ダンジョンにドミナントがいるのは間違っているだろうか 作:巡理愛
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それでは本編どうぞ!
──「我は炎の民、この剣をもって、不死鳥の盾とならん!!」
──『我は絶対であらねばならんのだ!!』
──みんなのすべてを託され、理たる神に挑んだ。
──そして、すべてを終わらせた。
神を屠り、人が人として生きられる世界のための理を紡ぎ、そして、世界から魔法の源を完全に消滅させた。
左手の石化が徐々に進んでいる。
もはや簡易的な魔法の【ファイア】すら、風前の灯火となりやがて消えていく。
まるで、クライヴ自身の命が燃え尽きていくように。
砂浜に打ち上げられたクライヴの視界は、徐々に狭まっていく。
(ああ……みんな……)
逝ってしまった弟のジョシュア。志半ばで倒れたドミナントたち。そして、この世界のどこかで、涙を流しながら自分の帰りを待ち続けているであろうジル、いつも寄り添ってくれたトルガル、隠れ家の仲間たち。
(すまない、ジル。俺は、約束を――)
静かに、クライヴは目を閉じた。その命の火が消えるのを、ただ受け入れるように。
――だが。
「……、うっ……」
不意に肺が冷たい空気を吸い込み、クライヴは目を開けた。全身を襲うはずの激痛や、左手の石化の感覚がない。それどころか、あり得ないはずの現象に肌が粟立った。
「エーテル……いや、魔力、か? 魔法を、消し去ったはずだ……」
見上げる天井は空ではなく、うねるような、生物的な質感を持った淡い光を放つ岩肌。
時には様々な依頼をこなしてヴァリスゼアの古代遺跡や歴史を紐解いてきたクライヴの慧眼は、ここが未知の『
「ここは……ヴァリスゼアではない? 魔法の火が、なぜ……」
左手の石化は止まっており、魔法【ファイア】を何故か発生させることが出来た。
理の力は失われ、ただ魂の奥底にその『残滓』だけが燻っている。そして、微かな『
───
ダンジョン上層。
クライヴは、自らの感覚を研ぎ澄ましながら歩いていた。ヴァリスゼアの魔導士やドミナントたちとは根本的に質の異なる、しかし圧倒的に強大で清冽な魔力が近づいてくるのを感じる。
曲がり角で、その主と正面から対峙した。金髪金眼の美しい少女。だが、纏う空気は一級の戦士のそれだ。
アイズ・ヴァレンシュタイン。
アイズもまた、『世界の命運をいくつも背負ってきた者のような』そんな存在だけが放つかもしれないクライヴの重厚な覇気に、無意識にレイピアの柄に手をかけていた。
(風……? いや、嵐か。ヴァリスゼアの風の民とは違うが、これほどの力を……)
二人の強者が息を呑み、お互いの力量を測り合った、ほんの数秒の「隙」。その緊迫感を破るように、迷宮の奥から獰猛な咆哮が響き渡った。
「――っ! 討ち漏らしが、上層へ……!」
アイズの顔色が変わる。ロキ・ファミリアの遠征軍から逸れ、上層へと文字通り暴走していった残り3体のミノタウロス。二人がその場で見合ってしまった一瞬の遅れが、一人の少年の命を未曾有の危機へと陥れることになる。
アイズが男から目を逸らした一瞬で彼は火の粉の残影を残し姿を消した。
(炎の
クライヴは上の階層から聞こえる悲鳴と怪物の咆哮をいち早く察知して疾走していた。
「……間に合え!」
───
ダンジョン5階層。
オラリオにやってきたばかりのLv.1の少年ベル・クラネルは、絶望の淵にいた。ロキ・ファミリアの遠征から逸れて上層に上がってきた3体のミノタウロスに囲まれてしまったのだ。
1体でも絶望的なのに、3体。逃げ道はなく、唸るような筋肉質の拳がベルを叩き潰そうとしたその時。
咆哮を上げて迫るミノタウロスの前に、ボロボロの灰色のマントを翻した男――クライヴが割り込む。
彼には神の恩恵などない。だが、その剣技は数多の修羅場をくぐり抜けた本物。
「おい、そこの少年。動くな。死にたくなければな!」
クライヴは
しかし、メモリーストーンに触れる前でも、体に馴染んだ『フェニックスナイト』としての最低限の技、その片鱗は引き出せる。一歩、足を踏み出す。
――『フェニックスシフト』
火の粉を散らしながら、クライヴの身体が揺らぎ。
ミノタウロスの懐へ一瞬で肉薄した。
「ルガアァ!?」
怪物が驚愕の声を上げるより早く、クライヴは大剣を振るう。
――『ライジングフレイム』
剣を振るうと同時に、紅蓮の赤き炎が巻き起こり、ミノタウロスの巨体を一刀両断に焼き裂く。常識外の圧倒的な「技」と「苛烈な炎」。
クライヴはそのまま流れるような剣技で残る2体を強襲した。肉を断ち、骨を砕き、炎で灰へと変えていく。3体のミノタウロスは、ベルの目の前で反撃の機会すら与えられないまま、次々と魔石を残して塵へと変わっていった。
こうして本来はアイズに助けられるはずだった歴史が変わり、ベルの瞳に焼き付いたのは、圧倒的な「大人の男の強さ」と「炎」だった。ミノタウロス3体を純粋な剣技と謎の炎で蹂躙するクライヴを見て、ベルは『男が憧れる、圧倒的に強くて頼れる大人の男』としての衝撃を受ける。
これが、後に発現する少年の「強さへの渇望」の大きなトリガーとなる。
呆然とするベルに、クライヴは大剣を背に収めながら、ただ一言。
「怪我はないか、少年。……所ですまないがここは、どこだ?」
その直後だった。猛烈な風を巻き起こし、討ち漏らしを追ってきた金髪金眼の美しい少女――アイズ・ヴァレンシュタインが凄まじい速度で現場に到着する。
すでに怪物は消えていた。
アイズは、返り血とミノタウロスの灰を浴びてへたり込んでいるベルを見て、「大丈夫……?」と、心配そうに顔を覗き込んだ。
ここで、ベルの心臓が跳ね上がる。
原作通りの『可憐な剣姫への運命の一目惚れ』の瞬間だった。
ベルの手を引いて立たせてくれる、渋く圧倒的な大人の男のクライヴ。心配そうに自分を見つめてくる、可憐で美しい少女のアイズ。
二人の規格外の英雄に挟まれたベルの心の中で、二つの強い感情が綺麗に分離し、カチッと噛み合った。
(この人ように、強くなりたい……! そして、金髪金眼の綺麗な女の子にお近付きになりたい……!!)
しかし、クライヴとアイズが、改めてお互いに一瞬だけ鋭く視線を交わして言葉を失った隙に――ベルはあまりの恥ずかしさと緊張で、真っ赤なトマトのようになってその場から逃げ出してしまった。
「…あっ…」
少し落ち込む素振りを見せるアイズ。
「…どうやら怖がらせてしまったようだな」
少しの逡巡のあと、つぶやくクライヴ。
2人の間に沈黙が流れた。
───
少年ベル・クラネルは、九死に一生を得て、牛の怪物の返り血を全身に浴び、文字通り真っ赤なトマトのような顔のままギルドへ駆け込んでいた。
ギルドの受付では麗しき受付嬢には有るまじき悲鳴が轟いた──
担当アドバイザーのエイナ・チュールに、今日ダンジョンで目撃した『謎の凄腕の男』と、憧れの【剣姫】の情報を必死に聞き出そうとするが、エイナもそんな規格外の男の登録など知る由もない。
【剣姫】たるアイズの情報は少しだけは得れたので機嫌良く街をベルは歩きながら、
『――アクロの丘、始まりの火。祈り続けていた男は炎剣を抜き、英雄を始めた』
(まるで、あの人は僕の憧れてる古代の大英雄エピメテウスみたいだった!)
気が動転して、彼から聞かれた質問に答えそびれたこととギルドに登録なしということからオラリオの外から来た剣士などではないかと考えついたベルは神様の居る
一方、行くあてもなく迷宮都市オラリオを彷徨っていたクライヴは、思案にふけりながら足の向くままに寂れた廃教会の近くまで辿り着いていた。
(結局、先ほどの女の子とは何も話も出来ず、頭に狼の耳が生えた男に連れられて早々に去っていった。本当にここはどこだ?)
何となくヴァリスゼアとは違う大陸あるいは
俺がアルテマの力を使ったことにより、世界そのものが作り変えられてしまったのか?
時より街中には先ほどの男のような獣人や耳が鋭く長い人間の者。土の民の者を思わせるような筋力隆々なズングリムックリな体格の人間とこれまた何かの民を思わせられる褐色肌の女性たちと様々な人間たちが闊歩している。
街はとても活気づいてもいる。モンスターの脅威にはそれほど疲弊しているようにも見えない。
そうこうしていると向かい側から少年。先ほどギルドから戻ってきたベルとばったり再会する。
「……君は、さっきの!」
ベルの純朴な瞳を見つめ、クライヴは深く頭を下げた。
「すまない、少年。俺と、あの金髪の剣士が睨み合ってしまったせいで、怪物の対処が遅れた。君を死なせかけるところだった……本当にすまなかった」
大の大人が、Lv.1の駆け出し冒険者に本気で謝罪する姿。ベルは驚き、慌てて手を振った。
「そんな、謝らないでください! 僕は助かりましたし……それに、あの、あなたは、凄く格好良かった、ですから……!」
ファルナの加護もなく、己の技だけで怪物の気配を察知していたクライヴの『男としての強さ』に、ベルの心は激しく揺さぶられていた。
身寄りがなく、所属するファミリアもないというクライヴの事情を知ったベルは、頬を少し赤くしながら、思い切って胸に秘めた言葉を口にする。
「もし、行くところがないなら……僕たちのファミリアに、来ませんか?」
───
廃教会の地下。
「えええええええっ!? 連れてきたって、団員を!? しかもこんな、強そうな大人の子を――っ!?」
女神ヘスティアの叫び声が響く。まずはベルのステイタス更新。そしてクライヴがうつ伏せになり、その背中にヘスティアが神の血を垂らし、ファルナを刻む。
その瞬間、ヘスティアの手が、ガタガタと恐怖と驚愕で震え出した。
「な、ななな……何なんだい、
現れた神聖文字は、初めて
力や耐久の基本ステイタスは全て『I(0)』からスタートしている。
しかし、その下に刻まれた【アビリティ】や【固有魔法】の欄が、神であるヘスティアの理解を完全に超越していた。
クライヴ・ロズフィールド
Lv.1 所属:【ヘスティア・ファミリア】
力 :I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
《魔法》
【ファイア】
・固有魔法:火のドミナントの魔法
【フェニックスシフト】
・詠唱を必要としない瞬速の移動魔法。火の粉を散らしながら、対象との距離を瞬時に詰める
【ライジングフレイム】
・詠唱を必要としない火属性魔法。腕、あるいは武器に紅蓮の炎を纏わせ、敵を打ち上げる苛烈な一撃放つ魔法剣技
《スキル》
【
・火のドミナント:『聖炎のフェニックス』
・その固有魔法、固有スキルの発現と使用が可能になる。
【
・あらゆる理を破壊し、器として全てを吸収した証と残滓
・詳細不明
「ベルくん……君、とんでもない『英雄の卵』を拾ってきたよ……!!」
さらに、ヘスティアは先ほど更新したばかりのベルの背中の文字を二度見し、息を呑む。
そこには、本来なら発現するはずのない、少年の強烈な「想い」が新しいスキルとして刻まれていた。
《スキル》
【
神聖文字が示すその効果は、こうだった。
・――想いが続く限り、懸想の丈に応じて成長する。ただ一つの純潔な恋心が、少年の足を前へと進める。そして、隣に立つ黒き背中への憧憬が、少年の歩みを加速させる
アイズへの「恋心」が爆発的なガソリンになり、隣に立つクライヴという圧倒的な「目標(背中)」があることで、少年の成長スピードは誰にも止められないものとなる
神の仰天の叫びと共に、後にオラリオの、そして世界の歴史を根底から引っくり返すことになる
『ヘスティア・ファミリア』の異界より現れし剣士とベルの
クライヴの大剣はインヴィクタス。
クライヴがオラリオに転移した際、その手に握られていた、使い込まれた灰色の長大な大剣 。ファルナを刻む前のクライヴの「ただ一人の人間としての、数多の修羅場をくぐり抜けた技量と意志」に呼応するように、その刃は魔石を屠る確かな鋭さを持つ。