー確認中だろ?マナーがなってないね」

 

 

 『キンタックス』によって砕かれたシールドが突然光を放ち、散らばった破片をギュルギュルと吸い込みながらカードへと戻っていく。

 

 

「デッキの中身確認しといてよかった~。トリガーの採用枚数的に、1枚は入ってる計算だったからな。わかっててもヒヤヒヤしたぜ。呪文!【襲来、鬼札王国】!コスト8以下のクリーチャー…【ベアシガラ】を破壊する!」

 

「グゥオォッ」

 

 

 どこからともなく飛来した棍棒が『ベアシガラ』と激突し、爆散する。

 

 

「だ、だガ!こちらにはまだ【ノー千休】が残っている!やれ!」

 

「まだ処理中だっつーの!『鬼タイム』発動ォ!本来は、コスト8以下のクリーチャーを破壊するか、墓地からコスト8以下のクリーチャーを出すか、片方のモードしか選択できないが、シールドの総数が6枚以下なら!両方のモードを選択できる!墓地から8以下、【辻斬の鬼 サコン丸】を場に!」

 

「な、なに…!?そんなクリーチャー、いつの間に墓地へ…!」

 

「【ツルハシ童子】が落としてくれたんだよォ!相手の墓地みたいな公開領域はしっかり確認しろって、デュエチューバーたちも言ってるだろ!【サコン丸】の登場時、相手のクリーチャー1体のパワーをマイナス3000!【ノー千休】を破壊!」

 

「し、しまっタ…!」

 

「ほぅ、なかなかやるではないか」

 

 

 デュエルウォリアー側に傾いていた戦況が、たった1枚のカードでひっくり返る。さすがのジャオウガも認めざるを得なかった。

 

 

「私のターン!【双打の鬼 ウコン丸】召喚!【サコン丸】の『鬼タイム』!パワーをプラス3000し、W・ブレイカーを得る!プレイヤーに攻撃!!」

 

「し…Sトリガー!【モモダチパワー!!!】!【ウコン丸】を破壊すル!」

 

 

 黄金に輝く3つの玉がサコン丸に取りつき、大爆発を起こす。切札を破壊でき、『キンタックス』は不敵な笑みを浮かべた。しかし。

 

 

「【ウコン丸】の『鬼タイム』!破壊された時、パワー8000以下のクリーチャーを破壊する!【キンタックス】を破壊!!」

 

「ぐあぁあぁぁっ!!」

 

 

 逢魔ヶ刻を迎えた鬼は、ただでは死なない。『ウコン丸』が残した怨念により、『キンタックス』は道連れとなった。破壊された『キンタックス』のオーラは、再び警察官へと戻っていく。

 

 

「【ジャック】で最後のシールドを攻撃!」

 

「【ヘットルとフエートル】!『ブロッカー』を破壊すル…!」

 

 

 クッキーのような見た目のクリーチャーが出現し、『サコン丸』を破壊する。残ったアタッカー、『ブラッドギア』は止められない。

 

 

「お、おのれぇぇぇぇ!!」

 

「【ブラッドギア】で…トドメぇーーーっ!!」

 

「ジャオウガぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

 

 

 ブラッドギアから放たれた一撃が、警察官の纏っていたオーラ、『キンタックス』を打ち破った。

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