デュエルの勝敗が決すると風が荒れ、取り囲んでいた炎を吹き消した。光源を失い辺り一面闇に包まれる。だが次の瞬間闇は晴れ、小春と警察官の2人は先ほどの河原に戻っていた。
倒れている警察官の元へ急いで走り寄り、心拍を確認する。呼吸も安定しており、命に別状はないようだ。脇の下から腕を通し、ズリズリと坂の方へ引きずる。草むらに仰向けに寝かせると、ジャオウガとキンタックスを探す。
「おかげでおじさんは無事みたいだ。ありがとうジャオウガ、助かったよ」
「フン。貴様も上出来だったぞ、小娘よ」
「ハ…ハナセェェ…!」
カードからせり出すジャオウガの上半身は、元の大きさだろうか。右腕だけが著しく巨大化しており、キンタックスらしき赤いオーラを掴んでいる。
「で、どうするんだ?」
「こうする…のだ!!」
「ギィエエァァッ!!」
ジャオウガが右腕に力を込めると黒と紫のオーラがキンタックスを染め上げていく。抵抗するようにジャオウガの手の中で暴れるキンタックスだったが、やがて大人しくなるとジャオウガの手の中から離れ、空へと昇っていき、どこかへ飛んで行った。
小春が逃がしたのかと聞くと、まさか、と邪悪な笑みを浮かべた。
「ヤツの元締めらと戦わせるように仕向けた。使命を奪い、その逆のことを仕掛けるようにな」
「鬼かよお前…。いや鬼だったわ。ところで、あいつの使命って結局なに?な~んかお前と因縁がありそうな相手だったけど」
「この己を倒すことだろう。この星へ来る前、クリーチャーワールドで、やつらと激戦を繰り広げたからな」
何か隠している風なジャオウガだったが、小春はこれ以上深く踏み入ることを躊躇した。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。星やクリーチャーワールドや、気になるワードが出てきたが、聞かなかったことにした。
「まぁいいや。お前はヒトに憑りついたりするんじゃないぞ~。そんなことしたら真っ二つにしてやっからな」
「なッ…!?貴様!どこへ行く!貴様は既に、己の所有物…十の超獣王による戦に参加した
ヒラヒラと手を振りながら小春は河原を後にする。後ろでジャオウガが何かを叫んでいたような気がしたが、振り返らずに家へと向かった。何度も振り向いてジャオウガが着いてこないか確認したが、どうやら付いてきてはいないようだ。
家に着くと、遅くなったため父親に心配されたが、河原での出来事をなんとか誤魔化した。自分の事を一通りすませ、自室の寝床に入る。
「なんか、怒涛の1日だったなァ。朝起きたら夢…だったりしないかな」
そんな訳ないかと呟くと目を閉じる。数分もしないうちに寝息を立て始めた。
☆★☆★☆
小春が眠りにつく頃__。
降り注いだカードを手にした者が、別の場所で
「【勝熱龍 モモキング】で…トドメぇーーっ!!」
「キンタックス…!今助けるでござる!秘剣『モモ2連斬』!!」
「ぐおおおぉっ…!!スマナイ…モモキング…ッ!!」
まがまがしい色のオーラに包まれたキンタックスを、2本の刀を振るい、侍を彷彿とさせる鎧を纏った桃色の龍──モモキングが斬り伏せる。ズシン、とキンタックスが倒れる。しかし、その身体には目立った外傷はなかった。
「モモキング!お前の仲間は無事か!?」
「無事にござる!はじめ殿、貴殿には返しても返しきれない恩を…」
「そういうのはいいって!さっさとここから出ようぜ!!」
「了解でござる!」
モモキングがキンタックスに肩を貸し、崩れていくスタジアムから脱出する。光り輝くトンネルを抜けると、見知った道へと戻ってきた。
「か、帰ってきた…」
「はじめ殿、本当に本当に、かたじけない…!」
「気にすんなって。俺もお前の仲間を助けられて良かったよ」
はじめの眼前にはふわふわと浮かぶ『モモキング』のカードと、はじめの手にはボロボロになった『ゴールド・キンタックス』のカードが握られていた。
「いいや、こればかりは拙者の矜持として、なぁなぁで済ませるわけにはいかないでござる!今日この時より、拙者モモキングは、桃原はじめ殿の剣となり楯となり!この戦を最後まで戦い抜くと誓うでござる!!」
「ったく、大げさだなぁ。俺はそんな器じゃないっての。それより、キンタックスは大丈夫なのか?」
「大丈夫…ダ…。すまなイ…はじめ…」
よく見るとカードのフチが欠け、ところどころヨレていた。さすがに不安になったはじめだが、モモキングが言うには数日もすれば元に戻るらしい。キンタックスが復活し次第、話を聞くようだ。
「しかし、キンタックスをここまで打ち破るとは…。やはり、相手はジャオウガでござるか」
「ジャイアント?ドルゲーザか?」
「否。我が怨敵、その者こそ…」
「ジャオウガ…。邪悪な鬼の王よ」
「何奴!!」
モモキングの呟きにはじめが反応し、訂正しようと口を開いたモモキングよりも先に、別の声が響いた。声の方へ振り向くと、誰かが月明かりを背にコンクリートの塀の上に立ち、妖しげにたたずんでいる。
黒い髪をなびかせ、美しくもどこか儚い表情をした、はじめと同年代くらいの少女がそこにはいた。
「キミは…?」
「私の名前は『
「嘲笑。鬼の王程度に、随分遅れをとったようですね。モモキング」
「ゲンムエンペラー!お主いつの間に地球へ…!?」
「知り合い?」
「彼奴は『チーム零』のリーダー。クリーチャーワールドで繰り広げられた十王ウォーズでは、最も苛烈なジャオウガでさえ手を焼く、まさに無限の力を持つ龍にござる」
突然現れた少女とクリーチャーに警戒するはじめだが、どうやらモモキングとは知り合いらしい。だが、それでもクリーチャーワールドや十王ウォーズなど、アニメや漫画ですら聞いたことのないようなワードが次々と飛び出してくる。
「桃原はじめくん。貴方はこのゲーム…『デュエル・マスターズ』に参加した。モモキング…覚醒した『チーム切札』のカードを手にしても、意識を失わないどころか正面から超獣とデュエルし、勝利した。貴方が真の決闘者である、紛れもない証拠」
「虚淵…さんだっけ。アンタ俺の事知ってんの?」
「ええ。貴方のことなら、ずっと前から知ってる」
妖艶な囁きにドキリ、と一瞬胸がざわめく。だがそれ以上に謎が多い彼女を前に、さすがのはじめもそれ以上ときめくことはなかった。
「あ~…えっと…。明日祝日で休みだし、あとは明日にしねぇ?俺ん家だったら親父もお袋も仕事でいないから、話しやすいし…。モモキングもゲンムも敵同士…じゃないんだろ?」
「…然り。手を取り合った間柄ではないとはいえ、刃を向ける相手でもござらん」
「賛同。夢も先ほど1戦行ったため、休息が必要」
はじめが解散を告げると、夢とゲンムは闇夜に溶けていくように姿を消した。
落ちた流星を見に行っただけなのに、侍のような龍と意気投合した揚げ句、生死を賭けたデュエマをする。はじめにとって、最も長い夜となった。
☆★☆★☆
翌日の朝。祝日なので学校は休み。予定の無い小春は、祝日をこれ幸いと惰眠を貪ろうとしていた。だが、それを遮るかのように誰かが耳元で何か騒いでいた。
「…すめ…娘よ!疾く目覚めぬか!【ゴウケン齋】殿が虫の息だ!早う水を持ってこんか!!」
「んぇ…?なに……」
寝ぼけ眼をこすり、焦点を合わせると、枕元でぴょんぴょんと跳ねる、昔の陰陽師のような多色カードがあった。勉強机の上ではボロボロになった闇文明のカードと、それを心配するかのように取り囲むカードたちがある。その傍らではジャオウガが昨日の夜のように上半身だけカードからせり出して、傷ついたカードの様子を見守っていた。
「やっと目覚めたか小春。貴様の家を探すのは、ちと苦労したぞ」
「夢じゃ…ないのかぁ…。って増えてる!!?!?」