騒ぐジャオウガに根負けし、しぶしぶジャージに着替えて小春は街へ繰り出した。昼前だが祝日ということもあり、町内の大通りは人混みでごった返していた。
ジャオウガら鬼札王国のデッキが入ったケースを上着のポケットに入れ、適当に散策する。見慣れた通りのはずなのに、どことなく違和感を覚えた。
「とりあえず、お前の言う通り出てきたけど…。こんなんでクリーチャーが見つかるのか?」
「阿呆。手当たり次第適当に探って見つかるのであれば、苦労せぬわ」
「あ”?お前が出ろっつったから、こうやってわざわざ出向いてやってんだろーが」
道行く人たちに不審に思われないよう、小声でジャオウガと会話する。きょろきょろと辺りを見回してもクリーチャーのクの字も見つからず、時間だけ浪費することに、小春は苛立ちを感じた。それに加え、クリーチャーを探しに外出したというのに、当のジャオウガが見つかるわけない、と嘯く始末。小春の苛立ちは、いよいよ頂点に達しようとしていた。
「逆だ。こうやって気配を漂わせ街を散策すれば、潜んでいるクリーチャー共は勘づくはずだ。『我々がお前たちを探しているぞ』と。そうなれば、いずれ向こうから何かしらの接触があるはずだ」
「…その作戦、スッゲーイイんだけどさ…。私の安全は確保されてるんだろうな?」
「貴様なら大丈夫だろう」
「オイ」
ぶらぶらと通りを散策し、時折流れてくる食欲をそそる匂いに足が止まりそうになる。今日の昼飯は中華にするか、と思った矢先、ジャオウガが何かに気づいた。
「天津飯に餡掛けチャーハン…。うん、チャーハンだな、今日はこれにするか。ジャオウガ、もうそろそろ引き上げて…」
「…フン、まさかこうも早く釣れるとはな。しかし、地球に降り立ってから1日と経っていない割に、こうも根を張るのが早いとは。さすが自然文明のキングマスターだけのことはある」
「お前…!ってことは、この人混みのどっかにクリーチャーが…!?」
「この気配、【ギガンディダノス】だ。だが本体はここにはおらぬ。恐らく、配下のクリーチャーを人間に憑りつかせたな」
「【ギガンディダノス】って…お前の手下じゃないのか?」
「半分正しく、半分間違いだ。奴らはあくまで力で従えていたにすぎない。鬼札王国の者たちと違い、己を慕う者はいない。『デュエル・マスターズ』が始まった今、十の超獣王の間に力の差は大してなかろう。ならば、己の首を獲りにくるに決まっている」
得意げに語るジャオウガだが、小春からすればそれはそれでどうなんだ、と訝しんだ。
「…どうする?」
「人気のないところへ誘い込め。そこで『オニのデュエル』を仕掛けるぞ」
「あいよ」
小春はなるだけ自然に振る舞い、大通りから離れていく。少しずつすれ違う人の数が減っていった。
「小春、今だ走れっ!」
「偉そうに命令すんなって!」
小春とジャオウガは追跡者がしっかり自分たちの後を付いてきていることを確認すると、曲がり角を曲がった瞬間走り出す。見失うかどうかギリギリのラインを攻め、街から少し離れたところにある、寂れ切った公園へと誘いだした。
追ってきていた者は昨日の警察官のような、私服の小太りの中年男性だった。小春を見失ったらしく、きょろきょろと辺りを見回している。
隙を窺い、いざ飛び出そうとした瞬間、ジャオウガが待ったをかけた。
「…待て小春。どうやら誘い込まれたのは、我らのようだ」
「は?何言ってんだ。怖気づいたのなら…」
「ほほ、儂の読み通りじゃったろ、ダノスちん」
声の主の方へ振り向くと、好々爺にしか見えない老人が、ブランコに腰掛けていた。ほとんど閉じたように見える細い目は、獲物を品定めするようにギラギラとした光を放っている。
「…お爺ちゃん、あんた誰だ?」
「儂は
老人は懐からカードを取り出すと、遊具の物陰からクリーチャーに憑りつかれたであろう人たちが、姿を現した。年代は中年から高齢者で、男女比率は半々ほど。
「カッ、下僕にしては随分年を食っているな。よもや趣味か?【ギガンディダノス】よ」
「お久しゅうございます、ジャオウガ様。突然のことで大変申し訳ございませんが、貴方様には土に還っていただきましょう」
「ぬかしおるわ、この木偶の坊が」
老人が手にしているカードからズズズ、と『ギガンディダノス』の上半身が現れる。
「こちらの方々は儂の将棋教室の受講者さんでの…。お嬢ちゃんもどうじゃ?月謝料は安くしておくぞ…」
「はっ、自分の生徒たちを傀儡にしちまうヤツから教わることなんて、なんもねーよジジイ」
「ありゃりゃ…断られちった。ダノスちん、どうしようか」
「どうもこうも、ジャオウガに与するような娘。我らのような年長者が、道を違えた若者にしてやれることなど、限られておるわい」
大十郎がブランコから降りると、クリーチャーに操られていた人たちが、じりじりと小春に詰め寄り、取り囲んだ。
「言っておくがお嬢ちゃん、儂らはデュエルをするつもりはない。力尽くで、鬼札王国のカードを奪わせてもらう。それが嫌なら…カードを手放しなさい」
「私からも2つ言っておくことがあるぜジジイ。その言い草で私がはいはい従うと思うか?目が気に入らねえんだよエロジジイ。んでもう1つが、クレバーな雰囲気出してるけど、最後は結局ゴリ押しなのが甘ぇんだよ」
「…ギガンディダノス」
「委細承知。みな、あの若者に灸をすえてやりなさい」
「己からも1つ言っておこう」
ギガンディダノスの合図で、小春を取り囲んだ者たちが一斉に襲い掛かるが、ジャオウガは不敵に笑う。
「敵の前で、ベラベラといらぬことを喋らんことだ!出でよ!『オニ・フィールド』!!」
「ぬぉっ!」
カードから上半身のみ実体化したジャオウガが槍を振りかざすと、炎が吹き出し小春と大十郎を除く全員を弾き飛ばした。デュエルが始まることを察したギガンディダノスは、急いで人間に憑りつかせたカードたちを自身の手へ戻す。
「い、いかん!みな、集まれい!!」
「ジジイ!アンタらがくっちゃべってる間に、ジャオウガはこの強制的にデュエルを執行するフィールドを、こっそり広げてたんだよ!な~にが年長者じゃ、この耄碌変態助平ジジイ!!」
炎が2人を飲み込み、景色が晴れる。そこは先ほどまでいた公園でなく、昨日見た光景と同じ、未だ炎燻る焼け野原。『オニ・フィールド』だった。
「だ、ダノスちん…。お主が言っていたのは、天空高く浮かぶスタジアムじゃったよな…」
「ここはジャオウガが作り出した特殊なフィールドのようじゃ。大十郎、気を付けよ」
「よぉ~し、こうなったらこっちのもんだ。つっても、タイマンならフィジカル面でも負ける気しねーけどな」
「小春、今回は己も直々に手を貸そう。必ずヤツを仕留めるのだ!」
「言われなくとも!」
2人の前に、それぞれの決闘台がせり上がってくる。各々のデッキをセットし、シールドを展開する。
「無関係の人たちを巻き込みやがって…。コイツは個人的に許せねえ!おいジジイ!辞世の句を詠ませてやるぜ!覚悟しな!」
「尻叩きでは済まんぞ、クソガキ…!」
「「デュエマ・スタート!!」」
鬼の王と不死の王。戦いの幕が今、切って落とされた。