それとも――底冷えするような闇が広がる無人の荒野なのだろうか
ドラゴンボール
七つ集めるとどんな願いでもかなえてくれるという伝説の秘宝
それをめぐり数多の猛者たちが戦い、数多の物語を紡ぐ世界
これはそんな世界に現れた『異分子』の物語である
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草木も眠る満月の夜、肌を刺す寒さがすべての生き物に降りかかる1月のある日
何の変哲もない雑木林、小動物も虫もそれぞれの寝床で眠りについていた
――突如、何もない空間に亀裂が走る
眠っていた生き物たちは飛び起きその亀裂から逃げ出す
そうしている間にも黒い亀裂は広がり、黒い稲妻をほとばしらせている
一瞬、亀裂が大きく開くが、次の瞬間空間が引き裂かれる
そして亀裂は何もなかったかのように小さくなり、消えた
――ただ一つの異物を残して
「……エイジ760年…」
それは、女性の出立をしていた
緑色の髪をたなびかせ、屈んでた体勢から立ち上がり周囲を見渡している
自分のいる場所を確認するかのように
「ふぅム…想定よりズレているが、誤差の範囲だ」
腕を組み右手を顎に当てながら、その女は微笑みを浮かべていた
胸の奥底に黒い稲妻をほとばしらせながら――
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翌日、草原の上を飛ぶ金色の雲に青年が乗っている
黒髪を風に乗せオレンジ色の道着をはためかせる青年、孫悟空である
「いやーしっかし気が付いたら天下一武闘会からもう4年もたってんだなぁ」
のんびりとした声色で前回の天下一武闘会――ピッコロ大魔王の生まれ変わりであるマジュニアを倒した大会を思い起こしていた
「やっぱりオラももっと強くなんねぇとなぁ、アイツももっと強くなってるだろうし」
あの大会後、彼は所帯を持ち息子まで生まれた
しかし彼の根っからの武人気質は衰えることなく、かつて下したライバルとの再戦に備えて日々トレーニングは欠かしていない
それについて妻たる女性は毎日のように小言をぶつけているが、彼にはいまいち効果がないようだ
「けどこれ以上強くなるってなるとやり方変えねぇとダメかもしれねぇなぁ、うーん」
そんな彼にも1つ悩みがあった
強さの限界である
正確に言えば「効率よく強くなる方法の模索」に悩んでいた
決して楽な方法を探っているわけではないが、より強い相手と戦うことを考えると組み手や基礎トレーニングでは限界があるのも事実だった
亀仙流を学んだ孫悟空は基礎的な部分はほぼ完成してると言っても過言ではない
足りないのはそう、自身より強大な相手との実戦経験だ
この地球で彼に比類する存在は一度下した
世界を何度か救った彼にとって自分より強い相手というのは贅沢な悩みになりつつあった
「んーーー…ん?なんだありゃ?」
そんな風に考えながら飛んでいると眼下に不思議な光景が広がる
大型の肉食恐竜が5体ほど、一か所を中心にグルグルと回っている
その中心には――緑色の髪をした女が立っていた
「あ、ありゃマズいぞ!!」
孫悟空はすぐさま「女が肉食恐竜に襲われている」と判断した
草原のど真ん中でそんな光景を見つければ誰でもそう考えるのが自然である
「くそッ間に合えぇ!!」
目一杯筋斗雲を飛ばし女のもとに急ぐ孫悟空
しかし肉食恐竜の一頭がついに女に襲い掛かろうと飛び掛かる
「逃げろッ!今すぐ逃げろーーッ!!」
間に合わないことを悟った悟空は、ありったけの声を張り上げ女に逃げるよう指示する
悟空の叫びもむなしく肉食恐竜は女に噛みつこうとし――
――はるか上空へと打ち上げられた
「な、なんだ…?」
必死に向かっていた悟空は思わず急停止し気の抜けた声を出した
「……無秩序な強さに興味はないのだがねぇ、いやこの場合野生的な強さというべきかな?」
近づいた為か肉食恐竜に囲まれている女の声が聞こえてくる
その声色は退屈そうな感情を全く隠さないものであり、今自分が置かれている状況をピンチだとは全く思っていないようだ
「暇つぶしにもならないのは困ったものだ」
そう言って人差し指を突き出すと次に襲い掛かってきた肉食恐竜を1頭目と同じように上空に跳ね飛ばす
2頭が空の星になったことでさすがにビビったのか、残りの恐竜たちは距離を取っている
「来るのかい?来ないのかい?もしかしたら一噛みぐらいはできるかもしれないよ?」
ニヤリと笑い恐竜たちを煽る女
そんな女を見て恐竜たちはどうするべきか迷っている様子だ
――こいつに手を出したのは間違いだったんだ、今なら逃げられるかもしれない
――でも、仲間を吹っ飛ばされたままで逃げるってのも…
――命あってのものだねだろ、こんな化け物相手にして死にたくねぇよ
冷や汗を流しながら互いに見合う恐竜たちはついに決断を下した
――全力で森へ逃げる、生存本能が食欲やプライドに押し勝った瞬間である
「おやおや、つれないものだな」
心にも思っていないような言葉をつぶやき女は恐竜たちが逃げていった森を眺めていた
「おーい!でぇじょうぶか!!」
一連の騒動が終わり女の安全が確保されたところで、悟空はようやく女のもとに辿り着いた
「いやーわりぃ、間に合うように筋斗雲飛ばしたんだけど間に合わなかった。それにしてもおめぇすっごいつえぇんだな、オラおでれぇたぞ!」
自己紹介も交わしていないが悟空は女の強さに心の底から感心していた
一歩もその場から動かず指一本で恐竜を吹き飛ばした、その強さを
「……」
「ど、どうしたんだおめぇ、オラの顔になんかついてるんか?」
そんな悟空を女は静かに見つめていた、赤色の瞳に見抜かれるような感覚を覚え悟空は気恥ずかしさを感じた
「…これも運命か、それとも必然か…いやはや面白いものだ」
「…?」
先ほどより柔らかい――しかし明確に喜んでいる笑みを浮かべて女は悟空を眺めていた
「今君と出会えるとは思ってもいなかったよ、『孫悟空』」
「おめぇなに言ってんだ…ん?オラ、おめぇに名前言ったか?」
「いいや、私が知っているだけさ孫悟空」
組んでいた腕を広げ、そのまま右手を前に、左手を後ろにやりお辞儀の姿勢を取りながら女はこう続けた
「自己紹介させてもらおう、私は――『人造人間00号』――君の時代から100年後の未来で生み出された人造人間だ」
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「人造人間…?!まさか、レッドリボン軍のか?!い、いやそれより100年後の未来?」
緑髪の女――人造人間00号の自己紹介に少しの間固まっていた悟空だったがすぐに正気を取り戻した
人造人間と聞いて真っ先に思い出したのがハッチャン、もとい人造人間8号を生み出したレッドリボン軍だった
世界征服を目論みドラゴンボールをめぐって悟空と戦いを繰り広げたレッドリボン軍
悟空にとって人造人間はレッドリボン軍と結びつくものだった
しかし今の悟空は若干、いやだいぶ混乱している
レッドリボン軍との関係を疑った直後に「100年後の未来」という言葉でさらに混乱に拍車が掛かっているのがその証拠だろう
「安心したまえ、私はレッドリボン軍とは無関係だ、欠片すらもない」
「そ、そうなんか…それならいいんだけどよ」
本人がそう言ってるだけで何の証拠もないが、悟空は人造人間陣00号の言うことを信じるとこにした
『当の昔に壊滅したレッドリボン軍の人造人間が、草原の真ん中で恐竜狩りをしているとはにわかに信じられない』というのが一番の理由だった
「100年後の未来はそのままの意味だよ、比喩でも何でもない」
「ほ、本当に未来から来たんか?へぇ…」
関心した声を出す悟空だが、いまいちピント来ていない声色も含まれていた
未来から来たという話もそうだが100年後という時間の長さに実感が持てずにいた
「で、その、なんで100年後の未来から来たんだ?」
もっともな疑問を悟空は口にした
「…ふぅム」
その言葉を聞いた人造人間00号は少し考えるしぐさをした
数秒間顎に手をやりかんがえたのち、彼女は答えた
「私を倒せる強者を探しているのさ孫悟空…君がその第一候補だ」
「おめぇを倒せる強者…?お、オラがか?」
「そうとも孫悟空、君はいずれこの宇宙の誰よりも強くなるのだからね」
確信を持った声色で人造人間はそう答えた
これは、本来の歴史には存在しない異分子と
宇宙最強となる主人公の物語
「希望を見出しつづけるのが未来の歩き方だ、転ぼうが躓こうが歩みを止めてはならないものなのだよ」